特許情報は無料公開されており、誰でもアクセスし、入手できます。
そして、特許情報には企業の開発に関する詳細が記載されています。
・どのように特許情報を検索したら自分が求める開発をおこなっている企業の情報を取得できるのか
・特許情報のどの部分を見たら欲している情報にたどりつけるのか
について紹介します。
理系学部生の知識レベルを想定して話を進めてきます。
1 はじめに
企業情報を入手するためには、一般的には、
・企業のホームページ
・有価証券報告書
・企業情報が記載された書籍
といった方法が挙げられます。
ただし、1社ずつ企業のホームページや有価証券報告書などを調べるのはあまりにも非効率的です。
中小企業や新興企業にいたっては、そもそも情報を公開していないこともあります。
企業の開発情報を知りたい場合、上記情報だとあまりにも不十分です。開発に関わる詳細はそこには記載されてはいないでしょう。
この問題の解決の糸口になるのが特許情報の活用です。
例えば「空気清浄機」という製品の中の技術に関わる研究や開発に従事していたとしましょう。
そして、どのような企業が空気清浄機の製品開発にたずさわっているのか、どのような技術開発がおこなわれているのか知りたいとします。
この場合、下表のように簡単に情報を取得できます(正確には、下表は本記事作成時時点で取得した情報を編集したものです。なお、情報の取得から編集まで5分もかかっていません)。
<特許出願件数ランキング>
| 1 | シャープ | 174件 |
| 2 | パナソニック | 172件 |
| 3 | パナソニックIPマネジメント | 95件 |
| 4 | 三菱電機 | 94件 |
| 5 | 三洋電機 | 87件 |
| 6 | ダイキン工業 | 83件 |
| 7 | 富士通ゼネラル | 78件 |
| 8 | 日立アプライアンス | 53件 |
| 9 | アンデス電気 | 35件 |
| 10 | 三菱電機ホーム機器 | 32件 |
| ・・・・・・ | ||
| 388 | (複数社) | 1件 |
(特許情報プラットフォームから独自作成)
上表は、ある期間の「空気清浄機」を「発明の名称」とする特許出願件数の(本記事作成時点の)ランキングです。
合計1,638の特許出願件数で、388もの特許出願人(企業や個人発明家)がでてきました。なお、もっときっちり検索すると、出てくる情報はこんなものではありません。
特許出願件数は開発成果の数であり、空気清浄機に関する開発の成果物が1,638も出てきたことになります。
空気清浄機というマニアック(?)な製品ですらこれだけの情報が得られます。
上の例では、話を単純化して「空気清浄機」という製品名を切り口に情報を取得しました。
さらに踏み込んで、浄化技術などの関連する個別技術で情報を絞り込めば、人によってはより価値のある情報を抽出することができます。
特許出願情報を効果的に検索し、これらを分析することで、目立たない中小企業や新興企業も含めて企業を見つけることもできます。
2 特許情報の活用(全般)
2.1 特許情報とは
本サイトでは、特許庁が発行する公報に記載された特許出願に関わる情報を「特許情報」とよぶことにします。
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)やグーグルパテント(Google Patents)と言われる情報検索プラットフォームや各国特許庁がそれぞれのプラットフォーム上で特許情報を発信しています。
特許情報には企業名、出願日、競合する技術、技術課題、技術課題を解決する手段、実施例などが情報として記載されています。
本サイトでは、主にJ-PlatPatを特許情報を検索するツールとします。
J-PlatPatによって特許情報を取得するイメージは、以下(1)~(3)の通りです。
(1)特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を使って特許情報を検索
キーワード検索によって自分にとって価値のある特許情報を検索します。
下図はJ-PlatPat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)のトップ画面です。
どのように特許情報を検索するかは後述します。

(2)検索結果一覧を取得
検索によって検索結果の一覧(様々な特許情報)が表示されます。
この一覧はエクセルデータとして取得できますし、プラットフォーム上で1件1件の特許情報にアクセスすることもできます。
以下は、検索結果の一覧の例です。詳細は後述します。

