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食品業界の就職・転職先比較|研究開発職の違い(加工食品・食材・酒類・飲料)【特許情報から分析】

 加工食品業界、食材業界、酒類業界、飲料・乳業業界はいずれも食品に関わる産業ですが、研究開発の方向性や技術領域には違いがあります。

 これらの違いを十分に理解しないままでは自分に合った業界選択や志望動機の整理が難しくなる可能性があります。

 例えば、加工食品業界はレシピ設計や保存技術、量産化プロセスの最適化を重視する一方、食材業界は農水産物の品質改良や原料開発に強みを持ちます。

 また、酒類業界は発酵や微生物制御といったバイオ技術が中心となり、飲料・乳業業界では液体処理や殺菌、機能性設計などの技術が重要になります。

 このように、同じ食品分野でも研究開発のアプローチは大きく異なります。

 本記事では、特許情報をもとに4業界を対象として、研究開発職の特徴や技術領域の共通点・相違点を比較分析しました。

 業界ごとの違いを整理し、自分の専門がどの分野に適しているのかを検討するための参考情報として活用できます。

 

 結論(一部)は以下の通りです。

  業界共通的な専門分野 加工食品業界が重視 食材業界が重視 酒類業界が重視 飲料・乳業業界が重視
専門分野の例 ・食品科学
・栄養学
・家政、調理学
・農学
・有機化学
・分析化学
・バイオテクノロジー
・応用微生物学
・生化学
・プロセス工学(機械)
・生命科学(健康)
業務内容の例 ・おいしさ(味・香)の追求
・品質保持、衛生管理
・冷凍、加熱時の調理再現
・新メニュー、中食の開発
・有用成分の抽出・合成
・代替肉等の新素材開発
・優良酵母の選別、育種
・発酵、熟成の科学的制御
・殺菌、充填の工程最適化
・乳酸菌の機能性エビデンス

 

 ざっくり分けると、家政・調理学や農学などの専門性に基づき冷凍・加熱時の調理再現やメニュー開発などをおこなう加工食品業界(調理再現)、有機化学やバイオ技術に基づき有用成分の抽出・合成をおこなう食材業界(成分合成)、応用微生物学や生化学に基づき発酵・熟成を制御する酒類業界(発酵制御)、プロセス工学や生命科学に基づき殺菌工程の最適化や機能性立証をおこなう飲料・乳業業界(工程最適化)というイメージになります。

 

 

1.対象とする業界と企業

 過去記事における以下の業界と企業(ある程度、特許出願件数が多い企業)を対象にしました。いずれも過去記事と同一条件の出願人です。

・加工食品業界(過去記事:食品業界食品業界(2)

 味の素、キューピー、日清食品、明治

・食材業界(過去記事:食材業界

 不二製油、日清オイリオ

・酒類業界(過去記事:酒類業界

 サントリー、アサヒ、キリン、サッポロ 

・飲料、乳業業界(飲料・乳業業界

 森永乳業、コカ・コーラ

 

2.一般的情報の限界

 一般的に公開されている情報では、各業界や企業の主要製品はわかっても、その裏側の研究開発の相違は見えてきません。

 特に業界であつかう製品などが類似する場合、表面的な事業内容の差だけで判断すると、実際の研究開発内容や求められる専門性が想像と大きく乖離してしまうリスクがあります。

 

3.特許分析の意義

 特許情報は企業の開発に関する客観的なエビデンスです。

 本記事では、特許情報を活用し、対象業界を横並びに比較し、研究開発における共通点や相違点を可視化し、専門性が発揮されるフィールドを判断する材料を提示します。

 

4.特許分析方法

・2014年から2023年までに特許出願された情報を対象範囲にしました。

・上記特許出願された情報から特許分類(FI:筆頭FI)(※)を抽出しました。

 ※FIとは技術内容を分類するコードであり、その中で筆頭FIとは、リストの一番最初に記載れているものです。発明の最も本質的な技術特徴が筆頭FIです。

・上記筆頭FIを目印にして各業界、各企業の発明の技術分野の特徴を分析しています。

 

5.注意点

・過去記事における対象範囲とズレが生じていることがあります。

・各業界からピックアップした企業の特許情報に基づきます。

・分析結果は業界内の全ての企業にあてはまるものではありません。

・分社化などによる別法人での特許出願は反映されていません。

・本分析はあくまで特許情報を活用した想定であり、実態と乖離している場合が多々あると考えられます。

 

6.結果

6.1 各社の特許出願状況の比較

 各社の特許出願状況(横軸:出願年、縦軸:出願件数)は以下の通りです。

 

 上図は出願件数に関する全体像をとらえるための情報であり、あまり深い意味はありません。

 

