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化学系の研究開発職の業界・企業ニーズ|60業界の特許データから分析(第2部/全3部)

 今回は、機械系、電気系、情報系など他の専門性の重要性が化学系と同等かそれ以上である場合が多いと推測される業界についてです。

 

 前回は、開発において化学系が主役となる業界の詳細を取りあげました。

 当該業界は、開発において機械系や電気系といった他の専門性よりも化学系の需要が大きく、化学要素が鍵になる場合が多いことが推測されました。

 前回記事:化学系の研究開発職の業界・企業ニーズ(第1部/全3部) 

 

 先の業界よりも、より技術横断的で多角的な視線で開発を進めることができる業界(本記事では「ハブとなる業界」と表現)だと言えるかもしれません。

 開発職を目指す化学系の人の業界や企業の発見につながければ幸いです。

 

 本タイトルの記事は、以下の3部構成です。

 ①化学系が主役となる業界(化学系の需要がかなり大きい業界)

 ②化学系がハブとなる業界(化学系の需要が大きい業界)

 ③前の2つに比べ、化学系が希少な業界(化学系の需要が一定ある業界)

 

 本記事は、主に、②の「化学系がハブとなる業界」(下図の点線赤枠で囲まれた部分)を取りあげています(2.2 化学系の需要が大きい業界~)。

 

 

 

 

1.考え方と注意点

・本記事では、これまでの各業界についての記事において化学系と評価された専門性に関わる情報を対象にしています。

・総合メーカーは除きます。

・概念的に同じ業界であっても、規模感などで分けている場合もあります。

・過去記事「理系専攻別の就職先マップ|60業界335社の開発職ニーズを特許分析で徹底比較」で化学系について◎、〇、△の評価が付された業界を対象にします。ただし、◎、〇、△の評価の妥当性は保証されません。

・上記記事における◎、〇、△の評価は、◎>〇>△の評価順をランキングに反映させます。

・化学系が単独で◎の場合が最も評価が高く、次が、他の専門が△の場合、その次が、他の専門が〇の場合、その次が、他の専門が◎の場合とします(化学系がより独占的であるほど高い評価とします)。

・化学に違い専門性(例えば、材料系、物理系、生物系、薬学系など)であっても、上記記事で化学系とみなされていないものは、ことわりのない限り化学系ではないものとします(従って、情報のとりこぼしがあります)。

・上記記事の注意点は本記事の注意点でもあります。

・本サイトにおける特許情報は、各企業において出願件数が多い技術分類から優先的に抽出した情報(上澄みの情報)です。従って、本記事で拾いきれていない化学系人材の需要は多いと考えられます。

・本評価はあくまで特許情報の一部から得られた評価であり、実態と乖離している場合も多々あると考えられます。

・結果一覧の見方の例

 

 

2.評価結果

2.1 結果一覧(先の記事と同じ内容)

 化学系人材の需要を3段階に分けて化学色が濃いと推定される順に一覧表示しました(表1~表3)。

 あくまで特許情報から抽出された情報に基づく推測です。 

2.1.1 化学系の需要がかなり大きい業界

 上記過去記事において化学系が◎(他の専門と比較して関連する出願数があきらかに多い)のものです。

 上に表示されている業界ほど、他の専門に関連する出願が少ないです。

 すなわち、上に表示されているほど、化学色が強い技術開発がおこなわれていると推測することができそうです(例えば、有機合成など)。

 逆に考えると、他の専門性の◎が多いほど、化学以外の開発も多くなされており、技術横断的な要素を含む開発がおこなわれている可能性があると推測することもできます(例えば、電池や半導体など)。

<表1>

業界 企業例 出願最多企業の年間出願件数
(本サイトでの直近)
化学系 機械系 電気系 情報系 材料系 物理系 生物系 数学系 薬学系 土木系 建築系 食品系 農学系 医学系
日用品、化粧品業界(2) P&G、ユニリーバ、
ロレアル、ヘンケル
約130件/年                
石油業界 ENEOS、出光興産、
コスモ、INPEX
約150件/年                
環境リサイクル業界