(3)個別の特許情報を取得
検索結果一覧の画面に表示された「文献番号」をクリックすると、個別の特許情報にアクセスできます。PDFデータとして取得することもできます。詳細は後述します。
2.2 特許情報を利用するメリット
通常の情報収集では得られない特許情報ならではメリットがあります。
・自分の興味のある技術の開発をおこなっている企業を特定できる
そしてその特許情報からは出願人である企業を特定することができます。
すなわち、上手に特許情報を検索することで、自分が欲する企業情報を一度で簡易に抽出し、特定することができます。
その分野の技術課題を解決するための技術的アプローチと自分の技術アプローチとを比較したりして自分の専門が活きそうか検討するのに役立ちます。
・業界研究や企業研究を深掘りできる
例えば、その中でも特許出願件数が最も多い企業はその技術分野のリーダー的存在だといえます。
また、これに追従する企業、それら企業がどのような技術で上位企業に対抗しようとしているのか、という予測もできます。
このように特許情報を活用することで対象とする技術に関わる企業群を把握することができます。
また、一社に絞れば、その企業の開発の歴史を何十年も前にさかのぼって調べることもでき、さらにそこから直近にいたるまで情報を取得することができます。
そのような特許情報からは、その企業の開発の推移やそこで働く開発者のレベルなどを予測することができます。
このように特許情報は、技術的視野を広げ、思考や洞察を深めるのに役立ちます。
こうした業界研究や企業研究は将来の進路を見極めるための重要な判断根拠になります。
2.3 特許情報の具体的な内容
1件の特許出願書類には次の内容が記載されています。
開発職や開発職希望の人なら、特許出願とは無縁という人の方が少ないでしょうし、せめて下表の内容は把握しておいた方がよいです(開発業務にも役立ちます)。
| 項目 | 何が記載されているか | 何の役に立つか |
| 発明の名称 |
その名のとおりです。その発明にふさわしいタイトルが発明の名称です。 |
製品の一般名称(例:空気清浄機)や技術ワード(例:光触媒)を発明の名称に含む特許情報のキーワード検索に役立ちます。 |
| 出願日 | いつされた出願か | いつ頃開発されたのかを予測するのに役立ちます。出願日で期間を指定し、検索範囲を絞り込むのにも有用です。 |
| 出願人 | 権利の所有者 | 開発をおこなった企業名を特定するのに役立ちます。出願人名からその企業の特許情報に絞り込むのにも有用です。 |
| 要約 | 課題、解決手段 | 開発成果の概要を理解するのに役立ちます。発明のポイントが記載されているので、キーワード検索にも有用です。 |
| 請求の範囲 | 出願人が主張する権利範囲 | 技術ワードによる検索に役立ちます(権利範囲を規定する最も重要な部分なので、この部分に含まれる技術ワードは重要な技術要素だとみなされていることになります)。 |
| 詳細な説明 | 技術分野、背景技術、発明が解決しようとする課題など | 技術ワードによる検索に役立ちます(様々な情報が記載されているので、検索範囲を広くカバーしたい場合にはこの部分に含まれる文字を検索対象にするとよいです)。 また、企業が開発において何を課題と考えているのか、どこまで開発が進んでいるのか、自分の専門との優劣はどうか、などの判断材料として役立ちます。 |
| 図面 | 発明に関連する図 | 発明を視覚的に理解するのに役立ちます。 |
2.4 全体の流れ
下図は特許情報の検索から結論までの全体の流れを示したものです。

上図の番号(1)~(4)に沿って説明します。
(1)特許情報を検索
まず、J-PlatPatを特許情報の検索ツールとして特許情報を検索します。
(2)特許情報(一覧データ)を取得、分析
次に、特許情報を取得します。
J-PlatPatでキーワード検索すると、該当する特許情報の一覧が表示されます。
取得した特許情報を分析し、上述の空気清浄機の特許出願人ランキングの例のように、候補となり得る企業群を抽出し、全体像を把握します。
(3)特許情報(個別データ)を取得、分析
次に、特許情報(1件1件の特許出願の内容)を取得します。
特許情報には、企業名だけでなく、どのような技術分野なのか、どのような技術課題があったのか、どのようにその技術課題を解決したのか、その解決策によってどのような効果が得られるのか、どのような分野で利用可なのか、などが記載されています。
(4)結論
業界の全体像をつかむのが目的であれば、上記(2)で得られた情報の編集結果(例えば、出願件数のランキングなど)も踏まえます。
特定技術や当該技術の開発に取組む企業を見つけるのが目的であれば、上記(3)で得られた情報を踏まえます。
2.5 ポイント
特許情報を調べるにあたって一番重要になるが検索のためのキーワードの選定です。
自分の興味のある技術、専攻・専門に関わる技術を含む特許情報を的確にヒットさせるためのキーワードにする必要があります。
キーワードが悪いと狙った検索結果が得られない、情報ノイズが大きい検索結果になります。
上述の空気清浄機の特許出願ランキングでは、検索キーワードは「空気清浄機」でした。
これでは空気清浄機と名称がちょっと異なる「空気清浄装置」や空気清浄機と実質同じ機能を有する「脱臭機」に関する情報がもれていまいます。
「空気」、「ガス」、「粒子」、「粉塵」、「汚染」、「臭気」、「清浄」、「浄化」、「分解」、「脱臭」などの関連する用語を駆使して検索すると、さらに自分にとって有用な情報が得られる可能性が高まります。
特許出願に関わる業務では、こうした先行技術の調査に気をつかうところですが、本サイトでは、ある程度の確度が達成できれば良しと考えます。
キーワードの選定、特許情報の検索、特許情報の分析は一発で狙った結果を出せたらよいのですが、通常は下図のように試行錯誤しながらやっていくイメージになります。
キーワードを選定し、ヒットする特許情報が何件変化したか、特許情報一覧(例えばそれぞれの「発明の名称」や「要約」や「図面」など)から狙い通りの特許情報なのかを推測するのに大して時間はかかりません。

