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非製造業の研究開発職(LINEヤフー、アクセンチュア、三菱UFJ銀行、リクルート、三菱商事、日本郵船、JR東日本、東京電力、NHKなど)|仕事内容と関連する専攻を特許に基づく開発データから垣間見る

 この業界や企業、何を開発しているのか?自分の専攻・専門は活かせるのか?

 ネット系、コンサル系、金融系、人材サービス系など、就職・転職先として知名度の高い非製造業においてもAIやデータ解析、業務システムなどに関する研究開発が行われています。

 しかし、採用ページや企業情報だけでは実際にどのような開発が行われているのかを把握することは容易ではありません。

 本記事では、就職・転職先として注目されることの多い非製造業の企業を対象に直近の特許情報から実際の開発内容を整理・可視化しました。

 各企業の研究開発を俯瞰し、就職、転職において自分の専攻・専門性がどのような企業・技術領域で活かせるのかを考えるきっかけとなれば幸いです。

 

(本記事では、特許情報を用いていますが、特許や法律の前知識は不要です。また、技術分類に関する記号については、無視しても問題ないです。)

 

<対象業界(企業)>

1.通信・ネット系業界(LINEヤフー、メルカリ)
2.コンサル業界(アクセンチュア、アビーム、野村総研、三菱総研、みずほリサーチ&テクノロジーズ、日本総研)
3.メガバンク(三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行)
4.人材・情報サービス系業界(リクルート)
5.総合商社(三菱商事)
6.海運業界(日本郵船、商船三井)
7.鉄道業界(JR東日本、JR東海)
8.電力業界(東京電力ホールティングス、関西電力)
9.放送局業界(NHK)
(対象業界は今後も順次追加予定です。)

 

公開日:2026/6/13
最終更新日:2026/7/25

 

 

 

 

1.通信・ネット系業界(LINEヤフー、メルカリ)

1-1.開発数(特許出願件数から見る開発実態)

 LINEヤフー、メルカリの2社とも毎年特許出願しており、社内において継続的に開発がおこなわれていることがうかがえます。

 特に、LINEヤフーの出願数は、製造業なみか、それ以上の年もあります。

 

 

1-2.開発に関わる主な技術分野

 上記特許出願の中身をもう少し詳しく見ていきます。

 FI記号と言われる技術分類によると、2社ともビジネスシステム(FI:G06Q(以下①))やコンピュータの基本システム(FI:G06F(以下②))に関わる開発が最も多いです。

 

①お金のやり取り、買い物、広告などビジネスを自動化・便利にする技術(G06Q)

 LINEヤフーの「ユーザーに合わせた広告の配信システム」「PayPayの決済機能」やメルカリの「出品・決済・発送の管理システム」などが該当

 

②スマホアプリやPCソフトを動かすための仕組みやデータ処理全般(G06F)

 アプリの画面がスムーズに動く処理、データを安全に保存する仕組み、検索エンジンの基本システムなど、ITサービスの土台となる技術

 

<上位2技術分野の出願数>

  技術分類
G06Q G06F
①ビジネスの
システム
②コンピュータの
基本システム
出願年  LINEヤフー メルカリ LINEヤフー メルカリ
2016年 115 1 100 0
2017年 162 9 85 0
2018年 61 80 44 10
2019年 23 81 9 4
2020年 25 17 9 4
2021年 133 9 43 1
2022年 344 1 103 0
2023年 219 14 113 0

 

1-3.直近の開発例

1-3-1.LINEヤフー

(1)ビジネスのシステム(G06Q)

①開発物 ニュースの背景や経緯を分かりやすく学習できるシステム
②その内容 ユーザーが「よく分からないニュース」を指定すると、AI(文章生成モデル)がその事象を理解するための解説ステップを自動作成します。さらに、AIがそのステップごとに最適なニュース記事(評価が高いものや最新の記事)をセットにして、1つの解説コンテンツとして提供します。
③結局どんな技術か 単に1つの記事を読むだけでなく、流れに沿って複数の記事を読めるため、ニュースの深い理解を助ける技術です。
④活かせる専門性 自然言語処理(LLMへの指示や文章生成)、データサイエンス(ユーザー評価や最新度に基づく記事の選別・推薦アルゴリズム)、情報工学(AIとデータベースを連携させたWebシステム開発)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7855026/15/ja

 

(2)コンピュータの基本システム(G06F)

①開発物 言葉足らずや説明不足の投稿をAIが自動で分かりやすく書き換えてくれる「文章投稿アシストシステム」
②その内容 ユーザーがニュースなどの記事に対してコメントを書き込む際、AI(GPTモデル)が記事の内容とコメントを照らし合わせます。もし投稿者のコメントが説明不足だった場合、AIがその意図を汲み取って内容を補完し、より伝わりやすいスマートな文章に自動で書き換えてくれます。さらに、閲覧者の年代や過去の履歴に合わせて、読む人が一番理解しやすいように補足を加えることも可能です。
③結局どんな技術か ネット上の「伝えたいけど、上手く文章にできない」をAIが解決し、投稿する人も読む人も、お互いの誤解なくスムーズにコミュニケーションできるようにする技術です。
④活かせる専門性 自然言語処理(文脈を汲み取ったAIによる文章の補完・書き換え技術)、UI/UXデザイン(AIの変更箇所を分かりやすく提示し、ユーザーに確認させる画面設計)、データサイエンス(閲覧者の属性やログから理解度を推定し、説明を個別最適化する技術)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7846660/15/ja

 

1-3-2.メルカリ

(1)ビジネスのシステム(G06Q)

①開発物 スキマバイトアプリで、場所や天気に合わせて求人の埋まりやすさを予測し、給与を自動調整しておすすめするシステム
②その内容 バイトを探す人の位置情報をもとに、その周辺エリアの求人が最終的にどれくらい応募で埋まるか(マッチング率)をAIが予測します。
AIは単に過去のデータだけでなく、当日の天気(雨だと応募が減る・キャンセルが増える)、曜日や祝日、募集人数の増減傾向まで考慮して高精度に予測。もし、このままだと人が集まらないと判断した求人(不便な場所や雨の日の求人など)があればお店側に「時給や交通費をアップしておすすめ枠に載せませんか?」とAIが自動で提案し、集客をコントロールします。
③結局どんな技術か データ(位置・天気・過去ログ)とAIを使って、お店側には確実に人が集まる仕組みをワーカーには、今いる場所から通いやすくて、時給が良い求人を賢く提案するスキマバイトの需給コントロール技術です。
④活かせる専門性 地理情報システム・空間データ分析(位置情報や地域メッシュ、通勤ルートの解析)、データサイエンス(天気、曜日、キャンセル率などのマルチモダリティな統計データを用いた需要予測モデルの構築)、行動経済学・機械学習(時給や交通費の変動が応募行動に与える影響をモデル化するダイナミックプライシングアルゴリズムの開発)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7789174/15/ja

 

(2)コンピュータの基本システム(G06F)

①開発物 共有されたデータの中身を自動で判断し、アプリの最適な専用機能をピンポイントで立ち上げるシステム
②その内容 例えば、別のアプリで見ていた写真や文字をメルカリなどのアプリに共有するシーンを想像してください。
従来の仕組みでは、共有ボタンを押すと一律でアプリのトップ画面が開くだけでした。しかしこの技術では、共有されたデータが「文字(テキスト)」ならキーワード検索機能を「1枚の写真」なら画像検索機能や売れるかチェック機能をさらに「複数枚の写真」なら一発で出品手続き機能を起動させます。データの中身(数やプロパティ情報)に合わせてアプリ側の立ち上げるメニューを賢く切り替える仕組みです。
③結局どんな技術か スマホの共有機能を使う際、共有するデータの中身(属性)をシステムが自動判別し、受け取り側アプリの一番使いたい画面へダイレクトにジャンプさせることでユーザーの手間(2度手間の画面操作)を減らす技術です。
④活かせる専門性 情報工学・OSアーキテクチャ(iOSのShared ExtensionやAndroidのIntentといったOS標準のデータ共有・プロセス間通信の活用)、ソフトウェア開発(ディープリンクやカスタムURLスキームを用いたアプリ起動制御)、データ構造・セキュリティ(画像をBase64等の文字列に変換・復元してURL経由で安全にアプリ間転送する実装スキル)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7679580/15/ja

 

1-4.まとめ

 LINEヤフーやメルカリは、一般的にはWebサービスやアプリを運営する会社であり、製造業のような研究開発のイメージは薄い企業かもしれません。

 しかし、特許情報から裏側を覗くと、広告配信、決済、検索、商品推薦などのシステム開発が活発におこなわれていることが分かります。

 特に近年は情報工学やAI、データサイエンスといった専門性と深く結びついていることがうかがえます。



2.コンサル業界(アクセンチュア、アビーム、野村総合研究所、三菱総合研究所、みずほリサーチ&テクノロジーズ、日本総合研究所)

2-1.開発数(特許出願件数から見る開発実態)

 コンサル業界は基本的に特許出願件数は少ないです。特に、マッキンゼーやボストンコンサルティングなどの戦略系は、出願がほぼ皆無に等しいレベルです。

 一方、総合コンサル系やシンクタンク系では、一定数の特許出願が確認されています。大規模なシステムインテグレーションや開発業務を自社で手がける企業ほど件数が多い傾向にあり、一般的な非製造業を大きく超えるレベルです。

 

 

2-2.開発に関わる主な技術分野

 上記特許出願の中身をもう少し詳しく見ていきます。

 FI記号と言われる技術分類によると、6社ともビジネスシステム(FI:G06Q(以下①))やコンピュータの基本システム(FI:G06F(以下②))に関わる開発が最も多いです。

 

①経営や業務を効率化・自動化する技術

 クライアント(顧客企業)の「経営課題を解決するための具体的な仕組み」をITで実現する技術です。

 例として、大企業のサプライチェーン(原材料調達から販売までの一連の流れ)を最適化する管理システム、金融機関向けの新しい決済システムや資産運用自動化アルゴリズムが挙げられます。

 

②データの処理やIT基盤を支える技術

 企業のDXを支えるための、安全で、より速いデータ処理の土台を作る技術です。

 例として、大量にある顧客データを高速で分析・処理する仕組み、企業の機密情報や個人情報を守るための高度なセキュリティ・暗号化技術が挙げられます。

 

<上位2技術分野の出願数>

  技術分類
G06Q G06F
ビジネスのシステム(経営や業務を効率化・自動化する技術) コンピュータの基本システム(データの処理やIT基盤を支える技術)
出願年 アクセンチュア アビーム 野村総合研究所 三菱総合研究所 みずほリサーチ&テクノロジーズ 日本総合研究所 アクセンチュア アビーム 野村総合研究所 三菱総合研究所 みずほリサーチ&テクノロジーズ 日本総合研究所
2016年 0 0 40 5 7 3 1 1 35 1 2 45
2017年 0 2 46 4 4 9 3 2 18 0 4 47
2018年 2 5 29 5 9 7 5 1 16 3 6 32
2019年 5 6 25 8 10 16 8 0 16 2 5 39
2020年 3 6 32 5 9 3 7 1 15 0 1 64
2021年 3 2 45 7 4 7 6 0 8 0 7 37
2022年 6 1 25 5 1 13 3 1 7 0 1 41
2023年 1 2 35 4 4 10 2 0 11 2 3 30

 

2-3.直近の開発例

2-3-1.アクセンチュア

(1)ビジネスのシステム(G06Q)

①開発物 企業の経営目標から「今起きている問題」と「次に取るべき行動」をAIが自動で導き出す企業の運営改善・早期パターン検出システム
②その内容 企業が達成したい経営目標を入力すると、システムが膨大な関連データが詰まったナレッジグラフと照らし合わせ、目標達成のヒントや障害となるイベントの候補を洗い出します。
さらに、最新のウェブ情報を自動収集して各イベントの重要度を2つのAIモデルで分析。イベントの優先順位を決めた上でトランスフォーマ技術を用いて、そのイベントに対して企業が具体的に次に取るべき一連のアクションまでを自動で予測・提案します。
③結局どんな技術か ノイズの多いビッグデータや不完全な情報の中から企業の経営に影響を与える未来の兆候(パターン)をAIがいち早く察知し、目標達成のために具体的に何をすべきかという最適解をプロのアドバイザーのように自動提案してくれる企業の意思決定・DX推進アシスト技術です。
④活かせる専門性

データサイエンス・機械学習(ナレッジグラフの構築・統合、および疎な特徴と密な特徴の双方を処理するハイブリッドなイベントスコアリングモデル(因数分解機等)の開発)、自然言語処理・ディープ学習(トランスフォーマ層を用いたシーケンスデータからのネクスト・アクション予測アルゴリズムの実装)、情報工学・分散処理(Webセンシングにおける並列フェッチ、IPローテーション、高度なデータ重複排除を考慮したスケーラブルな自動データ収集基盤の構築)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7807952/15/ja

 

(2)コンピュータの基本システム(G06F)

①開発物 データセンターのCO2排出を抑えつつ企業の業務ルールやコストに合わせて最適なサーバー環境を自動選択するワークロード管理システム
②その内容 大量のデータ処理を実行する際、複数のクラウドやサーバー環境の中から、どこで・いつ処理するのが最も環境に優しいかをシステムが判断します。
判断にあたっては、単にサーバーのエコ度だけでなく、データを別のデータセンターへ移す際の消費電力(転送エネルギーコスト)や現地の天候予測(太陽光や風力発電の効率)、さらに企業の業務ルール(ガバナンスポリシー:機密データの海外持ち出し禁止など)やコスト上限、処理の遅延までを考慮。ユーザーが承認すれば、最適な環境の構築からデータ転送、処理の開始までを自動で実行します。
③結局どんな技術か 企業の業務ルールや予算を守りながらデータセンターが排出するCO2を最小限に抑えるようにAIとデータを使って計算処理の場所と時間を最適化するグリーンIT・自動化技術です。
④活かせる専門性 環境システム工学・グリーンIT(PUE値やリアルタイムの炭素強度に基づく温室効果ガス排出量の評価モデル構築)、データサイエンス(天候予測や過去のスケジューリングデータ、複雑なジョブの依存関係を考慮した最適化アルゴリズムの開発)、情報工学(クラウドインフラの自動的な動的プロビジョニングや、ガバナンスコントロールに準拠したセキュアなデータ転送制御技術)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7804008/15/ja

 

2-3-2.アビーム

(1)ビジネスのシステム(G06Q)

①開発物 企業のESG報告書からAIを用いて自動で指標データを抽出・比較し、参照範囲を絞り込めるチャットボットによる深掘り分析も可能なESG情報自動抽出・インタラクティブ分析システム
②その内容 各企業が独自のフォーマットで公開している統合報告書やサステナビリティレポート等の非定型文書、さらにはオープンデータや規制データを自動収集して企業ごとに蓄積します。
これらの膨大な文書と、ESG情報抽出プロンプトを大規模言語モデルなどのAIモデルに入力することで、各企業のESG活動データを共通の指標(CO2排出量など)ごとに自動でマトリクス形式に整理し、複数企業間で一目で比較できるように表示します。
さらに、ユーザーが特定の年度や特定の報告書などAIが参照するデータの対象範囲を指定した上で、取り組みの方針などについて質問すると、その範囲のデータのみに基づいた正確な回答をチャットボットが生成して出力します。
③結局どんな技術か バラバラな形式で書かれた企業のESG報告書からAIを使って必要な指標や戦略を自動で抜き出してきれいに横並びで比較できるようにし、さらに参照するデータの範囲を絞り込んで正確に対話・調査できるESGデータ統合・生成AI対話技術です。
④活かせる専門性 自然言語処理・AI工学(LLMを活用した非構造化文書からの情報抽出、ハルシネーションを抑制する高精度なプロンプトエンジニアリングやRAG、チャットボット制御アルゴリズムの開発)、情報工学(異種ドメインにまたがるESG指標データの構造化、マトリクス表示や複数企業比較を可能にするデータモデリング)、システム工学(RPAやAIを用いたWebサイトからの公開報告書・オープンデータの自動クローリングおよび更新検知システムの構築)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7730436/15/ja

 

(2)コンピュータの基本システム(G06F)

①開発物 ERP等のソフトウェアパッケージを刷新する際、複数顧客で共通する機能の検証・修正を事前に一括で済ませ、各社ごとの手順リスト作成から資材配置までを自動化する効率的ソフトウェアパッケージ・アップグレード支援システム
②その内容 ベンダから提供される新バージョンのパッケージをもとに、環境構築装置が全顧客共通で利用する共通機能・標準機能を検証するための共通検証用環境をクラウド等のサーバ上に自動生成します。
この共通環境側であらかじめ動作テストを網羅的に実施し、プログラムのバグ修正や設定変更といった共通の修正内容を先に作り込みます。その後、アップグレードに必要なベースファイルと、この共通修正内容をアップグレード資源配置装置へ一括格納。
資源配置装置は、各顧客の現在の設定情報を吸い上げて各社専用のアップグレード手順リストを自動生成・配信するとともに顧客側のシステム環境へ必要なファイルを自動配置します。顧客側でのバージョンアップ完了後、事前に作り込んでおいた共通機能の修正内容を自動で配信・適用させることで、顧客側は自社固有の機能の検証・修正だけに集中できるようになります。
③結局どんな技術か 複数企業が使うシステムを一斉更新する際、みんなで共通する部分のテストと修正を事前に1箇所で終わらせておき、各社へのデータ配りや個別の作業手順書の作成を自動化することで顧客側の手戻りや業務停止時間を最小限に抑えるシステム移行自動化・共通検証効率化技術です。
④活かせる専門性 ソフトウェア工学(CI/CDパイプラインを活用した複数環境への自動デプロイ機構、構成管理ツールを用いたアップグレード資源の自動配置・配信アルゴリズムの開発)、情報システム工学(ERP等のマルチテナント・パッケージシステムにおける標準機能と顧客固有カスタマイズ機能の依存関係分析、パラメータ抽出による「個別手順リスト」の自動生成ロジック構築)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7250192/15/ja

