スマートフォンやインターネットなど生活に不可欠となった基盤を支える通信業界をとりあげます。
現在、スマートフォンなどの通信端末で通話だけでなく動画視聴、リモート会議など、さまざまなことができるようになりました。
ただ、通信端末自体は通信事業者とは異なるメーカーが作っているものですし、IoT、 5G/6Gなどの通信技術の裏側で一体どのような開発がおこなわれているのか、私たちからはなかなか認識することができません。
これを特許情報からみていきます。
特許情報は企業の開発情報だと言えます。
実際にどのような開発がおこなわれたのか特許情報に記載されています。
今回は、携帯電話事業者4社の特許情報からどのような開発がおこなれてきたのか、また、開発にどのような専門性が求められるのか読み解きました。
結論(概要)は以下の通りです。
・情報・通信系分野(情報工学、情報科学、情報通信工学、ソフトウェア工学など)
・電気系分野(電気工学、電子工学など)
・その他(金融工学、経営工学など)
1 業界サーチの概要
特許情報は企業の開発情報だと言えます。
業界サーチは、業界における主要企業の特許情報から、その業界の企業がどのような開発をおこなってきたのか、客観的な情報を導き出そうとするものです。
特許分類(後述)からは、その特許に関わる開発の主な技術分野がわかります。
すなわち、その企業の開発職においてどのような専門性が求められるのか特許情報から推測できます。
2 通信業界
2.1 通信業界とは
ここでは、通信設備により個人や企業に対し音声通話、データ通信、インターネット接続などの電気通信サービスを提供する業界を意図します。
2.2 サーチ対象
以下の携帯電話事業者4社を対象にしました。
(2)KDDI
(3)ソフトバンク
(4)楽天モバイル
2.3 使用プラットフォーム
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
3 サーチ結果
3.1 結果概要
開発イメージは下表のとおりです。
|
モノの開発 |
サービスの開発 |
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個人向け |
・次世代通信端末 ・携帯端末ケース |
・仮想空間におけるユーザー適格性の保証 |
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法人向け |
・資金管理サーバ |
・通信パラメータの最適化 |
モノの開発としては、例えば、携帯端末や各種制御システムが挙げられます。
サービスの開発としては、例えば、仮想空間におけるサービスやログイン認証サービスなどが挙げられます。
モノの開発が同時にサービスの開発になっている場合も多いです。
3.2 出願件数の推移
下図は携帯電話事業者4社の特許出願件数の推移です。

上図期間ではNTTドコモが最も多いですが、直近ではKDDIと逆転する年もあります。
また、ソフトバンクの出願件数は直近で増加しています。
いずれの企業も出願は一定数あり、技術開発が継続しておこなわれていることが推測されます。
3.3 開発の活発度
特許出願件数≒開発の活発度、だと考えた場合、
NTTドコモ>KDDI>ソフトバンク>楽天モバイル
です。
ただし、出願件数は年によって変動しており一概には言えません。
3.4 主な開発分野
各社ごとに特許出願件数が多かった技術分野を以下に示します(上表では1000件を上限にあらわしています)。
各社の出願上位3つの技術分野を抽出して並べています(特許出願されていても、その企業の出願件数上位に入っていない技術分野は除外されています)。
各記号は発明の技術分類をあらわします。

分類参照:FIセクション/広域ファセット選択(特許情報プラットフォーム)
データ処理装置などがこれに該当します。
全社この分野から多く出願しています。
商業管理などを支援するシステムなどがこれに該当します。
KDDIがこの分野から多く出願しています。
無線による信号の伝送技術などがこれに該当します。
NTTドコモとソフトバンクとがこの分野から多く出願しています。
データ転送方式などがこれに該当します。
KDDIと楽天モバイルがこの分野から多く出願しています。
無線接続に関する技術などがこれに該当します。
NTTドコモ、ソフトバンク、楽天モバイルがこの分野から多く出願しています。
3.5 携帯電話事業者4社の近年の開発トレンドと求められる専門の例
