先の記事でJR各社の技術開発と関連する専門性について紹介しました。
鉄道はJRだけではありません。
都市圏の私鉄は通勤通学を支える存在でもあり、商業施設の運営など多角的な事業展開をおこなっています。
ただ、どこまで自社で開発しているのか、外部からはその全貌が見えづらいのも事実です。
これを特許情報からみていきます。
特許情報は企業の開発情報だと言えます。
実際にどのような開発がおこなわれたのか特許情報に記載されています。
今回は、私鉄15社の特許情報からどのような開発がおこなわれてきたのか、また、開発にどのような専門性が求められるのか読み解きました。
結論(概要)は以下の通りです。
・電気系分野(電気電子工学、電気工学、情報工学、制御工学など)
・情報系分野(情報工学、情報科学、情報システム工学など)
・機械系分野(機械工学、鉄道工学など)
・土木、建築系分野(土木工学、建築学、地盤工学、鉄道工学など)
・その他分野(環境工学、化学など)
- 1 業界サーチの概要
- 2 鉄道業界
- 3 サーチ結果
- 3.1 結果概要
- 3.2 出願件数の推移
- 3.3 開発の活発度
- 3.4 主な開発分野
- 3.5 私鉄15社の近年の開発トレンドと求められる専門の例
- (1)東京メトロ|開発トレンドと専門性
- (2)東急|開発トレンドと専門性
- (3)東武鉄道|開発トレンドと専門性
- (4)小田急電鉄|開発トレンドと専門性
- (5)西武鉄道|開発トレンドと専門性
- (6)京王電鉄|開発トレンドと専門性
- (7)京浜急行電鉄|開発トレンドと専門性
- (8)京成電鉄|開発トレンドと専門性
- (9)相模鉄道|開発トレンドと専門性
- (10)阪急電鉄|開発トレンドと専門性
- (11)近畿日本鉄道|開発トレンドと専門性
- (12)京阪電鉄|開発トレンドと専門性
- (13)南海電気鉄道|開発トレンドと専門性
- (14)名古屋鉄道|開発トレンドと専門性
- (15)西日本鉄道|開発トレンドと専門性
- (16)まとめ
- 3.6 共同出願人との開発例
- 4 開発に求められる専門性
- 5 まとめ
1 業界サーチの概要
業界サーチは、業界における主要企業の特許情報から、その業界の企業がどのような開発をおこなってきたのか、客観的な情報を導き出そうとするものです。
特許分類(後述)からは、その特許に関わる開発の主な技術分野がわかります。
すなわち、その企業の開発職においてどのような専門性が求められるのか特許情報から推測できます。
2 鉄道業界
2.1 鉄道業界とは
ここでは運行を主たる事業(鉄道事業)とする業界を意図します。
また、鉄道事業を基盤としつつ多角的な事業展開をおこなう民間鉄道会社の業界とします。
2.2 サーチ対象
以下の全国私鉄15社を対象にしました。
(2)東京急行電鉄(東急)
(3)東武鉄道
(4)小田急鉄道
(5)西武鉄道
(6)京王電鉄
(7)京浜急行電鉄
(8)京成電鉄
(9)相模鉄道
(10)阪急電鉄
(11)近畿日本鉄道
(12)京阪電気鉄道
(13)南海電気鉄道
(14)名古屋鉄道
(15)西日本鉄道
以下、東京地下鉄については「東京メトロ」、東京急行電鉄については「東急」の名称で記載します。
また、相模鉄道については「相鉄ホールディングス」名義の特許情報を用います。
2.3 使用プラットフォーム
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
3 サーチ結果
3.1 結果概要
開発イメージは下表のとおりです。
|
モノの開発 |
サービスの開発 |
|
|
個人向け |
|
・店舗の混雑情報の提供 |
|
法人向け |
・重量部材の移動装置 |
・鉄道車両の保守作業の支援方法 |
モノの開発としては、例えば、重量部材の移動装置が挙げられます。
サービスの開発としては、例えば、鉄道の保守作業の支援方法などが挙げられます。
モノの開発が同時にサービスの開発になっている場合が多いです。
3.2 出願件数の推移
下図はJR各社の特許出願件数の推移です。