 

2-3-3.野村総合研究所

(1)ビジネスのシステム(G06Q)

①開発物 インターネット上の膨大なサーバ群から自社に関連する可能性のあるシステムを自動探索し、生成AIを使って、なぜ管理対象とすべきか、という論理的な根拠とともに仕分ける生成AI活用型・IT資産棚卸システム
②その内容 大規模な企業において、海外拠点や各事業部が独自に立ち上げて本社が把握していない隠れWebサイト(脆弱性の温床となるIT資産)を洗い出すためのシステムです。
まずIT資産探索部が、指定された企業名やブランド名、ロゴ画像、Whois情報(ドメイン登録者情報)などを基に、OSINT(公開情報調査)の手法を用いて関連性のありそうなサーバやWebサイトを自動で広く探索し、膨大な資産候補を抽出します。
次に判定部が、各サーバの応答データ(HTMLコンテンツ等)や企業情報をあらかじめ用意したプロンプトのひな形に埋め込み、生成AIに入力します。プロンプトには関連性の有無だけでなく「その判定根拠を自然言語で回答せよ」という命令文が含まれており、ブラックボックスになりがちなAIの判断理由を明確にテキスト化させます。また、複数の生成AIに同じ判定をさせて結果の共通性を評価する仕組みや少数のサンプリングデータと正解データを比較してプロンプトの精度を事前に検証する機能も備えています。
③結局どんな技術か 自社が把握していない野良サーバやWebサイトをネット上から自動で見つけ出し、生成AIに「ドメイン登録名やサイト内の記載から見て、このサイトは自社に関連する可能性が高い」といった具体的な理由付きで自動仕分けさせるサイバー攻撃面管理・AI判定技術です。
④活かせる専門性 生成AI工学・プロンプトエンジニアリング(LLMを用いた非構造化テキストからの関連性抽出、判定根拠を自然言語で論理的・構造的に出力させる命令文デザイン、複数AIモデルのアンサンブルによる判定信頼度評価ロジックの開発)、サイバーセキュリティ・ネットワーク工学(OSINT技術やWhois情報の自動収集によるアタックサーフェス管理(ASM)、インターネットから到達可能なポートや各種サーバの応答データ解析)、システム検証・統計工学(サンプリング検査によるプロンプト性能の検証機構、過去データとの統計的乖離検知による判定品質の自動監視アルゴリズム構築)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7751145/15/ja

 

(2)コンピュータの基本システム(G06F)

①開発物 作業者がサーバの生パスワードを知らなくても事前申請して承認された日時・対象装置・権限の範囲内でのみシステムが自動で安全に代理ログインを仲介する特権アクセス自動認証・制御管理システム
②その内容 企業のシステム運用者や開発者が、重要なサーバ(作業対象装置)で設定変更などの作業を行う際、セキュリティリスクとなるサーバの生パスワードの開示を防ぐシステムです。
まず運用者が「どのサーバで、いつからいつまで、どの権限で作業したいか」を申請し、管理者が許可すると、その内容が作業条件として第1の記憶領域に保存されます。運用者がアクセス管理装置へログインし、作業対象のサーバを指定してログイン要求を送ると、装置側は現在の受付日時が、許可された作業時間の範囲内(開始日時〜終了日時)かなどの条件を満たしているかを厳格に判定します。
条件を充足している場合のみ、第2の記憶領域に秘匿されている対象サーバの実際のログインIDとパスワードをシステムが自動で呼び出し、運用者に代わってサーバへ代理ログインして通信セッションを確立。以降のコマンド操作を中継します。
③結局どんな技術か 重要なサーバのパスワードを作業者に教えることなく、管理者が「○日の○時から○時まで」と承認した時間内だけシステムが代わりにパスワードを入力してサーバに繋いでくれる特権ID隠蔽・時限式アクセス制御技術です。
④活かせる専門性 情報セキュリティ・認証工学(特権ID/パスワードの秘匿・暗号化管理、ゲートウェイ方式によるネットワークプロトコル中継およびセッション制御技術の開発)、ソフトウェア工学(時間ベースのアクセス認可ポリシー制御、暗号化通信を一時復号して平文で監査するオペレーションログ取得および禁止コマンドのリアルタイム遮断フィルターの設計)、分散コンピューティング・システム管理工学(複数サーバのアカウント定期自動変更と連動したアカウント同期・統合管理システムの構築)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7841041/15/ja

 

2-3-4.三菱総合研究所

(1)ビジネスのシステム(G06Q)

①開発物 将来の土地利用変化や都市構造の変化をAI・シミュレーションで予測し、それに基づく電力需要家の引越・新設や太陽光・EV等の分散電源の普及確率までをメッシュ単位で算出して配電網の電力潮流を予測する地域特性連動型・長期電力需要供給予測システム
②その内容 従来の過去のトレンドのみに頼る需要予測とは異なり、地域ごとの需要家の行動や分散型エネルギー源(DER:太陽光、蓄電池、EV、ヒートポンプ等)の導入動向をミクロに予測するシステムです。
まず分割部が対象地域を細かなセルに分割します。分類予測部は過去の衛星画像や実績からセルラーオートマタ等を用いて、将来の各セルの土地利用分類(住宅地、商業地、森林等)を予測します。
離脱予測部および新増設予測部は、予測された土地利用分類や都市中心部・主要地物からの距離といった地域特性、基本整備計画などを特徴量として、マルチエージェントシミュレーションを実行。既存需要家の離脱と新規需要家の新増設をセルごとに予測し、全系の予測値と整合するように調整部が数値を最適化します。さらに導入予測部が需要家の所得・家族構成といった属性データに基づき、各種DERの購入・導入確率をセル単位で算出。最終的に電力潮流予測部が、これら離脱・新増設・DER導入の全情報を統合し、地域内の配電設備(電線路や変圧器等)における将来の電力潮流、電流、電圧の変化を精緻にシミュレーションします。
③結局どんな技術か 将来このエリアがどう開発され、どんな人が住み、太陽光やEVがどれくらい普及するかを土地利用予測と住民行動シミュレーションによってメッシュ単位で予測し、将来の配電インフラに流れる電気の量や電圧の過不足を網羅的に割り出す次世代配電網・需要供給インフラ予測技術です。
④活かせる専門性 情報セキュリティ・電気電子工学(配電システムにおける電力潮流・潮流計算アルゴリズム、分散型エネルギー源を考慮した配電設備の運用・インフラ計画技術)、都市計画・地理情報科学(GISデータを用いた空間分析、衛星画像からの土地利用分類技術、セルラーオートマタを用いた都市成長・土地利用変化予測モデルの構築)、知能情報学・シミュレーション工学(マルチエージェントシミュレーションを用いた意思決定ルールのモデル化、マルコフ連鎖やディープニューラルネットワークを用いた行動確率予測モデルの開発)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7767526/15/ja

 

(2)コンピュータの基本システム(G06F)

①開発物 質問に関連する外部情報を検索・チャンク分割してLLMに投入し、出力された回答の正確性や流暢さを自動評価して、基準を満たさない場合は情報源を変えて自動で再生成を繰り返す自動評価・再試行ループ機能付きRAG(検索拡張生成)システム
②その内容

あらかじめ膨大な質疑応答集を作っておく必要がなく、LLMのハルシネーション(嘘の回答)を抑えながら自動で信頼性の高い回答を出力するシステムです。
まず受付部がユーザーからの質問を受け付けると、第一取得部が外部の検索エンジンや内部の記憶部から関連する元情報を検索します。この元情報をパラグラフや文単位などの適切なサイズ(チャンク)に分解して複数の参考情報を生成します。
次に生成部が質問と各参考情報をベクトル化し、類似度の高い最適な参考情報を自動選定。第二取得部がこれらをLLMに投入して回答を得ます。
ここからが本技術の核心であり、得られた回答に対して第一評価部が元情報との類似度から正確性を評価し、第二評価部が文章の一貫性などの流暢さを評価します。この総合評価が設定された閾値に達しない場合、システムは「まだ使っていない別の参考情報に切り替える」か「元情報の分解ロジックを変えて再チャンク化する」ことで回答部へ自動で再アプローチ(再試行ループ)をかけます。基準をクリアした高品質な回答のみを信頼度スコアとともにユーザーへ出力します。

③結局どんな技術か AI(LLM)の出力した回答が、検索元の事実と合っているか不自然な日本語になっていないかをシステムが自分で採点し、合格点が出るまで参考データを入れ替えて自動で裏で解き直してくれるRAG回答の自動検収・自動リトライ技術です。
④活かせる専門性 自然言語処理・計算言語学(LLMのプロンプトエンジニアリング、RAGアーキテクチャの設計、テキストのチャンキングアルゴリズムの開発)、知能情報学・情報検索(文埋め込みによる高次元ベクトル空間での類似度計算、コサイン類似度等を用いたセマンティック検索技術の実装)、ソフトウェア工学・人工知能評価(生成AI出力の自動評価メトリクスの構築、評価モデルとの連携、動的フィードバックによる自律型再試行アルゴリズムの設計)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7591619/15/ja

 

2-3-5.みずほリサーチ&テクノロジーズ

(1)ビジネスのシステム(G06Q)

①開発物 事業報告書などのテキスト情報から、生成AIとRAG(検索拡張生成)を用いて社会的インパクト評価用のロジックモデルと評価指標を自動構築し、不足する指標値は成熟度モデル等で自動予測・補完する社会的インパクト評価支援システム
②その内容 企業の新規事業やプロジェクトが社会・環境に与える長期的影響を評価する際、専門知識が必要で構築が難しいロジックモデルや評価指標の設定を自動化・支援するシステムです。
まずユーザー装置から事業計画書等の評価対象指定情報を取得し、さらにRAGにより外部知識ベースから財務や業界動向などのコンテキストを取得します。これらを基にロジックモデル生成部が生成AIへプロンプトを投入し、事業の要素をインプット(投入)、アクティビティ(活動)、アウトプット(出力)、アウトカム(成果)、インパクト(影響)の各階層へ因果関係を持たせて自動分配・構造化します。
さらに指標生成部が過去の実績データやAIを用いて各要素を定量化するための指標を抽出。そして評価部が、テキスト内から指標値を自動特定します。もし元データから具体的な指標値が得られない(不足している)場合は、成熟度モデルを用いたAI予測によって現状を1段階上回る目標値などを自動算出・補完し、最終的な妥当性評価の結果をユーザーへ出力します。
③結局どんな技術か この事業は最終的に社会へどんな良い影響をもたらすかという複雑な因果関係の設計図と、それを測るための数値目標(指標)を事業計画書を読み込ませるだけでAIが自動で組み立て、データが足りない部分も過去の成熟度基準から自動予測して穴埋めしてくれる生成AI活用型・事業インパクト自動モデル化&評価技術です。
④活かせる専門性 経営工学・社会システム工学(社会的インパクト投資/評価のフレームワーク設計、ロジックモデル構築理論、企業のサステナビリティ/ESG評価手法のシステム化)、自然言語処理・情報組織化(LLMを活用したプロンプトエンジニアリング、RAG技術による非構造化ビジネス文書からのエンティティ抽出および知識グラフ構造の自動生成)、知能情報学・統計的予測(機械学習による評価モデルの最適化、成熟度モデルを組み込んだ指標値予測・補完アルゴリズム、因果推論に基づく指標間の妥当性判定シミュレーション)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7787254/15/ja

 

(2)コンピュータの基本システム(G06F)

①開発物 ユーザーが選択を繰り返す中で、画像特徴量のクラスタ分析を用いてアイテム候補をグループ化し、その位置関係に応じて代表アイテムの選び方を動的に切り替える対話型アイテム探索システム
②その内容 ユーザーが選択した画像(検索対象アイテム)の画像特徴量を抽出し、データベースから類似するアイテムを特定した上で、クラスタ分析により複数のグループに分類します。
次に、検索の起点となった画像と各グループとの位置関係を測定し、それに応じてグループ内から提示する代表アイテムの決定方法を自動で切り替えます。例えば、起点に近いグループからは最も似ているアイテムを、起点から離れたグループからはそのグループの中心(平均値)に近いアイテムを代表として選んでユーザーへ出力。この中からユーザーが新たに選んだ画像を次の起点として、探索ループを再帰的に繰り返します。
③結局どんな技術か 選ばれた画像の『色・形・雰囲気』をAIが分析して似たものをいくつかのグループに分け、好みにドンピシャな候補と少しテイストを外した意外性のある候補を距離に応じてバランスよく提示し、画面選択を繰り返すだけでお気に入りの1枚へナビゲートするユーザーのこだわりを絞り込む画像検索技術です。
④活かせる専門性 パターン認識・メディア情報学(畳み込みニューラルネットワーク等を用いた画像特徴量の抽出、多次元ベクトル空間における距離計算)、知能情報学(k-means等のクラスタ分析によるデータのグループ化と中心点の算出)、ヒューマンコンピュータインタラクション(対話型フィードバックに基づく動的なリコメンドアルゴリズムの設計)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7812429/15/ja

 

2-3-6.日本総合研究所

(1)ビジネスのシステム(G06Q)

①開発物 仮想社会での給与支払いに伴い、操作者(個人)の口座、所属する組織の口座、および公共機関(市役所等)の口座の残高を、税金の自動減算・加算を反映して連動変化させる社会仕組み学習用情報処理装置
②その内容

子どもたちが仮想のまちの構成員となって社会活動を体験する学習において、操作者である「ユーザ(個人)」、ユーザが属する「組織(企業)」、そして「公共機関」の3者間のお金の流れ(口座残高)をシステム上に表示します。 組織からユーザ(および他のユーザ)へ給与が支払われる取引操作が行われた際、システム内の変更部が以下の残高変更をリアルタイムかつ連動して実行します。

1.個人の口座(第1の口座): 支給される給与から第1の税金(所得税や住民税など)を差し引いた手取り額分を残高に加算

2.組織の口座(第2の口座): 全従業員分(ユーザ+他のユーザ)の給与総額(額面)を残高から減算

3.公共機関の口座(第3の口座): 組織から差し引かれたユーザの税金、および他のユーザの給与から差し引かれた税金の合計額(源泉徴収分)を税収として残高に加算

③結局どんな技術か 子ども向けの社会体験ジョブショップ等において、会社から給料が支払われると会社の口座から総支給額が減り、自分の口座には税金が引かれた手取りが入り、引かれた税金は自動的に市役所の口座に納税されて貯まるという現実社会のリアルな源泉徴収とカネの循環をシステム上で体感・理解させる社会仕組み学習のための連動型デジタル通帳技術です。
④活かせる専門性

情報工学(1つの「給与支払い」という操作をきっかけに個人・企業・公共機関の3つの独立した口座データをデータの矛盾を起こさずにリアルタイムで同時に書き換えて同期させるバックエンド技術)、情報科学(複数のユーザー(学習者)が各自の端末から同時にアクセスして決済や取引を行った際、サーバー側で処理の競合や遅延を防ぎ、正確にデータを処理・配信するシステム基盤技術)、経営工学(源泉徴収や消費税といった現実の複雑な経済システムをシミュレーションプログラムとして抽象化し、ゲームのルールへと落とし込む設計)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7833072/15/ja

 

(2)コンピュータの基本システム(G06F)

①開発物 Webブラウザの拡張機能を利用して秘密鍵を管理するWebアプリケーションのソースコードが第三者機関によって検査された安全なものかどうかを実行直前に自動検証しブロックするWebアプリケーション安全制御システムです。
②その内容 暗号資産などを管理する秘密鍵管理アプリケーションをWebブラウザ上で動かす際、そのアプリケーションがハッキングなどで不正に書き換えられていないかを自動でチェックする仕組みです。まずユーザーがブラウザでウォレットアプリケーションを取得した際、ブラウザの拡張機能が読み込んだプログラムのコードの一部をハッシュ関数によって符号化し、検証用データを生成します。次に、この拡張機能が第三者による安全性の検査結果を格納しているデータベースにアクセスし、プログラムのURIと事前に安全性が確認されて登録されている符号化データとが対応づけて格納されているか否かを確認します。データが正しく対応づいて格納されている場合はアプリケーションの実行を許可または制限しないことを決定し、逆にデータが対応づいて格納されていない場合は、秘密鍵が盗まれるなどの危険性があるため、拡張機能がプログラムの実行を許可しない、あるいは制限することを決定します。
③結局どんな技術か Webブラウザの拡張機能を監視役として用いることで暗号資産ウォレットなどの重要なWebアプリケーションが実行される直前に手元のプログラムが本当に改ざんされていない安全なコードかどうかをハッシュ値の照合によってリアルタイムに検証するサイバーセキュリティ防御技術です。
④活かせる専門性 情報工学(Webブラウザの拡張機能開発、JavaScriptを用いたアプリケーションの動的制御、各種Web APIを活用したフロントエンドとバックエンドのシステム連携設計など)、情報科学(アルゴリズムを用いたプログラムコードの一方向性ハッシュ値生成、ブロックチェーン等の分散型台帳システムを用いたデータの高速な検索・照合・同期制御の最適化など)、セキュリティ工学(公開鍵暗号基盤における秘密鍵・公開鍵の生成および管理ロジック、電子署名を用いたチャレンジ・レスポンス認証の構築、配信サーバーのハッキングによるサプライチェーン攻撃を防ぐゼロトラスト型の検知・防御システム開発など)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7589279/15/ja

