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鉄鋼・非鉄金属業界の就職・転職先比較|研究開発職の違い【特許情報から分析】

 鉄鋼業界と非鉄金属業界は、いずれも金属材料を扱う産業ですが、研究開発の方向性や技術領域には違いがあります。

 これらの違いを十分に理解しないままでは自分に合った業界選択や志望動機の整理が難しくなる可能性があります。

 一般に、鉄鋼業界は高強度鋼などの構造材料を大量生産するためのプロセス技術や品質制御を強みとする一方、非鉄金属業界はアルミ・銅・レアメタルなどを用いた機能性材料や軽量化材料の開発を特徴としています。

 このように、同じ金属分野でも研究開発の対象やアプローチが異なります。

 本記事では、特許情報をもとに鉄鋼業界と非鉄金属業界を対象として、研究開発職の特徴や技術領域の共通点・相違点を比較分析しました。

 業界ごとの違いを整理し、自分の専門がどの分野に適しているのかを検討するための参考情報として活用できます。

 

 結論(一部)は以下の通りです。

  業界共通的な専門分野 鉄鋼業界が重視 非鉄金属業界が重視
専門分野の例 ・材料工学(組織制御)
・機械工学(熱管理)
・プロセス工学(製錬、圧延)
・計測工学(分析、検査)
・電子工学(半導体、回路)
・化学工学(めっき、電池素材)
業務内容の例 ・金属材料の品質分析、検査
・耐食性、表面処理技術
・高効率な製錬、圧延プロセスの開発
・自動車用高張力鋼の加工
・EV向け電池正極材、触媒の開発
・半導体用高機能部材、箔の製造

 

 材料工学、プロセス工学、機械工学などの専門性に基づき高炉や圧延ラインといった巨大設備のなかで高品質な鋼材を効率的に造るプロセスを構築する鉄鋼業界(プロセスへの注力)、材料工学、電気電子、化学などの専門性に基づき半導体や電池向けに金属材料の微細な組織を制御し、高度な機能を発現させる非鉄金属業界(機能発現への注力)といったイメージです。

 

 

1.対象とする業界と企業

 過去記事における以下の業界と企業(ある程度、特許出願件数が多い企業)を対象にしました。いずれも過去記事と同一条件の出願人です。

・鉄鋼業界(過去記事:鉄鋼業界

 日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所

・非鉄金属業界(過去記事:非鉄金属業界

 三菱マテリアル、住友金属鉱山、JX金属、三井金属鉱業

 

2.一般的情報の限界

 一般的に公開されている情報では、各業界や企業の主要製品はわかっても、その裏側の研究開発の相違は見えてきません。

 特に業界であつかう製品などが類似する場合、表面的な事業内容の差だけで判断すると、実際の研究開発内容や求められる専門性が想像と大きく乖離してしまうリスクがあります。

 

3.特許分析の意義

 特許情報は企業の開発に関する客観的なエビデンスです。

 本記事では、特許情報を活用し、対象業界を横並びに比較し、研究開発における共通点や相違点を可視化し、専門性が発揮されるフィールドを判断する材料を提示します。

 

4.特許分析方法

・2014年から2023年までに特許出願された情報を対象範囲にしました。

・上記特許出願された情報から特許分類(FI:筆頭FI)(※)を抽出しました。

 ※FIとは技術内容を分類するコードであり、その中で筆頭FIとは、リストの一番最初に記載れているものです。発明の最も本質的な技術特徴が筆頭FIです。

・上記筆頭FIを目印にして各業界、各企業の発明の技術分野の特徴を分析しています。

 

5.注意点

・過去記事における対象範囲とズレが生じていることがあります。

・各業界からピックアップした企業の特許情報に基づきます。

・分析結果は業界内の全ての企業にあてはまるものではありません。

・分社化などによる別法人での特許出願は反映されていません。

・本分析はあくまで特許情報を活用した想定であり、実態と乖離している場合が多々あると考えられます。

 

6.結果

6.1 各社の特許出願状況の比較

 各社の特許出願状況(横軸:出願年、縦軸:出願件数)は以下の通りです。

 

 上図は出願件数に関する全体像をとらえるための情報であり、あまり深い意味はありません。

 

6.2 技術の分散・集中度の比較

 各社の特許出願からHHIという指標の逆数(実質的な技術的機軸数(逆数HHI))を用いて、何本の太い技術の柱を持っているか、を算出しました。

 各社の技術ポートフォリオの分散・集中度をあらわす逆数HHIの推移は以下の通りです。縦軸値が大きいほど技術分野が分散しており、逆に小さいほど技術分野が集中していることを意味します。

(一般的なHHI(集中度)とは異なり本分析の分散度(逆数HHI)は、数値が大きいほど技術分野が多角化(分散)しており、小さいほど特定の技術に資源を集中していることを意味します。)

 