特許出願件数が最も多いのが東京メトロです。
ただ、毎年の出願件数は10件以下が大半であり、製造業などと比べるとかなり少ないと言えます。
まったく特許出願していない企業はなく、特許出願につながる開発はおこなわれていることが推測されます。
3.3 開発の活発度
特許出願件数≒開発の活発度、だと考えるなら、
だと言えます。
上図期間中のトータルの出願件数にもとづくと、上記の上位企業では、
東京メトロ>小田急>東急>阪急>京浜急行
です。
これらの企業は、少なくとも毎年1件以上、特許出願している計算になります。
製造業と比べると件数は非常に少ないです。
3.4 主な開発分野
各社ごとに特許出願件数が多かった技術分野を以下に示します。
各社の出願上位3つの技術分野を抽出して並べています(特許出願されていても、その企業の出願件数上位に入っていない技術分野は除外されています)。
各記号は発明の技術分類をあらわします。

分類参照:FIセクション/広域ファセット選択(特許情報プラットフォーム)
東京メトロなどがこの分野において比較的多く出願しています。
小田急鉄道などがこの分野において比較的多く出願しています。
小田急鉄道、京浜急行鉄道などがこの分野において比較的多く出願しています。
小田急鉄道がこの分野において比較的多く出願しています。
阪急電鉄などがこの分野において比較的多く出願しています。
西武鉄道、東武鉄道などがこの分野において比較的多く出願しています。
東京メトロなどがこの分野において比較的多く出願しています。
東京メトロなどがこの分野において比較的多く出願しています。
阪急電鉄、東急などがこの分野において比較的多く出願しています。
東急、南海電気鉄道などがこの分野において比較的多く出願しています。
東急などがこの分野において比較的多く出願しています。
3.5 私鉄15社の近年の開発トレンドと求められる専門の例
特許情報の出願年数が新しいほど、その企業の開発実態を反映していると言えます。
ここ10年のトレンドは以下のとおりです。
発明の主要な技術分野(筆頭FI)の出願年ごとの出願件数です。
出願件数が少ない技術分野は除外しています。
発明の説明は、必ずしも特許請求の範囲を完全に表現したものではありません。
関連する専門分野の例はあくまでイメージです。また、専門の概念レベルを必ずしも同一レベルで表示してはいません。
特許は難解ですが、GeminiやChatGPTなどのテキスト生成AIを活用すると簡単に解読できます。以下の記事を参考にしてください。
(1)東京メトロ|開発トレンドと専門性

出願件数が増加傾向にある技術分野は見あたりません。
上図期間中ではE01Bが最も多く、次にB60L、B61K、E21Dです。
具体例として重量部材(レールや分岐器など)を効率的に吊り上げて移動させるための装置が挙げられます。
従来の方法では軌道周囲に山越器(吊り上げ機材)を設置する必要があり、構造物内の作業空間に制約がありました。
これに対し、構造物上部に設置した案内レールに沿って可動体を移動させて重量部材を吊り上げることで作業空間を拡大し複数作業を平行しておこなえるようする移動機構が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2021-095808/11/ja
関連する専門分野の例:機械工学(搬送装置の設計)、土木工学(構造物の形状や寸法に合わせて装置を設計)
具体例として列車の走行位置を正確に検出するための車上装置が挙げられます。
従来は地上子を用いて走行位置を補正する手法が一般的でした。
これに対し、走行制御情報の受信状態の変化から区間境界の通過を検出し、無信号区間での走行距離を推定することでレールに伝送される走行制御情報のみを用いて走行位置を補正する車上装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2016-039650/11/ja
関連する専門分野の例:電気電子工学(走行制御情報にもとづく走行位置算出)、制御工学(状態観測、フィードバック制御)
具体例として鉄道車両の車輪とレールとの接触位置の測定方法が挙げられます。
従来は車輪とレールの接触位置は車上側で測定されていました。
これに対し、レールに作用する力(輪重、横圧)とレールの変形量(小返り量)を測定して、これらのデータから接触位置を算出することで地上側から測定できるようにした測定方法開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2021-131368/11/ja
関連する専門分野の例:機械工学(レール、車輪の変形の解析と接触位置の計算)、計測工学(センサの選定、信号処理)
具体例として鉄道の地下トンネルの変状を管理するためのシステムが挙げられます。
従来は主に紙ベースの記録や単純なデータベースによりトンネルの変状情報を管理していました。
これに対し、変状発生位置を特定する情報取得手段、位置情報に基づいて情報を集計する集計手段、集計結果を出力する出力手段により位置情報と紐づけた変状情報を集計して可視化するシステムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2016-050383/11/ja
関連する専門分野の例:情報工学(DB設計、可視化)、土木工学(変状の原因解析)
(2)東急|開発トレンドと専門性