特許情報の出願年数が新しいほど、その企業の開発実態を反映していると言えます。
ここ10年のトレンドは以下のとおりです。
発明の主要な技術分野(筆頭FI)の出願年ごとの出願件数です。
出願件数が少ない技術分野は除外しています。
発明の説明は、必ずしも特許請求の範囲を完全に表現したものではありません。
関連する専門分野の例はあくまでイメージです。また、専門の概念レベルを必ずしも同一レベルで表示してはいません。
特許は難解ですが、GeminiやChatGPTなどのテキスト生成AIを活用すると簡単に解読できます。以下の記事を参考にしてください。
(1)NTTドコモ|開発トレンドと専門性

上図期間中、最も多いのがH04Wです。次いで、G06F、G06Qが多いです。
具体例として中継装置を搭載した飛行体の高度決定装置が挙げられます。
従来は飛行体(例えば気球)に中継装置を搭載して通信障害を解消する方法がありましたが、良好な通信品質を確保するための適切な高度設定が考慮されていませんでした。
これに対し、第1無線信号(例えばLTE)と第2無線信号(例えばWi-Fi)の中継をおこなう飛行体の高度をそれぞれの信号の通信品質に基づいて決定する装置、具体的には第1、第2の無線信号の通信品質を測定し、それぞれの信号が最も良好となる高度を特定し、両方の信号品質が一定以上となる範囲内で第1信号の品質が最も高くなる高度を飛行体の最適な高度として決定することで通信品質を確保する高度決定装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7309981/15/ja
関連する専門分野の例:情報通信工学(測定された通信に基づく高度算出アルゴリズムの設計、無線通信システムの設計)、電気工学(軽量かつ高効率な中継装置の選定)
従来のLTEではセカンダリセル(SCell)のアクティベーションにMAC制御要素を用いており、数十msの遅延が発生していました。一方、高速なアクティベーション/ディアクティベーション制御が求められるNR(新しい無線:5G向けの規格)では、下り制御情報(DCI)を利用した制御が検討されていますが、具体的な制御方法が確立されていませんでした。
これに対して、端末が下り制御チャネルのモニタをおこなわないSCellに関する情報をセルグループ単位で指示するDCIを受信し、そのDCIに基づいてセルグループに含まれる1以上のSCellにおいて下り制御チャネルのモニタをおこなわないように制御することでDCIを利用したアクティベーション/ディアクティベーション制御を適切におこない、高速で効率的なSCell制御をおこなう技術が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2023-025154/11/ja
関連する専門分野の例:情報通信工学(SCellのアクティベーション/ディアクティベーションを指示するためのDCIフォーマットの設計)、ソフトウェア工学(端末向けソフトウェアの設計、評価)
従来のLTEシステムではセル固有参照信号(CRS)を用いて下りデータチャネルを復調するため送信電力が一定であると想定されていました。しかし、将来の5Gシステムでは基地局の高密度化により干渉が増大し受信品質が劣化する問題があります。
これに対して、復調用参照信号(DM-RS)を用いて受信品質を測定し、その測定結果に基づいてデータチャネルの送信電力制御に関する情報であるTPCコマンドの送信を制御し、また、TPCコマンドの送信に関する基準値の変更コマンドを受信し、その変更コマンドに基づいて基準値を変更することでTPCコマンドの精度を向上させることで各ユーザ端末において所要の受信品質を満たすように送信電力を制御して下りリンク受信品質を改善する技術が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2022-183303/11/ja
関連する専門分野の例:情報通信工学(DM-RSの配置、シーケンス、送信電力などの最適化)、ソフトウェア工学(端末向けソフトウェアの設計、評価)
従来、ネットワーク分析はネットワーク全体の統計情報に基づいておこなわれていましたが、5Gではネットワークスライスごとに異なる特性を持つため、より詳細な分析が求められています。