カナデビア、タクマ
JFEエンジニアリング、
日鉄エンジニアリング、
神鋼環境ソリューション

約100件/年            
化学業界

三菱ケミカル、住友化学、
信越化学、三井化学、旭化成、
東ソー、レゾナック、
三菱ガス化学、カネカ、クラレ

約800件/年                  
化学業界(2) 積水化学、エア・ウォーター、
ダイセル、JSR、ADEKA、artience、日産化学、日油、
日本化薬、高砂香料、三洋化成
約500件/年            
食品業界(2) 江崎グリコ、明治、
森永製菓、ロッテ、
日清食品ホールディングス
約40件/年              
セメント業界 太平洋セメント、UBE、
住友大阪セメント、デンカ
約300件/年                  
印刷業界 大日本印刷、凸版印刷、
NISSHA、共同印刷
約1300件/年                
タイヤ業界 ブリヂストン、住友ゴム、
横浜ゴム、TOYO TIRE
約600件/年                  
繊維業界 東レ、帝人、クラレ、東洋紡、
日東紡、グンゼ、住江織物、
セーレン、日本バイリーン
約600件/年                
半導体業界(1) 東京エレクトロン、SCREEN、
KOKUSAI ELECTRIC、
ディスコ、東京精密、
アドバンテスト、レーザーテック
約700件/年                
ガラス業界 日本板硝子、AGC、
日本電気硝子
約300件/年                
塗料業界 日本ペイント、関西ペイント、
エスケー化研、中国塗料、
大日本塗料
約50件/年                
プラント業界(1) 栗田工業、メタウォーター、
神鋼環境、オルガノ、月島、
水ing
約120件/年                
飲料・乳業業界 コカ・コーラ、
サントリー食品、アサヒ飲料、
伊藤園、キリンビバレッジ、
雪印メグミルク、
森永乳業、ヤクルト
約40件/年            
プラント業界(2) 日揮、千代田化工建設、
洋エンジニアリング
約20件/年                
医薬品業界(1) 武田、アステラス、第一三共、
大塚、中外、エーザイ
約80件/年              
医薬品業界(2) 住友ファーマ、田辺三菱、
協和キリン、塩野義、
小野薬品、参天、ツムラ、久光
約50件/年                  
非鉄金属業界 三菱マテリアル、住友金属鉱山、
JX金属、三井金属鉱業、
DOWA、UACJ、日本軽金属
約300件/年                
日用品・化粧品業界 花王、ユニ・チャーム、
ライオン、アース製薬、
小林製薬、資生堂、
コーセー、ロート製薬
約800件/年            
紙・パルプ業界 王子HD、日本製紙、レンゴー、
王子製紙、北越、三菱製紙
約300件/年                      
食材業界 日清オイリオ、
J-オイルミルズ、不二製油、
日清製粉、ニップン、昭和産業
約100件/年            
電子部品業界(1) 京セラ、村田製作所、TDK、
ミネベアミツミ、日東電工、
アルプスアルパイン、キーエンス
約750件/年                
電子部品業界(2) ローム、イビデン、太陽誘電、新光電気工業、ニデック、
マブチモーター、
日本航空電子工業、ホシデン
約500件/年                
自動車業界 トヨタ、スズキ、ホンダ、
日産、ダイハツ、マツダ、
三菱自動車、SUBARU
約6500件/年              
自動車部品業界 豊田自動織機、豊田合成、
トヨタ紡織、アイシン、デンソー、
ジェイテクト、小糸製作所、
東海理化
約1800件/年              

 

2.1.2 化学系の需要が大きい業界

 上記過去記事において化学系が〇(他の専門と比較して関連する出願数が中程度以下)のものです。

 ただし、上記(1)の「化学系の需要が大きい業界」に分類されてもおかしくないレベルだと評価されるものもあります(表中、上位のもの)。

<表2>

業界 企業例 出願最多企業の年間出願件数
(本サイトでの直近)
化学系 機械系 電気系 情報系 材料系 物理系 生物系 数学系 薬学系 土木系 建築系 食品系 農学系 医学系
たばこ業界 日本たばこ産業(JT)
ブリティッシュ・アメリカン・タバコ
フィリップ・モーリス・プロダクツ
約200件/年                
食品業界(1) 味の素、キューピー、キッコーマン、
ハウス食品、ミツカン、カゴメ、
ヱスビー食品、永谷園
約200件/年            
酒類業界 アサヒ、キリン、
サントリー、サッポロ
約180件/年              
文房具業界 コクヨ、パイロットコーポレーション、
三菱鉛筆
約130件/年                  
電線・ケーブル業界 住友電気工業、古河電気工業、
フジクラ、矢崎総業
約1000件/年                
産業機械業界(1) ダイフク、グローリー、
島津製作所
約250件/年              
半導体業界(2) NVIDIA、インテル、TSMC、
クアルコム、AMD
約100件/年              
鉄鋼業界 日本製鉄、JFEスチール、
神戸製鋼所、大同特殊鋼
約800件/年                
建設業界 鹿島建設、大林組、清水建設、
大成建設、竹中工務店
約300件/年                
スポーツ用品業界 アシックス、ミズノ、ヨネックス、
デサント、ゴールドウイン
約60件/年                
住宅設備業界 LIXIL、TOTO、YKK  AP、
三和シャッター、アイカ工業、リンナイ
約400件/年              
複合機業界 セイコーエプソン、リコー、
富士フイルムビジネスイノベーション、
コニカミノルタ、ブラザー工業
約2000件/年                
重機械業界 三菱重工、川崎重工、IHI、
住友重機
約800件/年                  
エアコン業界 ダイキン、富士通ゼネラル、
コロナ
約800件/年                  
防犯設備業界 能美防災、ホーチキ、
ニッタン、日本ドライケミカル
約200件/年            
トラック業界 いすゞ自動車、日野自動車、
三菱ふそうトラック・バス
約250件/年                