6.2 技術の分散・集中度の比較

 各社の特許出願からHHIという指標の逆数(実質的な技術的機軸数(逆数HHI))を用いて、何本の太い技術の柱を持っているか、を算出しました。

 各社の技術ポートフォリオの分散・集中度をあらわす逆数HHIの推移は以下の通りです。縦軸値が大きいほど技術分野が分散しており、逆に小さいほど技術分野が集中していることを意味します。

(一般的なHHI(集中度)とは異なり本分析の分散度(逆数HHI)は、数値が大きいほど技術分野が多角化(分散)しており、小さいほど特定の技術に資源を集中していることを意味します。)

 

 

 上図の縦軸値からイメージされる組織構造を下表(表1)に示しています。

 表1を踏まえて上図を見ると、いずれの企業も主たる事業に開発資源を集中していることが読み取れます。

 

<表1> 逆数HHIに基づく組織類型とキャリア環境イメージ

数値 組織構造 キャリア・開発環境のイメージ
50超 広域分散型 非常に幅広い技術分野に人員を分散配置している状態。専門外の領域に触れる機会が多く、特定の技術に固執しない汎用的な動きが求められる環境。
30 ~ 50 多分野並行型 複数の独立した技術部門が並立している状態。社内には多様な専門性を持つ集団が混在しており、異動などを通じて複数の技術基盤を経験できる可能性がある。
21 ~ 29 基盤・周辺展開型 主力技術を維持しつつ関連分野への展開も並行している状態。特定分野の習熟とその知見を活かした周辺領域への応用開発の両面を経験できる環境。
10 ~ 20 特定領域重点型 収益の柱となる主要部門に人員を集中させている状態。個々の開発成果が事業利益に直結しやすく担当技術の事業上の位置付けが明確な環境。
10未満 専門領域特化型 限定された特定の技術領域に多くの人員を投入している状態。他分野への目移りをせず限られた専門領域を突き詰めることが求められる環境。

 

 上図に表1をあてはめると次のようになります。

 

 いずれも開発資源が所定の領域に集中していることがわかります。

 この前提を踏まえて、共通点と相違点を分析していきます。
 

6.3 各社の技術分野トップ10と研究開発の共通点、相違点の分析

 以下、各社の技術分野(筆頭FI)とその割合(その企業におけるその技術分野の出願の割合)トップ10を示します(下表)。各社がどの技術分野にリソースの多くを投入しているかわかります。

 割合が大きいほど、各企業にとって鉄板の技術分野だと言えます。

 FIコード照会(特許情報プラットフォーム):j-platpat

 

<表2> 各社のFIトップ10と割合

味の素 キューピー 日清食品 明治 不二製油 日清オイリオ サントリー アサヒ キリン サッポロ 森永乳業 コカ・コーラ
A23L 18% A23L 55% A23L 49% A23C 29% A23D 25% A23D 35% A23L 30% C12G 27% A23L 24% C12G 33% A23G 40% A23L 21%
C08L 17% A61K 9% B65D 8.6% A61K 21% A23L 24% A23L 20% C12G 11% A23L 21% C12G 16% A23L 22% A23L 34% G07F 14%
C08G 8.2% B65D 5% A47J 4.1% A23L 19% A23G 15% A23G 14% C12C 10% C12C 18% C12C 13% C12C 21% A61K 10% B65D 13%
A61K 7.9% A23D 4% B65G 3.9% A23G 7.0% A21D 11% A21D 7.2% A23F 8.0% B67D 9.4% A61K 11% B67D 5.8% A21D 3.9% B67D 12%
H05K 5.6% G01N 3% C12N 3.9% C12N 4.8% A23J 9.1% C11B 4.1% A61K 6.8% B65D 5.6% B65D 7.4% B65D 2.8% A23J 2.6% A23F 6.2%
C12N 5.5% C08B 2% A21C 3.7% G01N 4.0% A23C 4.1% A61K 3.7% B65D 5.8% A61K 3.7% B67D 3.6% G06Q 2.1% C12N 2.6% C08G 3.3%
C12P 4.8% A23B 2% A61K 2.3% A23D 2.4% A61K 1.7% G01N 2.7% B67D 4.3% G01N 1.8% A23F 3.1% G01N 1.8% B65D 1.3% G06Q 3.3%
G01N 4.0% B65B 1% B65B 2.3% B65D 2.4% C12N 1.7% C11C 2.0% G06Q 3.0% C12H 1.1% C12N 2.4% B65B 1.7% C08B 1.3% B29C 2.5%
G03F 3.3% A23J 1% A23J 2.1% B01F 1.6% C11B 1.5% A23J 1.6% C12N 2.0% C12N 1.1% C23C 2.1% A61B 1.1% G01N 1.3% A47J 2.1%
B32B 2.4% C12N 1% B32B 2.1% C12Q 1.6% G01N 1.1% G06Q 1.4% G01N 1.4% C12Q 1.1% G01N 2.1% A61K 0.8% A23D 0.6% A23G 1.6%