これに対して、機械学習モデルを用いてネットワーク分析をおこないます。ネットワーク分析コンポーネントは分析に必要なパラメータ(サブ・ネットワークの識別子など)を指定して機械学習モデルコンポーネントにモデルを要求し、機械学習モデルコンポーネントは要求されたパラメータに合致する機械学習モデルを選択してネットワーク分析コンポーネントに提供し、ネットワーク分析コンポーネントは提供された機械学習モデルを用いて分析をおこない、その結果を分析データ・リポジトリ機能部に保存することで、ネットワークスライス(※)ごとに最適化された機械学習モデルを使用できネットワーク分析が可能な技術が開発されています(以下URL)。※1つのネットワークインフラを複数の仮想的なネットワークに分割する技術
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2023-527499/11/ja
関連する専門分野の例:情報通信工学(各ネットワークスライスのサービス内容、トラフィック量、QoS要件などの特性の分析)、情報科学(機械学習モデルの設計、訓練)
具体例として情報を適切に表示することができる携帯端末が挙げられます。
従来、携帯端末の画面にコード情報(QRコードなど)と通知情報(キャンペーン情報など)を同時に表示する場合、通知情報がコード情報を隠してしまいユーザーがコード情報を利用した処理(決済など)をおこないにくいという問題がありました。
これに対して、表示部が所定条件(例えば、画面サイズが小さい)を満たす場合にはコード情報の下端から所定マージンをあけた位置に通知情報を表示することでコード情報と通知情報を同時に表示しつつユーザーがコード情報を利用した処理をスムーズにおこなえるようにし、通知情報が大きすぎて表示部に収まらない場合にはユーザー操作に応じて通知情報をスクロール表示したり縮小表示したりすることで通知情報の全体を閲覧できるようにすることでコード情報と通知情報を適切に表示する携帯端末が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7450010/15/ja
関連する専門分野の例:情報科学(通知情報の表示位置や表示方法を動的に制御するアルゴリズム設計)、ソフトウェア工学(表示アルゴリズムの実装、評価)
具体例として資金管理サーバが挙げられます。
従来の技術では金融機関のシステム負荷が増大する問題がありました。
これに対して、金融機関のシステムとは独立してユーザーが所望する複数の資金使途に対応する目的別貯金を管理する資金管理サーバ、具体的には、金融口座の残高から目的別貯金の貯金額を控除した余剰金を管理し、余剰金が将来マイナスになる可能性がある場合に警告を表示することでユーザーが資金管理を効率的におこない金融機関のシステム負荷を軽減する資金管理サーバが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7473618/15/ja
関連する専門分野の例:情報科学(ユーザーが直感的に操作できるインターフェースの設計)、金融工学(資産運用シミュレーションの精度を高めるための金融モデルの設計)
(2)KDDI|開発トレンドと専門性

G06Q、G06Fが多いです。次いでH04Wが多いです。
具体例として情報処理装置が挙げられます。
従来技術では仮想空間上で提供されるサービス(アバターを利用するサービスなど)においてユーザの適格性が十分に保証されない場合がありました。
これに対して、ユーザが実空間で受けるサービスに関する資格情報を資格保有者の識別情報に関連付けて記憶し、仮想空間上でサービス提供を求める際にその資格情報を確認し、その結果をサービス提供側に通知する仕組みにより仮想空間上でのユーザサービスの適格性を向上させる情報処理装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2024-042871/11/ja
関連する専門分野の例:情報科学(ユーザーが直感的に操作できるインターフェースの設計)、ソフトウェア工学(資格情報管理システムと仮想空間プラットフォームの連携)
近年、携帯端末から収集した位置情報などの個人情報を加工し個人を特定できないデータとして活用する情報提供サービスが普及しています。しかし、従来の技術ではユーザが自分の情報がどのように利用されているかを検証する手段がありませんでした。
これに対して、複数のユーザの情報を集計して生成したユーザ総合情報(個人を特定できない)とその情報を提供したユーザ群を関連付ける情報をブロックチェーンに記録し、取引先が閲覧可能にすることでユーザは自分の情報がどのユーザ総合情報に利用されてどのように利用されているかを検証できる情報処理装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7393484/15/ja