 

2-4.まとめ

 AIを活用した経営意思決定支援、大規模言語モデル(LLM)を用いたESGデータの自動抽出やRAGの自動検収、グリーンITを実現するワークロード最適化、ブロックチェーンと連動したWebブラウザの安全制御などの開発がおこなわれていることが分かります。
 これらは、データサイエンス、自然言語処理、情報セキュリティ、ソフトウェア工学といった先端の情報工学やAI分野の専門性と結びついており、企業のDX推進や社会課題の解決に関連することがうかがえます。

 

3. メガバンク(三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行)

3-1.開発数(特許出願件数から見る開発実態)

 年によって件数にバラつきがありますが、3社とも継続的に特許出願されていることが確認されます。いずれもシステム関係です。

 

 

3-2.開発に関わる主な技術分野

 上記特許出願の中身をもう少し詳しく見ていきます。

 FI記号と言われる技術分類によると、2社ともビジネスシステム(FI:G06Q(以下①))やコンピュータの基本システム(FI:G06F(以下②))に関わる開発が最も多いです。

 

①金融ビジネスのデジタル化と自動化などに関する技術(G06Q)

 スマートフォンアプリを起点とした高速かつ安全なキャッシュレス決済、ブロックチェーンや分散型台帳を活用した国際送金の効率化やデジタル通貨の発行基盤となる技術です。

 

②本人確認やセキュリティの高度化などに関する技術(G06F)

 非対面(アプリ・Web)での安全な取引や店舗の省力化などを支える技術です。

 

<上位2技術分野の出願数>

  技術分類
G06Q G06F
ビジネスのシステム コンピュータの基本システム
出願年 三菱UFJ銀行 三井住友銀行 みずほ銀行 三菱UFJ銀行 三井住友銀行 みずほ銀行
2016年 11 30 21 9 0 5
2017年 11 26 14 15 4 2
2018年 23 4 16 7 3 3
2019年 20 18 28 13 2 2
2020年 21 5 21 3 0 0
2021年 16 6 10 4 1 0
2022年 10 6 5 2 2 0
2023年 7 13 1 1 3 0

 

3-3.直近の開発例

3-3-1.三菱UFJ銀行

(1)ビジネスのシステム(G06Q)

①開発物 無人サービス機に安価な非接触専用の決済端末を使いながら、接触型や磁気型の決済もスマホ連携で可能にすることで、クレジットカードの国際ルールを満たしつつ導入コストを削減する決済システム
②その内容 券売機や自動販売機、駐車場の精算機といった無人サービス機において、クレジットカード決済端末の導入コストを抑えるためのシステムです。クレジットカード決済の国際ブランドルールでは接触型・非接触型・磁気型の全決済方法に対応することが原則必須とされますが、全対応の端末は高価です。
本システムでは、安価な非接触型決済のみに対応した決済端末を無人機に搭載します。利用者がクレジットカード決済を選択した際、決済方法受付部が接触型・非接触型・磁気型の3つの選択肢を画面に提示します。利用者がスマホ等での非接触決済ではなく、通常のカード差し込みやスワイプを選択した場合、コード生成部がそれらの支払いを行うための外部決済用サイトのURLを含む二次元バーコードを自動生成します。出力処理部がこのコードを決済端末の画面に表示し、利用者が自身のスマホで読み取ることで、スマホのブラウザ上で安全にカード情報を入力させて決済を完結させます。
③結局どんな技術か クレジットカードの全決済対応ルールをクリアするために高い決済端末を導入するのではなく、無人機には安い非接触専用端末を置き、カードを差し込みたい人には画面のQRコードをスマホで読ませてWeb上で決済させることで、ハードウェアの導入コストを大幅に削る決済仲介技術です。
④活かせる専門性

情報工学(無人機・スマホ・クラウド間でHTTPS等の通信プロトコルを介し、決済データを安全にリアルタイム同期させるデータ中継ネットワークの設計)、情報科学(端末のハードウェア制限をWeb決済やQRコード生成で補完し、異なる決済プロセスを矛盾なく一元管理する制御プログラムの開発)

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7765667/15/ja

 

(2)コンピュータの基本システム(G06F)

①開発物 アプリケーションの修正前後における画面情報(DOM)の差分を生成AIに2段階で解析させ、不要な変更を排除しながら最適なテストコードを自動生成するテストコード修正システム
②その内容 ウェブアプリケーションの画面がアップデートされた際、画面遷移などを自動検証するテストコードの修正作業を生成AIを用いて自動化する仕組みです。
まず、取得部が「修正前のテストコード」「修正前の画面DOM情報」「修正後の画面DOM情報」および「画面の差分検出を指示する第1のプロンプト」を取得し、差分検出部がこれらを生成AIに入力して画面情報の変更箇所を抽出させます。このとき、画面情報としてDOMのbodyタグ内の情報のみに絞り込むことでデータ容量を減らし、AIの差分検出精度を向上させます。
次に、出力された差分結果をディスプレイに一度表示し、必要に応じてユーザーがノイズや不要な変更点を除外する修正を加えます。
最後に、テストコード修正部がユーザーが確認・修正した画面の差分とテストコードの修正を指示する第2のプロンプトを再び生成AIに入力し、既存のテストコードの不要な箇所は変更せず必要な箇所のみを書き換えた修正後のテストコードを出力させます。
③結局どんな技術か アプリの画面が変更された際、変更前後のHTML(DOM)構造を生成AIに比較させて画面の変更点だけを表形式で洗い出させ、その差分を人間がチェックした上で、既存のテストコードの直すべき部分だけをAIにピンポイントで自動修正させる2段階プロンプト式のテスト自動化・開発効率化技術です。
④活かせる専門性

情報工学(SeleniumやSelenide等を用いたフロントエンドのE2E(エンドツーエンド)テスト自動化、WebアプリにおけるDOM(Document Object Model)構造の解析、および生成AIのAPIを組み込んだ開発支援ツールの設計)、情報科学(2段階のプロンプトエンジニアリングによるハルシネーションの抑制、大規模言語モデルの特性を活かしたソースコードの差分抽出およびデータクレンジングによるトークン量の削減とAI出力精度の最適化アルゴリズムの開発)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7825088/15/ja

 

3-3-2.三井住友銀行

(1)ビジネスのシステム(G06Q)

①開発物 銀行の行員通知(社内お知らせ)から苦情発生の予兆となるキーワードを検出し、顧客の口座残高に基づいた優先度ランクと対応策を自動提示してカスタマーハラスメントを未然に防ぐ経営支援システム
②その内容 金融機関において、設備変更などの社内アナウンスに連動して発生しうるクレームを予測し、顧客の重要度に応じた対策を自動提示するシステムです。
まず、格納手段が過去の苦情内容とそれに応じた応策をデータベースに格納します。
次に、重み付け手段が顧客の口座残高を読み込み、特定のサービス加入者の平均残高や特定期間の入出金実績から算出された閾値(基準値)と比較します。これに加えて元行員や生体認証利用者といったクレーム発生確率を高める特性の有無を判定し、顧客ごとに対応優先度を示す対応ランクを自動で決定します。
そして、提案手段が「ATMの一部廃止」などの行員通知情報(社内の共有連絡)を受信した際、その文章からキーワードを自動抽出します。抽出したキーワードに一致する過去の苦情内容を検索し、割り出された対応ランクとともにポスター提示やDM発送といった具体的な対応策を行員の端末画面へ事前に自動提示します。
③結局どんな技術か 『ATMを減らす』といった社内のお知らせが入力された瞬間に、過去にそれで怒った顧客の事例や、影響を受けそうな大口顧客・元行員などの重要クレーマー候補をAIと口座残高から自動で割り出し、先回りでポスター告知などのハラスメント予防策を画面に教えてくれる銀行向けのクレーム事前予防・行員防衛技術です。
④活かせる専門性

情報工学(顧客情報、口座残高、入出金履歴、過去の苦情内容など、複数の情報系データベースにまたがる大量のデータを顧客IDをキーとして高速に紐づけ、特定の条件に基づいてリアルタイムに演算・集計するシステムの設計)、情報科学(行員通知から「ATM」「廃止」といった重要なキーワードを抽出し、過去の非構造化テキスト(苦情内容)との類似性やマッチングを判定して適切な対応策を引き出すアルゴリズムの開発)、経営工学(顧客の経済的・属性的価値(預金残高や利用サービス)を考慮した意思決定支援ルールのモデル化、およびカスタマーハラスメントによる損失を防ぐための組織的な業務プロセスの設計)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7874698/15/ja

 

(2)コンピュータの基本システム(G06F)

①開発物 ログインや決済のリクエストごとに、端末の種類に応じて「遷移ボタン」や「二次元コード」へと画面の表示形態を動的に切り替え、改ざん困難な使い捨てリンクを生成してユーザーに安全な承認操作を行わせる二要素認証(マルチデバイス認証)サーバ
②その内容 正規のウェブサイトを精巧に模したフィッシングサイトによる、会員IDやパスワード、ワンタイムパスワードの盗難をリアルタイムに防ぐセキュリティシステムです。
まず、ユーザーがウェブブラウザ等からログインや決済などのリクエストを送信すると、生成部がリクエストごとに動的に変化する動的パラメータをベースに、使い捨ての動的URLを生成します。
同時に、判別部がリクエストに含まれるOSやユーザーエージェント情報から、送信元が会員登録に使用された第1端末かそれとは異なる第2端末かを仮判別します。
生成部はこの判別結果に基づき、送信元が第1端末であれば動的URLを組み込んだ遷移ボタンを、第2端末であれば動的URLを組み込んだ二次元コードを自動的に生成し、送信部が送信元へ表示データとして送信します。
利用者がボタンをタップまたはPC画面の二次元コードをスマホのカメラで読み取ることで、スマホ側にのみログイン環境情報が付記された承認画面が安全に立ち上がり、ユーザーが承認ボタンを押すことで事前に共有された暗号鍵を用いたメッセージ検証を経て正規のログインが許可されます。
③結局どんな技術か PCやスマホからログインボタンが押された瞬間に、その時だけの使い捨てURLを裏で発行し、アクセス元がスマホなら『承認画面への進むボタン』、PCなら『スマホで読み取るQRコード』を動的に作り分けて画面に出し、登録済みのスマホでしか開けない承認画面を強制的に経由させることで偽サイトによる一元的なパスワード泥棒を完全に無効化する不正ログイン防御技術です。
④活かせる専門性 情報工学(セッションIDやセッション管理モジュールを用いた動的な通信制御、URLスキームを用いたWebアプリとネイティブアプリのシームレスな起動連携およびHTTPS等のプロトコルを介したクライアント・サーバ間のリアルタイムなメッセージ中継・同期システムの設計)、情報科学(公開鍵暗号方式に基づくデジタル署名を用いたメッセージの真正性検証、パラメータの暗号化や文字列スクランブルによるセキュリティ強度の最適化およびフィッシング耐性を高めるゼロトラスト型認証アルゴリズムの開発)、経営工学(金融取引やインターネットバンキングにおける不正送金リスクを最小化する多要素認証ワークフローのモデル化、およびユーザーの利便性と認証の手間のバランスを考慮した最適な社会インフラセキュリティプロセスの設計)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7575561/15/ja

 

3-3-3.みずほ銀行

(1)ビジネスのシステム(G06Q)

①開発物 自社の決済アプリ内に他社決済のミニアプリを組み込み、個人情報を開示しない使い捨ての取引番号(匿名識別子)を介して他社加盟店でのコード決済を可能にする相互乗り入れ型のキャッシュレス決済連携システム
②その内容 ユーザーが普段使っている使い慣れた決済サービス(第1決済サービス)のまま、本来は非加盟店であるはずの別の決済サービス(第2決済サービス)の店舗でも、新たな会員登録なしで決済を可能にする仕組みです。
まず、ユーザー端末が第1サーバへコード発行を要求すると、第1サーバは会員認証を行った上で、ユーザーIDを秘匿した使い捨ての匿名識別子(取引番号)を発行します。
次に、第1サーバからこの匿名識別子を引き継いだ第2サーバ(他社)が、決済用の画像識別子を生成してコード文字列を作成し、第1サーバ経由でユーザー端末へと転送してQRコード等のコード画像を表示させます。
店舗端末がこのコード画像を読み取って第2サーバへ送信すると、第2サーバは有効期限や未使用かどうかのチェック処理を実行。最後に、画像識別子に紐づいていた匿名識別子に基づき実際の引き落としを裏側で第1サーバに実行させます。
③結局どんな技術か A社の決済アプリを開いているのにB社専用の決済QRコードを画面に出してB社の加盟店で買い物ができるようにし、裏側では個人の名前やカード番号を伏せた『使い捨て番号』を使ってA社とB社のサーバ間で安全に代金を引き落とし・精算させる決済アプリの相互乗り入れ(コード共通化)技術です。
④活かせる専門性 情報工学(ユーザーIDや口座情報を他社に渡さないワンタイム型の匿名識別子の発行管理、および第1サーバと第2サーバ間で決済要求やオーソリ結果を安全に中継・同期するAPI連携バックエンドシステムの設計)、情報科学(CPM方式および動的MPM方式に対応したコード文字列のエンコード・デコードアルゴリズムおよび高頻度な決済トランザクションを低遅延で処理し状態不整合を防ぐ分散データ処理技術)、経営工学(異なる決済サービス事業者間における売上金の回収・入金スケジュールを自動化する清算ワークフローのモデル化、および他社加盟店網の相互利用による決済エコシステムの最適化設計)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7751034/15/ja

 

(2)コンピュータの基本システム(G06F)

①開発物 アプリ起動前の直近の行動履歴(位置・時間・端末操作等)を予測モデルで解析してユーザーの本人確率を算出し、その確からしさに応じて利用可能なサービスや取引額の制限を動的に決定する行動バイオメトリクスサービス管理システム
②その内容 IDやパスワードの漏洩によるオンラインバンキング等のなりすまし被害や不正取引をユーザーの日々の自然な挙動パターンを用いて自動で検知・防御するシステムです。
常時処理として、ユーザー端末の情報取得部がGPSの位置情報、加速度センサーによる歩行の動き、タッチパネルの操作癖などを取得し、5W1H情報(Who・When・Where・What・Why・How)に変換して直近所定時間分の行動履歴をメモリで逐次更新・維持します。
学習時処理では、特定のユーザーの行動履歴に本人フラグ、他人の履歴に本人以外フラグを付与した教師データを生成し、深層学習を用いて本人らしさを予測する予測モデルを自動構築します。
サービス利用時には、アプリ起動前の直近の挙動データをこの予測モデルに投入して本人確率を計算。サービス提供部が権限レベル判定テーブルと照らし合わせ本人確率が90%以上なら全サービスを許可、90%未満なら10万円未満の取引に制限、基準値を大きく下回る場合は追加のパスワード認証を要求するといった制御を行い、リスクを動的に低減します。
③結局どんな技術か パスワードや位置情報だけに頼るのではなく、『スマホを開く直前にどう移動していたか、どう端末を操作しているか』という日常の細かな行動の癖(5W1H)をAIに学習させて本人かどうかを採点し、怪しい挙動のときには勝手にお金を引き出せないよう取引に制限をかけるなりすまし・不正送金防止のためのAI挙動認証技術です。
④活かせる専門性 情報工学(GPS、加速度センサー、操作ログなど端末から得られる非構造化データを認証に適した5W1Hの特徴量にリアルタイム変換してメモリ内で動的更新するデータ処理機構の設計)、情報科学(本人・他人の行動履歴にフラグを付与した教師データを基に深層学習やナイーブベイズ推定を用いて高精度な本人確率を算出する挙動バイオメトリクスアルゴリズムの開発)、経営工学(算出された本人確率に基づき金融取引の被害リスクを最小化する権限レベル制御ルールのモデル化、およびAML/CFT(マネーロンダリング・テロ資金供与対策)やCDD(顧客確認)の国際基準を満たす金融セキュリティプロセスの設計)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6963001/15/ja

 

3-4.まとめ

 スマートフォンアプリを起点としたキャッシュレス決済の共通化や国際ルールに準拠した安全なリモート口座開設、なりすましを防ぐ挙動認証などの開発がおこなわれていることが分かります。
 これらは、Webシステム開発やネットワーク通信、サイバーセキュリティ、データ処理といった情報工学や情報科学の専門性と結びついており、金融インフラのデジタル化やセキュリティの高度化に関連することがうかがえます。

 

4.人材・情報サービス系業界(リクルート)

4-1.開発数(特許出願件数から見る開発実態)

 近年、リクルートの出願件数が増えています。出願の多くが情報システム系の内容であり、当該技術の開発に力が入れられていることが推測されます。

 パーソルやマイナビについては出願件数が一桁レベルだったので省略します。

 

