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自動車業界の就職・転職先比較|研究開発職の違い(完成車・部品メーカー)【特許情報から分析】

 自動車業界には完成車を開発・製造する自動車メーカーと各種部品やシステムを供給する自動車部品メーカーが存在します。

 両者は密接に連携して製品を作り上げていますが、研究開発の役割や技術領域には違いがあります。

 これらの違いを十分に理解しないままでは自分に合った業界選択や志望動機の整理が難しくなる可能性があります。

 特に、自動車メーカーは車両全体のシステム設計や統合技術を担う一方、自動車部品メーカーは個々の部品や要素技術の高度化を担うなど、研究開発の方向性が異なります。

 本記事では、特許情報をもとに自動車業界と自動車部品業界を対象として、研究開発職の特徴や技術領域の共通点・相違点を比較分析しました。

 業界ごとの違いを整理し、自分の専門がどの分野に適しているのかを検討するための参考情報として活用できます。

 

 結論(一部)は以下の通りです。

 推測される研究開発職の共通点・相違点の一例

  業界共通的な専門分野 自動車業界が重視 自動車部品業界が重視
専門分野の例 ・電気電子工学(電動化)
・情報工学(自動運転)
・システム工学(統合制御)
・経営、情報学(MaaS/サービス)
・機械工学(機構、熱管理)
・材料/電子工学(特定デバイス)
業務内容の例 ・EV用電池、モータの開発
・安全運転支援
・車両全体の電子制御、統合管理
・インフラ連携、サービス開発
・特定部品(半導体/変速機等)開発
・キーデバイスの小型、高効率化

 

 電気、電子、情報などの専門性に基づき車両全体の制御や自動運転、インフラ連携といった移動システム全体の統合・構築をおこなう自動車業界(統合者の側面)、機械、材料、電子などの専門性に基づきモータや電池、半導体といった特定のキーデバイスを高性能化する自動車部品業界(専門特化の側面)といったイメージになります。

 

 

1.対象とする業界と企業

 過去記事における以下の業界と企業(ある程度、特許出願件数が多い企業)を対象にしました。いずれも過去記事と同一条件の出願人です。

・自動車業界(過去記事:自動車業界

 トヨタ、スズキ、ホンダ

・自動車部品業界業界(過去記事:自動車部品業界

 デンソー、アイシン、豊田自動織機

 

2.一般的情報の限界

 一般的に公開されている情報では、各業界や企業の主要製品はわかっても、その裏側の研究開発の相違は見えてきません。

 特に業界であつかう製品などが類似する場合、表面的な事業内容の差だけで判断すると、実際の研究開発内容や求められる専門性が想像と大きく乖離してしまうリスクがあります。

 

3.特許分析の意義

 特許情報は企業の開発に関する客観的なエビデンスです。

 本記事では、特許情報を活用し、対象業界を横並びに比較し、研究開発における共通点や相違点を可視化し、専門性が発揮されるフィールドを判断する材料を提示します。

 

4.特許分析方法

・2014年から2023年までに特許出願された情報を対象範囲にしました。

・上記特許出願された情報から特許分類(FI:筆頭FI)(※)を抽出しました。

 ※FIとは技術内容を分類するコードであり、その中で筆頭FIとは、リストの一番最初に記載れているものです。発明の最も本質的な技術特徴が筆頭FIです。

・上記筆頭FIを目印にして各業界、各企業の発明の技術分野の特徴を分析しています。

 

5.注意点

・過去記事における対象範囲とズレが生じていることがあります。

・各業界からピックアップした企業の特許情報に基づきます。

・分析結果は業界内の全ての企業にあてはまるものではありません。

・分社化などによる別法人での特許出願は反映されていません。

・本分析はあくまで特許情報を活用した想定であり、実態と乖離している場合が多々あると考えられます。

 

6.結果

6.1 各社の特許出願状況の比較

 各社の特許出願状況(横軸:出願年、縦軸:出願件数)は以下の通りです。

 

 上図は出願件数に関する全体像をとらえるための情報であり、あまり深い意味はありません。

 

6.2 技術の分散・集中度の比較

 各社の特許出願からHHIという指標の逆数(実質的な技術的機軸数(逆数HHI))を用いて、何本の太い技術の柱を持っているか、を算出しました。

 各社の技術ポートフォリオの分散・集中度をあらわす逆数HHIの推移は以下の通りです。縦軸値が大きいほど技術分野が分散しており、逆に小さいほど技術分野が集中していることを意味します。

(一般的なHHI(集中度)とは異なり本分析の分散度(逆数HHI)は、数値が大きいほど技術分野が多角化(分散)しており、小さいほど特定の技術に資源を集中していることを意味します。)

 

 

 上図の縦軸値からイメージされる組織構造を下表(表1)に示しています。

 表1を踏まえて上図を見ると、企業によって開発領域の広がりが異なりますが、近年は収束傾向にあることが読み取れます。

 

