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次の悩みはありませんか? 「志望動機が見つからない」、「自分の専門や研究内容がどの企業・業界で活かせるのか分からない」、「企業研究しても表面的な情報しか得られない」  本サイトは特許情報を活用して企業の開発動向を分析。 “あなたの専門が活かせる企業”を見つけるためのヒントを提供しています。 本サイトのメリットとして、★志望動機を説得力のある技術視点で見つけることができる ★企業の開発の中身と求められる専門分野が具体的にわかる ★自分の専攻や経験、スキルと相性の良い可能性が高い企業を見つけることができる、が挙げられます。 本サイトは主に5つのカテゴリー記事からなります。 ①専門・専攻にマッチする企業の探し方 ②業界別:求められる専門性 ③企業別:求められる専門性 ④技術別:求められる専門性 ⑤外資系:求められる専門性 本サイトがキャリアパスの発見に役立てば幸いです。

特許に関する基礎知識

 本サイトでは、企業の特許出願に関連する情報を「特許情報」と表現しています。

 ただ、それだけではイメージできない人も多いはずです。

 そこで、

「特許出願」とはどういったものなのか?
どのような場面で特許出願がおこなわれるのか?
特許情報のどこを見たら良いのか?

といった特許に関する基本的なことを解説します。

 かくいう私も新卒採用から4~5年くらいは特許のことなどほとんど気にも留めず過ごしていました。

 その後、新たな技術開発テーマを企画・立案する機会をもらったとき、上司に特許調査は必須だと教わり、はじめて特許というものを意識しました。

 技術的に競合する他社の特許情報を徹底的に調査したことで、どのような技術が関連するのか、どのようなプレーヤーが同じ土俵にいるのかなど、業界の全体像把握に役立ちました。

 また、技術的に後れをとらないためにも、他社の開発がどこまで進んでいるのか把握するのに役立ちました。

 そのかいあって開発テーマは承認されました。

 このように、特許情報がどのようなものなのか理解を深めることは、本サイトで紹介する開発職探しにとどまらず、開発職という業務自体にとっても有用だと実感しています。

 理系学部生の知識レベルを想定して話を進めていきます。 

1 特許出願とは

 企業は開発の成果物(発明)を特許権という排他的な独占権によって保護しようとします。

 特許権取得のために必要書類(出願書類)を特許庁に提出するのが特許出願です。

 例えば最近、AIに関する発明と特許出願が増えています。

 新たにAIを開発した企業は、そのAIに関する発明の詳細を出願書類に記載し、特許庁に提出します(下図イメージ)。

 このような出願書類の作成、特許庁への提出の他、審査官とのやりとり、特許化後の特許年金(特許の維持費)の管理などは、多くの場合、企業から依頼を受けた弁理士がおこないます。

 

 特許庁の審査において特許として認めてもよいと判断されると、特許査定という書類が届きます。

 これを受けて設定登録料を納付することで設定登録され、はれて特許権が発生します。

 出願人は特許権者となり、そのAIを独占的に製造、販売したり、第三者に製造や販売を許諾したりすることができるようになります。

 少なくともリリース前には特許出願をおこなう必要があります。

 その発明内容が世間に知れ渡って公知技術になってしまったら、原則、特許として認められなくなるからです。

 従って、製品化前に特許出願される場合がほとんどです。

 

2 出願書類に何が記載されているのか、どこを読むべきか

 ここからは本サイトでいう「特許情報」の中身についてです。

 出願書類には、特許権の所有者となる出願人、発明の詳細などが記載されています。

 例えば、

 出願人からは開発に関わった企業名を特定できます。

 詳細な説明には開発の具体的な内容が記載されており重要な資料になります。

 特許情報の主な項目を以下に整理しました。

項目 説明
発明の名称 製品名(例:空気清浄機)や技術名(例:人工知能)などをあらわす発明のタイトル
出願日 出願された年月日(特許権の存続期間や出願情報の公開日の基準になる日)
出願人 特許権を所有することになる法人、個人
要約 発明の概要(課題、解決手段、選択図)が記載された部分
請求の範囲 出願人が主張する権利範囲が記載された部分
詳細な説明 技術分野、背景技術、発明が解決しようとする課題、解決手段、効果など詳細が記載された部分
図面 発明の視覚的な情報