上図期間中ではG08Gの出願件数が最も多く(4件)、次いでG01BとG06Qがそれぞれ3件です。
具体例として遠隔操作される車両の安全性を高めるための情報処理システムが挙げられます。
従来の遠隔操作システムでは車両の周囲の状況を考慮した高度な制御は困難でした。
これに対し、車両の搭載センサーが検知した障害物について遠隔操作装置に送信し、車両の走行状況と操作者の位置関係から安全な操作が可能な場合にのみ車両への操作指示を出力する情報処理システムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2023-166809/11/ja
関連する専門分野の例:情報工学(センサーデータにもとづいて制御するシステムの設計)、制御工学(安全性の高い自律システムの設計)
具体例として鉄道の軌道中心を計測する装置が挙げられます。
従来の方式では軌条以外の物体も一緒に計測されることで軌道の抽出が困難でした。
これに対し、車両に搭載されたレーザスキャナが軌道周辺をスキャンして得られた点群データから軌条頭部を特定し、その情報に基づいて軌道の中心線を算出するとともに、複数のフィルタによってノイズデータを除去して高精度な計測をおこなう装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6682087/15/ja
関連する専門分野の例:測量学(3次元点群データ取得と軌道中心の算出)、情報工学(点群データから軌道中心を出すためのアルゴリズム設計)
具体例として利用者の要求に合わせた広告を配信する情報処理システムが挙げられます。
従来の広告掲示形態では利用者からの要求に応じた広告掲示をおこなえていませんでした。
これに対し、利用者が特定のコンテンツや金額を入力することで、データベースから該当する金額の広告情報が抽出されて適切な広告が表示されるシステムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6682087/15/ja
関連する専門分野の例:情報工学(利用者からの情報収集と処理)、マーケティング(利用者の行動分析)
(3)東武鉄道|開発トレンドと専門性

上図の期間中における出願件数は、G06QとG08Bがそれぞれ1件です。
具体例として顧客の行動パターンを分析するための情報分析システムが挙げられます。
従来の交通系ICカードのデータのみを利用する方法では高額商品購入などの情報が欠けていました。
これに対し、郵便番号と顧客IDを紐づけることでその顧客が利用する可能性が高い駅を推定する情報分析システムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2018-022352/11/ja
関連する専門分野の例:情報科学(大量の顧客データの効率的な処理と分析)、マーケティング(顧客の行動分析)
具体例として報知器が挙げられます。
従来の単純な点滅式信号機では詳細な情報を伝達することができませんでした。
これに対し、複数の発光パネルを多角形に配置することで様々な形状の情報を視認できるようにした全方向への報知器が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2016-006565/11/ja
関連する専門分野の例:電気電子工学(発光パネル、制御回路の設計)、デザイン工学(視認性の高い表示の検討)
(4)小田急電鉄|開発トレンドと専門性

