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電機業界の就職・転職先比較|研究開発職の違い(総合電機・電子部品)【特許情報から分析】

 電機業界には幅広い製品やシステムを手がける総合電機メーカーと半導体や電子部品などの要素技術を提供する電子部品メーカーが存在します。

 両者は密接に関係していますが、研究開発の役割や技術領域には違いがあります。

 これらの違いを十分に理解しないままでは自分に合った業界選択や志望動機の整理が難しくなる可能性があります。

 総合電機メーカーは製品全体のシステム設計や統合技術を担う一方、電子部品メーカーは半導体やセンサーなど個々のデバイス技術の高度化を担うなど、研究開発の方向性が異なります。

 本記事では、特許情報をもとに総合電機メーカーと電子部品メーカーを対象として、研究開発職の特徴や技術領域の共通点・相違点を比較分析しました。

 業界ごとの違いを整理し、自分の専門がどの分野に適しているのかを検討するための参考情報として活用できます。

 

 結論(一部)は以下の通りです。

  業界共通的な専門分野 総合電機メーカーが重視 電子部品メーカーが重視
専門分野の例 ・電気電子工学
・エネルギー工学
・情報工学(システム構築)
・制御工学(FA、インフラ)
・材料工学(磁性、セラミックス)
・応用物理(能動素子、高周波)
業務内容の例 ・EV用電池の高性能化
・パワー半導体の開発
・IoT/AIを活用したシステム構築
・家電、重電、社会インフラ開発
・超小型コンデンサ、コイル開発
・高機能素材のプロセス開発

 

 情報、制御、電気電子などの専門性に基づきIoTやAIを駆使しつつ、社会インフラや家電など、システム全体のインテグレーションをおこなう総合電機メーカー(システム・インテグレーターの側面)、材料、物理、電子などの専門性に基づきコンデンサや磁性材料といった特定の電子デバイスを小型・高性能化する電子部品メーカー(スペシャリストの側面)というイメージになります。

 

 

1.対象とする業界と企業

 過去記事における以下の業界と企業(ある程度、特許出願件数が多い企業)を対象にしました。いずれも過去記事と同一条件の出願人です。

・総合電機メーカー(過去記事:パナソニック三菱電機日立製作所

 パソナソニック、三菱電機、日立製作所

・電子部品メーカー(過去記事:電子部品業界(1)電子部品業界(2)

 京セラ、村田製作所、TDK

 

2.一般的情報の限界

 一般的に公開されている情報では、各業界や企業の主要製品はわかっても、その裏側の研究開発の相違は見えてきません。

 特に業界であつかう製品などが類似する場合、表面的な事業内容の差だけで判断すると、実際の研究開発内容や求められる専門性が想像と大きく乖離してしまうリスクがあります。

 

3.特許分析の意義

 特許情報は企業の開発に関する客観的なエビデンスです。

 本記事では、特許情報を活用し、対象業界を横並びに比較し、研究開発における共通点や相違点を可視化し、専門性が発揮されるフィールドを判断する材料を提示します。

 

4.特許分析方法

・2014年から2023年までに特許出願された情報を対象範囲にしました。

・上記特許出願された情報から特許分類(FI:筆頭FI)(※)を抽出しました。

 ※FIとは技術内容を分類するコードであり、その中で筆頭FIとは、リストの一番最初に記載れているものです。発明の最も本質的な技術特徴が筆頭FIです。

・上記筆頭FIを目印にして各業界、各企業の発明の技術分野の特徴を分析しています。

 

5.注意点

・過去記事における対象範囲とズレが生じていることがあります。

・各業界からピックアップした企業の特許情報に基づきます。

・分析結果は業界内の全ての企業にあてはまるものではありません。

・分社化などによる別法人での特許出願は反映されていません。

・本分析はあくまで特許情報を活用した想定であり、実態と乖離している場合が多々あると考えられます。

 

6.結果

6.1 各社の特許出願状況の比較

 各社の特許出願状況(横軸:出願年、縦軸:出願件数)は以下の通りです。

 

 上図は出願件数に関する全体像をとらえるための情報であり、あまり深い意味はありません。

 

6.2 技術の分散・集中度の比較

 各社の特許出願からHHIという指標の逆数(実質的な技術的機軸数(逆数HHI))を用いて、何本の太い技術の柱を持っているか、を算出しました。

 各社の技術ポートフォリオの分散・集中度をあらわす逆数HHIの推移は以下の通りです。縦軸値が大きいほど技術分野が分散しており、逆に小さいほど技術分野が集中していることを意味します。

(一般的なHHI(集中度)とは異なり本分析の分散度(逆数HHI)は、数値が大きいほど技術分野が多角化(分散)しており、小さいほど特定の技術に資源を集中していることを意味します。)

 

 


 上図の縦軸値からイメージされる組織構造を下表(表1)に示しています。

 表1を踏まえて上図を見ると、いずれの企業も主たる事業に開発資源を集中していることが読み取れます。

 