 目的に応じて必要な部分に目を通します。

 

2.1 発明の名称

 例えば、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)(https://www.j-platpat.inpit.go.jp)において、「発明の名称」を検索範囲として検索ワード「AI」で検索すると、「生成AI」や「AI学習方法」などの名称の特許文献がヒットします。

 出願に係る発明が端的に表現されているため、発明の名称だけでその発明がどのようなものなのかイメージできる場合が多いです。

 特許検索するときに、検索結果一覧の個々の特許文献に示された発明の名称を見ることで、意図したとおりの検索結果になってそうか、検索条件の良し悪しを判断するのに便利です。

 

2.2 出願日

 特許庁に出願書類が提出された日です。

 出願書類というのは出願日から一定期間経過後に公開特許公報に掲載されます。

 この情報は、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)上で自由に閲覧できます。

 下図は時間経過イメージです。

 

 出願日から1年6カ月後に特許情報が公開されます。

 従って、公開情報からは1年6カ月以上前の開発事情がわかると言えます。

 この1年6カ月という期間はもっと短い場合があります。

 例えば、審査期間が短縮される「早期審査」による審査が出願後すぐにおこなわれた場合が挙げられます。
 早ければ出願から1カ月後には審査の1次結果がでます。すんなり特許が認められたとすると、それから1カ月以内には出願内容が特許公報に掲載されます。
 つまり、この場合は特許情報によって、わずか数カ月前の出願人企業の開発事情を知ることができます。
 逆に、出願日が古すぎるものは、現状の開発事情と乖離している可能性があるため注意が必要です。

 

2.3 出願人

 出願人は、特許が成立すると特許権者になります。

 通常、発明者である従業員を雇う企業が特許出願人になります。

<職務発明とお金の話>
 従業員が企業の業務範囲において職務上おこなった発明は職務発明と言われる発明になります。
 企業はあらかじめ職務発明規定を設けておくことで、その発明をその企業のものとすることができます。
 その代わり、企業は従業員に対価を支払います。
 これは企業によって違ってきますが、例えば、出願時に1万円、特許になった場合に2万円、売上につながったときに売上貢献額の〇%といった感じの報奨金が挙げられます。報奨金で家を建てた人の噂を過去に聞いたことがあります。特許御殿が建つレベルというと相当な大ヒット商品を生み出したのでしょう。羨ましいですね。
 このような職務発明規定がある企業において、開発者は特許出願によって少なくとも出願報奨金はゲットできます。これは給料、ボーナス以外で、開発部門の従業員がもらえる唯一の(?)報酬です。ただ、報奨金が一定額以上になると税金が発生します(悲)。
 職務発明に興味のある人は特許法第35条などをご確認ください。

 企業同士の共同開発の成果物では、出願人が複数の場合もあります(共同出願)。

 従って、出願人が複数の場合は、どのような企業同士が連携関係にあるのか予測するのに役立ちます。

 また、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)では、特定の出願人(特定の企業)に絞って特許情報を検索することができます。

 特定の出願人に興味が湧いたら、その1社に絞って特許情報を取得し、開発の推移を確認することができますし、共同出願の有無や共同出願の相手を確認することもできます。

 

2.4 要約

 要約は発明の参考情報的な位置づけの書類です。

 その発明がどのようなものなのかを第三者に示すものなので、「発明の名称」を見て興味が湧いた場合や「発明の名称」だけではその内容がイメージできない場合には、要約が役に立ちます。

 単なる開発職探しの場合は、要約を見て、とても理解できそうにないと思ったら、その特許文献を見るのを諦めるというのも一つの手です。

 

2.5 請求の範囲

 特許権の権利範囲を定める部分であり、特許権を取得したい企業としては最も重要な部分であるといっても過言ではありません。

 権利範囲を定める部分であるということは、無駄な技術要素は記載されておらず、権利として不可欠な技術要素によって文章が構成されていると言えます。

 例えば、請求の範囲の記載が

技術要素Aと、技術要素Bと、技術要素Cとを備えた装置。

だとしましょう。

 この文章は、「AかつBかつC」という意味になります(下図の赤線部分が権利範囲になるイメージ)。

 