 

4-2.開発に関わる主な技術分野

 上記特許出願の中身をもう少し詳しく見ていきます。

 FI記号と言われる技術分類によると、ビジネス方法(FI:G06Q(以下①))や情報処理技術一般(FI:G06F(以下②))に関わる開発が最も多いです。

 

①マッチングビジネスの最適化や販促支援技術(G06Q)

 『ホットペッパービューティー』や『SUUMO』『Indeed』等においてユーザーの過去の閲覧履歴や行動パターン、検索傾向を分析し、最適な美容室、物件、求人情報を動的に提案するシステム、『Airレジ』や『Airペイ』をはじめとする店舗向けSaaSにおいて注文管理、キャッシュレス決済、売上分析、シフト管理などをクラウド上で一元化し、中小事業者のDXを支えるバックオフィス効率化技術、『じゃらん』等において、予約状況や季節要因、周辺の競合状況などのビッグデータから、ホテルの最適な宿泊料金やプランを自動で算出・提案するアルゴリズムがこの分野の技術例として挙げられます。

 

②膨大なデータ(ビッグデータ)を安全かつ快適に扱うための技術(G06F)

 求人情報や口コミ、フリーワード検索の表記ゆれ(例:「エンジニア」と「SE」の同一性判定など)を適切に処理し、ユーザーが本当に意図した検索結果を高速に返すテキスト解析技術、ユーザーの端末環境やWebブラウザ、過去の操作ログに応じてアプリの入力フォームや画面レイアウトを最も使いやすい形に自動で最適化し、離脱を防ぐフロントエンド技術、多数のサービスを横断するリクルートIDにおいて不正ログインを防ぐための安全な多要素認証機構やユーザーの行動データを安全かつ適切に分離・保護するデータセキュリティ基盤がこの分野の技術として挙げられます。

 

<上位2技術分野の出願数>

  技術分類
G06Q G06F
ビジネス方法 情報処理技術一般
2014年 0 1
2015年 0 1
2016年 3 0
2017年 16 1
2018年 26 4
2019年 19 2
2020年 9 6
2021年 4 1
2022年 38 2
2023年 125 5

 

4-3.直近の開発例

4-3-1.リクルート

(1)ビジネス方法(G06Q)

①開発物 インターンシップの評価情報を求職者から収集し、他者からの不適切な指示などの不正投稿を自動検知・排除した上で、信頼性の高い評価値や改善要望を企業情報と紐づけて提示・フィードバックするインターンシップ評価管理システム
②その内容 就職活動におけるインターンシップの満足度やクチコミデータについてサクラ投稿や企業側からの評価誘導(不正行為)を排除し、透明性の高い評価情報を提示するシステムです。
まず、「受付部」が2次元コードやURLを介して求職者端末からコース情報や満足度、改善要望などの評価情報の投稿を受け付けます。
次に、判断部が投稿内容に他者からの指示(サクラや高評価の強要など)がなかったかのユーザー申告を確認するほか、メールアドレスや電話番号が有効か、ダミーデータによる大量登録がないかといったシステムチェックを行い、不正の有無を判断します。
不正がないと判断された有効な評価情報が10件以上蓄積されると、表示制御部が企業の平均評価値を算出して特定のWebサイト(企業情報画面)に公開します。さらにフィードバック部が全社平均と比較可能なレポートを生成して企業端末に配信する一方、1ヶ月以内に10件以上の不正誘導が発覚した企業に対しては、注意喚起部がペナルティとして注意喚起メッセージを自動送信します。
③結局どんな技術か インターンシップのクチコミサイトにおいて企業から『全部星5にして』と圧力をかけられたような不正投稿や実在しない架空アカウントからのサクラ投稿をAIとユーザー申告で検知・ブロックし、人間がチェックした純粋な高信頼データが10件以上集まった時だけ評価を一般公開・企業へレポートする、求職者保護・クチコミ健全化技術
④活かせる専門性 情報工学(求職者情報、企業情報、有効と判定された評価クチコミ情報など複数のリレーショナルデータベースに格納された大量のデータを企業IDをキーとして高速に紐づけ、特定の表示条件に基づいてリアルタイムに演算・集計するシステムの設計)、情報科学(投稿テキストやユーザーの入力挙動から高評価の指示などの不正パターンを検出し、有効性チェックの合否判定やダミーデータの大量登録を排除してクチコミの信頼性を担保するフィルタリングアルゴリズムの開発)、経営工学(収集された評価データと他社平均を比較・マトリクス化して企業の採用活動改善を促すフィードバックレポートのモデル化およびサクラ投稿や不正誘導を行うブラック企業を抽出して注意喚起を行うリスクマネジメントプロセスの設計)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7702278/15/ja

 

(2)情報処理技術一般(G06F)

①開発物 限られたラベル付きデータからデータ拡張とベクトル補間を組み合わせて高精度な訓練データを自動生成し、4つの分類層(タグ付け・ペアリング・属性分類・感情評価)からなる機械学習モデルを用いてテキストから詳細な意見・属性情報を抽出するテキスト分類システム
②その内容 クチコミなどの入力テキストから、どの項目(属性)に対してどのような意見(感情)が向けられているかを、少量の事前学習データだけで効率的かつ高精度に分析する自然言語処理システムです。
まず、事前訓練ステップとして、データ拡張ツールが既存のラベル付きデータから意見フレーズを抽出し、字句の置換・挿入・削除などのオペレータを適用して第1の意見フレーズ群(拡張データ)を生成します。さらに補間器がこれらを高次元のベクトル形式に変換し、凸補間技法を用いて中間的な表現を持つ第2の意見フレーズ群を生成・穴埋めすることで、訓練データを半教師あり学習方式で大幅に増強し、機械学習モデルを事前訓練します。
実際の解析時には、入力テキストが得られると、モデルの第1の分類層(タグ付け層)がアスペクト(評価対象)と意見表明(記述)の字句を識別・タグ付けし、第2の分類層(ペアリング層)がこれらを正しいシーケンスとして結合・タプル化します。続いて第3の分類層(属性層)がServiceやFoodといった業界固有の属性分類子を決定し、第4の分類層(感情分析層)と言語モデルがそのペアのトーン(肯定的・否定的・中立的)を評価。最後に、属性ごとに関連する感情値を集約してデータ記憶域に保存します。
③結局どんな技術か 『皆とても親切だったが食事は並だ』というクチコミに対し、AIが『接客=プラス、料理=マイナス』と自動仕分けする技術であり、本来なら膨大に必要なAIの学習データを単語の入れ替えやベクトル計算によるデータの自動水増し(データ拡張・補間)技術によって極めて少量から構築し、低コストで賢い感情分析モデルを実現する自然言語処理・意見マイニング技術
④活かせる専門性 情報工学(入力テキストのトークン化、埋め込み層から変換層への多次元ベクトル転送およびBERT等の言語モデルをベースに4つの専用分類層を結合してリアルタイムにデータ中継・同期を行うパイプラインシステムの設計)、情報科学(意見フレーズに対するスパン置換やベクトル空間での凸補間・MixMatch法を用いた半教師あり学習用のデータ拡張およびSoftMax関数と損失関数層を組み合わせた高精度な感情評価・属性分類アルゴリズムの開発)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7621805/15/ja

 

4-4.まとめ

 サクラ投稿や企業による不正な高評価の誘導を自動検知してクチコミの信頼性を担保するインターンシップ評価システムや少量のデータからAIの学習データを自動で水増し・補間してユーザーの複雑な意見を多角的に分析する自然言語処理技術などの開発がおこなわれていることが分かります。
 これらは、リレーショナルデータベースの高速な紐づけやテキストデータからの特徴量抽出、半教師あり学習といった情報工学や情報科学の専門性と結びついており、マッチングプラットフォームの健全化やビッグデータ解析の高度化に関連することがうかがえます。

 

5.総合商社(三菱商事)

5-1.開発数(特許出願件数から見る開発実態)

 総合商社の出願件数は少ないです。また、共同出願が多く、単独での開発よりも協業する他社との共同開発というケースが多いことが推測されます。

 三井物産、伊藤忠商事は三菱商事の半分以下の出願数でした。

 

 

 

5-2.開発に関わる主な技術分野

 上記特許出願の中身をもう少し詳しく見ていきます。

 FI記号と言われる技術分類によると、上記期間において、三菱商事は水、排水、下水、汚泥の処理(FI:C02F(以下①))や非環式または炭化水素化合物の製造(FI:C07C(以下②))、潤滑用組成物(潤滑油)(FI:C10M(以下③))に関わる開発が多いです(ただし、出願は継続的ではありません)。

 

①水、排水、下水、汚泥の処理技術(C02F)

 水処理プラントの運転管理において、薬品の注入量や水質の変動、汚泥の脱水プロセスなどをAIや数理モデルで予測・自動化し、プラント全体の操業コストや環境負荷を全体最適化するシステムなどが関連します。

 

②非環式または炭化水素化合物の製造技術(C07C)

 化学物質の製造プロセスにおける熱収支・物質収支のシミュレーションや反応を伴う巨大プラントの非定常操業時(メンテナンスや立ち上げ・立ち下げ時)における運転軌道の効率化システムの構築などが深く関わります。

 

③潤滑用組成物(潤滑油)(C10M)

 ミネラルオイルや合成油などのベースとなる油、耐熱性、耐圧性、防錆性などの特性を向上させるためにブレンドされる特定の化学添加剤、それらベース油と添加剤を組み合わせた潤滑油の組成・配合などが

 

<上位3技術分野の出願数>

  C02F C07C C10M
  水、排水、下水、汚泥の処理技術 非環式または炭化水素化合物の製造技術 潤滑用組成物(潤滑油)
2000年 5 0 0
2001年 2 0 0
2002年 7 0 0
2003年 3 0 0
2004年 0 0 0
2005年 0 0 0
2006年 0 0 0
2007年 0 0 0
2008年 0 2 0
2009年 0 2 0
2010年 0 1 0
2011年 0 1 0
2012年 0 6 0
2013年 0 0 0
2014年 0 1 0
2015年 0 2 1
2016年 0 0 0
2017年 0 0 0
2018年 0 0 2
2019年 0 0 0
2020年 0 0 5
2021年 0 1 2
2022年 0 1 1
2023年 0 0 0
2024年 0 1 0
2025年 0 0 0

 

5-3.直近の開発例

5-3-1.三菱商事

(1)水、排水、下水、汚泥の処理技術(C02F)

①開発物 アルカリ性のレジスト廃液に希土類元素イオンを存在させた状態でpHを酸性および中性〜アルカリ性へと2段階調整し、主要なCOD成分である光重合性樹脂を粘着性の低い難溶性フロック(沈殿物)として効率的に凝集・分離除去するレジスト廃液の処理方法およびそのための薬剤(除去剤)
②その内容 プリント基板工場などから排出され、大量のアルカリ可溶性樹脂(有機重合体バインダーやアクリル酸エステル類等)を含むレジスト廃液(現像廃液・剥離廃液)を対象に、従来法で課題であった強酸性下での高粘着性フロックによる配管・分離装置の閉塞やアルカリ土類金属使用による多量のスラッジ発生を抑制する環境配慮型の廃液処理技術です。
第1工程では、廃液にランタン(La)やセリウム(Ce)等の希土類元素の鉱石粗精製品溶液(塩酸溶液等)を除去剤として添加・混合し、次いで硫酸等の酸性物質を加えることでpHを0〜4(好ましくは1〜3)の強酸性に調整します。これにより、希土類イオンとCOD樹脂成分が特異的に反応し、粘着性の極めて低い微細なフロックが生成します。
第2工程では、この被処理液に水酸化ナトリウム等のアルカリ性物質を添加してpHを6〜12(中性付近の6〜9)へと一気に引き上げ、さらに高分子凝集剤(ポリアクリルアミド等、0.1〜50 ppm)を併用します。このpHスイングと凝集剤の作用によりフロックが重力沈降可能な粗大粒子へと急速に成長。最終的に遠心・濾過や単純な重力沈降のみで固液分離を完了させ、大幅にCODが低減された清澄な上澄水を得ることができます。
③結局どんな技術か レジスト廃液に酸を混ぜるとベタベタの接着剤状になり回収不能になる課題に対し、最初にレアアース(希土類)溶液を混ぜてから酸とアルカリを順に投入することで、ベタつきを無くして水に沈むサラサラした泥状の塊に変え、重力沈降だけで透明な水とゴミに綺麗に分離させる凝集分離技術
④活かせる専門性 応用化学(樹脂バインダーと希土類イオンの錯体形成・不溶化キレート反応の解明およびpH変化に伴う疎水性コロイドの電荷中和と等電点制御による沈殿生成ロジックの設計)、環境工学(高濃度COD成分を難溶性フロックへ粗大化させるpH調整プロセスの構築、およびゼロエミッションに対応した効率的な固液分離・重力沈降システムの最適化設計)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2005-013913/11/ja

 

(2)非環式または炭化水素化合物の製造技術(C07C)

①開発物 フラーレンC60環のπ共役を切断することで電子受容性を低減させ、極紫外線光や電子ビーム露光時における酸発生剤の酸発生阻害を抑制して高感度化した新規フラーレンC60誘導体およびそれを用いた化学増幅型レジスト組成物
②その内容 LSI等のパターン微細化(線幅32nm以下)において、従来のノボラック樹脂等のポリマー系レジスト(分子サイズ3nm以上)で課題であったラインエッジラフネスやラインウィズラフネスの悪化を分子サイズが小さい低分子材料(フラーレン誘導体)を用いることで解決するリソグラフィー技術です。
本フラーレンC60誘導体は、C60フラーレン骨格に2個の炭化水素基(メチル基など)、10個のフェノール性水酸基を有する芳香族基(p-ヒドロキシフェニル基など)、およびπ共役を切断するための有機基対(Rx)を付加した化学構造を有します。
ポジ型レジストとして用いる場合、フェノール性水酸基の一部を酸解離性保護基(2-メチル-2-アダマンチルオキシカルボニルメチル基など)で保護。露光により酸発生剤から生じた酸の作用でこの保護基が解離し、露光部がアルカリ現像液(2.38wt% TMAH水溶液等)に対して不溶性から可溶性へと変化します。従来のフラーレン誘導体が持つ高すぎる電子受容性によって二次電子を捕捉し、酸の発生を妨げてしまう感度不足問題をRx基の多重付加によるπ共役の分断(電子受容性の意図的な低下)というアプローチで解決し、PGMEA等の有機溶媒への溶解性とドライエッチング耐性を両立します。
③結局どんな技術か フラーレンレジストは回路のギザギザを減らせる反面、電子を吸い取る力が強すぎて酸(触媒)が出にくく感度が悪い弱点に対し、フラーレンの結合を化学修飾(Rx基付加)で部分的に切り、電子を吸う力を弱めることで溶媒に溶けやすく高感度・高解像度で回路を焼き付けられるようにした半導体レジスト材料技術
④活かせる専門性 応用化学・有機合成(C60フラーレン骨格への段階的10重付加反応、およびインデン類等を用いた多重修飾によるπ共役切断構造の設計・精密合成、1H-NMRやLC-MS等による平均付加数解析)、材料工学(PGMEA等の有機溶媒への溶解性制御、スピンコート法による60nm均一薄膜の形成、プレベーク・PEB時の熱安定性評価、およびEUV/EB露光時の最低露光量と現像コントラスト・耐エッチング性の最適化設計)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2014-097949/11/ja

 

(3)潤滑用組成物(潤滑油)(C10M)

①開発物 基油にフラーレンを溶解させた溶液に対し、非酸化性雰囲気下で紫外線または電離放射線を照射し、基油の開裂分子がフラーレンに結合したフラーレン付加体を液中で直接生成させることで耐摩耗性と極圧・摺動安定性を発現する潤滑油組成物の製造方法
②その内容 自動車や宇宙機、原子炉設備などの過酷な摺動環境において、従来のフラーレン添加オイルで課題であったナノ粒子の凝集による析出や長期使用時の耐摩耗性の低下を克服するラジカル付加反応を利用した潤滑油の改質技術です。
まず、溶解工程として鉱物油や合成油(ポリオールエステル、PAO等)の基油にフラーレン(C60、C70等)を1〜10000質量ppm溶解し、不溶成分をメンブランフィルター等で除去します。
次に、放射線照射工程として、容器内の酸素ガス濃度を10質量ppm以下(好ましくは1質量ppm以下)の非酸化性雰囲気(窒素置換や減圧環境)に制御します。この状態で外部から波長190nm〜365nmの紫外線を溶液1gあたり1J〜100Jのエネルギーで2〜9回に分けて照射。基油分子のC-C結合などを光開裂させてアルキルラジカルを発生させ、これをフラーレンにトラップさせることで基油の分子構造の一部(炭化水素基等)を付加基として持つフラーレン付加体を合成します。照射は溶液温度を40℃〜200℃(最適値は100℃付近)に制御して熱振動を重畳させ、照射前後のフラーレン残存率が0.1〜0.7の範囲となるよう調整することで基油との親和性が高く、長期にわたって油膜切れを起こさない高性能潤滑油を製造します。
③結局どんな技術か フラーレンオイルの分子が固まり沈殿しやすい弱点に対し、油から酸素を抜き、外から紫外線を当てることでベース油の分子を一部切ってフラーレンと合体させ、油と100%馴染んで沈殿せず、摩擦・摩耗を数倍以上減らす宇宙・原子炉対応のオイル製造技術
④活かせる専門性 応用化学・光化学(基油に対するフラーレンの溶解・分散特性の評価、非酸化性条件下での有機分子の光化学的開裂・ラジカル付加反応の制御、およびHPLCや質量スペックを用いた付加体生成量の定量解析)、材料工学(トライボメーターを用いた摺動面における摩耗痕(擦り面直径)の測定、高荷重環境下での油膜保持能および耐摩耗機構の解明、各種添加剤との配合・化学的安定性の最適化設計)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2023-014234/11/ja