 

 

2.1.3 化学系の需要が一定見込まれる業界

 上記過去記事において化学系が△(他の専門と比較して関連する出願数が少ない)のものです。

 組織における化学系人材の割合が小さい場合が多いことが推測されます。

 この分類では、出願件数についても注意してみる必要があります。あまりにも出願件数が少ない業界(下表中の下段部)は、開発規模が小さい中で、さらに化学系が占める割合が小さいことを意味するからです。 

<表3>

業界 企業例 出願最多企業の年間出願件数
(本サイトでの直近)
化学系 機械系 電気系 情報系 材料系 物理系 生物系 数学系 薬学系 土木系 建築系 食品系 農学系 医学系
時計業界 カシオ、
シチズン
約600件/年              
家電業界 アイリスオーヤマ、象印マホービン、
タイガー魔法瓶
約100件/年                  
農機業界 クボタ、ヤンマー、
井関農機
約600件/年                
放送局業界 NHK、テレビ朝日、日本テレビ、TBS、
フジテレビ、東京テレビ
250件/年                    
電力業界 北海道電力、東北電力、東京電力、
中部電力、北陸電力、関西電力、
中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力
約200件/年              
戸建等住宅業界 大和ハウス、積水ハウス、住友林業、
旭化成ホームズ、ミサワホーム、パナホーム、
トヨタホーム
約350件/年              
電気設備工事業界 関電工、きんでん、トーエネック、
九電工、中電工業、ユアテック
約40件/年              
医療機器業界 オリンパス、テルモ、ニプロ、
シスメックス、キヤノンメディカルシステムズ
約500件/年            
卸売業界 三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、
住友商事、丸紅、豊田通商、双日
約15件/年                  
アパレル業界 ファーストリテイリング、
ワコール、オンワードホールディングス
約10件/年                  
鉄道業界(2) 東京メトロ、東急、東武鉄道、小田急鉄道、
西武鉄道、京王電鉄、京浜急行電鉄、
京成電鉄、相模鉄道、阪急電鉄、
近畿日本鉄道、京阪電気鉄道、南海電気鉄道、
名古屋鉄道、西日本鉄道
10件以下/年                

 

 

2.2 結果詳細:化学系の需要が大きい業界(上記2.1.2の業界) 

 上記<表2>に記載された業界について化学色が濃いと推定される順に見ていきます(ボリュームがあるので、<表1>および<表3>の詳細は別記事にしています)。

 ただし、必ずしも表の表示順ではありません。製品分野が大きく異なる産業機械業界は以下の説明から除外しています(個別記事をご覧ください)。

 各業界における開発類型は、特許情報に基づく場合とそうでない場合があります。

2.2.1 たばこ業界(例:日本たばこ産業(JT)、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、フィリップ・モーリス・プロダクツ)

 化学系が製品の味や香りとリスク低減の核を握っている場合が多く、農業からデバイス開発までを科学的エビデンスでつなぐ役割を担っていると言えます。

 この業界では、加熱式タバコへのシフトが見られますが、熱化学反応の制御やエアロゾルなどの物理化学分析の重要性は高く、所定の条件下でいかに風味を向上させるか、といった化学的アプローチが開発の成否を分けることもあることが特許情報から推測されます。

 また、医薬事業や食品事業において、毒性評価や香味開発において培われた化学的知見が応用されることも想定され、化学系人材の活躍の場は多層的だと言えそうです。

 

 以下は特許情報などから推測される開発類型の例です。

(1)成分抽出・香気制御技術の開発

 ・葉タバコに含まれる数千種類の化学成分から嗜好性を高める成分を特定し、最適な配合や香料添加技術を構築

 ・有機化学、分析化学、天然物化学などが関連する場合が多い

(2)熱分解・エアロゾル制御技術の開発

 ・燃焼を抑えつつニコチンを効率的に気化させる加熱温度の最適化や有害物質の生成を最小限に抑える熱反応プロセス(リスク低減製品)の設計

 ・物理化学、反応工学などが関連する場合が多い

(3)安全性評価・バイオ分析技術の開発

 ・製品使用時の体内曝露量や健康影響を科学的に証明するための微量成分分析および生物学的評価モデルの構築

 ・分析化学、生化学などが関連する場合が多い

 

