今回は海運業界について取りあげます。
巨大な船でさまざまなものを運んでいることは広く知られていますが、その裏側でどのような技術開発が行われているか、外部からは見えづらいのが実情です。
これを特許情報からみていきます。
特許情報は企業の開発情報だと言えます。
実際にどのような開発がおこなわれたのか特許情報に記載されています。
今回は、海運大手3社の特許情報からどのような開発がおこなれてきたのか、また、開発にどのような専門性が求められるのか読み解きました。
結論(概要)は以下の通りです。
・機械系分野(海洋工学、機械工学、船舶工学、生産工学、航空工学など)
・情報系分野(ソフトウェア工学、データサイエンス、情報工学、制御工学、情報科学など)
・化学系分野(材料化学、化学工学など)
・電気系分野(電気工学など)
1 業界サーチの概要
特許情報は企業の開発情報だと言えます。
業界サーチは、業界における主要企業の特許情報から、その業界の企業がどのような開発をおこなってきたのか、客観的な情報を導き出そうとするものです。
特許分類(後述)からは、その特許に関わる開発の主な技術分野がわかります。
すなわち、その企業の開発職においてどのような専門性が求められるのか特許情報から推測できます。
2 海運業界
2.1 海運業界とは
ここでは、タンカーやコンテナ船などを使い、多種多様な貨物(資源、製品など)を海上輸送する業界を意図します。
2.2 サーチ対象
以下の海運大手3社を対象にしました。
(2)商船三井
(3)川崎汽船
2.3 使用プラットフォーム
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
3 サーチ結果
3.1 結果概要
開発イメージは下表のとおりです。
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モノの開発 |
サービスの開発 |
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個人向け |
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法人向け |
・船舶などの水中の構造物 |
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3.2 出願件数の推移
下図は海運大手3社の特許出願件数の推移です。

出願件数は全体として多くなく、また、出願年、企業によっても異なります。
ただ、一定程度の特許出願がおこなわれており、そのような出願につながる開発がおこなわれていることが推測されます。
3.3 開発の活発度
特許出願件数≒開発の活発度、だと考えるなら、
日本郵船>商船三井>川崎汽船
だと言えます。
3.4 主な開発分野
各社ごとに特許出願件数が多かった技術分野を以下に示します。
各社の出願上位3つの技術分野を抽出して並べています(特許出願されていても、その企業の出願件数上位に入っていない技術分野は除外されています)。
各記号は発明の技術分類をあらわします。

分類参照:FIセクション/広域ファセット選択(特許情報プラットフォーム)
船舶の構造などがこれに該当します。
全3社がこの分野から多く出願しています。
水に直接作用する推進器などがこれに該当します。
全3社がこの分野から多く出願しています。
堆積物からの物品の分離などがこれに該当します。
商船三井がこの分野から多く出願しています。
燃焼噴射ポンプの制御などがこれに該当します。
日本郵船がこの分野から多く出願しています。
制御装置などがこれに該当します。
川崎汽船がこの分野から多く出願しています。
3.5 海運大手3社の近年の開発トレンドと求められる専門の例
特許情報の出願年数が新しいほど、その企業の開発実態を反映していると言えます。
ここ10年のトレンドは以下のとおりです。
発明の主要な技術分野(筆頭FI)の出願年ごとの出願件数です。
出願件数が少ない技術分野は除外しています。
発明の説明は、必ずしも特許請求の範囲を完全に表現したものではありません。
関連する専門分野の例はあくまでイメージです。また、専門の概念レベルを必ずしも同一レベルで表示してはいません。
特許は難解ですが、GeminiやChatGPTなどのテキスト生成AIを活用すると簡単に解読できます。以下の記事を参考にしてください。
(1)日本郵船|開発トレンドと専門性

上図期間中、B63Bが最も多いです。次いで、G08G、G06Qが多いです。
具体例として船舶などの水中の構造物が挙げられます。