 

5-4.まとめ

 レアアース溶液を用いたpH調整スイングにより粘着性を排除して重力沈降させるレジスト廃液処理技術やフラーレンの化学修飾によるπ共役切断で高感度化を達成した最先端の半導体レジスト材料、光開裂ラジカル反応を利用して基油とフラーレンを完全融合させる宇宙・原子炉仕様の高性能潤滑油などの開発が行われていることが分かります。

 これらは、錯体形成やコロイドの電荷中和・等電点制御、有機分子の光化学的開裂といった応用化学や結晶構造解析、摺動面における摩耗機構の解明といった材料工学の専門性と結びついており、地球規模の環境インフラのクリーン化や次世代マテリアル製造の高度化に関連することがうかがえます。

 なお、こうした総合商社の特許出願の多くは、他社や研究機関との共同出願という形をとっています。自社単独で技術開発を完結させているというよりは外部のパートナー企業が持つ要素技術や専門性と協働しながらプロジェクトを進めている可能性があります。

 総合商社についての詳細記事⇒卸売業界(総合商社)の研究開発職

 

6. 海運業界(日本郵船、商船三井)

6-1.開発数(特許出願件数から見る開発実態)

 出願件数はメーカーに比べて多くはありませんが、毎年出願されており、継続的に開発がおこなわれていることが推測されます。

 出願に係る技術分野はいずれも運輸関係です。

 

 

6-2.開発に関わる主な技術分野

 上記特許出願の中身をもう少し詳しく見ていきます。

 FI記号と言われる技術分類によると、2社共通なのが船舶または他の水上浮揚構造物(FI:B63B(以下①))、加えて、日本郵船は船舶の推進または操舵(FI:B63(以下②))商船三井は物品または材料の貯蔵または輸送用の容器(コンテナ、タンクなど)(FI:B65D(以下③))に関わる開発が多いです。

 

①船舶または他の水上浮揚構造物

 水流の抵抗を減らして燃費を良くする船体の形状、甲板上に設置する硬式帆やローターセイルなどの自動制御・設置構造、効率的に貨物を積み下ろしするための甲板配置や乗組員の居住環境の改善技術などが関連します。

 

②船舶の推進または操舵

 脱炭素に向けたLNG、アンモニア、水素、メタノールなどを燃料とする最新エンジンや燃料電池システム、ハイブリッド推進技術、ロペラの前後に取り付けて水流を整えて推進効率を向上させる付加物、AIやセンサーを活用した自律運航船(自動操船)に関する舵の制御技術などが関連します。

 

③物品または材料の貯蔵または輸送用の容器

 冷凍・冷蔵貨物を運ぶリーファーコンテナの温度制御技術、内部の気体をコントロールするCAコンテナ技術、効率的な折りたたみコンテナ、LNGや今後の需要拡大が見込まれる液化水素、液化二酸化炭素を極低温・高圧で安全に輸送するための独立タンク構造や断熱技術、コンテナ船の上でコンテナが荷崩れしないようにしっかり固定する装置やその積付けシミュレーションなどが関連します。

 

<上位技術分野の出願数>

  日本郵船 商船三井
  B63B B63H B63B B65D
  舶または他の水上浮揚構造物 船舶の推進または操舵 舶または他の水上浮揚構造物 物品または材料の貯蔵または輸送用の容器
2000年 3 0 1 0
2001年 1 0 2 0
2002年 0 0 2 0
2003年 4 0 3 0
2004年 2 0 2 0
2005年 4 0 2 0
2006年 4 0 1 0
2007年 0 1 0 1
2008年 3 1 0 0
2009年 5 2 4 0
2010年 0 1 1 0
2011年 7 2 1 0
2012年 7 1 3 2
2013年 11 2 2 1
2014年 2 0 0 0
2015年 9 2 1 1
2016年 3 0 0 0
2017年 6 0 1 1
2018年 4 0 1 1
2019年 0 1 3 2
2020年 1 0 1 0
2021年 0 0 2 2
2022年 3 0 3 0
2023年 1 0 2 0

 

6-3.直近の開発例

6-3-1.日本郵船

(1)舶または他の水上浮揚構造物(B63B)

①開発物

多数の船舶から実航海ログ(船速・燃料消費量等)を収集し、防汚塗料の種類や造船所など一隻の船舶だけでは容易に変更・比較できない環境パラメータが船舶全体の性能に与える影響度を統計値や分布データとして可視化・予測する船舶性能データ処理システム

②その内容 個船の航行データだけでは検証が困難な防汚塗料の経年劣化による燃料ロスや造船所ごとの基本燃費性能の差を複数船舶のビッグデータを用いてマクロに割り出し、最適な保全投資を支援するシステムです。
まず、取得手段が実航海中の同時期における船速、燃料消費量、積載量、風力、防汚塗料の種類、塗装日といったオリジナルパラメータを含むサンプルデータを蓄積します。
次に、特定手段が船体汚損による燃料消費の増加度を示すFouling係数などの新たなユーザ定義パラメータを所定の算出式(塗装直後の燃費と累計燃費の比較等)に基づいて自動特定します。
抽出手段がユーザーの指定した抽出条件(例:船種、風力段階3以下など)を満たすサンプルデータを母集団として抽出すると生成手段が防汚塗料名や造船所ごとにグルーピングされた子母集団を構成。それぞれのFouling係数の平均値や標準偏差、燃料費と塗装費用を加味したトータルコストなどの統計値データや船速・燃料消費量の分布データを生成し、表示装置へグラフや近似曲線として表示します。
③結局どんな技術か 1隻の船だけではデータの塗り替えや比較に数年単位の時間を要する船底塗料や造船所ごとの燃費効率の違いについて何十隻もの航海ログを収集し、天候などの条件を揃えて統計学で横並び評価することでコストパフォーマンスに優れた最適な仕様を散布図やグラフで可視化する船舶投資支援技術
④活かせる専門性 情報工学(船舶名、航行距離、燃料消費量、気象情報など多源的な時系列航海ログデータを船舶IDをキーに1日単位へクレンジング・高速紐づけして処理するデータベースシステムの設計)、情報科学(親母集団から条件に合致する子母集団を抽出・フィルタリングし、多変量解析やプロットの近似曲線算出を用いて個船の将来的な性能変化を予測する統計データマイニングアルゴリズムの開発)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7842258/15/ja

 

(2)船舶の推進または操舵(B63H)

①開発物 単一の船舶に搭載された複数の燃料タンク間で低引火点燃料を双方向に循環させ、移動経路内に設けた濾過部によって燃料中の不純物を洋上で自動除去する船舶用燃料浄化システムおよびそれを搭載した船舶
②その内容 LNG船、LNG燃料焚船、LNGバンカ船などの船舶において、砂漠地帯などの地理的条件に起因して燃料(LNG、LPG、液体水素等)に混入する珪素・鉄・繊維分といった不純物を陸上ターミナルへの搬出前やエンジンへの供給前に簡易に除去し、燃料の清浄度を向上させるシステムです。
単一の船舶内には低引火点燃料を貯留する複数のタンク(タンク1A、1B)が配置されています。第1工程として、一方のタンク1Aに貯留された燃料を第1ポンプで吸引し、移動経路(管路4)を介して他方のタンク1Bへ移送します。この移動の際、経路内に設置された濾過部を通過させることで比重差によりタンク底面に沈殿した不純物を効率的に捕捉・除去します。
第2工程として、不純物を除去された清浄な燃料を他方のタンク1Bから第2ポンプで吸引し、第2移動経路を介して元のタンク1Aへと戻します。この双方向のシャトル循環・クローズドループ処理を行うことで両タンクの燃料貯流量を一定に維持したまま、液中の不純物濃度を連続的かつ効率的に低減させます。
③結局どんな技術か 洋上での洗浄が困難な巨大燃料タンクの課題に対し、船内の2基のタンク間で燃料を移動させる途中で高精度フィルタに通してゴミを回収し、綺麗になった燃料を再び元のタンクへ戻すタンク間シャトル循環により船を止めずに燃料をクリーンにする洋上燃料浄化技術
④活かせる専門性 機械工学・流体工学(極低温の液化天然ガスや液体水素などの熱流動特性・粘性挙動の評価、不純物の沈殿・流動シミュレーション、キャビテーションを抑制した超低温対応第1・第2ポンプの揚程・流量設計、循環管路系における圧力損失の最適化計算)、船舶海洋工学・プラント配管設計(船舶の動揺がタンク底面の沈殿物や吸引挙動に与える影響の評価、船体内限られたスペースにおける安全基準に準拠した防爆型二重管路のレイアウト、燃料補給プロセスと連動した自動浄化制御システムの構築)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6714173/15/ja

 

6-3-2.商船三井

(1)舶または他の水上浮揚構造物(B63B)

①開発物 船首側に居住区を配置して船尾にポッド推進器を備え、両舷の外側に環境負荷の低いエタノールまたはメタノール用の一重船殻燃料タンクを大容量で確保した次世代燃料仕様の環境配慮型貨物船
②その内容 化石燃料の代わりに植物由来のバイオエタノールやメタノールを使用し、従来の重油船と同等の出力・貨物最大積載量を維持しながら二酸化炭素の排出量を大幅に削減する船舶設計技術です。
エタノールは重油と同等の出力を得るために約2倍の燃料容量を必要とするため、本貨物船では複数の貨物艙を確保しつつ船体の幅方向の最も外側にシングルハル構造の燃料タンクを大容量で配置します。万一、海洋に流出しても環境への影響が極めて少ないエタノール等の特性を活かすことで、設置スペースの大きい二重船殻を回避しています。
さらに、居住区であるブリッジを船首部分の甲板上に設けて前方の見通しを向上させるとともに船尾の推進装置には舵の役割を兼ねる電動のポッド推進器を採用して従来の巨大な機関室を小型化。これにより、船尾甲板上にエタノール炊きの発電機や燃料の気化ガスを再液化する液化装置を実装するスペースを創出しています。また、自然界の海水を取り込むポンプには垂直方向に延びる棒形状の没水型ポンプを採用し、船体内のデッドスペースをポンプスペースとして極小化することで貨物積載スペースを最大限に引き出しています。
③結局どんな技術か 流出しても安全なエコ燃料の特性を活かしてタンクを省スペースな一重構造にし、操舵室の船首移動や電動ポッド推進器による機関室の小型化によって十分な貨物スペースと重油の2倍の容量が必要なエコ燃料タンクを両立させた次世代の環境対応型貨物船技術
④活かせる専門性 船舶海洋工学(エタノール燃料の特性を踏めたシングルハル燃料タンクの最適容積・両舷配置設計、ブリッジの船首移動および船尾ポッド推進器採用に伴う船体復原性・流体抵抗・推進効率の評価、バラスト水制御と連動した船体構造力学的な強度設計)、機械工学・プラント配管設計(エタノール燃料焚き発電機の熱効率計算、気化ガスを海水冷却して再液化する液化装置の熱交換設計、狭小な垂直ポンプスペースに適合する電動油圧型・電動型没水ポンプの流体機械設計)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7749478/15/ja

 

(2)物品または材料の貯蔵または輸送用の容器(B65D)

①開発物 線材コイルを横向きに保持する凹部と平面視で波形の係合部(凹凸構造)を備えたブロック状のコイル保持台を特徴とし、コンテナ内での荷崩れや擦傷を防止して積載効率を高める線材コイルの梱包体およびコンテナへの搭載方法
②その内容 自動車用ファスナーやタイヤのコードワイヤ等に用いられ、剛性が低く荷崩れや僅かな傷で不良品となりやすい線材コイルを海上輸送時の船体動揺から確実に保護する物流・梱包技術です。
本梱包体はコンテナ床面に長手方向へ延在する台座桁と、それに直交する幅方向の横桁からなる土台の上にブロック状のコイル保持台を設置した構造を成します。保持台の中央には線材コイルが変形しても底面に接触しないよう2組の楔形ウェッジ部材で形成されたV字状の凹部が設けられ、コイルがベルトで固縛されます。
保持台の正面と背面には、幅方向を向いた平面視台座波形の波形係合部が形成されています。コンテナ搭載時には前後方向に隣接する梱包体同士の波形係合部がパズルのように噛み合うことでコンテナ幅方向への横ズレを物理的に規制します。さらに、幅方向に隣接する梱包体同士や側壁との隙間には変形量の大きい発泡ポリオレフィン製の桁緩衝材やコイル上部を覆うロールクッションを収縮させながら押し込むことで荷室全体の隙間をゼロにして固定し、デッドスペースを無くして積載数を最大化します。
③結局どんな技術か 輸送時の横揺れで型崩れしやすい線材コイルに対し、横置き用のV字溝を設けた専用の梱包台を用意し、その前後に設けた波型の凹凸をお互いに噛み合わせることでコンテナ内での横ズレを完全にロックし、高密度かつ安全な大量輸送を可能にする梱包・固定技術
④活かせる専門性 機械工学(線材コイルの自重や輸送時の衝撃荷重に耐えうる集成材・プラスチック擬木製の台座桁の曲げ強度設計、変形変位の大きいビーズ法発泡ポリオレフィンを用いた二重殻構造の応力分散・緩衝特性のシミュレーション)、生産工学・産業工学(輸送コンテナの国際標準寸法を基準とした梱包台の形状最適化、隙間をゼロにして積載効率を最大化するための高密度パッキング・輸送配置プロセスの設計)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7053972/15/ja

 

6-4.まとめ

 複数船舶の実航海ビッグデータを集計して個船の潜在的な燃費効率を横並び評価する投資支援システムや巨大な推進燃料タンクを止めずに洋上で夾雑物をろ過するシャトル式クリーン技術、環境に配慮したメタノール等の次世代エコ燃料タンクを一重船殻で最適配置した先進船型、輸送時の激しい横揺れを独自のデザインで完全ロックする線材コイルの緊結用梱包台などの開発が行われていることが分かります。

 これらは、多源的時系列データの高速クレンジングや近似曲線を用いた将来性能予測といった情報工学・情報科学の専門性、流体・超低温対応配管設計、衝撃荷重に耐えうる支持構造の材料力学といった機械工学・船舶海洋工学・生産工学の専門性と結びついており、海上物流の脱炭素化や航海オペレーションのデジタルツイン化に関連することがうかがえます。

 海運業界についての詳細記事⇒海運業界の研究開発職

 

7. 鉄道業界(JR東日本、JR東海)

7-1.開発数(特許出願件数から見る開発実態)

 JRの中でもJR東日本とJR東海は出願件数が多いです。

 年によってばらつきがありますが、継続的に開発がおこなわれていることが推測されます。

 

 

7-2.開発に関わる主な技術分野

 上記特許出願の中身をもう少し詳しく見ていきます。

 FI記号と言われる技術分類によると、JR東日本は鉄道の信号・安全確保または列車制御(FI:B61L(以下①))や特定ビジネス用のデータ処理システム・管理目的システム(FI:G06Q(以下②))、鉄道線路の構造・敷設・保線用機械(FI:(以下③))、JR東海は、鉄道車両の詳細・車体構造・車内設備(FI:B61D(以下④))、電気車両の推進・集電・駆動制御(FI:B60L(以下⑤))、鉄道車両の走行装置・台車・サスペンション(FI:B61F(以下⑥))に関わる開発が最も多いです。

 

①鉄道の信号・安全確保または列車制御

 自動列車制御装置や列車集中制御装置の高度化、運行管理システムの自動化、踏切の安全検知センサー、ホームドアの制御連動システムなど、列車の安全かつ正確な運行を担保するための信号・制御技術が関連します。

 

②特定ビジネス用のデータ処理システム・管理目的システム

 SuicaやTOICA等の交通系ICカードを用いた改札システム、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)プラットフォーム、スマートフォンの予約・決済システム、駅構内の混雑予測や乗客の移動動線分析などが関連します。

 

③鉄道線路の構造・敷設・保線用機械

 レールや枕木、バラスト(砂利)の耐久性向上技術、新型の分岐器、走行する車両から線路の歪みを自動で検知する軌道モニタリング技術、メンテナンス作業を効率化する大型重機の開発などが関連します。

 

④鉄道車両の詳細・車体構造・車内設備

 新幹線や在来線の軽量・高剛性な車体構造、気密性の向上、乗降ドアの駆動機構、バリアフリー対応の座席配置、車内の空調システムや抗菌・省エネ設備など、快適性と安全性を両立する車体設計技術が関連します。

 

⑤電気車両の推進・集電・駆動制御

 パンタグラフなどの集電装置や架線の摩耗抑制技術、高効率な駆動モータ・インバータ制御、ブレーキ時のエネルギーを再利用する回生システム、超電導リニアの推進・浮上制御技術などが関連します。

 