 詳細(関連記事):たばこ業界

 

2.2.2 酒類業界(例:アサヒ、キリン、サントリー、サッポロ)

 生物学的な発酵を基礎としつつ、製品の安定性、機能性、環境対応という多角的な課題に化学が必要とされる場面が多い業界です。 

 この業界では、酵母などの微生物を扱うバイオ系人材と、抽出・蒸留・調合を担う化学系人材が密接に関係しています。また、単においしい酒を造るだけでなくノンアルコール飲料における味の厚みの再現や長期保存時の劣化抑制(酸化防止)といった物理化学的なアプローチが差別化の源泉となる場合があることが特許情報から推測されます。

 味の裏側にはppbレベルの香気成分を制御する分析技術と複雑な多成分系の平衡を読み解く物理化学の知見が詰まっており、化学系には、バイオと機械を繋ぎ五感に訴える製品を物質の挙動として設計できる妙味があると言えそうです。

 

 以下は特許情報などから推測される開発類型の例です。

(1)フレーバー・感性科学系の開発

 ・香気成分の分析に基づいた時間経過による香りの変化(劣化)の抑制や天然由来成分による複雑な味わいの構成

 ・分析化学、有機化学などが関連する場合が多い

(2)抽出・分離・精製技術の開発

 ・アルコール分のみを取り除く脱アルコール技術や原料(ホップや麦芽)から特定の機能性成分(ポリフェノール等)を高純度で抽出する技術の構築

 ・天然物化学、化学工学などが関連する場合が多い

(3)パッケージ・材料機能の開発

 ・飲料の品質を維持するためのガスバリア性容器の開発や環境負荷を低減するバイオプラスチック、リサイクル技術の最適化

 ・高分子化学、材料化学、物理化学などが関連する場合が多い

 

 詳細(関連記事):酒類業界

 

2.2.3 文房具業界(例:コクヨ、パイロットコーポレーション、三菱鉛筆)

 インクの流体制御、ペン先の摩擦制御、プラスチック筐体の質感設計など、化学系が製品の書き味などの感性をロジカルに構築する役割となり得る業界です。

 単に発色を良くするだけでなく紙面での速乾性と裏抜け防止の両立や温度変化で色が消える・変わる相転移の制御といった物理化学・コロイド化学などの化学的アプローチが製品の命運を左右する場合があることが特許情報から推測されます。

 脱プラスチックに向けたバイオマス素材の活用やペン軸の触り心地を制御する高分子設計など、化学系の知見がダイレクトにユーザーに直結するフィールドだと言えそうです。

 

 以下は特許情報などから推測される開発類型の例です。

(1)インク・機能性流体技術の開発

 ・粘度調整剤や界面活性剤の精密な配合によるボテ、カスレのない滑らかな書き味の実現や特殊な発色、消色機能(色材のナノ分散技術等)の構築

 ・物理化学、コロイド・界面化学、有機化学などが関連する場合が多いと想定

(2)表面界面・摩擦制御技術の開発

 ・ペン先(ボール、チップ)と紙およびインクの三者間における摩擦抵抗の低減やインクの裏抜け、にじみを防ぐための紙面定着プロセスの設計

 ・物理化学、分析化学などが関連する場合が多いと想定

(3)サステナブル素材・樹脂成形技術の開発

 ・筆記具の軸やキャップにおける環境配慮型プラスチック(再生材、バイオマス樹脂)の導入と製品寿命を左右する耐久性・触感の最適化

 ・高分子化学、材料科学などが関連する場合が多いと想定

 

 詳細(関連記事):文房具業界

 

2.2.4 電線・ケーブル業界(例:住友電気工業、古河電気工業、フジクラ、矢崎総業)

 電線・ケーブルは一見すると電気系の独壇場のような印象もありますが、過酷な環境下で電気特性を維持するための材料科学の集大成だと言うこともできます。送電効率を左右する絶縁材料や次世代通信(光ファイバー)を支える高分子被覆の開発において化学系人材が不可欠な役割を担っていることが分かります。

 単なる被覆材の提供に留まらず、高電圧下での絶縁破壊を防ぐナノコンポジット材料や海底環境に対応する耐海水・耐屈曲性の樹脂設計など物理化学特性を追求する開発が特許情報から推測されます。 