従来の技術では防汚塗料層の残存量が把握しにくく、再塗装の適切なタイミングを特定できないため、燃料消費の増大や費用・時間の浪費を招いていました。
これに対し、水に接する面にフジツボ等の付着を防ぐ防汚塗料層が設けられた構造物であり、防汚塗料層の一部には周囲の層よりも薄い既知の塗膜厚で形成されたモニター領域が設けられ、モニター領域は塗膜が溶け出すと下地の色が異なる層(例えば防食塗料層)が目視できるように構成されており、船舶の航行に伴い周囲の防汚塗料層が溶け出すとより薄いモニター領域の塗膜が先に溶けきって下地が露出し、その変化を視認または撮影により周囲の防汚塗料層の溶け出し量がモニター領域の既知の塗膜厚以上になったことを特定でき、また、モニター領域が複数の区画に分けられ、それぞれの区画の塗膜厚を段階的に異ならせておくことで溶けきった区画の数から防汚塗料層の溶け出しの程度を高精度で定量的に把握できるようになり、防汚塗料層の再塗装の適切なタイミングを特定できる構造物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6968997/15/ja
関連する専門分野の例:材料化学(防汚塗料の溶出メカニズムの解析、防汚塗料の加水分解速度や溶出速度の評価、モニター領域として形成する塗膜の既知の塗膜厚の許容誤差の決定および誤差が溶け出し量特定精度に与える影響の分析、防汚塗料と下地(防食塗料など)の色差に関する評価基準の設定)、海洋工学(船舶の運航実態と船体表面の環境条件に基づくモニター領域の最適な配置、形状および運用ロジックの確立、船舶の運航データ(航行時間、船速、航路、喫水線、トリム角)と船体表面の流体力学的解析、船体外板の各位置における防汚塗料の溶け出し速度のばらつきの予測、溶け出し速度の異なる複数の代表的な位置にモニター領域を複数配置する際の配置基準の検討、モニター領域の状態変化(下地の露出)を記録・撮影する際の点検頻度や画像認識装置の仕様の設計)
従来の航海計画作成・調整は船長の経験に依存しがちで、LNG船など特殊な考慮要素が多い船舶ではノウハウが少なく属人性が高い点が問題でした。
これに対して、航海計画や気象などの入力情報に基づき主機出力配分をはじめとする航海に影響を及ぼす各考慮要素について所定の計算を行う1つ以上の入れ替え可能なプログラムモジュールを備え、LNG船特有のカーゴ状態解析やクールダウン(C/D)計画、スロッシング予測などの特殊な考慮要素にも対応できるモジュール群を想定しており、これらのモジュールを所定の順序で実行させる制御部があり、あるモジュールの計算結果を次のモジュールやさらには前のモジュール(例えば、C/D計画が主機出力に影響する場合)への入力情報として組み込み、相互に連携・連関させながら計算処理を繰り返すこのモジュール構造と結果のフィードバックにより、船舶や貨物の特性差に柔軟に対応し、将来的なシミュレーション手法の修正や追加にも対応できる航海計画支援システムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6856740/15/ja
関連する専門分野の例:ソフトウェア工学(柔軟性・拡張性を持つモジュール構造とモジュール間の連携・データフローを制御するアーキテクチャの設計、モジュール管理部および制御部のコアロジックの設計、異なるモジュール間の入出力パラメータのデータインターフェースの標準化、計算結果をフィードバックする反復計算の収束判定ロジックや複数の計算要素(モジュール)を効率的に実行するためのタスクスケジューリング機構の検討、モジュールの動的な入れ替え・追加に対応するためのシステム設計)、機械工学(主機出力配分や船体運動、LNGのカーゴ状態などの物理現象を正確に再現・予測するための計算モジュール内のシミュレーションモデルの構築・検証、対象船舶の運動方程式や流体力学的特性に基づいた数理モデルの構築、LNGの気化発生量、燃料消費量、船速の関係を精度良く予測するための非線形モデルの構築、実船データや水槽試験データとの比較検証)
具体例として船舶において計測されたデータを管理するためのデータ処理装置が挙げられます。
従来、船舶の計測データはセンサの劣化などで信頼度が不明確となり、不正確な情報提供を防ぐために多数の船舶から継続的に送られるデータに対するクレンジング処理を効率的におこなう必要がありました。