 この場合、特許権としては、AもBもCも欠かせません。

 自分の専門だと言える技術がこの発明構成要素のいずれかであれば、その発明はその技術開発に力を入れている可能性が高いと言えます。

 また、「請求の範囲」を検索対象として、自分の専門技術を検索ワードに検索して得られた特許文献は、自分の専門が活きる可能性が高いと言えます。

 

2.6 詳細な説明

 個々の特許情報を確認する上で詳細な説明(明細書)は必須です。

 下図は発明の詳細な説明のイメージです(特許文献によっては必ずしも全項目が記載されているとは限りません)。

 

 必須と言いましたが、全部読んだり、理解したりする必要はありません。

 自分にとって関係しそうな部分を拾い読みするというスタンスで十分です。

 赤枠部分は相対的に読みやすいパートです。発明の理解を助けてくれるので全部目を通しておきたい部分です。

 上記の「要約」、「請求の範囲」を含め、明細書の具体例は別記事(以下)に記載していますので参考にしてください。
 参考記事:特許情報検索の基本ガイド 3.6 個別情報の見方

 

 【技術分野】【背景技術】はその発明がどのようなジャンルに属するのか理解するのに役立ちます。

 

 【発明が解決しようする課題】はその発明が何を目的に開発されたものなのか(どのような性能を向上させたいか、など従来の技術の壁がどこにあるのか)を理解するのに役立ちます。ただし、審査上の扱いを考慮し、あえてぼやっと書かれている場合も多いです。

 

 【発明の効果】にはその発明が何を達成したのかが記載されており、その発明の意義を理解するのに役立ちます。

 

 【産業上の利用可能性】にはその発明がどのような分野で役立ち得るのか記載されており、新たな気づきが得られることもあります。

 

 緑枠部分は相対的に難解な表現が多いですが、読まなくていい部分ではないです。

 むしろ、自分の専門分野のに関係するのであれば、絶対に目を通しておくべき部分です。

 特に、【実施例】には開発内容が詳述されていますので、開発実務に有用な情報が記載されている可能性が高いです。

 

2.7 図面

 図面には発明の機能や構造などが描かれているため、その発明イメージをつかむのに非常に有用です。

 発明の名称と図面だけでもその発明がどのようなものなのか理解できてしまう場合が多いと思います。

 

3 どのような発明に特許が認められるのか?

 発明について特許庁に特許出願しただけでは特許は認められません。

(1)審査請求

 特許出願し、かつ、審査を請求する出願審査請求書という書類を提出することで、やっと審査してもらえます。この請求を出願日から3年以内にしないと、特許出願は取下げた扱いになります。

 

(2)審査

 審査官によって特許を認めてもよいと判断されなければなりません。

 特許法が定める拒絶理由(特許法第49条)に該当する場合は特許が認められません。

 拒絶理由の例を2つ挙げます。

 新規性違反(特許法第29条第1項)

 学会発表やプレスリリースされ新規でなくなった発明は原則、これに該当します。

 この拒絶理由があるため企業はリリース前に特許出願するのです。

 ただし、新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続きにより、発明を公知にした日から1年間は新規性が喪失しなかった取扱いを受けることができます。

 

 進歩性違反(特許法第29条第2項)

 先行技術に基づいて、その分野の人が容易に発明できたもの(要するに技術レベルが高くない発明)がこれに該当します。

 そのような発明に独占権を与えては社会の技術進歩の妨げになるという考えに基づくものです。 

 この拒絶理由が特許化にあたり、大きく立ちふさがる壁になることが多いです。

 

(3)審査期間

 審査請求したからといって、すぐに審査結果がでるものではありません。

 国内では毎年約30万件の特許出願がなされているです。長蛇の列に並ばなければいけません。

 特許行政年次報告書2024年版によると、権利化までの平均期間は13.8月です。

 https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2024/index.html

 ただし、上述(2.2)のように審査期間を短縮するよう請求する手段が所定の場合にはあります。

 

4 (おまけ)研究開発を特許につなげるためには?

