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紙パルプ・繊維業界の就職・転職先比較|研究開発職の違い【特許情報から分析】

 紙・パルプ業界と繊維業界はいずれも素材を加工して製品化する産業ですが、研究開発の方向性や技術領域には違いがあります。

 これらの違いを十分に理解しないままでは自分に合った業界選択や志望動機の整理が難しくなる可能性があります。

 一般に、紙・パルプ業界はセルロースを原料とした素材加工や包装材・機能紙などの用途展開を強みとする一方、繊維業界は高分子材料を基盤とした繊維設計や機能性付与(強度・伸縮・耐熱など)を特徴としています。

 このように、素材を扱う分野でも研究開発の対象やアプローチが異なります。

 本記事では、特許情報をもとに紙・パルプ業界と繊維業界を対象として、研究開発職の特徴や技術領域の共通点・相違点を比較分析しました。

 業界ごとの違いを整理し、自分の専門がどの分野に適しているのかを検討するための参考情報として活用できます。

 

 結論(一部)は以下の通りです。

  業界共通的な専門分野 紙・パルプ業界が重視 繊維業界が重視
専門分野の例 ・材料工学(バイオマス)
・化学工学(高分子)
・農学(森林、植物)
・プロセス工学(機械・熱)
・有機合成化学
・応用物理(極限材料)
業務内容の例 ・脱プラ、リサイクル技術
・電池用セパレータ開発
・次世代素材(CNFなど)の研究
・衛生用品、包装の構造設計
・高機能繊維(炭素繊維等)の開発
・航空、医療向け複合材料の創出

 

 農学、プロセス工学、材料工学などの専門性に基づき植物由来の資源から段ボールや衛生用品といった身近な製品の形や機能を更新する紙・パルプ業界(出口製品の更新)、有機合成化学や応用物理などの専門性に基づき炭素繊維や水処理膜といった素材そのものの機能を分子レベルで設計し多分野へ展開する繊維業界(素材創出)というイメージです。

 

 

1.対象とする業界と企業

 過去記事における以下の業界と企業(ある程度、特許出願件数が多い企業)を対象にしました。いずれも過去記事と同一条件の出願人です。

・紙、パルプ業界(過去記事:紙・パルプ業界

 王子HD、日本製紙、大王製紙、三菱製紙

・繊維業界(過去記事:繊維業界

 東レ、帝人、クラレ、東洋紡

 

2.一般的情報の限界

 一般的に公開されている情報では、各業界や企業の主要製品はわかっても、その裏側の研究開発の相違は見えてきません。

 特に業界であつかう製品などが類似する場合、表面的な事業内容の差だけで判断すると、実際の研究開発内容や求められる専門性が想像と大きく乖離してしまうリスクがあります。

 

3.特許分析の意義

 特許情報は企業の開発に関する客観的なエビデンスです。

 本記事では、特許情報を活用し、対象業界を横並びに比較し、研究開発における共通点や相違点を可視化し、専門性が発揮されるフィールドを判断する材料を提示します。

 

4.特許分析方法

・2014年から2023年までに特許出願された情報を対象範囲にしました。

・上記特許出願された情報から特許分類(FI:筆頭FI)(※)を抽出しました。

 ※FIとは技術内容を分類するコードであり、その中で筆頭FIとは、リストの一番最初に記載れているものです。発明の最も本質的な技術特徴が筆頭FIです。

・上記筆頭FIを目印にして各業界、各企業の発明の技術分野の特徴を分析しています。

 

5.注意点

・過去記事における対象範囲とズレが生じていることがあります。

・各業界からピックアップした企業の特許情報に基づきます。

・分析結果は業界内の全ての企業にあてはまるものではありません。

・分社化などによる別法人での特許出願は反映されていません。

・本分析はあくまで特許情報を活用した想定であり、実態と乖離している場合が多々あると考えられます。

 

6.結果

6.1 各社の特許出願状況の比較

 各社の特許出願状況(横軸:出願年、縦軸:出願件数)は以下の通りです。

 

 上図は出願件数に関する全体像をとらえるための情報であり、あまり深い意味はありません。

 

6.2 技術の分散・集中度の比較

 各社の特許出願からHHIという指標の逆数(実質的な技術的機軸数(逆数HHI))を用いて、何本の太い技術の柱を持っているか、を算出しました。

 各社の技術ポートフォリオの分散・集中度をあらわす逆数HHIの推移は以下の通りです。縦軸値が大きいほど技術分野が分散しており、逆に小さいほど技術分野が集中していることを意味します。

(一般的なHHI(集中度)とは異なり本分析の分散度(逆数HHI)は、数値が大きいほど技術分野が多角化(分散)しており、小さいほど特定の技術に資源を集中していることを意味します。)

 

 

 上図の縦軸値からイメージされる組織構造を下表(表1)に示しています。

 表1を踏まえて上図を見ると、いずれの企業も開発資源を集中してはいますが、企業によってその差に多少の違いがあることがわかります。

 