関連する専門分野の例:情報科学(ユーザが自分の情報利用状況を把握するためのNFTの設計)、情報工学(ユーザのプライバシーを保護するための対策の検討)
具体例としてWebブラウザを搭載した不特定多数のデバイスを用いて分散コンピューティングを実現する分散コンピューティング制御システムが挙げられます。
従来技術では分散コンピューティングに参加するデバイスのOSやプロセッサアーキテクチャが異なる場合、共通の実行環境を構築することが困難でした。また、各デバイスに個別にエージェントソフトウェアをインストールする必要があり管理が煩雑でした。
これに対して、各デバイスのWebブラウザ上でエージェント機能(分散処理の仲介的な機能)を起動し、そのエージェントが分散処理プログラムを取得してWebブラウザのサンドボックス環境で実行することにより、OSやプロセッサアーキテクチャが異なるデバイスでも共通の分散処理プログラムを実行できる分散コンピューティング制御システムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2023-123244/11/ja
関連する専門分野の例:情報工学(多数のデバイスにジョブを分散し、処理結果を収集・集約するシステムを構築)、電気電子工学(Webブラウザを搭載したデバイス上でエージェント機能を効率的に実行するための組み込みシステムの設計)
従来は認証アプリをインストールした端末が利用不能になるとログインできなくなる問題や認証アプリを無効化する方法に十分な認証強度がないという問題がありました。
これに対して、認証サーバが認証アプリへのプッシュ通知に対する応答がない場合に追加認証シーケンスを無効化する仕組みが挙げられます。具体的には、ログイン時に認証端末の認証アプリに対してプッシュ通知を送り、一定時間応答がない場合に追加認証を無効化してログインを許可することで認証端末の紛失・故障時にも安全にログインできる認証システムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2023-084795/11/ja
関連する専門分野の例:情報工学(安全かつ使いやすい多段階認証システムの設計)、情報通信工学(システムの脆弱性の洗出し、不正アクセス対策の検討)
具体例としてセルラ通信システムにおける通信パラメータの変更技術が挙げられます。
従来はConfigured Grant (CG) や Semi-Persistent Scheduling (SPS) といった無線リソースの定期割り当て機能においてトラフィックパターンに合わせたパラメータ最適化が十分でなく、複数のトラフィックパターンが混在する状況下では無線リソースの利用効率が低下する問題がありました。
これに対して、端末装置がバーストデータの先頭パケットを認識し、その発生周期とジッタを特定して基地局装置へ報告し、基地局装置がこの情報に基づいて CG や SPS のパラメータを最適化することでトラフィックパターンに応じた適切な通信制御を実現する技術が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2024-047106/11/ja
関連する専門分野の例:情報通信工学(トラフィックパターンに応じて CG や SPS のパラメータを動的に調整する技術の設計)、電気工学(アプリケーションのトラフィックパターンを分析するための信号処理の設計)
(3)ソフトバンク|開発トレンドと専門性

H04Wが最も多いです。次いで、G06F、G06Qが多いです。
具体例として5Gコアネットワークにおいて端末が圏外に位置することを従来技術より迅速に把握するための情報処理装置が挙げられます。
従来は端末が圏外に位置しているかどうかをコアネットワークが管理するタイマー(T3512タイマー)が満了するまで把握できませんでした。
これに対して、端末がアイドル状態(コアネットワークとの接続が確立されていない状態)にある時間が閾値を超えた場合にはコアネットワークから端末に応答を要求するポーリングメッセージを送信させ、応答がない場合には端末は圏外に位置すると判定することにより端末との通信の可否を早期に把握する情報処理装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7436586/15/ja