上図の期間中における出願件数で多いのがB60N、B61D、B61Fでそれぞれ3件です。
具体例として椅子が挙げられます。
従来の技術では肘掛けなど利用者が手を触れやすい位置にロック解除レバーが設置されていたため誤って操作されてしまう可能性がありました。
これに対し、椅子の回転ロックの解除操作部を椅子の座面よりも下方かつ外側(利用者が座った状態では手が届きにくい位置)に配置することで誤ったロック解除を防ぎ安全性を高めた椅子が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2019-209758/11/ja
関連する専門分野の例:機械工学(椅子の構造設計)、デザイン工学(使いやすさを追求した設計)
具体例として鉄道車両の衝突安全性向上に関する技術が挙げられます。
従来の鉄道車両では衝突時の衝撃を吸収する部材が台枠の上部に設置され衝突時の荷重が台枠に大きな曲げモーメントを生じさせるという問題がありました。
これに対し、衝撃吸収部材と台枠を連結する部分に第1隅柱と第1横梁を設けることで衝突時の荷重を分散させて台枠への負担を軽減し衝突安全性を高めた車両が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2019-093995/11/ja
関連する専門分野の例:機械工学(車両の構造設計)、交通工学(衝突安全性評価)
具体例として鉄道車両の端梁構造が挙げられます。
従来は衝撃吸収部材が車両の妻面よりも内側に設置されていたため衝突時に車両同士が上下方向にズレて衝撃吸収部材が適切に機能しないという問題がありました。
これに対し、アルミニウム合金の中空構造によって衝突時に塑性変形することで衝撃を吸収する第1端梁と第1端梁と対面する位置に配置されて衝撃吸収部材とともに衝撃を吸収する第2端梁が組み合わされ衝突時の衝撃を効果的に吸収する端梁構造が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2019-093983/11/ja
関連する専門分野の例:機械工学(鉄道車両の構造設計)、交通工学(衝突安全性評価)
(5)西武鉄道|開発トレンドと専門性
出願件数が増加傾向にある技術分野は見あたりません。

上図期間中の出願はB61Lが1件です。
具体例として車両の種類や運行種別を判別する装置が挙げられます。
従来のバーコード読み取り方式だと予め車両へのバーコードの貼付や変更が必要でした。
これに対し、取得部が車両の画像を取得し、抽出部が行先表示板部分を切り出し、判別部が切り出された画像を画像認識モデルが解析し車両の種類や運行種別を特定する装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2021-151842/11/ja
関連する専門分野の例:情報工学(画像処理のアルゴリズム設計)、交通工学(車両にもとづく制御システムの設計)
(6)京王電鉄|開発トレンドと専門性

上図期間中の出願はA47J、B61Bがそれぞれ1件です。
具体例として加熱調理装置が挙げられます。
従来の室内用加熱調理台を屋外で使用する場合、煙や臭いが周囲に拡散してしまうという問題がありました。
これに対し、加熱板を覆う開閉式のフードと発生した煙を吸い込むためのガス吸込口とフィルターにより煙や臭いを捕集して外部への排出を抑制する加熱調理装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-3211984/25/ja
関連する専門分野の例:機械工学(加熱調理装置の構造設計)、環境工学(臭い除去フィルターの選定)
具体例として鉄道駅のホーム安全柵と監視台を一体化させた装置が挙げられます。
従来のホーム監視は固定式の踏み台を使用しており設置場所や移動に手間がかかるという問題がありました。
これに対し、ホーム安全柵の戸袋内に監視台が収納され、必要な時に引き出して使用でき、監視台はダンパーによって安定した姿勢を保ち使用後は自動的に収納されることで駅係員の作業効率を向上させホーム上のスペースを有効活用する装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2017-001462/11/ja
関連する専門分野の例:機械工学(監視台の構造設計)、建築学(駅構造やホーム安全柵との一体設計)
(7)京浜急行電鉄|開発トレンドと専門性