<表1> 逆数HHIに基づく組織類型とキャリア環境イメージ

数値 組織構造 キャリア・開発環境のイメージ
50超 広域分散型 非常に幅広い技術分野に人員を分散配置している状態。専門外の領域に触れる機会が多く、特定の技術に固執しない汎用的な動きが求められる環境。
30 ~ 50 多分野並行型 複数の独立した技術部門が並立している状態。社内には多様な専門性を持つ集団が混在しており、異動などを通じて複数の技術基盤を経験できる可能性がある。
21 ~ 29 基盤・周辺展開型 主力技術を維持しつつ関連分野への展開も並行している状態。特定分野の習熟とその知見を活かした周辺領域への応用開発の両面を経験できる環境。
10 ~ 20 特定領域重点型 収益の柱となる主要部門に人員を集中させている状態。個々の開発成果が事業利益に直結しやすく担当技術の事業上の位置付けが明確な環境。
10未満 専門領域特化型 限定された特定の技術領域に多くの人員を投入している状態。他分野への目移りをせず限られた専門領域を突き詰めることが求められる環境。

 

 上図に表1をあてはめると次のようになります。

 

 基盤・周辺展開から特定領域に位置する企業が多いことがわかります。

 この前提を踏まえて、共通点と相違点を分析していきます。
 

6.3 各社の技術分野トップ10と研究開発の共通点、相違点の分析

 以下、各社の技術分野(筆頭FI)とその割合(その企業におけるその技術分野の出願の割合)トップ10を示します(下表)。各社がどの技術分野にリソースの多くを投入しているかわかります。

 割合が大きいほど、各企業にとって鉄板の技術分野だと言えます。

 FIコード照会(特許情報プラットフォーム):j-platpat

 

<表2> 各社のFIトップ10と割合

王子HD 日本製紙 大王製紙 三菱製紙 東レ 帝人 クラレ 東洋紡
B65D 18.9% D21H 17% A61F 33% D21H 14% C08J 10% C08L 16% C08L 16% B32B 17%
A61F 16.1% C08B 10% B65D 15% B41M 14% B32B 8.9% D01F 8.6% C08F 13% C08J 8.5%
D21H 9.4% B65D 8.5% A47K 9.3% B01D 7.1% C08L 8.1% C08G 8.1% B32B 7.3% C12N 5.4%
B32B 7.4% C08L 6.4% A41B 9.1% G03F 6.9% B01D 6.5% H01M 6.2% C08J 6.5% C08L 5.0%
C09J 6.0% B32B 5.5% D21H 8.0% H01M 6.7% C08G 6.2% C08J 5.2% H01M 4.1% B01D 4.6%
C08J 3.6% C08J 4.3% A47L 3.3% H01B 3.9% D01F 5.3% D03D 4.3% B29C 3.8% G01N 4.4%
B41M 3.2% B41M 4.0% A41D 1.8% G06F 3.8% B29C 5.0% B32B 4.1% G02B 3.8% G02B 4.4%
A47K 3.1% C04B 2.8% G06K 1.8% H01G 3.7% H01M 3.6% B29C 4.0% B01D 3.5% B29C 4.3%
C08L 2.4% A23K 2.7% C08B 1.7% H05K 3.3% G03F 3.0% D06M 3.3% D01F 3.3% C08G 4.1%
A41B 2.1% C08F 2.6% C08L 1.4% B32B 3.2% G02B 2.6% H01L 2.8% D06N 3.3% C12Q 3.6%

 

 次に、表2からわかる特徴を解説します(3.3.1~3.3.3)。

 

6.3.1 紙・パルプ業界の共通点と相違点:王子HD、日本製紙、大王製紙、三菱製紙

■共通点(パルプ・製紙技術を基盤としたリソース集中)

 製紙プロセスの根幹であるD21H(製紙)、プラスチック代替として注目されるB65D(容器・包装)が上位にランクインしています。

 

製紙基盤技術(D21Hなど)への集中

 伝統的な製紙技術(D21H)は依然として全社の中心的位置づけであり、製造効率の追求や品質改良が開発のベースとなっています。

 

パッケージング、衛生分野への注力

 B65D(包装)やA61F(衛生用品)といった紙の用途に近い出口戦略に関する出願が目立ちます。

 

■相違点(多角化の方向性と新素材へのアプローチ)

王子HD

 包装(B65D)や接着(C09J)が強く、物流・容器としての紙の付加価値を追求していることがうかがえます。

 構造設計や加工技術、物流ソリューションに関わる機会があるかもしれません。

 

日本製紙

 セルロースナノファイバー(C08B, C08L)などのバイオマス新素材への取組みがうかがえます。

 化学系、バイオ系が活きる機能性材料の研究深掘りに適した環境であるかもしれません。

 

大王製紙

 おむつ等の衛生用品(A61F)にリソースを集中させており、日用品メーカーの色が濃いと言えます。

 機械・材料系が主軸となる最終消費財の開発に近い可能性があります。

 