 電線・ケーブルは、電気特性という物理量を高分子の自由体積やフィラーの分散状態といった化学的パラメータで制御することで作り込まれるものと考えると、化学系が製品のパフォーマンスを決定づける役割を担っていると言えるのかもしれません。

 

 以下は特許情報などから推測される開発類型の例です。

(1)絶縁材料・高分子組成の開発

 ・電力、通信ケーブルの絶縁性能を確保するためのベース樹脂への添加剤処方やポリマー配合の最適化

 ・高分子化学、材料化学、物理化学などが関連する場合が多いと想定

(2)接着・界面制御技術の開発

 ・配線板の接続部における接着剤の耐熱性向上や多数の細線を一括固定するための流動性、接着強度の精密制御

 ・界面化学、材料化学などが関連する場合が多いと想定

(3)材料選定・耐久性向上技術の開発

 ・ケーブルの屋外敷設や車両搭載を想定した紫外線、熱、水分による化学的劣化を抑制する安定剤の選定と配合設計

 ・分析化学、有機化学などが関連する場合が多いと想定

 

 詳細(関連記事):電線・ケーブル業界

 

2.2.5 半導体業界(例:NVIDIA、インテル、TSMC、クアルコム、AMD)

 (半導体製造業界とは区別していますのでご注意ください。)

 これらの企業における化学系人材は、回路設計(電気・情報系)を現実の物質としてシリコン上に作り込む、あるいは熱や電気の課題を材料(化学)で解決する設計と製造を繋ぐ役割を担い得る存在です。

 この業界では、チップの高性能化に伴う微細化の限界や放熱の限界を突破するのに、化学的知見が求められることが想定されます。回路を動かすための絶縁膜や配線材料の化学的安定化、ナノレベルの多層構造を実現する成膜・エッチングのプロセス、高電力・高熱に耐えるための材料など、デバイス性能を物理的に下支えするのに化学が重要であることいが特許情報からうかがえます。

 電子の移動を妨げない絶縁材料の選定や熱を逃がすための設計など、化学の力で電気の通り道を整備することがコンピューティングの限界を押し広げます。目に見えない情報の流れを物質の物性で制御する手応えが得られる業界だと言えるのかもしれません。 

 

 以下は特許情報などから推測される開発類型の例です。

(1)プロセスインテグレーション・多層配線の開発

 ・微細な配線間の干渉を防ぐ低誘電率絶縁膜の形成や配線金属(銅等)の拡散を防止するバリア層の化学的制御

 ・物理化学、表面化学、無機化学などが関連する場合が多いと想定

(2)パッケージング・放熱材料の開発

 ・チップを外部環境から保護しつつ効率的に排熱するための高放熱樹脂や多層基板における異種材料間の密着性制御

 ・高分子化学、材料工学、界面化学などが関連する場合が多いと想定

(3)微細加工プロセス・歩留まり向上技術の開発

 ・露光用レジストの感度最適化や欠陥の原因となるナノ粒子の分析・排除および化学機械研磨プロセスの安定化

 ・分析化学、物理化学、コロイド化学などが関連する場合が多いと想定

 

 詳細(関連記事):半導体業界(2)

 

2.2.6 鉄鋼業界(例:日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所、大同特殊鋼)

 鉄鋼業界は一見すると金属工学や機械工学の領域に感じられるかもしれませんが、その製造プロセスは巨大な化学反応であり、カーボンニュートラルへの対応が急務となる中で化学系の専門性の重要性が高いと考えられます。 

 単なる材料強度だけでなく、水素還元製鉄に向けた新反応プロセスの構築や排ガスからのCO2回収・有効利用技術などカーボンニュートラルという社会課題に直結するニーズが高くなっていることが特許情報から推測されます。

 製品としての鋼材に関しては、表面の腐食を防ぐめっきや皮膜の界面制御、さらにはスラグなどの副産物を資源化する技術において、化学系が材料の機能性と環境性能を繋ぐハブとしての役割を担い得ると言えます。

 

 以下は特許情報などから推測される開発類型の例です。

(1)反応プロセス・脱炭素技術の開発

 ・水素還元製鉄における反応効率の向上や工場から排出されるCO2の分離・回収・再利用プロセスの構築

 ・物理化学、反応工学、化学工学などが関連する場合が多いと想定

(2)表面処理・界面機能技術の開発

 ・鋼材の耐食性や密着性を高めるためのナノレベルでの表面めっき・コーティング組成の最適化

 ・無機化学、高分子化学などが関連する場合が多いと想定

(3)微細組織・不純物制御技術の開発

 ・鋼材の強度や成形性を左右する非金属介在物(不純物)の化学的性質の特定、精錬過程における除去・分散制御

 ・分析化学、固体化学などが関連する場合が多いと想定

 