<表1> 逆数HHIに基づく組織類型とキャリア環境イメージ

数値 組織構造 キャリア・開発環境のイメージ
50超 広域分散型 非常に幅広い技術分野に人員を分散配置している状態。専門外の領域に触れる機会が多く、特定の技術に固執しない汎用的な動きが求められる環境。
30 ~ 50 多分野並行型 複数の独立した技術部門が並立している状態。社内には多様な専門性を持つ集団が混在しており、異動などを通じて複数の技術基盤を経験できる可能性がある。
21 ~ 29 基盤・周辺展開型 主力技術を維持しつつ関連分野への展開も並行している状態。特定分野の習熟とその知見を活かした周辺領域への応用開発の両面を経験できる環境。
10 ~ 20 特定領域重点型 収益の柱となる主要部門に人員を集中させている状態。個々の開発成果が事業利益に直結しやすく担当技術の事業上の位置付けが明確な環境。
10未満 専門領域特化型 限定された特定の技術領域に多くの人員を投入している状態。他分野への目移りをせず限られた専門領域を突き詰めることが求められる環境。

 

 上図に表1をあてはめると次のようになります。

 

 直近では特定領域から周辺領域の範囲で開発をおこなっていることが推測されます。

 

 この前提を踏まえて、共通点と相違点を分析していきます。
 

6.3 各社の技術分野トップ10と研究開発の共通点、相違点の分析

 以下、各社の技術分野(筆頭FI)とその割合(その企業におけるその技術分野の出願の割合)トップ10を示します(下表)。各社がどの技術分野にリソースの多くを投入しているかわかります。

 割合が大きいほど、各企業にとって鉄板の技術分野だと言えます。

 FIコード照会(特許情報プラットフォーム):j-platpat

 

<表2> 各社のFIトップ10と割合

トヨタ スズキ ホンダ デンソー アイシン 豊田自動織機
H01M 14.6% B62D 10% H01M 7.6% H01L 7.0% H02K 8.4% H01M 31%
B60W 6.6% B60K 8.2% B60W 6.2% H02M 5.2% F16H 6.1% F04B 5.0%
G08G 5.4% F16H 7.1% B62J 5.5% H02K 5.1% H01M 4.7% H02J 3.7%
B60K 4.5% F02D 6.5% G08G 5.3% G08G 4.8% B60J 4.5% H02K 3.6%
B62D 3.9% B60R 6.4% B62D 5.1% B60H 3.6% G08G 3.6% B66F 3.5%
F02D 3.9% B60W 5.4% F16H 4.5% G06F 3.4% B60W 3.3% H02M 3.3%
B60R 3.5% B62J 4.5% H02K 4.2% G01S 3.2% E05F 3.2% F04C 2.7%
G06Q 3.4% H01M 3.1% B60R 4.2% F02M 3.0% B60N 3.1% F01N 2.6%
F16H 3.2% F02M 3.0% G06Q 3.7% F02D 2.8% G01C 3.1% F02B 2.2%
H02J 2.8% F01N 2.9% B60K 3.4% B60R 2.7% B60R 3.0% F02D 2.0%

 

 次に、表2からわかる特徴を解説します(6.3.1~6.3.3)。

 

6.3.1 自動車業界の共通点と相違点:トヨタ、スズキ、ホンダ

■共通点(電動化、車両制御)

 電動化とソフトウェアによる車両制御へシフトしていることがうかがえます。

二次電池技術(H01M)

 トヨタ(1位:14.6%)、ホンダ(1位:7.6%)、スズキ(8位:3.1%)と3社すべてで二次電池がランクインしています。特にトヨタとホンダでは首位であり、EV(電気自動車)やHEV(ハイブリッド車)における電池の技術開発の重要性が推測されます。

 

車両の電子制御・総合管理(B60W)

 トヨタ(2位:6.6%)、ホンダ(2位:6.2%)、スズキ(6位:5.4%)と3社すべてで上位です。ハイブリッドシステムや自動運転など、車両全体を統合的に制御するソフトウェア開発の重要性が推測されます。

 

ビジネス、情報管理(G06Q, G08G)

 トヨタとホンダでG06Q(事務管理)、トヨタとホンダでG08G(交通制御・交通案内)がランクインしています。交通インフラや移動サービス(MaaS)を見据えた開発がうかがえます。

 

■相違点

 全方位的なトヨタとそれぞれの路線といった感じでしょうか。

トヨタ

 1位のH01M(電池:14.6%)の比率が他社より高く、次世代電池(全固体電池等)への注力が伺えます。また、H02J(給電・配電)がランクインしており、車単体だけでなく、エネルギー社会との接続までを見据えた開発環境がうかがえます。

 

スズキ

 他2社と異なり、1位はB62D(車両の骨組み・操向:10%)です。さらに、F16H(歯車・伝達装置)、F02D(内燃機関の制御)、B60R(車体付随部分)など、機械工学的なハードウェア技術が上位を占めています。電動化を進めつつも効率化や軽量・低コストを支えるメカ技術にもこだわる開発環境がうかがえます。

 