これに対して、船舶に搭載され、継続的に計測される物理量を示す一連の計測データをデータ系列として取得する計測データ取得手段を備えるデータ処理装置であり、取得した特定のデータ系列に対し、所定の規則(例:データの信頼度NGが連続する回数など)に従ってその系列全体の信頼度を評価するデータ系列評価手段を有し、個々の計測データについても別の物理量の計測データ(例:風速計測データに対して風向データ)や複数のデータから生成したデータ(例:船速に対するプロペラ回転数の比率)に基づいてデータ信頼度を評価するデータ評価手段を組み込むことが可能であり、データ系列の評価結果を示す信頼度データを当該系列に含まれる複数の計測データそれぞれに対応付けてデータレコードとして生成し、送信手段を介して外部のサーバーなどの装置に送信することにより、データ利用者側が個々の計測データだけでなく、そのデータ系列全体の信頼度を参照できるため信頼性の低いデータを効率的に選別・除外することができて、データクレンジング処理の効率を高めることができるデータ処理装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6379278/15/ja
関連する専門分野の例:データサイエンス(計測データの品質を判定するための信頼度評価規則の設計、異なる種類の物理量(風速と風向、船速とプロペラ回転数など)間の相関関係の統計的分析、正常値の許容範囲や異常値を検出するための閾値の決定、時系列データの外れ値検出アルゴリズムやデータ系列の信頼度が低下する規則の統計的確立、実データへの適用による精度検証)、情報工学(複数の計測データの統合、信頼度評価の結果を付加したデータレコードを効率的に処理・送信するためのデータ処理装置の機能設計と実装、計測データ取得手段、対応付手段、データ評価手段、データ系列評価手段といった複数の処理機能の処理負荷を最適化する設計、異なるタイミングで計測された複数の物理量データを正確に対応付けるための時系列データ同期処理のロジック設計、評価結果を含むレコードの効率的なデータ構造の設計)
具体例として船舶における異常な事象の発生を防止するための装置が挙げられます。
従来のトラブル防止技術は専門家の予兆察知能力に依存していたため、エンジニアが見逃すとトラブルが発生する危険性がありました。
これに対して、船舶で発生する複数の事象間の因果関係および各事象の将来における発生可能性を示す指標を推定するための規則を含む因果関係データを取得し、また、この因果関係ツリーの末端に位置し、原因となる事象が示されない葉ノード(根源的事象)の発生に関連する船舶または環境の属性値を示す属性値データも取得する装置であり、推定手段がまず因果関係データで原因が示されない事象(葉ノード)に対して取得した属性値(例:主機負荷と排気ガス温度)やこれと基準値(例:過去の傾向を示す近似曲線)の比較結果を用いて、その事象の将来の発生可能性を示す指標(リスク指標)を推定し、次いで、この推定された葉ノードのリスク指標を用いて因果関係データが示す規則(例:加重平均や条件分岐)に従い、原因となる事象が示される内部ノード、そして最終的なトラブル事象である根ノードへとリスク指標を順次推定することにより、船舶における異常な事象の発生可能性が構造的に推定され、ユーザはトラブル防止のための対策を講じる効果が得られる装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6514793/15/ja
関連する専門分野の例:制御工学(船舶の各種機器や環境パラメータを計測・監視、異常の予兆事象が発生した際にトラブルを未然に防ぐための自動的な制御の設計・検証、推定されたリスク指標が閾値を超えた場合にトラブルの発生可能性を低下させるためのフィードバック制御ループの設計、ある機器の温度上昇(予兆事象)のリスクが高まった際、冷却水の流量や機器の負荷を自動的に調整するロバストな制御則の構築およびシミュレーションモデルや実機データを用いてその有効性の評価)、情報科学(大量の計測データや定義された因果関係データを効率的に処理して推定されたリスク情報をユーザーへ適切に通知・提示するためのインターフェースや通信プロトコルの設計・構築、船舶と陸上システム間で推定されたリスク指標や注目ノード情報などの通知データを低遅延でやり取りするための通信プロトコルとデータ形式の設計・実装、エンジニアがトラブルの発生可能性と原因を直感的に理解できるよう因果関係ツリーやリスクの経時変化グラフなどのユーザインターフェースの設計と実装)
(2)商船三井|開発トレンドと専門性

B63Bが最も多いです。次いで、B65Dが多いです。
具体例としてエタノール等を燃料とする貨物船が挙げられます。
従来の貨物船は化石燃料を使用しており、地球環境への影響が懸念される二酸化炭素の排出削減に対応できませんでした。