 特許出願というのは、職務経歴書に書ける経験です。

 私も転職するとき、職務経歴書にどのような特許出願を何件したかを技術者としての成果物として記載しました。そして面接では当然のように触れられました。

 特許出願書類に発明者として載るのはモチベーションになりますし、業務実績として主張できることです。

 ここでは、特許につながるもの、そうでないものについて少し触れます。

 特許につながる前提として、試作したり、何回も実験や評価を繰り返すといった試行錯誤が挙げられます。

 その中で当初はうまくいかなかった問題を工夫して解決したことが特許化のポイントになることが多いです。

 以下に一例を挙げます。

 下図は、水切り穴のついたまな板の発明です(私が代理人となり出願した特許です)。

 

 ローテクな分野ですが、発明者の試行錯誤によってこの形態になりました。

 具体的には、水切り穴がかぎ穴の形状になっていること、円筒溝の周縁に傾斜がついていること、が発明の特徴として挙げられます(下図)。

 

 もし、思いつきレベルで、まな板に単に水切り穴をあけただけでは、類似の先行技術が存在した場合に、上記3の新規性違反か進歩性違反に該当してしまいます。そして打つ手なしでジ・エンドです。

 実際に、水切り穴を設けたまな板の先行技術はいくつもあり、1次審査結果では拒絶理由通知書という書類が届き、特許性が否定されました。

 これに対し、上記まな板は上記形状によって水切り効果が単なる水切り穴よりも効果がある点を主張し、最終的に特許が認められました。

 たとえローテクであっても、試行錯誤され、改良が施された発明は、出願書類の記載に深みを与ます。審査の1次結果で特許性が否定されても、反論や補正によって挽回できることが多いです。 

 新入社員当時、技術系の同期が「ずっと温めてきたすごいアイデアがある」と言ってきました。
 電気自動車(EV)時代の到来を見据えた発明とのことでした。
 EVだとエンジン音がしなくて歩行者が気づかず危ないから、代わりにエンジン音を出すエンジン音発生器を作ったら絶対に売れるはず、と自信満々でした。
 特許に関する知識を身につけたあと、その時のことを思い出して調べたら、同じアイデアの特許出願がその時の10年も前に出されていたのがわかりました。
 単なるアイデアレベルの発明で、そのまま特許が認めらるほどあまくはないのです(最後は元同期の単なる悪口?)。

 一方、よくある勘違いも紹介します。

 例えば、従来品を改良し、研究、開発によって、より高い効果が得られたとします(下図)。

 

 

 この結果をもって特許が取れるとは必ずしも言い切れません。

 例えば、この効果(上図縦軸)というのが、従来品の単なる設計変更の結果であったり、材料などの最適化の結果であった場合は、上述の進歩性違反に該当します。

 設計変更や最適化というのは、通常の研究、開発では当然のことだからです(その分野の技術者が当然にたどり着く技術に独占権を与えてしまっては、かえって技術の進歩の妨げになるという考えに基づきます)。

 研究室での研究成果として学会発表するのであれば、これでもOKという場合が多いのでしょうが、そのノリで特許出願しても特許は認められないです(大学の先生でもこのあたりを勘違いしていることがあります)。

 よりハイテクなことを研究、開発している人からすると、上のまな板の発明が特許になったと聞いたら、自分ならもっと楽に特許が取れるという気になるかもしれません。

 実際にはそうでもなかったりします。

 個人的には、過去データから当然予見できる成果に落とし込む帰納的な開発アプローチよりも、物理・化学法則を前提に仮説を立ててそれを検証し形にしていく演繹的なアプローチの方が特許になりやすいと感じます。

 

<出典>
 特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)に係る図:独立行政法人工業所有権情報館・研修館(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

<留意事項>
 当ブログでは、特許情報を正確かつ最新の状態でお伝えするよう努めていますが、情報の完全性を保証するものではありません。
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