<表1> 逆数HHIに基づく組織類型とキャリア環境イメージ

数値 組織構造 キャリア・開発環境のイメージ
50超 広域分散型 非常に幅広い技術分野に人員を分散配置している状態。専門外の領域に触れる機会が多く、特定の技術に固執しない汎用的な動きが求められる環境。
30 ~ 50 多分野並行型 複数の独立した技術部門が並立している状態。社内には多様な専門性を持つ集団が混在しており、異動などを通じて複数の技術基盤を経験できる可能性がある。
21 ~ 29 基盤・周辺展開型 主力技術を維持しつつ関連分野への展開も並行している状態。特定分野の習熟とその知見を活かした周辺領域への応用開発の両面を経験できる環境。
10 ~ 20 特定領域重点型 収益の柱となる主要部門に人員を集中させている状態。個々の開発成果が事業利益に直結しやすく担当技術の事業上の位置付けが明確な環境。
10未満 専門領域特化型 限定された特定の技術領域に多くの人員を投入している状態。他分野への目移りをせず限られた専門領域を突き詰めることが求められる環境。

 

 上図に表1をあてはめると次のようになります。

 

 開発領域の広がりにかなりの差があることがわかります。

 この前提を踏まえて、共通点と相違点を分析していきます。
 

6.3 各社の技術分野トップ10と研究開発の共通点、相違点の分析

 以下、各社の技術分野(筆頭FI)とその割合(その企業におけるその技術分野の出願の割合)トップ10を示します(下表)。各社がどの技術分野にリソースの多くを投入しているかわかります。

 割合が大きいほど、各企業にとって鉄板の技術分野だと言えます。

 FIコード照会(特許情報プラットフォーム):j-platpat

 

<表2> 各社のFIトップ10と割合

パナソニック 三菱電機 日立製作所 京セラ 村田製作所 TDK
H01M 4.7% H01L 7.3% G06F 17% H01L 11% H01F 13% H01F 23%
F24F 4.3% F24F 6.4% G06Q 12% H04W 9.4% H01G 12% H01L 12%
H05K 3.9% G06F 4.8% B66B 7.6% H02J 5.4% H03H 11% H01M 8.6%
H05B 3.9% H02K 4.3% A61B 6.0% H05K 4.9% H01M 8.7% H01G 8.5%
H01L 3.8% H02M 4.0% G05B 3.9% H03H 4.5% H05K 5.3% G01R 5.6%
H04N 3.4% B66B 3.5% H02J 3.4% G06F 4.5% H01L 5.3% C04B 2.9%
F21S 2.9% F25B 2.7% H04L 3.1% H01M 4.5% H01Q 4.4% H02J 2.7%
G06Q 2.6% G05B 2.6% H02M 2.5% B41J 3.1% H03F 2.8% H02M 2.7%
G06F 2.4% G01S 2.4% B61L 2.4% B23B 3.0% H04B 2.6% H05K 2.3%
D06F 2.3% H04L 2.2% G06N 2.2% G02B 2.9% H02M 1.9% G01N 2.0%

 

 次に、表2からわかる特徴を解説します(6.3.1~6.3.3)。

 

6.3.1 総合電機メーカーの共通点と相違点:パナソニック、三菱電機、日立製作所

■共通点(デジタル変革、管理技術への注力)

 従来のハード単体から、ソフトウェアやデータ活用によるシステム化へのシフトが共通の傾向としてみてとれます。

情報処理技術(G06F)

 G06F(情報処理装置)が3社においてランクインしています。

 ハードウェアの制御やデータの利活用を支えるコンピュータ技術は全社共通の開発分野です。

 

通信、制御技術(H04L, G05B)

 日立と三菱電機でH04L(デジタル情報の伝送)、G05B(一般的制御・監視)が、パナソニックKでこれに近い領域(F21S等の制御系)への注力が確認されます。

 例えば、IoT化やシステム全体の最適化などに関する開発が推測されます。

 

■相違点(「生活・電池」vs「FA・電力」vs「IT・インフラ」)

パナソニック(エネルギーと生活空間への注力)

 H01M(二次電池)が1位である点が特徴的で、車載用リチウムイオン電池などのエネルギーデバイスへの注力が推測されます。

 F24F(空調)やD06F(洗濯機)、H05B(電熱)など、家電・住設由来の暮らしに関わる技術が依然として強く、生活者の視点に近い開発環境であることがうかがえます。

 

三菱電機(FA(工場自動化)、パワー半導体)

 H01L(半導体)が1位であり、省エネの鍵となるパワー半導体への注力が推測されます。

 H02K/M(回転電気機械、制御)やB66B(エレベーター)など、重電、FA領域のハードウェア技術が上位を占め、制御技術を融合させる開発環境がうかがえます。

 

日立製作所(ITサービス、社会インフラ)

 G06F(17%)とG06Q(12%)の比率が高く、電機メーカーの中で最もIT企業に近いポートフォリオです。

 A61B(診断装置)などのヘルスケア、B66B(エレベーター)などの都市インフラにソフトウェア技術(G06N:AI、機械学習)を適用する開発環境がうかがえます。

 