⑥鉄道車両の走行装置・台車・サスペンション

 車輪や車軸、台車フレームの構造設計、乗り心地を向上させるアクティブサスペンション(振動制御)、高速走行時の蛇行動防止技術、万一の地震に備えた脱線防止ガードやブレーキ装置の構造などが関連します。

 

<上位技術分野の出願数>

  JR東日本 JR東海
  鉄道の信号・安全確保または列車制御 特定ビジネス用のデータ処理システム・管理目的システム 鉄道線路の構造・敷設・保線用機械 鉄道車両の詳細・車体構造・車内設備 電気車両の推進・集電・駆動制御 鉄道車両の走行装置・台車・サスペンション
  B61L G06Q E01B B61D B60L B61F
2016年 40 3 14 10 8 4
2017年 22 1 8 9 7 2
2018年 11 4 13 17 6 3
2019年 13 8 9 3 5 3
2020年 16 18 5 9 2 3
2021年 11 10 8 1 0 2
2022年 10 8 1 2 0 1
2023年 8 14 0 4 0 1
2024年 8 13 3 2 1 0

 

7-3.直近の開発例

7-3-1.JR東日本

(1)鉄道の信号・安全確保または列車制御(B61L)

①開発物 乗務員が携行するタブレット端末等の位置・時刻情報と駅の時刻表データをリアルタイムに連動させ、列車の遅延などで到着時刻が変動した場合でも直近で実際に乗換可能な次行程の列車を自動抽出して車内自動放送を行う乗換案内プログラム
②その内容 駅に停車する直前に行われる車内での乗換案内放送において、ダイヤ乱れや到着時刻の変動(遅延)が発生した際にも乗務員の口頭アナウンスや手動操作に頼ることなく、正確で最適な乗換情報を自動的に案内・放送する車内放送自動化技術です。
運行前、乗務員が携帯端末の操作部(第1取得手段・第2取得手段)を介して乗務列車の始発駅・終着駅を入力すると、検索手段が路線データから乗換案内を行う乗換案内候補駅を自動検索して画面に提示。乗務員は案内を行う乗換案内対象駅を事前に選択・登録します。
列車が運行を開始し、位置情報取得部が対象駅手前の所定の放送位置(キロ程)への到達を判定すると、抽出手段がその時点のリアルタイムな時刻に駅までの所要時間および路線ごとの乗換時間を加算して乗換可能時刻を自動算出。さらに最新の時刻表データ(遅延時間を加算した動的時刻表)と照合し、乗換可能時刻以降で最も待ち時間が短い直近の乗換案内対象列車を路線・進行方向ごとに自動抽出します。出力制御手段がこの抽出データと定型文の文章テンプレートを組み合わせて放送音声データを生成し、車両システム(車内スピーカー)へバックグラウンドで出力・自動放送します。
③結局どんな技術か 列車の遅延で乗り換え電車の時間がズレても車掌のiPadの位置情報と最新ダイヤをリアルタイムに連動させ、駅到着時の実際の時刻から今本当に乗れる一番早い乗り換え電車を自動で割り出して車内放送を流す遅延対応型の自動放送技術
④活かせる専門性 情報工学・システム制御(携帯端末のGPSによる位置測位データ、キロ程データ、時系列な駅別時刻表ファイルをミリ秒単位で高速対照し、列車の運行開始から終了までバックグラウンドで安定して音声再生タスクを制御・処理するリアルタイムモバイルアプリケーションの設計)、情報科学・データマイニング(動的な列車遅延時間データのインプット、駅・路線ごとの乗換マトリクス時間を加算した乗換可能時刻の数理的算出、時刻表データベースから特定条件(本日最終列車の発車有無、終着駅での同一路線継走等)を満たす最適列車を瞬時にフィルタリングする検索・抽出アルゴリズムの開発)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7812738/15/ja

 

(2)特定ビジネス用のデータ処理システム・管理目的システム(G06Q)

①開発物 チケットの購入時にスマホ画面用か紙への印刷用かの発行媒体情報を記録した二次元コードを作成し、改札通過時に自動読取された媒体の特性(自発光の有無等)から実際の使用媒体を検知して、発行時と異なる媒体での不正利用を検知・防止するチケット情報処理システムおよび改札装置
②その内容 二次元コード(QRコード等)を用いた安価で簡便な鉄道チケットにおいて、電子データを紙に印刷して複製したり、逆に印刷されたチケットを写真撮影してスマホ内で使い回したりする不正乗車を改札機側で自動的に見破るセキュリティ技術です。
チケットの予約・購入時、チケット発行サーバの作成手段がそのチケットがスマホなどの携帯端末に対して発行されたか、券売機などの印刷用媒体に印刷されたかを示す発行媒体情報を内部に組み込んだ二次元コードデータを作成します。
ユーザが駅の改札装置(読取装置)にチケットをかざした際、改札機の読取手段がコード内容を読み取ると同時に、特定手段が読み取りの仕組み(液晶画面特有の自発光で読み取れたか、紙専用の照射光の反射で読み取れたか)から、かざされた実際の読取媒体情報を判別します。情報処理装置(サーバ側または改札機側)の判定手段がコードに埋め込まれた本来の発行媒体と今かざされた読取媒体をリアルタイムに照合。スマホ用データを紙に刷って使っている場合などの媒体の不一致を検知した瞬間に改札の開閉部を閉じるまたは駅員へ通知することで写真やコピーによるキセル乗車を一元的にブロックします。
③結局どんな技術か 発行時にスマホ画面用か紙用かの情報をコード内に隠し、改札機側でも画面の光か紙の反射かで実際の媒体をセンサー検知することで写真や印刷コピーによる不正な使い回し(キセル乗車)を自動でパタッと遮断する乗車券コピー防止技術
④活かせる専門性 電気電子工学・計測工学(自動改札機のチケット読取部において液晶画面の自発光を捉える光照射なしモードと紙の反射光を捉える光照射ありモードを交互に高速切換制御し、かざされた物理媒体の光学的特性をミリ秒単位で正確に識別する光電センサ計測回路の設計)、情報工学・セキュリティ(二次元コードの基本情報(発行媒体、チケット固有ID)に暗号化処理を施し、正当性検定部でのハッシュ値や署名検証ロジックを用いてコード自体の改ざんを防ぎつつサーバ・改札機間で超低遅延で媒体照合・入出場判定を行う認証セキュリティシステムの開発)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7628470/15/ja

 

(3)鉄道線路の構造・敷設・保線用機械(E01B)

①開発物 検測車や営業車両のモニタリング装置により1m単位(第1ピッチ)で取得した線路変位データと、これとは異なる設置間隔(第2ピッチ)で配置された複数のレール締結装置の位置情報とを対照させ、按分処理(直線補間)によって締結装置ごとの最適な計画扛上量(線路高さ調整量)を自動算出する軌道設備管理システムおよび補修作業実施支援プログラム
②その内容 列車の走行に伴って発生するレールの歪み(線路変位)を補修する際、従来は作業員が現地で行っていたレール面のレベル測量作業や計測データのピッチ差による扛上量の計算誤差を排除し、補修作業(パッキンの挿入・交換等)の計画策定を効率化する保線支援技術です。
まず、データベースから所定区間の線路変位データとキロ程情報を読み出し、モニタ上に変位波形を表示(第1工程)します。次に、オペレータが入力した扛上目標となる計画線と実際の変位量との差分から1mピッチの計測位置における線路高さ調整量を算出(第2工程)します。
続いて、計測ピッチ(1m)とレール締結装置の設置ピッチ(約50〜60cm)の比に基づき、隣接する2つの計測位置の調整量を按分・直線補間(第3工程)することで各レール締結装置の正確な計画扛上量を自動決定します。さらに、算出された調整量を過去の既存扛上量の実績値に合算し、締結装置の仕様ごとに定められた最大調整量(上限値)を超えていないかを自動判定(第4・第5工程)。上限超過などの判断結果を調整量と対応させてモニタに出力(第6工程)し、上限を超えない範囲での計画線の再設定や、現場へ搬入すべき調整用パッキンの必要枚数・厚みの事前確定を可能にします。
③結局どんな技術か 1m刻みのレールの歪みデータから間隔がズレている約50cm刻みの線路留め具ごとの正確な修理高さを算数的に割り出し、留め具の設計限界を超えないかも自動チェックするデータ連動型の保線システム技術
④活かせる専門性 機械工学・材料力学(列車の繰返し荷重によって変形するスラブ軌道・バラスト軌道の変位挙動解析、レール締結装置に作用する応力・最大調整量上限値の構造強度設計、厚みの異なる各種調整用パッキンの選定・流動・緩衝シミュレーション)、土木工学・生産工学(レーザ変位計やラインセンサ画像から抽出した1mピッチの離散的な時系列測定データを連続的な軌道変位波形に復元する補間アルゴリズムの開発、隣接計測点間の差分値をトリガーとした補修優先順位の数理的最適化設計)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7794704/15/ja

 

7-3-2.JR東海

(1)鉄道車両の詳細・車体構造・車内設備(B61D)

①開発物 鉄道車両の出入台(デッキ)に設置される仕切パネルにおいて扉の端に蝶番を覆う被覆部を一体形成することで美観を損なわずに周囲のカバー材との離間距離を広げ、車両組み立て時の取付作業性を向上させた仕切パネルの扉構造およびそれを備えた鉄道車両
②その内容 車両のデッキ部に配電盤等を収容する仕切パネルを設置する際、従来は蝶番を隠して見栄えを良くするために乗降用扉と仕切パネルの間に挟まれた狭いスペースで、扉と柱キセ(柱カバー)の隙間を5〜10mmという極小幅に抑えて精密に取り付ける必要があり、作業が非常に困難でした。
本技術では、扉を板状の本体部と、その先端から通路と反対側(背面側)へ延びる円弧状の被覆部とで一体構成します。扉の回転軸を持つ蝶番は本体部の背面側に接合され、被覆部が平面視でこの蝶番を正面側から完全に覆い隠す構造となっています。
これにより、扉を閉じた状態でも蝶番が通路側から視認されなくなるため目隠し役であった柱キセの設置位置を扉の延在方向から25mm以上30mm以下という十分な距離まで離して配置することが可能となります。柱キセの断面形状を、基板部、直角に折れ曲がった中間板部、および扉受板部(端部立上り部付き)によるクランク状に設計し、被覆部と離間対向させることで、高い美観性を維持したまま柱キセの取付作業スペースを大幅に拡大し、製造工数を削減します。
③結局どんな技術か 扉の端に蝶番を隠すカバー(被覆部)を一体化することで見栄えを保ったまま隣の柱カバーとの隙間を広くあけられるようにし、車両組み立て時の取り付け作業を大幅にラクにする内装扉構造技術
④活かせる専門性 機械工学・構造設計(鉄道車両インテリアにおける構体・柱・仕切パネル間の限られたスペースでの干渉回避レイアウト設計、扉開閉時の回転軸を中心とした被覆部先端の回転軌跡(半径r1)の幾何学的解析、温度変化や乗客の接触荷重による柱キセの変形を防ぐ端部立上り部(補強リブ)の構造剛性設計)、生産工学(車両製造工場における各種内装パネルおよび柱キセのモジュール公差設計、組立工程における目地隙間拡大による作業動線の確保と取付作業時間短縮プロセスの最適化)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7690143/15/ja

 

(2)電気車両の推進・集電・駆動制御(B60L)

①開発物 エンジン発電電力とバッテリー電力を併用するハイブリッド車両において、車内負荷(空調・照明等)へ給電する補助電源装置の故障時にスイッチ切り替えによって隣接する健全な車両からの給電路を確立し、編成全体の運行継続を可能にする冗長性に優れた車両駆動装置
②その内容 駅停車時のアイドリングストップや発車時のバッテリーアシストを行うシリーズハイブリッド方式の鉄道車両において、補助電源装置やバッテリーの単一故障が原因で車両全体が機能停止(ダイヤ乱れ)に陥るリスクを車両間の電力融通システムによって回避する電気駆動・制御技術です。
通常時は、エンジンの動力で発電機が三相交流を発電し、コンバーターで直流に変換して直流リンクへ出力します。この直流電力はインバーターで再び交流に変換されて主電動機を駆動するほか、チョッパー回路を介してバッテリー装置の充放電を制御します。同時に補助電源装置(静止型インバーター等)が直流リンク等の電力を定電圧・定周波数の交流に変換し、第1切替スイッチ(電磁接触器)を介して負荷(空調・照明等)へ供給します。
補助電源装置の故障が検出されると、制御装置(車両制御回路)は即座に第1切替スイッチを開放して故障装置を単離し、外部電源(隣接する健全車両の補助電源装置)からの給電路にある第2切替スイッチ(電磁接触器)を投入(閉路)します。これにより、車両間で電気的に接続された供給ラインを介して健全車両から交流電力を受電し、自車の空調や冷却系統の機能を維持します。さらに、バッテリー装置等の故障でエンジン始動不可となった場合でも隣接車両から受電した交流電力を整流器で直流に変換して直流リンクへ供給し、コンバーターを逆変換駆動して発電機を回すことで、外部電力によるエンジン始動を可能にします。
③結局どんな技術か ハイブリッド電車の電源が壊れてもスイッチを自動で切り替えて隣の元気な車両から電気を分けてもらう仕組みにより、空調や照明などの車内サービスを止めずにそのまま走り続けられる電源バックアップ技術
④活かせる専門性 電気電子工学・パワーエレクトロニクス(コンバーター・インバーター・チョッパー回路における大電力の双方向AC-DC/DC-DC変換と電圧昇降圧制御、複数フィルタコンデンサーの突入電流を抑制する抵抗器を介した充電シーケンス設計、各種電磁接触器の高速遮断・投入による回路トポロジーの動的切り替え制御)、機械工学・制御工学(熱エネルギーから電気へのエネルギー変換効率に基づく内燃機関と3相交流発電機の協調制御、車両制御回路におけるバッテリー装置のSOC(充電状態)バランス維持と故障検知シミュレーションに基づく冗長アルゴリズムの開発)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7614784/15/ja

 

(3)鉄道車両の走行装置・台車・サスペンション(B61F)

①開発物 踏切等において大型障害物と衝突した際、一定以上の衝撃荷重によって排障板の下端が後方へ回動し、車体台枠に設けた頑丈なストッパ構造に当接して衝突反力の作用線を車体重心へ向けて固定することで、車体の浮き上がりや回転を抑制し脱線を防ぐ鉄道車両の排障器
②その内容 踏切事故において普通乗用車等の大質量障害物と衝突した際、従来の前向き・後向き勾配を持つ固定式排障器で課題であった車体前方が極端に浮き上がる、あるいは斜め下方向への反力で台車がレールから外れるという脱線現象を可動式の排障板とストッパによるモーメント相殺ロジックで解決する安全構造技術です。
通常時は、小石などの小さな障害物をはねのけるため、列車側面から見て進行方向前向きの勾配(前傾姿勢)を維持しています。しかし、乗用車等の衝突により進行方向後方へ所定以上の強い荷重を受けると、車体台枠に固定された上端部を支点として、下端部が後方へと回動します。
回動した排障板は、車体台枠に突設された強固なストッパ構造に突き当たって停止します。この停止位置は、排障板の上下中間部に対する垂線が鉄道車両の車体重心をジャストで通過する第1法線HS1、または前台車中心のレール交差点と結ぶ第3法線までの所定の範囲を通過するようにあらかじめ綿密に設計されています。これにより、巨大な衝突反力が車体重心へダイレクトに伝達されるため、車体をピッチング(前後傾)またはヨーイング(左右回転)させるモーメント力が原理的に発生しなくなり、車輪の脱線確率を劇的に低減します。また、ストッパとの間に蛇腹状等の圧潰部材を介在させることで部材の座屈変形により衝撃荷重そのものを大幅に緩和します。
③結局どんな技術か 強い衝突時にスカートの下側が後ろへパタンと倒れて頑丈なストッパに固定されることで、衝突のエネルギーを電車の重心へまっすぐ逃がし、車体の浮き上がりや回転を封じ込めて脱線を防ぐ安全スカート技術
④活かせる専門性 機械工学・構造力学(大質量障害物との高エネルギー衝突時における排障板・支持部材・台枠ストッパ構造の非線形動的挙動解析、衝撃力によって段階的に座屈変形する各種金属製圧潰部材の衝撃吸収・エネルギー散逸特性の設計、排障板左右中央部に設けたU字状切欠き部の強度的な弱点を利用した不均等衝突時の変形制御設計)、車両運動力学(定常走行時における前後台車の支持力バランスを基準とした衝突反力ベクトルが車体ピッチング・ヨーイング運動および後台車の輪重抜けに与える影響の数理シミュレーション評価)
情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7536983/15/ja

 

7-4.まとめ

 JR東日本では、車掌の携帯端末と運行ダイヤを連動させ遅延時でも瞬時に最適な乗換案内を流すアプリ、改札機で、画面の光か紙の反射かを検知して乗車券の不正コピーを防ぐシステム、営業車両の測定データから線路の留め具ごとの正確な修理高さを自動計算する保線技術などが開発されています。

 JR東海では、蝶番を隠して見栄えを保ちつつ組み立て時の作業スペースを広げるデッキ扉構造、ハイブリッド電車の電源故障時に隣の健全な車両から電気を分けるバックアップ回路、踏切での大型衝突時にスカートが後ろへ倒れてエネルギーを電車の重心へ逃がし脱線を防ぐ安全排障器などが開発されています。