3 特許情報の活用(具体例)
ここからは特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)の使い方についてです。
特許というと、とっつきにくいイメージもあるかもしれませんが、J-PlatPatの操作は簡単です。
特許情報の調べ方は人それぞれで、考え方、やり方は何通りもあります。
ここでは、基本的な調べ方を説明します。
まずはJ-PlatPatに慣れて、それから自分なりの検索の切り口を見つけてください。
3.1 J-PlatPatを開く
以下の画面が表示されます。

J-PlatPatを使った検索方法は、簡易検索をはじめとして多数あります。
ここでは、次の「特許・実用新案検索」の検索画面に移行した後、検索をおこないます。
3.2 「特許・実用新案検索」を開く

「特許・実用新案検索」の画面が開きます(下図)。

まず、上図の①の赤枠の部分についてです。
3.3 キーワード入力と検索
ここでは例として「発明の名称」を切り口にした検索をおこないます。

これにより、右欄の空欄に入力したキーワードの検索対象範囲が、特許文献の中の「発明の名称」になりました。
下の例では「空気清浄機」と入力しました。


これで、特許出願書類中の「発明の名称」に「空気清浄機」という語が含まれる特許文献が検索されます。
検索結果は次の通りでした。
「検索結果が3000件を超えたため表示できません(3614件)。」と表示されました(下図赤枠部分)。
このようにJ-PlatPatには検索結果の表示限界があります(本記事作成時点)。

「検索オプション」は「検索」の上にあります(下図)。

これにより、特許出願書類が特許庁に提出された日(出願日)による絞り込みができます。

2001年以降に出願された分を検索してみます。
これにより2001年1月1日から現時点に至るまでが検索対象範囲になりました。
なお、期間を指定したい場合は、右側の空欄にも西暦(8桁の数字)を入れることになります。

今度は検索結果が1,640件(下図赤枠部分)で一覧表示可能になりました。

3.4 検索結果一覧の見方
下図は検索結果一覧の最上段の表示です。

①「文献番号」
発明に関する開発内容の詳細を見たい場合は、文献番号からアクセスするのが手っ取り早いです。
アクセス方法は、それぞれの「文献番号」をクリックするだけです。
②「出願日」
例えば、出願日が20年以上も前であれば、その特許文献に記載された開発内容も想到古い情報だと言えます。
一方、出願日が現在に近いほどホットな開発成果だと言えます。
③「発明の名称」
発明の名称から検索意図どおりに検索されたかどうか推測することができます。
例えば、検索によって出てきた特許文献の発明の名称が「空気清浄機システム」や「病院用空気清浄機」であれば検索意図に沿って検索された特許文献だと判断できます。一方、「空気清浄機の形をしたおもちゃ」は検索意図から外れた特許文献だと判断できます。
④「出願人/権利者」
3.5 検索結果一覧の情報取得
検索結果一覧については、エクセルデータとして保存することができます。

「CSV認証」という画面がポップアップします。
ポップアップ画面は「ユーザID」と「パスワード」の入力を求めてきます。




以下がCSV形式で取得したデータの例です。
この一覧表データは、自分で編集して、出願人別の出願件数や気になる企業の出願件数の推移を調べるのに役立ちます。

3.6 個別情報の見方
上述の「3.4 検索結果一覧の見方」の①の「文献番号」において、気になる文献番号をクリックすると、その特許情報(個別情報)の表示画面に移ります。
下図はその一例です(私が代理人となった特許出願の書類です)。
それぞれの欄の右端の「開く +」をクリックすることで情報が展開されます。

①「書誌」
これらについては既述していますので詳細は省略します。
②「要約」
その開発が何を目標としていたのかが【課題】に記載されています。
それを解決する具体的内容が【解決手段】に記載されています。
ただ、この部分の記載は【請求の範囲】と似たような表現であることが多く、初心者にはとっつき難い場合も多いかもしれません。その場合はスルーするのもありです。