 詳細(関連記事):鉄鋼業界

 

2.2.7 建設業界(例:鹿島建設、大林組、清水建設、大成建設、竹中工務店)

 建設業界はビルやインフラの構築を主眼に置く一方、使用される材料の高度化や環境負荷低減といった課題から化学的知見(化学系、材料系にまたがることもある知見)が必要とされる場面があることが推測されます。

 構造物の耐久性や機能性を物理的な設計だけで完結させるのではなく、材料そのものの化学的特性を制御することで品質の底上げを図るのに化学系人材が重要な役割を担い得ることが特許情報から読み取れます。

 巨大構造物における硬化反応や界面現象を化学的知見からコントロールして数十年間の品質寄与できる点など、化学系の介在価値がうかがえます。

 

 以下は特許情報などから推測される開発類型の例です。

(1)建築・土木材料の開発

 ・放射性廃棄物処分場の埋め戻しにおけるベントナイト系充填材の膨潤特性制御および地下水との接触タイミング調整による装置内詰まりの防止の検討

 ・応用化学、材料工学などが関連する場合が多いと推測

(2)施工管理・環境負荷低減技術の開発

 ・コンクリートスラブの仕上げ管理や施工タイミングの予測および充填材排出時の環境負荷を低減するコーティング材フリーな施工装置の探索

 ・化学工学、環境化学などが関連する場合が多いと推測

(3)特殊構造・被覆材の開発

 ・建築物の安全性に直結する耐火被覆構造や補強構造における機能性材料の性能の改善

 ・材料工学、高分子化学、無機化学などが関連する場合が多いと推測

 

 詳細(関連記事):建設業界

 

2.2.8 スポーツ用品業界(例:アシックス、ミズノ、ヨネックス、デサント、ゴールドウイン)

 この業界はシューズやウェア、用具におけるパフォーマンス向上を主眼に置く中で材料の機能化や構造設計の高度化により化学的知見が求められることがあります。

 人間工学に基づく物理的な設計をエラストマーの粘弾性制御や合成繊維の界面設計といった化学的アプローチで具体化する例など、化学系の役割が特許情報からうかがえます。

 一瞬の動作を支える機能を分子レベルの設計から担保し、使用者の感覚を物理的な物性値へと落とし込むのに、化学が製品の競争力を左右し得ると言えそうです。 

 

 以下は特許情報などから推測される開発類型の例です。

(1)高機能ソール・緩衝材料の開発

 ・フォーム材や固体状粘弾性体のポリマー組成設計による軽量化と衝撃吸収性、耐久性の検討

 ・高分子化学、材料化学、物理化学などが関連する場合が多いと想定

(2)機能性繊維・スポーツウェアの開発

 ・吸熱放射性や吸水速乾性を付与した衣料用生地および運動時の脚流れ抑制や関節サポートを実現する部分伸縮性衣類などの機能設計

 ・繊維工学、高分子化学、界面化学などが関連する場合が多いと想定

(3)競技用具の弾性・界面制御技術の開発

 ・ラケットの弾き性能を向上させるグロメット材料の選定やシャトルコック、バット等の打球感を精密に制御するための複合材料設計

 ・無機化学、材料工学、応用化学などが関連する場合が多いと想定

 

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2.2.9 住宅設備業界(例:LIXIL、TOTO、YKK  AP、三和シャッター、アイカ工業、リンナイ)

 住宅設備業界は水回り機器や建材の提供を通じて住環境の快適性を支える一方、材料の耐久性向上や防汚・抗菌機能の付加といった課題の解決において化学的知見が求められると考えられます。

 機械的な構造設計と並行して樹脂材料の組成最適化やセラミックスの表面改質などを通じ、製品価値を根本から規定する役割を化学系が担い得ることが特許情報からも読み取れます。

 日々の暮らしに密着する設備の衛生向上などの定性的な価値を化学反応や界面制御の面から作り込むことに化学系の介在価値がうかがえます。

 

 以下は特許情報などから推測される開発類型の例です。

(1)高機能材料・表面改質技術の開発

 ・便器や浴槽、洗面化粧台等における防汚性、抗菌性を担保するための表面コーティング技術の改善や材料の組成最適化

 ・応用化学、高分子化学、無機化学などが関連する場合が多いと想定

(2)接着剤・積層材・重合プロセスの開発

 ・建材用積層体(ハニカム構造等)の製造に用いる接着剤の探索およびそれらを実現するための高分子化合物の重合方法や反応制御プロセスの構築

 ・化学工学、高分子化学、有機化学などが関連する場合が多いと想定

(3)環境・衛生管理技術の開発

 ・給湯システムや配管設備におけるエネルギー効率の最適化および微生物学的知見に基づいた衛生状態の維持・管理手法の確立

 ・環境工学、化学工学、微生物学などが関連する場合が多いと想定

 