 これらは、センサー制御やパワエレを担う電気電子工学、リアルタイム処理やセキュリティロジックを担う情報工学、高エネルギー衝突解析や構造設計を担う機械工学・構造力学、保線計画を最適化する土木工学・生産工学の専門性と結びついており、鉄道インフラのDXや安全運行の追求に直結する重要技術です。

 なお、JR東海の特許出願の多くは、他社との共同出願という形をとっています。自社単独で技術開発を完結させているというよりは外部のパートナー企業(日本車輛製造株式会社、日立製作所など)が持つ要素技術や専門性と協働しながら開発している可能性があります。

 鉄道業界についての詳細記事⇒鉄道業界(JR)の研究開発職

 

8.電力業界(東京電力ホールディングス、関西電力)

8-1.開発数(特許出願件数から見る開発実態)

 大手2社とも毎年特許出願しています。特に、東京電力は出願件数が毎年約100件あり、開発規模(開発職ニーズ)が大きいことが推測されます。

 

 

8-2.開発に関わる主な技術分野

 上記特許出願の中身をもう少し詳しく見ていきます。

 FI記号と言われる技術分類によると、電力の調整、供給、または分配のための回路配置・システム(FI:H02J(以下①))や電気線や電気ケーブルの設置方法・設備(FI:H02G(以下②))、特定ビジネス用のデータ処理システム・管理目的システム(FI:G06Q)に関わる開発が最も多いです。

 

①電力の調整、供給、または分配のための回路配置・システム

 太陽光や風力などの不安定な再生可能エネルギーを電力網へ安全に繋ぐ技術、分散して存在する蓄電池や電気自動車を一括制御して一つの発電所のように機能させる仮想発電所、送配電ネットワークの最適化技術などが関連します。

 

②電気線や電気ケーブルの設置方法・設備

 地中電線路や架空送電線の効率的な敷設・メンテナンス技術、落雷や地震・台風などの自然災害時に電線路の損壊を防ぐ頑丈な防護設備、高電圧ケーブル接続部や変電設備における防水・防食・高耐熱な絶縁構造の開発などが関連します。

 

③特定ビジネス用のデータ処理システム・管理目的システム

 スマートメーターを活用した自動検針・電気料金の動的設定システム、再エネの余剰電力を個人間で取引・売買するプラットフォーム、AIを用いた電力需要の超高精度予測や送配電設備の異常予兆検知などが関連します。

 

<上位技術分野の出願数>

  東京電力 関西電力
電力の調整、供給、または分配のための回路配置・システム 電気線や電気ケーブルの設置方法・設備 特定ビジネス用のデータ処理システム・管理目的システム 特定ビジネス用のデータ処理システム・管理目的システム 電力の調整、供給、または分配のための回路配置・システム
H02J H02G G06Q G06Q H02J
2018年 18 28 9 1 4
2019年 17 17 12 2 1
2020年 12 6 11 6 3
2021年 22 4 4 1 1
2022年 7 6 8 2 1
2023年 4 6 7 2 2
2024年 15 17 5 2 1

 

8-3.直近の開発例

8-3-1.東京電力

(1)電力の調整、供給、または分配のための回路配置・システム(H02J)

①開発物 上位系統からの停電時に遠隔制御に頼ることなく地区内の非常用発電機などの分散型電源を起点とし、開閉器の自動時間差投入と需要家(各家庭やビル)の消費電力抑制を連動させながら自律的な小規模電力網を安全かつ迅速に構築する電力供給ネットワークおよび制御方法
②その内容

大規模な停電が発生した際、中央の制御システムから遠隔操作できなくなっても地域内の非常用発電機や蓄電池を活用して自動で安全に電気を復旧・融通し合う地域限定のミニ電力網を速やかに立ち上げる技術です。

通常時は上位系統(変電所等)から電気を送りますが、停電を検知すると各エリアを繋ぐ開閉器が一斉に開状態(オフ)になります。その後、電力供給制御装置が分散型電源装置(発電機や蓄電池)を自動起動し、まずは最も近いエリア(第1区間)に送電を開始します。

送電されたエリア内では、スマートメーターなどの負荷制御装置が自動で作動し、各家庭やビルの電気機器の消費電力を制限・一部停止(負荷抑制)します。これと並行して、隣のエリアとの間にある開閉器は、電気が通ってから一定時間後に自動で閉状態(オン)に切り替わる特殊な時間差機能を備えています。

これにより、「送電開始 → エリア内の消費電力制限 → スイッチが自動でON → 次のエリアへ送電 → 消費電力制限」という一連のステップが順繰りに実行され、電力のパンクを防ぎながら供給エリアを安全・スピーディーに拡大していきます。

③結局どんな技術か 大停電の際、地域の非常用発電機から近い順に各家庭の電気使用量を自動で抑えつつ時間差でスイッチを次々とONにして安全に電気を復旧させ、地域限定の自立ミニ電力網を即座に立ち上げる停電自動復旧技術
④活かせる専門性

電気電子工学・電力系統工学(分散型電源を用いた独立ミニ電力網構築時の周波数・電圧の安定制御、遮断器や時限式開閉器の協調保護動作設計、上位系統復帰時の一時停電を伴わない無停電復旧に向けた位相・電圧差の自動同調制御技術の確立)

情報工学・システム制御(スマートメーターやビル用エネルギー管理システムなどの制御端末と地域全体を統括するシステムをリアルタイムで接続し、送電エリアの拡大に連動してエリア内の消費電力を適切に制限する需給管理システムのアルゴリズム開発)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7823523/15/ja

 

(2)電気線や電気ケーブルの設置方法・設備(H02G)

①開発物 ドローン等の飛行体を用いて架空送電線に掛けた絶縁ロープに地上から一定の張力を与え、テンションがかかった状態のロープを介して送電線に激しい振動を伝えることで付着した着氷雪を安全かつ効率的に落下・除去する着氷雪除去装置および除去方法
②その内容

冬季の降雪地域において、送電線に着氷雪がたまると氷雪が落ちた際の反動による跳ね上がりや強風時の激しい横揺れを引き起こし、鉄塔の破損や大停電に繋がります。従来の、作業員が命がけで高所の送電線に乗り出す作業やバッテリー制約のある除雪ロボットの投入は安全性と効率の面で課題がありました。

本技術は地上から安全かつ短時間で除雪を行う仕組みです。まず飛行体(ドローン等)が絶縁ロープの端を抱えて架空送電線の周囲を旋回し、送電線にロープを1回転以上巻き付けます。次に、地上の張力付与部がロープを引っ張り、ピンと張った状態にします。

このテンションがかかった状態でロープのもう一端に接続された加振部がロープをさらに引っ張り、その力を一気に解放します。これにより、送電線に鋭い上下・左右の振動が伝わり、付着した着氷雪を瞬時に振り落とします。絶縁ロープを使用しているため、送電を止めることなく、安全・迅速に稼働させることが可能です。

③結局どんな技術か ドローンで送電線に掛けた絶縁ロープを地上からウィンチでピンと張り、加振器でロープごと送電線を激しく揺らすことで、電気を止めることなく安全かつ瞬時に積雪を振り落とす除雪技術
④活かせる専門性

電気電子工学(6万6千〜50万ボルトの超高電圧が流れる活線状態で放電を起こさない絶縁素材(ポリエチレンやエポキシ樹脂等)の選定・被覆設計、送電線周囲の強電界がドローンの通信・制御に与える電磁障害をシールド・抑制する電磁環境互換性設計)

機械工学・材料力学・制御工学(ウィンチによる最適な張力制御と加振器によるインパルス荷重が送電線の弛みや固有振動・減衰特性に与える影響の構造動力学シミュレーション、送電線の外周を正確に周回してロープを巻き付けるドローンの自動飛行軌道制御アルゴリズムの開発、ロープを摺動させて氷雪を直接掻き取る際の耐摩耗トライボロジー評価)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7055278/15/ja

 

(3)特定ビジネス用のデータ処理システム・管理目的システム(G06Q)

①開発物 ユーティリティ関連公益事業(電気・ガス・水道等)や各種保守・配送サービスにおいて、過去の拠点別サービス実績から機械学習を用いて市区町村別の潜在的サービス需要を推定し、数理工学モデルに基づいて移動目標時間内に対応可能な最適拠点数と配置の組み合わせを導き出す拠点最適化装置およびプログラム
②その内容

サービス拠点の新設や統廃合を行う際、従来は地域ごとの正確なサービス件数の内訳が分からず、感覚的な人員配置や非効率な拠点配置(サービスの偏りや余剰コスト)が発生していました。本技術は、AIと数理計画法(最適化手法)を用いて最小限の拠点数で最大のサービスレベルを担保する拠点選定をデータから自動算出する情報システム技術です。

まず、各拠点の現状のサービス対象エリアの属性情報(人口や面積)を説明変数、既知の拠点別サービス実績(年間件数)を目的変数とした機械学習(予測モデル)により、エリア特性とサービス需要の関係をモデル化します。次に、この予測モデルを使って、これまで見えなかった市区町村単位(領域別)の潜在的サービス件数(需要予測)を算出します。この予測件数に拠点から各市区町村までの移動時間や作業時間を乗算して実態に即した市区町村別の業務量を算定します。

最後に、算定した各市区町村の業務量と拠点から目標移動時間内に到達できるかを示すカバー変数を入力データとします。これらをもとに各拠点のカバー範囲内の業務量の合計値が最大化するような拠点の組み合わせを最大カバー法などの数理工学モデルを用いて最適解として算定し、出力画面に提示します。

③結局どんな技術か 過去の拠点全体の活動実績からAIが市区町村ごとの細かなサービス需要(業務量)を予測し、さらに数理モデルを使って、移動目標時間内にお客様の元へ駆けつけられる割合が最も高くなるような営業拠点のベストな統廃合プランを自動で弾き出す拠点配置最適化技術
④活かせる専門性

情報工学・機械学習(データサイエンス)(多層パーセプトロンや重回帰モデルなどを用いた地域属性(人口密度、面積、インフラ経年割合等)から潜在的な保守サービス需要件数を推定する予測アルゴリズムの設計・評価)

システム制御・数理工学(オペレーションズ・リサーチ)(特定地域内の移動時間と業務量に基づく最大カバー法やp-メディアン法、グリッドサーチ法を用いた制約条件下における大規模混合整数計画問題(拠点の組み合わせ最適化)の高速演算プログラム設計と評価システムの開発)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7583358/15/ja

 

 

8-3-2.関西電力

(1)特定ビジネス用のデータ処理システム・管理目的システム(G06Q)

①開発物 各家庭のエネルギー消費データや環境配慮製品の購入履歴から温室効果ガスの削減量を算出し、その削減量を証明する非代替性トークンと、それに応じた代替性トークンを自動生成して特典として付与することで個人レベルでのエコ行動を継続的に促す温室効果ガス削減行動誘起装置および方法
②その内容

各家庭に対して日常生活に伴う温室効果ガスの削減効果を可視化し、炭素市場などの外部経済と連動したインセンティブを還元することで、これまで行動変容が難しかった家庭部門の省エネ・脱炭素行動を後押しする環境ビジネス・システム技術です。

第一取得部は、各家庭が消費した現在のエネルギー量(電力・ガス等の第一エネルギー情報)や購入した環境配慮製品の環境配慮製品情報を第一排出情報として取得します。第二取得部は、比較対象となる過去の第二エネルギー情報や標準品の標準品情報を第二排出情報として取得します。算出部が、これらの差分から温室効果ガスの具体的な削減量を算出します。

出力部は、算出された削減量をブロックチェーン上で唯一無二の環境価値証書として証明する非代替性トークン(NFT)を生成します。さらに、そのNFTの裏付けをもとに、実際の市場取引や交換が可能な暗号資産である代替性トークン(FT)を生成し、双方を組み合わせた特典情報として各家庭に付与します。外部の炭素市場や環境製品を販売する企業から得られる対価をトークン価値に反映させて還元することで環境価値のダブルカウントを防ぎつつ各家庭に削減モチベーションを持続させます。

③結局どんな技術か 家庭の電気やガスの削減量、エコ商品の購入実績からCO2の削減量を計算し、そのエコ実績をブロックチェーン上の偽造できない証明書(NFT)と価値のあるデジタルコイン(FT)に変えて家庭にプレゼントすることでゲーム感覚で楽しく省エネを続けさせる環境インセンティブ技術
④活かせる専門性

情報工学・分散システム(ブロックチェーン技術)(温室効果ガス削減量を証明する非代替性トークンの発行、およびそれと一対一で価値を連動させる代替性トークンの自動執行プログラム設計、環境価値の二重計上を防止するブロックチェーンネットワークの構築)

データサイエンス・環境経済学(各家庭から送信されるスマートメーターのスマートログデータや多様な燃料(電力・ガス・灯油)の検針票画像、環境配慮製品の仕様データから地域特性や気温補正を加味して正確なCO2排出原単位を算出し、炭素市場の変動価格とインセンティブを動的に結びつける需給・還元アルゴリズムの開発)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7547585/15/ja

 

(2)電力の調整、供給、または分配のための回路配置・システム(H02J)

①開発物 データセンター等のセンター施設において、テナントやラック(電力使用区画)ごとの再生可能エネルギー由来電力と非再エネ由来電力の希望内訳を集計して一括受電・電力調達を行い、実際の受電実績値を各区画へ希望比率に応じて動的に配分・計量する電力の管理システムおよび制御方法
②その内容

2022年改正省エネ法等によりデータセンターのテナント企業(ラックのユーザ)側にも温室効果ガス間接排出量の管理・報告が求められる中、施設が一括受電した電力をラック単位で再エネ/非再エネに細分化して個別に計量・配分実績を管理するエネルギーマネジメント技術です。

通常運用時、システムのコントローラは各ラックA〜Dの次時間コマ(例えば30分単位)の必要電力量を予測し、ユーザ情報記憶部から各ユーザが希望する再エネ由来電力(第1電力)の供給比率を読み出して施設全体で必要な第1合計電力量(再エネ)と第2合計電力量(非再エネ)を求めます。調達制御部はこの合計値を目標値として電力調達を行います。再エネ電力量が不足する場合は蓄電池を放電させ、過剰な場合は充電させる充放電制御を実行します。

時間コマ終了後、配分調整部26は実際の受電実績値を取得し、各ラックの内部電力量計の計量値と希望比率に応じて配分処理を行います。全量を再エネで賄うことを希望するラックには再エネ由来電力を優先配分します。また、天候不順等である時間コマに再エネ電力の配分不足が生じたラックに対しては、後続の時間コマの配分において不足分を自動で埋め合わせる調整処理を行い、トータルの使用量を希望値にマッチングさせます。

③結局どんな技術か データセンターのラックごとに再エネ電気を何%使いたいか、の要望をまとめて一括調達し、実際の電気使用量に合わせて希望通りに再エネ/非再エネの電力を割り当て、その分配実績を正確にデータ記録して企業の脱炭素報告を支援するインテリジェント配電管理技術
④活かせる専門性

電気電子工学(敷地内での自家用太陽光発電、自己託送、遠隔地からの再エネ直接購入、系統電力、蓄電池など、多源的な再エネ/非再エネ電源が混在する一括受電システムにおける電力需給バランス制御、充放電制御器を用いた蓄電池のバッファ制御回路設計)

情報工学・システム制御(エネルギーマネジメント)(各ラックの過去の電力量実績値から次コマの必要電力量を導出する予測アルゴリズムの開発、時間コマ(30分単位)ごとの受電実績と契約比率をリアルタイムに照合して配分する計算ロジック、再エネ過不足分を後続コマへ動的に割り付けるフィードバック制御プログラミングの構築)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7817914/15/ja

 

8-4.まとめ

 特許情報によると、電力業界(東京電力・関西電力)では、インフラの強靭化と脱炭素社会の実現に向けた開発が行われています。

 例えば、大停電の際、地域の非常用発電機から近い順に家庭の電気使用量を自動で抑え、時間差でスイッチをONにして地域限定のミニ電力網を即座に立ち上げる自動復旧技術などの開発(H02J・G06Q)や、

 ドローンで架空送電線に掛けたロープを地上からウィンチでピンと張り、加振器で激しく揺らすことで電気を止めることなく安全かつ瞬時に着氷雪を振り落とす除雪技術などを開発((H02G)などが挙げられます。

 これらは電気電子工学、情報工学、機械工学・材料力学の専門性と結びついていると考えられます。

 

 電力業界についての詳細記事⇒電力業界の研究開発職

 

9.放送局業界(NHK)

9-1.開発数(特許出願件数から見る開発実態)

 日本放送協会(NHK)からは、毎年、数百件の出願がなされています(他のテレビ局はせいぜい年間数件レベルであり、出願件数においてNHKは群を抜いています)。

 それなりの規模で継続的な開発がおこなわれていることが推測されます。

 

 

9-2.開発に関わる主な技術分野

 上記特許出願の中身をもう少し詳しく見ていきます。

 FI記号と言われる技術分類によると、画像通信(例.テレビジョン)(FI:H04N(以下①))、デジタル情報の伝送(例.有線・無線通信網)(FI:H04L(以下②))、電気的デジタルデータ処理(FI:G06F(以下①))、画像データ処理または生成(FI:G06T(以下②))に関わる開発が最も多いです。

 