上図期間中の出願はG01N、G06Qがそれぞれ1件です。
具体例として構造物の劣化診断のための打撃器具が挙げられます。
従来の打音法は熟練者の聴覚に頼る部分が大きく効率化が課題でした。
これに対し、複数の回転打撃体によって短時間で広範囲のタイルを叩いて反響音を効率的に取得できる構造にした打撃器具が開発されています(以下URL)。
関連する専門分野の例:機械工学(打撃機器の機構設計)、建築学(構造物の非破壊検査方法の検討)
具体例として店舗の混雑情報を顧客に提供するシステムが挙げられます。
従来のシステムでは店舗スタッフが手動で混雑情報を入力する必要があり入力漏れや誤入力といった問題がありました。
これに対し、各店舗に設置された端末が混雑状況をクラウド上のサーバーへ自動送信し、サーバーがデータ分析しウェブサイトやアプリを通じて顧客に混雑状況をより正確に表示するシステムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2018-067252/11/ja
関連する専門分野の例:情報工学(DB、ウェブアプリ設計)、経営工学(顧客が使いやすいインターフェース設計)
(8)京成電鉄|開発トレンドと専門性
2014年~2022年において出願は確認されませんでした。
(9)相模鉄道|開発トレンドと専門性
2014年~2022年において出願は確認されませんでした。
(10)阪急電鉄|開発トレンドと専門性

上図期間中の出願はB61B、E01B、G06T、H02Bがそれぞれ1件です。直近の出願(G06T、B61B)について以下に挙げます。
具体例として鉄道車両の保守作業を支援する情報処理装置が挙げられます。
従来の鉄道保守作業では作業員が現場で目視や測量をおこない作業範囲を判断していました。
これに対し、車両に搭載されたカメラと車軸パルスを組み合わせて線路の3Dデータをリアルタイムで取得することで、作業員が正確な位置情報をもとに保守作業の範囲を把握できて作業効率を上げることができる情報処理装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2016-133857/11/ja
関連する専門分野の例:機械工学(センサの配置設計)、情報工学(画像処理アルゴリズム設計)
(11)近畿日本鉄道|開発トレンドと専門性

上図期間中の出願はA01M、B05B、B60L、B61B、B61L、G01B、G06F、G06Qがそれぞれ1件です。直近の出願(B05B、G06F)について以下に挙げます。
具体例としてエアを噴射して塵埃を吹き飛ばすノズルが挙げられます。
従来のノズルでは噴射口が長尺状であるため噴射されるエアに偏りが生じることが課題でした。
これに対し、ノズル内部の複数の仕切板によりエアを均一に分散させて噴射口全体から均一なエアを噴射できるようにしたノズルが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2024-063605/11/ja
関連する専門分野の例:機械工学(ノズルの構造設計)、化学工学(流体の流動解析)
具体例として乗車しようとしている乗り物が正しいかどうかを判定できるシステムが挙げられます。
従来のシステムでは複雑な経路探索や大量のデータ処理が必要でした。
これに対し、携帯端末の撮影画像が設定シャッター速度や絞り値やISO感度といった最適な条件で撮影されているかを判断し、画像内の文字情報と照合することで旅行者が撮影した交通機関の画像をもとに乗っている交通機関が正しいかどうかを判定するシステムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7058708/15/ja
関連する専門分野の例:情報工学(画像処理のアルゴリズム設計)、交通工学(交通データの集約)
(12)京阪電鉄|開発トレンドと専門性