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2.2.10 複合機業界(例:セイコーエプソン、リコー、富士フイルムビジネスイノベーション、コニカミノルタ、ブラザー工業)

 この業界は精密な機械制御と高度な画像処理技術を基盤とする一方、最終的なアウトプットの質を左右するトナーや感光体など化学的専門性を要する場面が多いと言えます。

 機械・電気系によるハードウェア設計と化学系による材料・プロセス設計によって印刷などの技術が成立することから、化学系は重要な役割を担っていることが推測されます。

 この業界は、ペーパーレス化の進展により従来事業からの転換が求められている状況にあります。従来事業で培ったコア技術を他の成長領域へ転用するのに化学系が期待されることも十分に考えられます。

 

 以下は特許情報などから推測される開発類型の例です。

(1)画像形成材料(トナー・インク)の開発

 ・低温定着性を実現するためのバインダー樹脂の分子量分布制御や高画質化を両立する着色剤の分散技術およびトナー粒子の形状・帯電特性の精密設計

 ・高分子化学、界面化学、有機化学などが関連する場合が多いと想定

(2)機能性部材・感光体材料の開発

 ・潜像を形成する感光体ドラムの光導電性材料の探索や用紙搬送、定着プロセスを支えるゴムローラー、ベルト用機能性樹脂の耐久性向上および摩擦制御の検討

 ・材料化学、物理化学、無機化学が関連する場合が多いと想定

(3)環境対応・リサイクル技術の開発

 ・植物由来のバイオマスプラスチックを用いたトナー、筐体材料の適用や使用済み消耗品からのトナー回収、再資源化を可能にする分解、分離プロセスの構築

 ・環境化学、分析化学などが関連する場合が多いと想定

 

 詳細(関連記事):複合機業界

 

2.2.11 重機械業界(例:三菱重工、川崎重工、IHI、住友重機)

 この業界はエネルギー、プラント、航空宇宙などの大型機械(機械系、電気系、情報系)を基盤とする一方、環境負荷低減に向けた資源回収や材料の過酷環境下での健全性評価といった技術課題において化学的知見が求められると言えます。

 機械・物理的な大規模構造を分離技術や化学的分析手法、反応制御によって最適化するのに化学系が不可欠な役割を担い得ることが特許情報からも読み取れます。

 エネルギー変換や物質循環などに関わる重機械の開発において、化学系は地球規模の課題解決に直結し得る領域だと言うことができます。

 

 以下は特許情報などから推測される開発類型の例です。

(1)エネルギー・環境プラント技術(水回収・廃棄物処理)の開発

 ・ガスタービン排ガスからの水回収システムや廃棄物処理プロセスにおける反応効率の最適化および物質循環技術の構築

 ・化学工学、環境工学、物理化学などが関連する場合が多いと想定

(2)材料・化学的性質の分析・評価技術の開発

 ・材料の化学的、物理的性質の決定による健全性調査や付着物質の検査装置、超音波探傷検査と組み合わせた欠陥解析技術の確立

 ・分析化学、材料化学、物理化学などが関連する場合が多いと想定

(3)触媒・反応・成形プロセスの開発

 ・触媒反応体の設計やプラスチックの成形、硬化装置の開発および原子力分野における模擬ペレット等の特殊材料の探索

 ・応用化学、高分子化学、無機化学などが関連する場合が多いと想定

 

 詳細(関連記事):重機械業界

 

2.2.12 エアコン業界(例:ダイキン、富士通ゼネラル、コロナ)

 この業界は熱交換技術や気流制御といった機械・電気的な設計が技術の中心である一方、温室効果の低い次世代冷媒の開発や室内環境の清潔さを維持する抗菌・抗ウイルス材料の選定など化学系が製品の競争力を決定づける場合も多いと考えられます。

 熱サイクルという物理現象を支える物質(冷媒や潤滑油)の挙動最適化や空気の質を向上させるフィルターの機能化において、化学系が不可欠な役割を担い得ることが特許情報からも読み取れます。

 環境負荷低減と快適性の向上といった相反する要求などに対し、空間の質を化学的に作り込める点などに化学系の介在価値がうかがえます。

 