 

 次に、表2からわかる特徴を解説します(6.3.1~6.3.5)。

 

6.3.1 食品加工業界の共通点と相違点:味の素、キューピー、日清食品、明治

■共通点(食品技術を中核としたリソース集中)

 4社すべてにおいて食の根幹を支える技術が最大の出願比率を占めています。

食品を起点とした開発

 多くの企業で食品の調理・保存・組成(A23L)または乳製品関連(A23C)が上位となっています。

 

専門への集中傾向

 筆頭分野への注力度は18%〜55%と幅があるものの、いずれも上位10分野で全体の大部分を占めており、リソースを無制限に分散させない姿勢が共通しています。

 

包材、容器への共通関心

 味の素を除く3社(キユーピー、日清食品、明治)において包装技術(B65D等)が上位10項目に入っており、製品の保存性や使い勝手を支える周辺技術への配分が共通して見られます。

 

■相違点(特化の型の相違)

 第1位分野の集中度と第2位以下の構成から4社はそれぞれ異なる組織構造の様相を呈しています。

味の素

 食品(18%)と化学・素材(17%)が拮抗。

 異なる専門性を掛け合わせた広がりを有するのに近い特化。

 

キューピー、日清食品

 単一分野(A23L)に約50%を投入する特化。

 

明治

 乳業(29%)と医薬(21%)にリソースを二分。

 健康に関する2大ドメインを並立させる特化。

 

 各企業の発明に関する詳細分析記事:食品業界食品業界(2)

 

6.3.2 食材業界の共通点と相違点:不二製油、日清オイリオ

■共通点(油脂・加工技術へのリソース集中)

 両社とも技術ポートフォリオが示すように、高度に集中しており、特定の技術ドメインが共通しています。

基幹技術(A23D)

 両社とも食用の油脂・脂肪が最大比率であり、研究開発の優先領域となっています。

 

応用展開(A23L・A23G・A21D)

 油脂を基盤としつつ、一般食品加工(L)、菓子(G)、ベーカリー(D)という特定のアプリケーション領域へも注力しています。

 

分析基盤(G01N)

 共通して下位にランクインしており、材料分析技術を開発の共通基盤として保持しています。

 

■相違点(注力ドメインの分岐)

 第1位分野の集中度と第2位以下の構成から4社はそれぞれ異なる組織構造の様相を呈しています。

不二製油

 油脂(A23D)を筆頭としつつ、タンパク質(A23J)および乳製品代用(A23C)が上位10項目に含まれており、植物性原料を軸としたポートフォリオを形成しています。

 

日清オイリオ

 油脂(A23D)への集中度が35%と極めて高く、油脂精製(C11B/C)や医薬・化粧品への応用(A61K)が上位10項目に含まれており、油脂ドメインの深化と垂直展開に特化しています。

 

 各企業の発明に関する詳細分析記事:食材業界

 

6.3.3 酒類業界の共通点と相違点:サントリー、アサヒ、キリン、サッポロ

■共通点(アルコール・非アルコール技術の併用)

 4社共通の鉄板分野として、以下のドメインが上位を占めています。

酒類・発酵技術(C12G・C12C)

  ワイン、醸造酒(C12G)およびビール(C12C)の技術が全社の基盤となっています。

 

非アルコール飲料技術(A23L)

 一般食品加工、飲料(A23L)が全社で20%〜30%と極めて高い比率を占め、酒類以外の飲料開発も等しく重要視されています。

 

容器・包装技術(B65D・B67D

 貯蔵、搬送(B65D)や分注(B67D)といった製品のパッケージングや提供形態に関する技術が共通して上位にランクインしています。

 

■相違点(技術ポートフォリオの重心と展開範囲)

サントリー

 非アルコール飲料(A23L)および茶・コーヒー(A23F)の比率が突出しており、飲料全般への広範な技術展開に特徴があります。

 

アサヒ

 酒類醸造(C12G/C)に次いで分注・提供技術(B67D)の比率が高く、醸造から飲用時までの提供品質の追求に特徴があります。

 

キリン

 医薬、化粧品用製剤(A61K)の比率が11%と高く、酒類・飲料技術のバイオ・ヘルスケアへの応用に特徴があります。

 