上図期間中の出願はB60Lが2件です。
具体例として蓄電池制御装置が挙げられます。
従来の複数の蓄電ユニットを搭載する電気車両では各ユニットの放電量が異なり、残存エネルギーに差が生じるという課題がありました。
これに対し、各蓄電池の電圧を監視して電流を調整して各蓄電池の残量を均一に保って蓄電池の負荷を軽減することで寿命を延ばす蓄電池制御装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2021-166446/11/ja
関連する専門分野の例:電気工学(蓄電池の充放電制御)、制御工学(複数の蓄電ユニットの出力電力を制御するアルゴリズム設計)
(13)南海電気鉄道|開発トレンドと専門性
2014年~2022年において出願は確認されませんでした。
(14)名古屋鉄道|開発トレンドと専門性
2014年~2022年において出願は確認されませんでした。
(15)西日本鉄道|開発トレンドと専門性
2014年~2022年において出願は確認されませんでした。
(16)まとめ
出願に係る技術分野は、JRの場合と同様に、車両やレール、ホーム、各種情報システムなど鉄道事業に関係するものが相対的に多いです。
また、店舗の混雑情報を提供するシステムなど周辺事業に関わるものもあります。
こうした分野の技術開発がおこなわれている可能性があります。
ただし、業界全体ではJRに比べて出願件数が少ないです(これが開発実態をどこまで反映したものかは不明です)。
3.6 共同出願人との開発例
共同出願人からはビジネス的結びつきがわかります。
技術によっては、開発をアウトソーシングしている可能性もあります。
各社の共同出願人(複数件の出願をおこなった出願人)は以下のとおりです。
共同出願人が筆頭出願人(願書の【出願人】の欄の一番上に記載された出願人)になっているものをカウントしました。
(1)東京メトロ

共同出願の例として鉄道車両のレールが挙げられます。
従来のレールでは潤滑装置からの潤滑剤が曲線部分のレール全体に均一に塗布されないという課題がありました。
これに対し、レールの頭頂面を2つの異なる位置で異なる勾配を持たせることで車輪とレールの接触位置の変化に対応し、常に最適な潤滑状態を維持するレールが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2018-145672/11/ja
従来の空転滑走制御は空転や滑走が発生してから制御を開始するため車両の運動性能が低下し、乗客の快適性が損なわれるという問題がありました。
これに対し、空転や滑走の発生が予測される場合に制御パラメータの一部を変更しトルク指令値を絞り込むことで空転や滑走の発生を抑制する制御装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7313556/15/ja
(2)東急

共同出願の例として鉄道の建築限界を測定するための装置が挙げられます。
従来の建築限界測定では線路の断面図上で建築限界と構造物の位置関係を比較していました。
これに対し、レーザスキャナで取得した3次元点群データをもとに建築限界を3次元空間上に配置して構造物が建築限界内に侵入しているかどうかを判定する装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2021-011240/11/ja
(3)東武鉄道

日立製作所との共同出願の例として顧客の行動パターンを分析するための情報分析システムが挙げられます。
従来は顧客の利用駅を特定するためには大規模なアンケート調査や交通系ICカードの利用履歴を詳細に分析する必要がありました。
これに対し、郵便番号と駅の対応付けをデータベースに予め登録しておき、顧客情報から郵便番号と顧客IDを抽出して郵便番号に対応する地域内の駅を顧客の利用駅と推定することで、大規模なアンケート調査などを行うことなく顧客の行動パターンを分析するシステムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2018-022352/11/ja
(4)小田急電鉄

三菱電機との共同出願の例として鉄道駅の可動式ホーム柵が挙げられます。
従来の可動式ホーム柵では非常時に使用する非常扉のロック装置が軌道側にしか設置されておらずホーム側からでは緊急時に非常扉を開けることが困難でした。
これに対し、非常扉のロック装置を軌道側とホーム側の両方に設置することでどちら側からでも迅速に非常扉を開け安全な避難経路を確保できるようにした可動式ホーム柵が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2014-043123/11/ja
従来の回転式椅子ではロック解除レバーが肘掛けなどの目立つ位置に設置されていて誤って操作される可能性がありました。
これに対し、ロック解除操作部を椅子の座面よりも下部で外側に設置し、意図しない操作を防止することで安定性を高めた椅子が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2019-209758/11/ja
(5)西武鉄道