これに対して、複数の貨物艙を備え、燃料として環境負荷の低いエタノールまたはメタノールを主に使用する貨物船であり、燃料を蓄えるシングルハル構造の燃料タンクを船体の幅方向の最外側、具体的には貨物艙区画の両舷に配置し、燃料容量を確保し、推進装置にはコンパクトで舵の役割も兼ねるポッド推進器を船尾に採用し、その電力を船尾甲板上の発電機から供給し、居住区を持つブリッジが船首部分の甲板上に設けられることで船尾甲板のスペースを増やし、機関室を小型化して燃料タンクの配置を容易にし、船外から水を取り込むためのポンプには垂直に延びる没水型ポンプなどが用いられることで船内のデッドスペースを利用したポンプスペースに効率よく配置されることで、重油船と同等の積載量と出力を維持しつつエタノール等を燃料とする環境対応型の貨物船が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7749478/15/ja
関連する専門分野の例:船舶工学(船首ブリッジ、ポッド推進器、外側燃料タンクといった新たな配置要素が船体の強度、復原性、抵抗に与える影響の解析、船首ブリッジの設置や燃料タンクのシングルハル構造が船体強度基準を満たすことの検証、ポッド推進器と船尾形状の組み合わせについて推進効率が化石燃料船と同等以上になるための最適な船型の決定)、機械工学(エタノール/メタノールを燃料とする発電機や補機類の性能の評価、エタノールまたはメタノールを燃料とするディーゼル発電機やガスタービンの燃焼特性の解析、船上での運用に適した出力、排出ガス特性、メンテナンス要求の評価、燃料ガス(気化エタノール/メタノール)の再液化装置や安全弁を含む燃料供給システムの安全性(防爆対策や液化効率)の設計)
従来のFSRUは再ガス化や発電で海水を利用する際、冷熱・温排水を直接放出し、海洋生態系への影響が懸念されていました。
これに対して、液体状のガス(LNG)を貯蔵するタンクとそれを気化し陸上へ送出する手段を備えたFSRUとして機能する水上浮体式設備であり、LNGの冷熱と船外から取り込む水(海水など)および他の発電手段(ディーゼル発電機など)の廃熱という複数の熱源の温度差を利用してランキンサイクルによる発電を行うものであり、ランキンサイクル用媒体を加熱するため水取り込み手段から得た水(海水)で中間媒体を加熱し媒体を温める第1加熱手段が設けられており、ディーゼル発電機の冷却に用いる清水の廃熱を回収して媒体を加熱する第2加熱手段も装備され、ディーゼル発電機の冷却に用いた清水を船外水で冷却する冷却手段も設けられていることで温排水を直接船外に放出するのを抑制するこの多重熱回収システムにより、LNGの冷熱を最大限に利用するとともにディーゼル発電機の廃熱を回収してエネルギー効率を向上させ、熱や低温水をそのまま自然環境に放出することによる環境影響を抑制する水上浮体式設備が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6833908/15/ja
関連する専門分野の例:電気工学(ランキンサイクル発電手段や他の発電手段(ディーゼル発電機)によって生み出される電力をFSRU内の様々な機器に効率的かつ安定的に供給するためのシステム設計と制御、ターボ発電機やディーゼル発電機が出力する電力の系統連系(周波数・電圧の同期)システム設計、LNG昇圧ポンプ、BOG圧縮機、各種ポンプといった大容量の電動機の始動・運転制御に必要な電力系統の安定性の解析、最適な配電盤、保護継電器の仕様の決定、発電システム全体の電力需給バランスを監視・制御するための自動化ロジックの構築)、化学工学(FSRUの主機能であるLNGの貯蔵、気化およびBOG処理といったプロセスと熱回収システムとの統合設計、LNG気化器やリコンデンサーを含むガス処理プロセスに対し熱機関システムから必要となる熱量が安定的に供給されるための熱交換ネットワークの最適化、LNG冷熱を利用したBOG(ボイルオフガス)の再液化効率と第3熱交換器によるBOG圧縮機廃熱回収のバランスを物質収支とエネルギー収支の両面から評価、プロセス制御ロジックの設計)
具体例として線材コイルの梱包体が挙げられます。
従来の線材コイル梱包体は線材コイルを囲む構造や千鳥状配列によりコンテナへの搭載個数が増やしにくいという問題がありました。