 上図の縦軸値からイメージされる組織構造を下表(表1)に示しています。

 表1を踏まえて上図を見ると、大きくはないですが、企業によって分散度に多少差があることがわかります。

 

<表1> 逆数HHIに基づく組織類型とキャリア環境イメージ

数値 組織構造 キャリア・開発環境のイメージ
50超 広域分散型 非常に幅広い技術分野に人員を分散配置している状態。専門外の領域に触れる機会が多く、特定の技術に固執しない汎用的な動きが求められる環境。
30 ~ 50 多分野並行型 複数の独立した技術部門が並立している状態。社内には多様な専門性を持つ集団が混在しており、異動などを通じて複数の技術基盤を経験できる可能性がある。
21 ~ 29 基盤・周辺展開型 主力技術を維持しつつ関連分野への展開も並行している状態。特定分野の習熟とその知見を活かした周辺領域への応用開発の両面を経験できる環境。
10 ~ 20 特定領域重点型 収益の柱となる主要部門に人員を集中させている状態。個々の開発成果が事業利益に直結しやすく担当技術の事業上の位置付けが明確な環境。
10未満 専門領域特化型 限定された特定の技術領域に多くの人員を投入している状態。他分野への目移りをせず限られた専門領域を突き詰めることが求められる環境。

 

 上図に表1をあてはめると次のようになります。

 

 分散度は企業によって多少差がありますが、多くが特化寄りです。

 この前提を踏まえて、共通点と相違点を分析していきます。
 

6.3 各社の技術分野トップ10と研究開発の共通点、相違点の分析

 以下、各社の技術分野(筆頭FI)とその割合(その企業におけるその技術分野の出願の割合)トップ10を示します(下表)。各社がどの技術分野にリソースの多くを投入しているかわかります。

 割合が大きいほど、各企業にとって鉄板の技術分野だと言えます。

 FIコード照会(特許情報プラットフォーム):j-platpat

 

<表2> 各社のFIトップ10と割合

日本製鉄 JFEスチール 神戸製鋼所 三菱マテリアル 住友金属鉱山 JX金属 三井金属鉱業
C22C 35.7% C22C 26% B23K 14% B23B 17% C22B 16% C23C 17% H01M 12%
C23C 9.8% B21B 14% C22C 12% H01L 12% H01M 10% C22B 13% B01J 10%
B22D 9.1% C21D 11% C23C 3.3% C23C 7.3% G01N 7.3% C22C 12% C01G 10%
B23K 8.8% C23C 8.4% B22D 3.2% C22C 5.7% C01G 6.9% C25D 10% C23C 8.5%
G01N 8.1% G01N 8.2% G01N 3.0% B23C 4.8% C30B 6.1% H01M 6.8% B22F 8.2%
C21C 6.9% C21C 7.3% B21D 2.5% C04B 4.5% B22F 5.6% B22F 4.0% C04B 7.4%
B21D 6.6% B21D 6.8% B21B 2.2% C25D 3.8% C23C 3.5% B32B 3.4% H01B 4.9%
B21B 6.0% B23K 6.8% C21B 2.1% B22F 3.4% C25C 2.6% H05K 3.0% H05K 4.9%
C21D 4.7% C21B 6.5% C21C 2.1% G01K 3.3% B23K 2.0% H01L 2.6% B32B 4.5%
C21B 4.5% B22D 5.2% F17C 2.1% H01C 2.3% H01B 1.9% C25C 2.5% C25D 4.4%

 

 次に、表2からわかる特徴を解説します(6.3.1~6.3.3)。

 

6.3.1 鉄鋼業界の共通点と相違点:日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所

■共通点(プロセスの高度化)

 3社ともトップ10に C22C(合金)、C21C(製鋼)、B21B(圧延) などが並んでおり、これらの技術課題が業界全体で共通だと言えそうです。

素材と製法のセット

 単に新しい鉄を作る(合金組成)だけでなく、それをどう固め(鋳造:B22D)、どう薄く延ばし(圧延:B21B)、どう強くするか(熱処理:C21D)という連の製造プロセス全体への取組みがうかがえます。

 

計測技術(G01N)

 3社ともランクインしている「G01N」は材料の検査や分析です。巨大な高炉や製造ラインをリアルタイムで監視・制御する技術は鉄鋼エンジニアの必須領域だと言えます。

 

■相違点(技術領域の重心(素材、工程、接合など))

日本製鉄

 C23C(被覆・表面処理) が9.8%と高く、ただの鉄板ではなく錆を防ぐめっきや高付加価値なコーティング技術に注力していることがうかがえます。また、C21B(鉄鉱石からの製鉄) の割合も高く、原料から製品まで垂直統合がうかがえます。

 

JFEスチール

 B21B(圧延)、B21D(塑性加工)、C21D(熱処理) の比率が他社より高く、加工プロセスにおける強さがうかがえます。特に自動車メーカーが求める軽くて強い鋼板(ハイテン)の加工技術の深化にリソースを割いていることが推測されます。