関連する専門分野の例:情報通信工学(端末の状態管理やポーリングメッセージの送信制御などの具体的方法の検討)、情報工学(端末のアイドル状態や接続状態などの状態を効率的に管理するためのデータ構造やアルゴリズムの設計)
従来は端末が複数のMIMO(Multiple Input Multiple Output)方式(例えば2×2 MIMOと4×4 MIMO)(※)に対応していても基地局は端末がどのMIMO方式を利用可能かを正確に把握できませんでした。このため、常に最適なMIMO方式が選択されず無線リソースの利用効率が低下する可能性がありました。
これに対して、端末が利用可能なMIMO方式に関する情報(例えば、最大レイヤ数、対応MIMO方式の種類、端末のタイプ情報)を基地局に通知します。これにより基地局は端末の能力を正確に把握し最適なMIMO方式を選択して通信をおこなうことで無線リソースの利用効率を向上させる技術が開発されています(以下URL)。
※ 無線通信において送信側と受信側の双方で複数のアンテナを使い通信品質を向上させる技術
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7630720/15/ja
関連する専門分野の例:情報通信工学(最適なMIMO方式の選択方法や信号処理方法の検討)、情報工学(端末が利用可能なMIMO方式に関する情報を効率的に基地局に通知するためのデータ構造(例えば、ENUM型、ビットマップ型など)を設計)
具体例として分類対象となるデータを分類する情報処理装置が挙げられます。
従来は分類クラス数が増加すると分類モデルのサイズが大きくなり計算機リソースが限られる環境では詳細な分類が困難でした。
これに対して、複数のクラス特徴量の類似度に基づいて階層的にクラスタリングされたクラス特徴量に基づき上位クラスを生成し、分類対象データを上位クラスの下位に属する下位クラスに分類する分類モデルを上位クラスごとに生成することで、個々の分類モデルのサイズを抑えつつ階層的な分類構造により詳細な分類を実現する情報処理装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2024-164562/11/ja
関連する専門分野の例:情報科学(階層的な分類に適した機械学習モデルの設計)、情報工学(設計された機械学習モデルの実装)
具体例として自動販売機管理システムが挙げられます。
従来の自動販売機管理システムでは担当者の経験や勘に頼った訪問計画が多く、人手不足や業務負荷が高く、需要予測に基づいた商品補充計画も十分ではないといった問題がありました。
これに対して、過去の販売履歴データに基づいて機械学習を用いて将来の需要を予測し、訪問する自動販売機を選定し、複数の担当員(ルートマン)への割り当てと訪問ルートを最適化します。具体的には、利益と機会損失を考慮した訪問日選定やルートマンの勤務データを加味した割当・ルート作成によって効率的な訪問計画を実現するデータ処理装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7611447/15/ja
関連する専門分野の例:情報科学(過去の販売履歴データや気象データなどの分析、需要予測モデルの設計)、経営工学(訪問効率や顧客満足度などを定量的に評価する指標の設計)
(4)楽天モバイル|開発トレンドと専門性

H04Wが最も多いです。次いで、H04L、G06Fが多いです。
具体例として無線通信制御技術が挙げられます。
従来の中継局は固定設置であり移動する通信端末への柔軟な対応が困難でした。移動中継局を導入したとしても多数の通信セル(通信できる範囲)を通過するため拡張すべきセル選択が課題となります。
これに対して、中継局の移動情報に基づき拡張すべき通信セルを地上・非地上問わず選択します。特に、両方の拡張が可能な場合は非地上通信セルを優先することで広範囲な通信エリアを効率的にカバーし、移動端末への柔軟な通信環境を提供する通信制御装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7598487/15/ja
関連する専門分野の例:情報通信工学(最適な拡張セルを選択するアルゴリズム設計)、電気工学(マルチパスフェージングや干渉を抑制し通信品質を向上させる信号処理技術の設計)