①画像通信(例.テレビジョン)技術

 4K・8Kなどの超高精細映像の伝送・符号化(圧縮・復元)技術、カメラ撮影・撮像制御、次世代のテレビ放送方式、HDR(ハイダイナミックレンジ)や立体映像処理、字幕やデータ放送の表示制御などテレビ放送や動画映像の送受信全般に関わるコア技術です。

 

②デジタル情報の伝送(例.有線・無線通信網)技術

 放送と通信(インターネット配信)の連携・統合技術、大容量動画データを遅延なく配信するためのネットワークプロトコル、データ配信時のセキュリティ・暗号化技術、受信データの同期・伝送制御などが関連します。

 

③電気的デジタルデータ処理技術

 番組アーカイブや膨大な映像資産の管理・検索システム、視聴データや番組メタデータの処理、スマホ・PC向けWeb・アプリの表示制御、放送設備や収録機器のシステム連携制御などのデータ処理全般が関連します。

 

④画像データ処理または生成技術

 AIを活用した映像認識・自動編集・文字起こし技術、CG(コンピュータグラフィックス)やバーチャルスタジオの合成表示、3次元映像空間の復元・レンダリング、映像内の障害物除去や超解像化処理など映像そのものを加工・認識・作成する技術が関連します。

 

<上位4技術分野の出願数>

  画像通信(例.テレビジョン) デジタル情報の伝送(例.有線・無線通信網) 電気的デジタルデータ処理 画像データ処理または生成
H04N H04L G06F G06T
2014年 73 23 40 33
2015年 100 22 22 14
2016年 98 15 18 15
2017年 90 40 20 24
2018年 93 16 17 17
2019年 126 28 15 16
2020年 93 26 24 27
2021年 101 34 30 25
2022年 97 22 20 23
2023年 198 20 38 36
2024年 74 15 10 14

 

9-3.直近の開発例

9-3-1.NHK

(1)画像通信(例.テレビジョン)(H04N)

①開発物 動画像符号化(HEVC等)のフレーム内予測において、未復号の参照画素に依存する領域(合成領域)を自動判別し、通常の方向予測画像と別の予測画像を加重平均合成することで、追加の制御フラグを伝送することなく予測精度と符号化効率を向上させる動画像復号・符号化装置
②その内容

HEVCなどの動画圧縮規格では画面内の周囲の画素から予測画像を生成するイントラ予測を行います。しかし、画像の端やスキャン順の都合で参照したい周囲の画素がまだ復号されていない場合、近くの画素をそのままコピーして補間するため予測画像に歪みが生じ、圧縮効率(符号化効率)が低下するという課題がありました。かといって、ブロックごとに特殊な処理手順を指示するフラグ(制御情報)を逐一送信すると、今度はデータ量が増えてしまいます。

本技術は、追加データ(フラグ)を送ることなく、受信側(復号装置)と送信側(符号化装置)でまったく同じルールに基づいて予測画像を高度に合成・補正する技術です。

  1. 選択されたイントラ予測モード(予測の方向)と周囲の復号状態から未復号画素を用いて生成されるエリア(合成領域X)を自動で特定します。

  2. 合成領域X以外の通常エリア(Y)では通常通り復号済み画素から第1予測画像を生成します。一方、合成領域Xでは、第1予測画像に加えて別の予測処理(Planar予測やDC予測など)による第2予測画像を自動生成します。

  3. 合成領域X内の各画素において、第1予測画像と第2予測画像を加重平均(重み付け合成)して最終的な予測画像を生成します。この際、境界領域からの距離や参照画素の信用度に応じて画素ごとに重みを変化させたり、境界の不連続性を抑える平滑化フィルタをかけたりします。

これにより、追加のフラグ伝送やエンコーダ側の計算コスト増大を完全に回避しながらコピー画像に起因する画質劣化や圧縮効率の低下を防ぐことができます。

③結局どんな技術か 動画を圧縮する際、まだ復号されていない周りの画素を使って画像を予想しなければならないエリアを自動で見つけ出し、別の予測データと滑らかにブレンド(加重平均)することで余計なデータ(制御フラグ)を増やさずに動画を綺麗かつコンパクトに圧縮・再生する動画符号化・復号技術
④活かせる専門性

電気電子工学・情報工学(画像処理・信号処理)(HEVC/VVC等の動画像符号化規格におけるイントラ予測(Planar/DC/方向予測)の数理アルゴリズム設計、離散直交変換(DCT/DST)・量子化・エントロピー符号化のパイプライン処理、画素間の相関分析・境界不連続性評価に基づく平滑化フィルタの設計)

情報科学・メディア情報(未復号参照画素の幾何学的配置と予測方向から合成領域を判定するロジックの構築、境界からの距離や復号画素の信用度(距離衰減)に応じた画素単位の加重平均重み係数算定プログラムの開発、データ伝送帯域(ビットレート)と画質(PSNR)のトレーードオフを評価するシミュレーション技術)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7876689/15/ja

 

(2)デジタル情報の伝送(例.有線・無線通信網)(H04L)

①開発物 衛星デジタル放送等において、衛星中継器(アンプやフィルタ)で発生する信号歪みをあらかじめ打ち消す事前歪補償(プリディストーション)を行いながら、従来のルートロールオフフィルタ(2乗根)を4乗根ルートロールオフフィルタ2段に分割配置することでフィルタやサンプリング変換回路を削減しハードウェア規模を大幅に縮小した送信装置
②その内容

16APSKや32APSKなどの多値変調を用いる衛星デジタル放送(ISDB-S3等)では衛星中継器の電力増幅器(TWTA)や帯域フィルタ(IMUX/OMUX)の特性により、信号点にズレや広がり(非線形歪みやシンボル間干渉)が発生して受信品質が低下します。これを防ぐため、送信機内部に衛星中継器の特性を模した疑似伝送器を置き、発生する歪みの逆特性ベクトルを事前に打ち消すように加算して送信する事前歪補償技術が用いられます。

しかし、従来の歪補償回路では、信号点を合わせるためのダウンサンプリング/アップサンプリング回路や複数個のルートロールオフフィルタ(RRF)を複雑に配置する必要があり、ハードウェア規模(回路面積や消費電力)が膨大になる課題がありました。

本技術では、本来1段階で行うルートロールオフフィルタ処理を伝達関数が4乗根となる4乗根ルートロールオフフィルタ(QRRF)2つに分割し、ベクトル演算部(歪補償部)の前後に1つずつ配置します。

  1. 第1の波形整形部で信号を4乗根フィルタ処理した状態で疑似伝送器および遅延部に入力します。

  2. ベクトル演算部112において、アップサンプリング状態を維持したまま疑似伝送器の逆特性(歪補償信号)を高速に計算します。

  3. 第2の波形整形部でもう一度4乗根のフィルタ処理を重ねて施すことで、送信信号全体として正規のルートロールオフ特性(2乗根)を持たせた変調波を生成します。

これにより、従来のRRF回路やサンプリング変換回路を削減でき、従来の歪補償性能(C/N比や出力バックオフの改善度)を低下させることなく回路のハードウェア規模を小型化します。

③結局どんな技術か 衛星放送の送信機において、電波の歪みをあらかじめ打ち消す補正回路を工夫し、特殊な4乗根フィルタを前後に分けて使うことで、歪補償の性能を保ったまま回路を小さくする送信機技術
④活かせる専門性

電気電子工学・通信工学(ナイキスト基準を満たすロールオフフィルタ(平方根/4乗根ルートロールオフ特性)の伝達関数(帯域制限デジタルフィルタ)設計、FPGA/ASIC実装におけるマルチレート信号処理(サンプリングレート変換)と演算器リソース(ゲート数)の最適化)

無線工学・高周波回路工学(衛星中継器(TWTAのAM-AM/AM-PM非線形歪み特性およびIMUX/OMUXフィルタの群遅延・振幅特性)の等価回路モデル構築、16APSK/32APSK多値変調におけるキャリヤ対雑音比(C/N)と出力バックオフ(OBO)の非線形歪補償(デジタル・プリディストーション)評価シミュレーション)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7890882/15/ja

 

(3)電気的デジタルデータ処理(G06F)

①開発物 VR(仮想現実)映像を視聴するユーザーに対し、仮想空間内の熱源の特性(太陽のような距離に依存しない第1熱源と焚火のような距離に依存する第2熱源)や遮蔽物の有無、視線角度に応じて、温熱・光フィードバック装置の出力をリアルタイムに自動計算・制御する感覚提示制御装置
②その内容

HMD(ヘッドマウントディスプレイ)等を用いたVR体験において、視覚・聴覚だけでなく熱源(太陽や焚火)の暖かさ(温感)や光感覚を提示する試みがなされていますが、従来の技術では映像と温感提示がリアルタイムに連動せず、没入感や臨場感が損なわれる課題がありました。

本技術は、仮想空間内の熱源の物理特性をデータベース化し、ユーザーの頭部位置・姿勢(ジャイロセンサ等の計測値)と連動させて温感提示出力を動的に制御するシステムです。

  1. 第1熱源(太陽など):ユーザーからの距離に関わらず温感が一定な熱源です。ユーザーと太陽を結ぶ直線上に建物やトンネル等の遮蔽物が存在するかを判定し、遮蔽されていれば出力をゼロにし、遮蔽されていなければ天候係数(晴れ・曇り等)に応じた出力を算出します。

  2. 第2熱源(焚火など):距離によって温感が変化する熱源です。ユーザーから熱源までの距離を計算し、近距離閾値未満なら最大出力、遠距離閾値以上なら出力ゼロ、その中間であれば距離に応じた減衰出力を算出します。

  3. 出力制御:計算された出力値に基づき、HMDに装着された左右のペルチェ素子・ヒータ・LED(感覚提示装置)の駆動電力を個別に制御します。ユーザーの頭部の向きと熱源とのなす角に応じて左右の出力を微調整(角度が大きいほど出力を抑制)することで映像と完全に同期した圧倒的な臨場感(温感・光感覚)を提供します。

③結局どんな技術か VR空間で太陽や焚火を見ている時、日陰に入ると温もりが消えたり、焚火に近づくほど暖かくなったり、顔の向きに合わせて熱の伝わり方が変わるよう頭の動きや遮蔽物に合わせてヒーターや光の強さを自動コントロールするVRリアル温感連動技術
④活かせる専門性

電気電子工学・計測制御工学(HMDに搭載した温度提示素子(ペルチェ素子・熱線ヒータ)、光提示用高輝度LEDの高速応答制御回路設計、熱放射エネルギーと光エネルギーの複合印加による皮膚の上昇温度の熱伝導・熱平衡制御)

情報工学・3Dグラフィックス・CG(VR空間における三次元座標変換・回転行列演算による頭部位置姿勢の追従計算、レイキャスト(LineTrace)を用いたポリゴン遮蔽判定アルゴリズムの構築、距離減衰・角度依存性を加味したリアルタイム物理シミュレーション・プログラム開発)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7842643/15/ja

 

(4)画像データ処理または生成(G06T)

①開発物 既存の3Dレンダラが解釈できる標準的な基本属性に加えて、非標準的な独自の質感データ等の拡張属性と、それを解釈・演算するための専用プログラムであるシェーダを1つのファイルにまとめて保持し、既存システムへの下位互換性を保ちながら高品位な3Dグラフィックス描画を可能にするデータ構造
②その内容

3D CGや点群データ(点、ポリゴン等)において、法線やマテリアル(表面下散乱やライトフィールド等)などの高度・独自の質感属性を追加すると、標準的な既存のレンダラ(描画ソフト)では読み込めずエラーになったり、属性データが無視されたりする問題がありました。一方、UVマッピングを用いる方式は形状の変形や分割時に複雑な再計算が必要で汎用性に欠ける課題がありました。

本技術は、既存のレンダラとの互換性(下位互換性)を維持したまま、どのような独自属性でも高精細に描画できるようにするデータ統合技術です。

  1. データ構造:標準レンダラが直接読み込める基本レイヤ(幾何形状・基本属性)と標準レンダラでは参照できない拡張レイヤ(拡張属性+シェーダ)」の2階層構造で3Dデータを構成します。

  2. 自動プラグイン:レンダリング装置の分離部が入力データからシェーダを自動分離し、レンダリング部のプラグイン用インタフェースに自動で組み込みます。

  3. 演算と描画:組み込まれたシェーダに含まれるパーサ(構文解析プログラム)がコメント文やユーザ定義領域に隠された拡張属性を数値化します。その上でシェーディングプログラムが拡張属性に基づいた画素値計算を行い、高精細な3D CGを生成します。

古いレンダラに渡した場合は基本属性だけで標準描画され、本システムに渡した場合はシェーダが組み合わさって描画されるためデータの互換性と表現力の高さを両立できます。

③結局どんな技術か 3Dデータの中に詳細な質感データ(拡張属性)だけでな、それを読み解く専用の解析AI・計算プログラム(シェーダ)も一緒にセットでパッケージ化しておき、古いソフトでは普通に再生、最新ソフトではプログラムが自動で組み込まれて超リアルに描画させる3Dデータ構造・描画技術
④活かせる専門性

情報工学・3Dグラフィックス・CGアルゴリズム(点群やポリゴンメッシュにおける幾何形状情報およびシェーディングモデル(Phongシェーディング、表面下散乱、ライトフィールド描画)の数理設計、動的リンクライブラリやプラグインアーキテクチャによる実行時プログラム組み込み制御)

ソフトウェア工学・データ構造設計(汎用3Dフォーマット(PLY、Wavefront OBJ等)や記述言語(JSON、XML)の拡張領域(コメント文・ユーザ定義フィールド)を活用したデータカプセル化(多重化・圧縮・構文解析パーサ)技術、既存システムに対する下位互換性(バックワード・コンパティビティ)を維持するソフトウェア階層分離設計)

情報元:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7883423/15/ja

 

9-4.まとめ

 放送局(NHK)では、次世代の映像配信・放送インフラおよびリアルな視聴体験の実現に向けた技術開発が行われています。

 画像通信・動画圧縮(H04N):未復号エリアの画像予測データを滑らかにブレンドすることで、制御フラグを増やさず動画を綺麗・コンパクトに圧縮・再生する技術

 衛星伝送・信号処理(H04L):電波の歪みを補正する4乗根フィルタを分割配置し、歪補償性能を維持したまま送信機の回路規模を小型化する技術

 XR・感覚提示(G06F):VR空間の太陽や焚火の熱源に応じ、日陰や距離、頭の向きに合わせてヒーターや光の強度を自動制御する温感連動技術

 3D CG・データ構造(G06T):質感データと解析プログラムを1つにまとめ、旧ソフトでの互換性を保ちつつ最新ソフトで超リアルに描画させる3Dデータ技術

術

 これらは電気電子工学、通信工学、情報工学、3Dグラフィックス・CGなどの専門性と結びついており、放送・配信品質の高度化と新しい映像表現の創出に直結する技術です。

 

 放送局業界についての詳細記事⇒放送局業界の研究開発職

 

 

<ご参考>

自分の専攻・経験を活かせる企業を知りたい方

👉 研究開発職に強い企業を専攻別に簡易的に整理した入口編

  化学系、情報系、電気系、機械系、材料系、物理系、数学系、生物系、土木・建築系、薬学系

👉 研究開発職に強い企業を分野別に簡易的に整理した入口編

  航空宇宙分野、エネルギー分野、再生可能エネルギー分野、農業分野、医療分野、ヘルスケア分野、物流分野、リサイクル分野、理美容分野、防災分野、「食」関連分野、スポーツテック分野、半導体関連分野、通信関連分野、AI関連分野、モビリティ分野、住宅関連分野

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  技術企画職に関わるには?

 

研究開発職の全体像を知りたい方

👉 まずは全体を把握したい方

 ・理系の就職・転職先一覧|専攻・業界別の研究開発に強い企業

 ・研究開発職のキャリアマップ

👉 総合大手メーカー志望の方

 ・総合大手メーカーの就職・転職先一覧|研究開発に強い企業の技術分野

 ・総合大手メーカーの研究開発職の環境の相違

 ・総合大手メーカー10社の開発職における化学系ニーズ

 

化学系で就職・転職できる業界を網羅的に知りたい方

 化学系の研究開発職の業界・企業一覧|需要特大(第1部)

 化学系の研究開発職の業界・企業一覧|需要大(第2部)

 化学系の研究開発職の業界・企業一覧|需要有(第3部)

 自動車関連メーカー23社の開発職・化学系ニーズ

 電子機器等メーカー20社の開発職・化学系ニーズ

 食品関連メーカー22社の開発職・化学系ニーズ

 生活・医療関連メーカー28社の開発職・化学系ニーズ

 建設・設備・プラント関連メーカー21社の開発職・化学系ニーズ

 資源・エネルギー・素材関連メーカー52社の開発職・化学系ニーズ

 

<注意事項>

 本記事の紹介情報は、サンプリングした特許情報に基づくものであり、企業の開発情報の一部に過ぎません。興味を持った企業がある場合は、その企業に絞ってより詳細を調べることをおすすめします。

 

<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・会社四季報 業界地図2024年、2025年、2026年版 東洋経済新報社

<留意事項>
・本記事は、弁理士である管理人の視点で特許情報を独自に分析したものです。
・本サイトでは、特許情報を正確かつ最新の状態でお伝えするよう努めていますが、情報の完全性を保証するものではありません。
・特許情報のご活用や解釈は読者ご自身の責任でお願いいたします。
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