③「請求の範囲」
【請求項1】、【請求項2】…と請求項ごとに権利が発生します。
権利的には非常に重要な部分ですが、初心者にはとっつき難い表現になっているので、無理にその権利範囲を理解しようとする必要はないです。キーワードを拾い読みして技術イメージがつかめたら御の字です。

④「詳細な説明」
様々な情報が記載されていて本サイトでは最も重視する部分です。
以下、「詳細な説明」の各項目について説明します。
ただし、特許情報によっては全ての項目が記載されているとは限りません。
【技術分野】からは開発の分野がわかります。

【背景技術】からはその開発分野の技術推移や既存技術の課題がわかります(下図赤線部)。

【発明が解決しようする課題】からは、出願人である企業の開発部門が何を技術課題ととらえて開発してきたかがわかります。
【課題を解決するための手段】の記載は【請求の範囲】とほぼ同じ記載であることが多いです。わかりづらい場合はスルーするのもありです。

【発明の効果】からは、その技術によってどのような効果が得られるかがわかります。その技術のポイントや意義を理解する上で重要な部分です。

【発明を実施するための形態】からは発明がどうやって実現されるか、など具体的な技術内容が記載されています。


【産業上の利用可能性】からはその発明が想定する市場のイメージをつかむことができます。

⑤「図面」
「詳細な説明」とともに参考にすべき情報です。
ただし、化学系の発明などでは図面がない場合もあります。



3.7 個別情報の取得
1つの特許情報はPDFデータ化やダウンロードが可能です。
PDFデータ化する場合、文献表示画面の「文献単位PDF」を選択します(下図の赤枠部分)。
あとは画面の指示に従ってPDFデータをダウンロードするだけです(詳細は省略します)。

特許文献の読みにくさの問題は多少あるかもしれませんが、情報を拾い読みする程度で十分対応できるはずです。
3.8 <超便利!>テキスト生成AIを使って特許を解読させる方法
特許は難解ですが、GeminiやChatGPTなどのテキスト生成AIを活用すると簡単に解読できます。以下の記事を参考にしてください。
4 開発サーチを効果的におこなうために
上述のように特許文献を取得し、情報分析し、自分なりの結論を出すというのが開発サーチの一連の流れです。
ただ、やみくもに検索しては、いつまでたっても雲をつかむような状態から脱することはできません。
ここで考え方の例を挙げてみます。
研究室の所属し、空気清浄機に適用される技術について研究する学生が、さまざまな業界や技術・製品について調べたいとしましょう。
下図は、開発を業界という軸(縦方向)と専攻や専門に関する技術・製品という軸(横方向)でとらえたものです。
考え方をパターン①~④の4つに類型化しています。
業界が同じか違うかというのは、現在の研究に密接に関係する企業が属する業界か否かです。
技術・製品が同じか違うかというのは、現在の研究に関わる技術の用途が同じが否かです。
| 技術・製品 | |||
| 同じ | 違う | ||
| 業界 | 同じ | パターン① | パターン③ |
| 違う | パターン② | パターン④ | |
<パターン①>
現在取り組んでいるのが家庭用の空気清浄機に適用される技術だとすると、家電業界(業界)で空気清浄機に関わる技術が特許文献の取得範囲になります。
<パターン②>
例えば、家電業界の空気清浄機に関わる技術を活用し得る医療機器業界の空気清浄関連技術が特許文献の取得範囲になります。
現在の想定と異なる業界ではその技術がまだ一般化していなければ(そのような特許文献が見つからない、少ないならば)、その技術の活用用地があるのかもしれません。
<パターン③>
例えば、空気清浄機に関わる技術を転用し得るエアコンなどが特許文献の取得範囲になります。
上記パターン②同様に、想定と異なる製品ではまだ一般化していなければ、その技術の活用の余地があるのかもしれません。
<パターン④>
例えば、家電業界の空気清浄機に関わる光触媒技術の医療機器業界の手術器具への転用が考えられるのであれば、それが特許文献の取得範囲になります。
上記パターン③同様に、想定と異なる製品ではまだ一般化していなければ、その技術の活用の余地があるのかもしれません。
このように検索の切り口を工夫することで、効果的な開発サーチができます。
5 最後に
上述のとおり、特許文献は開発をおこなう企業情報を見つける切り口として使えます。
本サイトで紹介する方法が少しでも役に立てば幸いです。
<出典>
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)に係る図:独立行政法人工業所有権情報館・研修館(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)
<留意事項>
本サイトでは、特許情報を正確かつ最新の状態でお伝えするよう努めていますが、情報の完全性を保証するものではありません。
特許情報のご活用や解釈は読者ご自身の責任でお願いいたします。
詳細な確認や重要な判断が必要な場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。