従来はTNとNTNが重複するエリアで電波干渉が発生し通信品質が低下する問題がありました。また、NTNは地上基地局に比べて通信遅延が大きいためTNとNTNの連携が困難でした。
これに対して、重複エリアにおいてTNまたはNTNの信号強度を意図的に低下させることで干渉を低減し、NTNの通信遅延を考慮してTNとNTNのタイミングを同期させることで効率的なデータ伝送をおこない、TNとNTNが共存する環境下でも安定した通信サービスを提供できるようにする通信制御装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7534554/15/ja
関連する専門分野の例:情報通信工学(TNとNTNの干渉を効率的に低減するアルゴリズムの設計)、電気工学(干渉環境下でも信号を正確に受信できる信号処理技術の検討)
具体例としてネットワーク異常の対応技術が挙げられます。
従来、機械学習モデルを用いてネットワーク異常の原因を判定する場合、異常が複雑であるため判定精度が低いという問題があった。
これに対して、ネットワークに生じる障害の原因種類ごとに複数の原因推定モデルを設け、取得されたネットワーク情報に応じて適切なモデルを選択することで各モデルが特定の異常原因に特化でき、汎用モデルに比べて判定精度が向上したネットワークシステムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7620163/15/ja
関連する専門分野の例:情報通信工学(ネットワーク異常の原因種類に応じた機械学習モデルの設計)、情報科学(ットワーク情報を効率的に収集・蓄積・分析する基盤の構築)
具体例として携帯情報端末ケースが挙げられます。
既存の携帯情報端末ケースは端末を立てかける支持部が縦表示専用もしくは横表示専用であり両方に対応できないという問題がありました。
これに対して、長方形の内面を持つ裏面被覆部と長辺に沿って延びる帯状の支持部を備えた携帯情報端末ケースで、支持部が中央の折り曲げ部を境に折り畳み可能な構造を持ち、第1状態(帯状)から第2状態(突形状)へ切り替わり、第2状態では折り曲げ部が裏面被覆部外面より外側に突出することで端末を縦置き・横置きいずれの場合でも支持できる携帯情報端末ケースが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2023-065013/11/ja
関連する専門分野の例:機械工学(支持部の構造設計)、人間工学(端末の保持角度、操作性、安定性などに関するユーザーニーズの調査)
(5)まとめ
情報の送受信などの通信品質の維持、向上に関わる技術など情報通信に関わる出願が多いです。
これらの通信技術の出願につながる開発が日々おこなわれていることが推測されます。
3.6 共同出願人との開発例
共同出願人からはビジネス的結びつきがわかります。
今回の対象企業は共同出願の割合は多くはなく開発を自社完結させている場合が多いと予想されますが、技術によっては開発をアウトソーシングしている可能性もあります。
技術によっては、開発をアウトソーシングしている可能性もあります。
各社の共同出願人(筆頭出願人)は以下のとおりです。
また、グループ企業や現存しない企業については、共同出願人としてのカウントから除外している場合があります。
(1)NTTドコモ

共同出願の例として無線基地局装置が挙げられます。
従来の無線基地局装置では制御管理部が単一で動作しており、負荷集中による処理遅延や抜けが発生してシステム全体のパフォーマンス低下や機能停止を引き起こす可能性がありました。
これに対し、2つの制御管理部(運用系と待機系)を備え、運用系制御管理部の負荷が所定値を超えた場合に定常的に継続する処理を待機系制御管理部に振り分けることにより運用系制御管理部の負荷を軽減して処理遅延や抜けを防止し、待機系制御管理部は運用系から処理を引き継ぎ実行することでシステム全体の安定稼働を可能にする無線基地局装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2015-050638/11/ja
従来の移動局では受信信号の品質(RSRQなど)を測定する際、システム帯域幅全体を測定する必要があり回路規模や消費電力が増大するという問題がありました。また、異なる帯域幅のセルが隣接する場合に一部の周波数帯域しか測定できず、適切な品質測定ができないという問題もありました。