 以下は特許情報などから推測される開発類型の例です。

(1)次世代冷媒・冷凍機油の開発

 ・地球温暖化係数を低減した新規冷媒の組成設計およびその冷媒と適合し、圧縮機内の潤滑性や熱安定性を維持する冷凍機油の探索

 ・物理化学、有機化学などが関係する場合が多いと推測

(2)空気清浄・表面機能化技術の開発

 ・熱交換器のフィンへの親水性コートや抗菌・防カビ機能の付与および空気中の有害物質やニオイを分解、吸着する高機能フィルターの材料設計

 ・高分子化学、界面化学、触媒化学などが関係する場合が多いと推測

(3)断熱・シール・樹脂材料の開発

 ・エネルギー効率を高めるための高性能断熱材の適用や冷媒漏れを防ぐシール用ゴム、樹脂材料の耐薬品性および耐久性の最適化

 ・高分子化学、材料化学、分析化学などが関係する場合が多いと推測

 

 詳細(関連記事):エアコン業界

 

2.2.13 防犯設備業界(例:能美防災、ホーチキ、ニッタン、日本ドライケミカル)

 この業界は火災報知や侵入検知といった社会インフラの安全を担う一方、検知精度の向上や効率的な消火システムの構築において化学的知見が求められます。

 例えば、電気・情報系によるセンシング技術では、消火剤の反応制御や燃焼生成物の化学分析といった側面から補完・具現化する役割を化学系人材が担い得ることが特許情報からも読み取れます。

 異常の予兆を物質の変化として捉え、事態を収束させるための化学的プロセスを社会実装できる点に化学系の介在価値がうかがえます。

 

 以下は特許情報などから推測される開発類型の例です。

(1)消火剤・化学的消火手段の開発

 ・複合消火薬剤の組成最適化やデータセンター・航空機格納庫等の特定環境に適した消火剤の反応制御および散布技術の構築

 ・応用化学、化学工学、無機化学などが関係する場合が多いと推測

(2)燃焼・生成物分析技術の開発

 ・煙やガス漏れの検知精度を高めるための燃焼生成物の化学的性質の特定および湯気と煙を識別する光学、化学的アルゴリズムの基盤となる分析手法の確立

 ・分析化学、物理化学、化学工学などが関係する場合が多いと推測

(3)材料の健全性評価・劣化検知技術の開発

 ・橋梁等の構造物の化学的、物理的性質の変化に基づく劣化調査や防災機器に使用される機能性材料の長期耐久性評価

 ・材料化学、分析化学、高分子化学などが関係する場合が多いと推測

 

 詳細(関連記事):防犯設備業界

 

2.2.14 トラック業界(例:いすゞ自動車、日野自動車、三菱ふそうトラック・バス)

 この業界はトラック製造を主眼に置く一方、強化される排出ガス規制への対応や電動化といった環境課題において化学的制御を要する場面も多いと考えられます。

 長距離・高負荷走行を前提とした触媒反応の最適化や排気処理システムなどの浄化プロセスをにおいて、化学系が重要な役割を担い得ることが特許情報からも読み取れます。

 エンジンの燃焼に伴う化学反応を排気後処理まで含めてトータルでコントロールし得る点など、化学系の介在価値がうかがえます。

 

 以下は特許情報などから推測される開発類型の例です。

(1)排気ガス浄化・触媒システムの開発

 ・ディーゼルエンジン排気中の窒素酸化物や亜酸化窒素などを抑制するための尿素水噴射量算出アルゴリズムや浄化装置、故障判定技術の構築

 ・化学工学、応用化学、反応工学などが関係する場合が多いと推測

(2)燃料・エネルギー変換技術の開発

 ・内燃機関やエンジン排気ガス再循環システムにおける燃料供給効率の最適化および将来的な電動化を見据えた熱管理、推進装置の材料選定

 ・物理化学、化学工学、材料科学などが関係する場合が多いと推測

(3)車両用機能性部材・封止技術の開発

 ・キャビンとリアボディ連結部における外部からの水浸入を防ぐ封止構造や熱交換器周辺の気流を制御する部材への耐熱、耐候性樹脂の適用

 ・高分子化学、材料科学、界面化学などが関係する場合が多いと推測

 

 詳細(関連記事):トラック業界

 

3.最後に

 今回は、化学系人材の需要が大きい「②化学系がハブとなる業界」について個別に紹介しました。

 続く第3部では、化学系が希少な存在となるケースが多いと予想される③化学系が一定程度見込まれる業界」に焦点を当て、その詳細を解説します。

 次の記事:

 化学系の研究開発職の業界・企業ニーズ(第3部/全3部)

 

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 化学系横断記事:

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 化学系の研究開発職の業界・企業ニーズ(第2部/全3部)

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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・会社四季報 業界地図2024年、2025年、2026年版 東洋経済新報社

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