 各企業の発明に関する詳細分析記事:パナソニック三菱電機日立製作所

 

6.3.2 電子部品メーカーの共通点と相違点:京セラ、村田製作所、TDK

■共通点(素材・電子デバイスへの注力)

 当然ながら、3社すべてにおいてハードウェアの心臓部を担う素材や回路に関連する分野のシェアが大きいです。

半導体、能動素子技術(H01L)

 3社すべてでH01L(半導体装置)が高い比率であり、共通の基盤技術となっているようです。

 

エネルギーデバイス(H01M)

 3社すべてでH01M(二次電池)が上位にランクインしています。

 モバイル機器からEVまで蓄電・エネルギー効率の向上に向けた材料・セル開発が共通課題になっていることが推測されます。

 

インダクタ、磁性材料(H01F)

 村田製作所とTDKにおいてトランスやコイルなどの高周波対応や電力変換に欠かせない磁性材料の開発が首位になっています。

 

■相違点(「多角化の京セラ」vs「高周波の村田」vs「磁性のTDK」)

 開発分野の広がり、集中において違いがあります。

京セラ(素材を核とした多角化、システム展開)

 H04W(無線通信ネットワーク)やH02J(給電・配電)、B23B(工作機械)など、部品単体にとどまらないシステムや産業機械に関わる開発環境がうかがえます。

 半導体部品だけでなく、通信機器やエネルギーシステム、工具へと広く応用展開している点が特徴的です。

 

村田製作所(高周波、回路部品への注力)

 1位〜3位のH01F(インダクタ)、H01G(コンデンサ)、H03H(回路回路網・フィルタ)だけで全体の36%を占め、スマートフォンなどの通信機器に欠かせない高周波フィルタや積層セラミックコンデンサなど、回路の基礎部品に集中する開発環境がうかがえます。

 

TDK(磁性材料から電池へのシフト)

 H01F(磁性材料・コイル)が23%と特定分野への集中度が高い一方、H01M(電池)も高い位置にあり、磁性技術を二次電池を中心としたエネルギー事業へリシフトさせていると考えられ、素材の深堀と越境的な展開をおこなう開発環境がうかがえます。

 

 各企業の発明に関する詳細分析記事:電子部品業界(1)電子部品業界(2)

 

6.3.3 電機分野における総合メーカー、部品メーカーの共通点と相違点

■共通点

 表2のトップ10に入る技術分野に全社共通のものは存在しません。

 5社(日立を除く)で共通しているのはH01L(半導体装置)、4社(三菱電機、日立製作所を除く)で共通しているのH01M(二次電池)あたりが、最大公約数的な開発対象だと言えそうです(あくまで表2に基づく場合)。

 

■相違点

総合電機メーカー(情報処理(G06F)を基盤としたシステム構築)

 電機メーカー3社には共通してG06F(情報処理装置)がランクインしていますが、部品メーカー側で入っているのは京セラのみです。

 総合電機メーカー側はコンピュータ技術を駆使して「モノをどう動かすか、どう繋ぐか」というシステムのインテグレーションに開発の軸足があることがうかがえます。

 

電子部品メーカー(物理的基礎要素(H01F/G/H))

 総合電機メーカー側にほぼ現れないのが、H01F(磁性材料・コイル)、H01G(コンデンサ)、H03H(回路回路網)といった電子回路部品に関する技術です。

 電子部品の比率の高さが電子部品メーカーの特徴だと言えます(そのまんま)。

 

 以上、統計的な情報から業界間の共通点、相違点が見えてきました。

 

6.3.4 総合電機メーカーと電子部品メーカーの2業界の共通点と相違点(まとめ)

 上記情報を鑑みつつ、各業界の研究開発職の共通点・相違点のうち、優先度が高いと考えられるものをまとめました。

 あくまで一例です。

<表3> 推測される研究開発職の共通点・相違点の一例

  業界共通的な専門分野 総合電機メーカーが重視 電子部品メーカーが重視
専門分野の例 ・電気電子工学
・エネルギー工学
・情報工学(システム構築)
・制御工学(FA、インフラ)
・材料工学(磁性、セラミックス)
・応用物理(能動素子、高周波)
業務内容の例 ・EV用電池の高性能化
・パワー半導体の開発
・IoT/AIを活用したシステム構築
・家電、重電、社会インフラ開発
・超小型コンデンサ、コイル開発
・高機能素材のプロセス開発
特徴的なFI ・H01L(半導体装置)
・H01M(二次電池)
・G06F(情報処理装置)
・G05B(監視、制御)
・H01F(磁性材料・コイル)
・H01G(コンデンサ)

 

7.最後に

 本記事では10年間の特許情報から電機分野の技術ポートフォリオと研究開発職の相違を分析しました。

 これらの相違は、エンジニアのキャリアを左右する重要事項になるかもしれません。

 本記事を通して電機分野における各業界の内側を想像する一助となれば幸いです。

 

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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・会社四季報 業界地図2024年、2025年、2026年版 東洋経済新報社

<留意事項>
・本記事は、弁理士である管理人の視点で特許情報を独自に分析したものです。
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