これに対して、円筒状の線材コイルを軸が水平方向を向くように横向きに保持し、コンテナの床面に敷設された複数の台座桁とそれらを連結する横桁上に設置されるブロック状のコイル保持台を備えた梱包体であり、コイル保持台は線材コイルの変形時にもコンテナ床面との接触を防ぐV字状の凹部を有し、コイル保持台の前後面に平面視で波の頂点間がコンテナ幅方向を向く波形係合部を設けられ、この波形係合部が前後で隣接する他の梱包体の波形係合部と凹凸係合することで複数の梱包体が隙間なく直列に配置されてコンテナ幅方向(横方向)への移動が互いに規制され、さらに、線材コイルの上半面にはロールクッションが被せられ、コイル保持台に固縛されることでコイルを全周的に保護し、かつ隣接するロールクッション同士の当接により移動を規制することにより、線材コイルの保護機能を維持しつつコンテナ搭載効率を向上させることが可能となる線材コイルの梱包体が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7053972/15/ja
関連する専門分野の例:機械工学(輸送中の振動や衝撃に対する梱包体の力学的な設計およびコイル保持台、桁構造、係合部の材料選定と強度評価、船体動揺や荷役時の落下衝撃を想定した動的荷重解析、線材コイルを保護するためのコイル保持台(V字状凹部、内殻・外殻構造)の緩衝性能評価、最適な構造と材料の仕様(発泡ポリオレフィンの硬度、密度など)の決定、波形係合部が十分なせん断抵抗力を発揮させて変形・破損しないような連結強度の設計)、生産工学(梱包体のコンテナへの搭載(バンニング)作業、荷役効率および梱包体の製造・保管・リサイクルを含むライフサイクル全体のコスト効率と作業安全性の評価・設計、波形係合部や桁緩衝材の仕様が梱包体同士の位置決め精度とコンテナ幅方向の隙間を詰める作業時間に与える影響の分析、最適なバンニング手順(搭載方法)の確立、梱包体の構成材料(ビーズ法発泡ポリオレフィンなど)のリサイクル容易性と製造に必要な金型・設備投資について経済的な実行可能性の評価)
(3)川崎汽船|開発トレンドと専門性

B63Hが最も多いです。
具体例として船舶推進用カイトシステムにおけるポッドの自動発着と制御のための多位置可動型取付構造物が挙げられます。
従来の牽引カイトシステムではポッドの発着時に人による誘導や目視確認が必要でポッドの大型化が困難でした。
これに対して、船舶に接続された牽引カイトのポッドを自動で発進および帰着させるための取付構造物であり、水平面を画定するフレーム、アンビリカル(牽引ケーブル)を接続するための滑車と追動アーム、ポッドを保持する支持部を含み、支持部は上部プレートと下部プレートの少なくとも2枚が重ねられ、弾性変形可能な手段(バネなど)によって接合されており、これによりポッドの発進・帰着時の衝撃を緩和し、張力変化に追随でき、また、支持部はアンビリカルを誘導・捕捉するための手段を備え、支持部がエレクターアームによってフレームに接続され、このアームが収納位置、発進位置、巡航位置、捕捉位置)、帰着位置の間をフレームに対して可動であることにより、ポッドの動きを自動で追尾し、巡航時にはアンビリカルの運動範囲からの退避によってカイトの効率低下を防ぎ、安全かつ自動化された運用を可能にする取付構造物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2025-500807/11/ja
関連する専門分野の例:機械工学(エレクターアーム、滑車、追動アームなどの複数の駆動要素からなるシステムの運動学および動態制御ロジックの設計・検証、エレクターアームの回転角、滑車のシャーシの関節角度などのセンサ情報に基づき波浪や風の影響下でのポッドおよびアンビリカルの張力変化を考慮したフィードバック制御システムの構築、アンビリカルを捕捉位置で確実に誘導・中央合わせしてポッドを支持部に衝撃なく帰着させるための協調制御アルゴリズムの設計)、航空工学(牽引カイト(凧)の飛行特性、ポッドの空気抵抗およびアンビリカルの運動範囲の解析、ポッドの発進・帰着プロセスにおける空気力学的な安定性の評価、カイトの牽引効率を最大化するための取付構造物の巡航位置からの退避距離やポッド形状に関する空力学的要件の定義、カイトとポッド、アンビリカルを含むシステム全体の空力弾性シミュレーション、発進・巡航・帰着の各段階における空力荷重、揚力、抗力の予測、構造物がアンビリカルの運動範囲(錐体)から退避した際のカイトの空力効率の向上効果の評価)
(4)まとめ
船体、船舶に係る情報処理、積載物の効率化などに関する出願が確認されました。
このような出願につながる開発がおこなわれていることが推測されます。
機械系、情報系の専門性が求められる場合が多いです。
ただし、出願件数はいずれも多くはなく、他企業から名義変更された出願もあるため、どこまで社内開発がおこなわれているのかという問題があります。