三菱製紙

 感熱紙等の情報記録材料(B41M)や電気絶縁紙(H01M)など、高付加価値な特殊紙への取組みがうかがえます。

 電気・電子部品用材料など、他産業の基盤を支える特殊技術を磨ける開発環境の可能性があります。 

 

 各企業の発明に関する詳細分析記事:紙・パルプ業界

 

6.3.2 繊維業界の共通点と相違点:東レ、帝人、クラレ、東洋紡

■共通点(高分子・加工技術を核とした多角化)

 化学素材全般への展開が共通しています。全社において高分子組成(C08L)やその加工(C08J)、積層・複合材料(B32B)が上位を占めています。

 

高分子、化学合成技術

 単に糸を引くだけでなく、樹脂の組成調整(C08L)や成形(B29C)といった化学工学的なアプローチが共通の基盤です。

 

エネルギー、環境、水処理への展開

 電池用セパレータ(H01M)や濾過・分離技術(B01D)が各社共通の分野となっており技術開発が活発です。

 

■相違点

東レ

 炭素繊維や水処理膜、電子材料など素材をさまざまな分野へ展開。

 航空宇宙から医療まで幅広い出口に関わる開発環境が想定されます。

 

帝人

 繊維技術をベースにしつつ医療(D03D)やモビリティ、炭素繊維複合材に展開。

 医薬やシステムなど、異分野融合の開発に触れる機会が多いと考えられます。

 

クラレ

 ポバール樹脂(C08F)や光学フィルムなど、高シェアな独自素材の改良・周辺展開が特徴的です。

 特定の独自素材を突きつめる開発環境が想定されます。

 

東洋紡

 包装・工業用フィルム(B32B)に加え、バイオ・医薬(C12N)への注力が特徴的です。

 フィルム成形からバイオテクノロジーまで領域の振れ幅が大きい開発環境が想定されます。

 

 各企業の発明に関する詳細分析記事:繊維業界

 

6.3.3 繊維系セグメント2業界の共通点と相違点

■共通点

脱プラ

 紙パルプの包装・容器(B65D)と繊維の高分子組成・加工(C08L, C08J)において、いずれもプラスチック代替や軽量化を狙った開発が活発です。

 

エネルギー、環境分野への進出

 電池用セパレータ(H01M)や濾過・分離技術(B01D)が両業界に共通してトップ10に食い込んでおり、成長エンジンとなっている可能性があります。

 

■相違点

紙、パルプ業界

  紙という形をどう機能化し、衛生用品(A61F)や包装(B65D)として製品化するかを追求しており、特定の主力製品(おむつ、段ボール)へのリソース集中が高いです。

 最終製品の構造設計や製造ラインの高度化など、製品の改良がダイレクトに消費者の生活に届く出口に近い傾向の開発環境だと言えそうです。

 

繊維業界

 高分子(C08L)や合成(C08F)を通じて材料自体の物理的・化学的性質を追求し、コア技術(炭素繊維など)を航空・宇宙・医療など多分野へ展開しています。

 分子設計や新機能創出といった入口に近い傾向の開発環境だと言えそうです。

 

 以上、統計的な情報から業界間の共通点、相違点が浮かび上がりました。

 

6.3.4 紙・パルプ業界と繊維業界の2業界の共通点と相違点(まとめ)

 上記情報を鑑みつつ、各業界の研究開発職の共通点・相違点のうち、優先度が高いと考えられるものをまとめました。

 あくまで一例です。

<表3> 推測される研究開発職の共通点・相違点の一例

  業界共通的な専門分野 紙・パルプ業界が重視 繊維業界が重視
専門分野の例 ・材料工学(バイオマス)
・化学工学(高分子)
・農学(森林、植物)
・プロセス工学(機械・熱)
・有機合成化学
・応用物理(極限材料)
業務内容の例 ・脱プラ、リサイクル技術
・電池用セパレータ開発
・次世代素材(CNFなど)の研究
・衛生用品、包装の構造設計
・高機能繊維(炭素繊維等)の開発
・航空、医療向け複合材料の創出
特徴的なFI ・D21H(製紙、特殊紙)
・H01M(二次電池素材)
・B65D(包装、容器)
・A61F(衛生用品、むつ)
・C08L/J(高分子組成、加工)
・B32B(積層、複合材料)

 

7.最後に

 本記事では10年間の特許情報から繊維系セグメントの技術ポートフォリオと研究開発職の相違を分析しました。

 これらの相違は、エンジニアのキャリアを左右する重要事項になるかもしれません。

 本記事を通して繊維系セグメントにおける各業界の内側を想像する一助となれば幸いです。

 

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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・会社四季報 業界地図2024年、2025年、2026年版 東洋経済新報社

<留意事項>
・本記事は、弁理士である管理人の視点で特許情報を独自に分析したものです。
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