これに対し、受信信号をダウンサンプリングして共通のサンプリングレートに変換し、その信号に基づいて電力強度を算出することで測定帯域幅を狭め、回路規模と消費電力を削減しつつ異なる帯域幅のセルが隣接する場合でも品質測定できるようにした受信品質測定装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2014-160974/11/ja
従来の無線通信システムでは周波数帯域の割当・解放要求が発生するたびに接続中の全移動局に対して周波数帯域幅の計算結果を反映させていたため、不要な制御信号の増加や通信断が発生し、無線リソースの有効活用が妨げられるという問題がありました。
これに対し、移動局の受信信号品質が良いほど、また、基地局の空き帯域割合が高いほど、移動局に割り当てる周波数帯域幅の上限値が大きくなるように調整される周波数帯域割当装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2013-085282/11/ja
(2)KDDI

共同出願の例としてOFDM(デジタル通信における変調方式の一つ)信号復調装置における伝搬路周波数特性のリアルタイム観測技術が挙げられます。
従来のOFDM信号復調装置では伝搬路の周波数特性を観測するために高価な掃引型スペクトラムアナライザーが用いられており、リアルタイムな観測が困難である問題がありました。
これに対し、FFT(高速フーリエ変換)出力信号からサブキャリアの振幅値を演算し、記憶・読み出しをおこなう観測用信号変換部を設けることで高価なスペクトラムアナライザーなしにOFDM信号のシンボル毎の周波数特性をリアルタイムに測定する装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2008-301528/11/ja
従来のデジタル放送受信機では放送波の改竄を検知するために一定間隔で挿入される検証パケットに含まれるハッシュ値と受信したパケットから生成したハッシュ値を照合する技術が用いられていました。しかし、検証パケットが受信できない場合、例えば不正な電波により正規の放送波が妨害された場合、受信機は放送波の正当性を判断できず視聴者に適切な情報を提供できないという問題がありました。
これに対し、検証パケットを受信してから次の検証パケットを受信するまでの時間を計測し、その時間が所定時間を超えた場合に当該区間を検証不可能と判定することで検証パケットが受信できない状況下でも放送波が不正である可能性を認識し、視聴者に適切な情報を提供することが可能となる受信装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2009-081658/11/ja
(3)ソフトバンク

件数が少ないので詳細は省略します。
(4)楽天モバイル
他社が筆頭出願人の共同出願は確認できませんでした。
(5)上記(1)~(4)(共同出願人)のまとめ
共同出願においても、無線通信に関わるものなど情報通信に関わる出願が多いです。
4 開発に求められる専門性
上記3で示した特許分類≒開発人材に求められる専門性、だと仮定します。
上記各特許情報には以下の人材が関わっていると言えます。
・情報・通信系分野(情報工学、情報科学、情報通信工学、ソフトウェア工学など)
目的とする効果を果たすための情報処理アルゴリズムの設計、インターフェース設計、情報処理システムの構築などが求められます。
・電気系分野(電気工学、電子工学など)
信号処理やシステムの設計などが求められます。
・その他(金融工学、経営工学など)
ただし、上記特許出願にあたっては、共同出願者やその他事業者に技術をアウトソースしている可能性もあります。
5 まとめ
情報通信に関わる出願が多くを占めていました。
大学の専攻と関連づけるとしたら、特に多いものとして、情報、電気などの研究が該当する可能性があります。
本記事の紹介情報は、サンプリングした特許情報に基づくものであり、企業の開発情報の一部に過ぎません。興味を持った企業がある場合は、その企業に絞ってより詳細を調べることをおすすめします。
参考記事:1社に絞って企業研究:特許検索して開発職を見つける方法4
以上、本記事が少しでも参考になれば幸いです。
<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・会社四季報 業界地図2024年、2025年版 東洋経済新報社
<留意事項>
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