3.6 共同出願人との開発例
共同出願人からはビジネス的結びつきがわかります。
技術によっては、開発をアウトソーシングしている可能性もあります。
各社の共同出願人(筆頭出願人)は以下のとおりです。
(1)日本郵船

詳細の説明は省略します。
(2)商船三井

(3)川崎汽船

詳細の説明は省略します。
(4)上記(1)~(3)(共同出願人)のまとめ
共同出願は多くないです。
4 開発に求められる専門性
上記3で示した特許分類≒開発人材に求められる専門性、だと仮定します。
上記各特許情報には以下の人材が関わっていると言えます。
・機械系分野(海洋工学、機械工学、船舶工学、生産工学、航空工学など)
実環境下における流体力学的条件のモデリングと予測、構造物の部位ごとの環境負荷(摩耗、溶出速度)のばらつき解析、モニタリングシステムの配置最適化および運用ロジックの設計、船舶運動・エネルギー変換に係る物理現象の数理モデル構築、計算モデルの精度を保証するための実測データに基づくキャリブレーションと検証、新型燃料タンクおよび機器配置による船体構造強度と復原性の解析、ポッド推進器採用に伴う船尾形状と流体力学的性能の最適設計、エタノール/メタノールを燃料とする主発電機および補機類の燃焼・出力特性の評価、衝撃・振動荷重に対する梱包体(桁、保持台)の動的応答解析、コンテナバンニング作業の時間計測と動作分析による搭載プロセスの設計、多自由度可動機構に対する高精度な位置と速度の動的制御ロジックの設計、高高度、高速域におけるカイト翼やテザーの空力弾性特性の解析、強風や乱流に対するカイトシステムの空力的な安定性および飛行制御法の設計などが求められます。
・情報系分野(ソフトウェア工学、データサイエンス、情報工学、制御工学、情報科学など)
高拡張性・高柔軟性を持つシステムアーキテクチャの設計、異種計算モジュール間データインターフェースの標準化と実装、複雑な計算フローにおけるタスクスケジューリングおよび制御ロジックの設計、複数系列の物理量相関に基づくデータ異常性検出基準の設計、時系列データにおけるセンサ特性劣化に伴う信頼度低下傾向のモデリング、多種多様な時系列データの同期・対応付けアルゴリズムの設計、信頼度評価結果付加後のデータレコード構造および転送プロトコルの最適化、リスク指標に基づく予防保全・自動制御戦略の設計、異常事象発生時における制御アクションの有効性・安定性の検証、推定されたリスク情報の可視化および通知に関するヒューマンインターフェースの設計、膨大な計測データと因果関係データを扱うためのデータ処理・格納アーキテクチャの検討、などが求められます。
・化学系分野(材料化学、化学工学など)
機能性材料の反応速度論的・物性的特性の定量化、材料特性の環境依存性および劣化メカニズムの解析、機能性発現のための多層構造における材料間適合性の設計、LNG再ガス化およびBOG処理プロセスにおける熱交換ネットワークの最適化、極低温流体(LNG)と中間媒体間の伝熱効率と熱交換器の設計・選定、温排水・低温排水の排出抑制を考慮したプロセス全体の物質収支およびエネルギー収支の検討、などが求められます。
・電気系分野(電気工学など)
複数発電手段の系統連系と統合制御システムの設計、LNGポンプや圧縮機などの大容量電動機負荷に対する電力安定供給の検討、極低温・海洋環境下における電気機器の保護・絶縁システムの解析などが求められます。
ただし、上記特許出願にあたっては、共同出願者やその他事業者に技術をアウトソースしている可能性もあります。
5 まとめ
船体、船舶に係る情報処理、積載物の効率化などに関する出願が確認され、このような出願につながる開発がおこなわれていることが推測されます。
ただし、他業界に比べて出願件数は少なめであり、どこまで社内開発がおこなわれているのか判断には注意が必要です。
関連する大学の専攻として、主に機械、情報に関する研究分野が挙げられます。
また、化学や電気も関係する可能性があります。
本記事の紹介情報は、サンプリングした特許情報に基づくものであり、企業の開発情報の一部に過ぎません。興味を持った企業がある場合は、その企業に絞ってより詳細を調べることをおすすめします。
参考記事:1社に絞って企業研究:特許検索して開発職を見つける方法4
以上、本記事が少しでも参考になれば幸いです。
<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・会社四季報 業界地図2024年、2025年版 東洋経済新報社
<留意事項>
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