 

神戸製鋼所

 B23K(溶接・接合) が14%で1位であることと、 F17C(ガス容器) が10位以内に登場している点が特徴的です。鉄を作るだけでなく、鉄とアルミをどう繋ぐか(溶接)や水素タンクなどの容器といった最終製品に近い出口戦略がうかがえます。

 

 各企業の発明に関する詳細分析記事:鉄鋼業界

 

6.3.2 非鉄金属業界の共通点と相違点:三菱マテリアル、住友金属鉱山、JX金属、三井金属鉱業

■共通点(金属の機能の提供)

 鉄鋼のような造り方(プロセス)のコードよりも、H01(電気的性質)に関わるコードが目立ちます。

金属を電子材料と位置づけ

 共通するのが、金属を単なる塊ではなく半導体パッケージ(H01L)や電池材料(H01M)、回路基板として売るための対象としている点が挙げられます。

 

粉末・積層技術(B22F, B32B)

 金属を粉にして固めたり、薄膜を重ねたりする精密加工技術が4社共通の主要テーマである可能性があります。

 

■相違点(用途面)

三菱マテリアル

 B23B(切削・穴あけ)が17%と突出しており、他社が材料そのものに寄る中、同社は金属を削るための工具など、モノづくりの道具にも注力していることがうかがえます。

 

住友金属鉱山

 C22B(湿式製錬)とH01M(二次電池)から、鉱山からのニッケル等の抽出(C22B)し、それをそのままEV向けのリチウムイオン電池正極材(H01M)に繋げる川上からハ川下へのハイテク適用がうかがえます。

 

JX金属

 C23C(被覆)とC25D(電気めっき)の割合が高く、圧延銅箔を基板に貼り付けたり、表面を処理したりするなど、薄膜・界面の制御への注力が推測されます。

 

三井金属鉱業

 H01M(電池)が1位で住友金属鉱山に近いです。また、B01J(触媒)が10%であり、排ガス浄化などの触媒への注力がうかがえます。

 

 各企業の発明に関する詳細分析記事:非鉄金属業界

 

6.3.3 鉄鋼業界と非鉄金属業界の2業界の共通点と相違点

■共通点

分析・計測(G01N)の重視

 不純物の混入を防ぎ、均一な品質を保証するための分析技術は業界全体の生命線だと言えそうです。

 

表面処理(C23C, C25D)への注力

 鉄は「錆びさせない」、非鉄は「導電性や密着性を高める」という目的の差はあれど、表面に付加価値をつけることは共通していると言えそうです。

 

■相違点

鉄鋼業界

 技術の重心は造り方(C21, B21系)にあります。

 巨大な製造ラインの最適化など、装置産業の色が濃いです。

 

非鉄金属業界

 技術の重心は使い道(H01, B01系)(半導体、電池、触媒など)にあります。

 ミクロな組織制御や機能発現といった材料開発の色が濃いです。

 

 以上、統計的な情報から業界間の共通点、相違点が見えてきました。

 

6.3.4 鉄鋼業界と非鉄金属業界の2業界の共通点と相違点(まとめ)

 上記情報を鑑みつつ、各業界の研究開発職の共通点・相違点のうち、優先度が高いと考えられるものをまとめました。

 あくまで一例です。

<表3> 推測される研究開発職の共通点・相違点の一例

  業界共通的な専門分野 鉄鋼業界が重視 非鉄金属業界が重視
専門分野の例 ・材料工学(組織制御)
・機械工学(熱管理)
・プロセス工学(製錬、圧延)
・計測工学(分析、検査)
・電子工学(半導体、回路)
・化学工学(めっき、電池素材)
業務内容の例 ・金属材料の品質分析、検査
・耐食性、表面処理技術
・高効率な製錬、圧延プロセスの開発
・自動車用高張力鋼の加工
・EV向け電池正極材、触媒の開発
・半導体用高機能部材、箔の製造
特徴的なFI ・C22C(合金組成)
・G01N(分析、調査)
・C21C(製鋼)
・B21B(金属圧延)
・H01M(二次電池)
・H01L(半導体装置)

 

7.最後に

 本記事では10年間の特許情報から鉄鋼・非鉄金属分野の技術ポートフォリオと研究開発職の相違を分析しました。

 これらの相違は、エンジニアのキャリアを左右する重要事項になるかもしれません。

 本記事を通して鉄鋼・非鉄金属分野における各業界の内側を想像する一助となれば幸いです。

 

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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・会社四季報 業界地図2024年、2025年、2026年版 東洋経済新報社

<留意事項>
・本記事は、弁理士である管理人の視点で特許情報を独自に分析したものです。
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・特許情報のご活用や解釈は読者ご自身の責任でお願いいたします。
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