ホンダ

 電池(H01M)が1位である一方、H02K(回転電気機械:モータ)がランクインしており、電池とモータの両輪の開発環境が見てとれます。また、B62J(二輪車関連)が5.5%と高く、四輪と二輪の知見を有する開発環境がうかがえます。

 

 各企業の発明に関する詳細分析記事:自動車業界

 

6.3.2 自動車部品業界の共通点と相違点:デンソー、アイシン、豊田自動織機

■共通点(電動パワートレイン)

 ガソリン車から電動車への移行を支える基幹部品の開発に注力していることがうかがえます。

モータ、電力変換(H02K, H02M)

 3社すべてでH02K(回転電気機械)およびH02M(電力変換)に近い領域がランクインしています。電動駆動などに関する開発に注力していることが推測されます。

 

■相違点(半導体(デンソー)/駆動系(アイシン)/電池(織機))

 それぞれ特定のハードウェアやデバイスに注力しています。

デンソー

 3社の中で唯一、H01L(半導体:7.0%)が1位です。また、G08G(交通制御)やG06F(情報処理)、G01S(無線・光探査)が上位を占めます。自動車の高機能化のための半導体や自動運転センサなど、IT・エレクトロニクス寄りの開発環境がうかがえます。

 

アイシン

 1位のH02K(モータ)に加え、2位にF16H(歯車・伝達装置:6.1%)が入っています。トランスミッションなどのメカ技術とモータ技術を背景に電動駆動装置を構築することに強みのある開発環境がうかがえます。

 

豊田自動織機

 H01M(二次電池)が31%という突出した数値を示しています。また、F04B(容積形ポンプ:エアコンコンプレッサー等)が2位であり、電池と電動コンプレッサーという電動車の航続距離を左右するキーデバイスに注力する開発環境がうかがえます。

 

 各企業の発明に関する詳細分析記事:自動車部品業界

 

6.3.3 自動車関連分野における完成品メーカーと部品メーカーの共通点と相違点

■共通点(電動化)

 電動化が研究開発の最大の焦点だと言えそうです。

二次電池(H01M)

 特にトヨタ(14.6%)、ホンダ(7.6%)、豊田自動織機(31%)では1位であり、エンジン開発から蓄電デバイス開発への移行が見てとれます(デンソーは表中にはないですが12位です)。

 

電力制御(H02K, H02M, H02J)

 モータ(H02K)や電力変換(H02M)、給電(H02J)といったコードがスズキを除く各社のトップ10に広く分布しています。メカニカルな伝達機構(F16Hなど)から電気による動力制御への技術シフトが共通項であることがうかがえます。

 

■相違点(統合か、特化か)

自動車業界

 車両全体の統合制御とサービス化(B60W, G08G, G06Q)に特徴が見てとれます。

 メーカー3社に共通して上位なのがB60W(車両全体の制御)です。

 部品メーカー(デンソー、アイシン)にも現れますが、メーカー側は車単体ではなく、移動というシステム全体を設計・運用する開発環境であることが推測されます。

 

自動車部品業界

 特定デバイス(H01L, H01M, F04B)への重きの置き方に特徴が見てとれます。

 メーカー側に比べ、デンソーのH01L(半導体)、アイシンのH02K(モータ)、豊田自動織機のH01M(電池)など、特定の技術への集中度が高いことがうかがえます。

 

 以上、統計的な情報から業界間の共通点、相違点が見えてきました。

 

6.3.4 自動車業界と自動車部品業界の2業界の共通点と相違点(まとめ)

 上記情報を鑑みつつ、各業界の研究開発職の共通点・相違点のうち、優先度が高いと考えられるものをまとめました。

 あくまで一例です。

<表3> 推測される研究開発職の共通点・相違点の一例

  業界共通的な専門分野 自動車業界が重視 自動車部品業界が重視
専門分野の例 ・電気電子工学(電動化)
・情報工学(自動運転)
・システム工学(統合制御)
・経営、情報学(MaaS/サービス)
・機械工学(機構、熱管理)
・材料/電子工学(特定デバイス)
業務内容の例 ・EV用電池、モータの開発
・安全運転支援
・車両全体の電子制御、統合管理
・インフラ連携、サービス開発
・特定部品(半導体/変速機等)開発
・キーデバイスの小型、高効率化
特徴的なFI ・H01M(二次電池)
・B60W(車両総合制御)
・G08G(交通制御/案内)
・G06Q(事務/移動管理)
・H01L(半導体)
・H02K(モータ/回転機)

 

7.最後に

 本記事では10年間の特許情報から自動車関連分野の技術ポートフォリオと研究開発職の相違を分析しました。

 これらの相違は、エンジニアのキャリアを左右する重要事項になるかもしれません。

 本記事を通して自動車関連分野における各業界の内側を想像する一助となれば幸いです。

 

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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・会社四季報 業界地図2024年、2025年、2026年版 東洋経済新報社

<留意事項>
・本記事は、弁理士である管理人の視点で特許情報を独自に分析したものです。
・本サイトでは、特許情報を正確かつ最新の状態でお伝えするよう努めていますが、情報の完全性を保証するものではありません。
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