サッポロ

 全社中で醸造技術(C12G)の構成比が最も高く、アルコール醸造ドメインへの開発資源の集中に特徴があります。

 

 各企業の発明に関する詳細分析記事:酒類業界

 

6.3.4 飲料・乳業業界の共通点と相違点:森永乳業、コカ・コーラ

■共通点(製品供給・提供プロセスの重視)

 両社とも飲料・乳製品という最終製品を扱う特性上、中身の技術だけでなく届け方に関する技術が上位を占めています。

飲料、食品加工基盤(A23L)

 森永乳業(34%)、コカ・コーラ(21%)共に高い比率を占める基幹分野です。

 

包装、提供技術(B65D・B67D)

 貯蔵、搬送(B65D)や分注・サービング(B67D)が共通して上位にランクインしており、パッケージングや提供品質への注力が伺えます。

 

■相違点(注力ドメイン)

森永乳業

 A23G(菓子・乳代用品)が40%と突出して高く、乳由来の加工技術とヘルスケア応用(A61K)への集中に特徴があります。

 

コカ・コーラ

 G07F(自動販売機)が14%と上位に位置しており、製品開発のみならず販売チャネルの自動化技術にリソースを割いている点に特徴があります。

 

 各企業の発明に関する詳細分析記事:飲料・乳業業界

 

6.3.5 食品分野4業界の共通点と相違点

■共通点

基盤技術の共通性(A23L)

 加工食品(味の素18%、キユーピー55%)、酒類(サントリー30%)、飲料(コカ・コーラ21%)、食材(不二製油24%)と、いずれの業界も一般食品加工技術(A23L)を共通の基盤として保持しています。

 

中身と届け方の両立

 全業界で包装、貯蔵(B65D)や材料分析(G01N)が一定比率でランクインしており、製品の品質保持と解析技術が共通の必須要件となっています。

 

■相違点

加工食品業界

 味の素に代表されるよう、化学(C08L)や電子(H05K)など食品外の周辺領域まで広域展開

 

食材業界

 特定の素材(油脂・タンパク)の極致を追求する専門特化型

 

酒類業界

 醸造(C12G/C)を核として、飲料やバイオ・ヘルスケア(A61K)へ多角化推進

 

飲料、乳業業界

  A23G(乳製品)やG07F(自販機)など、事業ドメインに直結した特定分野へ機動的にリソースを集中

 

 以上、統計的な情報からは業界間の相違だけでなく、共通の成長技術も浮かび上がりました。

 特にA61K(医薬・製剤)の比率が多くの企業で上昇傾向にあり、食品各社が食と健康の融合を技術背景として加速させている実態が特許ポートフォリオからうかがえます。

 

6.3.6 4業界の共通点と相違点(まとめ)

 上記情報を鑑みつつ、各業界の研究開発職の共通点・相違点のうち、優先度が高いと考えられるものをまとめました。

 あくまで一例です。

<表3> 推測される研究開発職の共通点・相違点の一例

  業界共通的な専門分野 加工食品業界が重視 食材業界が重視 酒類業界が重視 飲料・乳業業界が重視
専門分野の例 ・食品科学
・栄養学
・家政、調理学
・農学
・有機化学
・分析化学
・バイオテクノロジー
・応用微生物学
・生化学
・プロセス工学(機械)
・生命科学(健康)
業務内容の例 ・おいしさ(味・香)の追求
・品質保持、衛生管理
・冷凍、加熱時の調理再現
・新メニュー、中食の開発
・有用成分の抽出・合成
・代替肉等の新素材開発
・優良酵母の選別、育種
・発酵、熟成の科学的制御
・殺菌、充填の工程最適化
・乳酸菌の機能性エビデンス
特徴的なFI ・A23L(食品調理、保存) ・A23L 3/(調理再現等)
・A23L 19/(野菜、果物加工)
・C12P(生化学的製法)
・A23L 27/(調味料)
・C12G(ワイン、酒類)
・C12H(熟成、清澄)
・A23L 2/(飲料)
・A23C(酪農製品)

 

7.最後に

 本記事では10年間の特許情報から食品分野の技術ポートフォリオと研究開発職の相違を分析しました。

 これらの相違は、エンジニアのキャリアを左右する重要事項になるかもしれません。

 本記事を通して食品分野における各業界の内側を想像する一助となれば幸いです。

 

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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・会社四季報 業界地図2024年、2025年、2026年版 東洋経済新報社

<留意事項>
・本記事は、弁理士である管理人の視点で特許情報を独自に分析したものです。
・本サイトでは、特許情報を正確かつ最新の状態でお伝えするよう努めていますが、情報の完全性を保証するものではありません。
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