共同出願の例として列車の種別や運行種別を判別する装置が挙げられます。
従来、列車の種別を判別するためには車両にバーコードを貼り付けたり車体の形状を分析したりする必要がありました。
これに対し、列車の正面や側面の行先表示、車体表記、ロゴなどをカメラで撮影し、画像認識技術を用いて列車種別を判別することで車両への改修を必要としない装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2023-071731/11/ja
(6)京王電鉄
2000年~2022年において他社を筆頭出願人とする共同出願は確認されませんでした。
(7)京浜急行電鉄

共同出願の例として土留め壁の構築方法が挙げられます。
従来の土留め壁の構築方法では、高圧噴射撹拌工法による後行杭の施工時に先行杭にビットやオーガーが接触し、騒音や振動が発生したり施工精度が低下したりする問題がありました。
これに対し、先行杭に高精度で杭を形成でき後続の施工に影響を与えにくい単軸場所打ち杭工法を用いることで、周辺環境への影響を最小限に抑えた土留め壁の構築方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2015-124478/11/ja
(8)京成電鉄
2000年~2022年において他社を筆頭出願人とする共同出願は確認されませんでした。
(9)相模鉄道

共同出願は鉄道車両への非常停止警報システムに関するものです。
従来のシステムでは駅ホームの非常停止ボタンを押すと駅舎内のベルを鳴らしたり信号機を赤色にしたりして運転士に知らせる方法が一般的でした。
これに対し、誘導無線通信を用いて直接的に鉄道車両に非常事態を知らせ、自動的に列車を停止させることで安全性を高めたシステムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2003-081091/11/ja
(10)阪急電鉄

共同出願の例として鉄道車両の消音装置が挙げられます。
従来、レール削正車は強力なブロワーを用いて切削粉を吸引するため発生する騒音が周辺環境に大きな影響を与えていました。
これに対し、騒音源となる気流を複数の消音部に分割し、それぞれで消音処理を行った後に方向を変えて合流させることで騒音を低減する消音装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2015-025918/11/ja
(11)近畿日本鉄道

モハラテクニカとの共同出願は鉄道線路への野生動物の侵入防止システムに関するものです。
従来、鉄道線路への動物の侵入を防ぐための侵入防止ネットでは完全に侵入を防ぐことは難しく動物の生息環境への影響も懸念されていました。
これに対し、侵入防止ネットの一部に侵入口を設け、その周辺に忌避音を発生させることで動物の侵入を抑制しつつ一定の範囲で動物の生息を許容する仕組みを採用したシステムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-3209309/25/ja
(12)京阪電気鉄道
2000年~2022年において他社を筆頭出願人とする共同出願は確認されませんでした。
(13)南海電気鉄道

共同出願は交通機関や提携先施設の売上増加を支援する情報処理システムに関するものです。
従来の顧客誘致として定期券や回数券の販売、店舗の割引クーポンなどの提供では利用者の行動を限定的にしか誘導できず、収益向上に繋がる効果は限定的でした。
これに対し、デジタルきっぷを導入して交通機関の利用と店舗での消費を連動させることで利用者の消費行動を促進してそれぞれの売上増加につなげる情報処理システムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7235264/15/ja
(14)名古屋鉄道

日立電線との共同出願は鉄道車両の車輪の測定装置に関するものです。
従来の車輪の寸法測定である手作業や撮影画像の絶対値を測定する装置では測定精度が低かったり作業効率が悪かったりといった課題がありました。
これに対し、車輪の両側からレーザー光を照射し、その反射光をカメラで撮影することで車輪の断面形状を3次元的に取得し、この3次元データを事前に取得した基準画像との比較による寸法差分から測定箇所の車輪を測定する装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2008-180619/11/ja
(15)西日本鉄道
2000年~2022年において他社を筆頭出願人とする共同出願は確認されませんでした。
(16)上記(1)~(15)(共同出願人)のまとめ
共同出願は各種装置、システムなどモノの開発に関するものが多いです。
ただし、各社とも特定企業との共同出願件数は1件/年にも満たないペースです。
4 開発に求められる専門性
上記3で示した特許分類≒開発人材に求められる専門性、だと仮定します。
上記3で多かった専門分野は以下のとおりです。
・電気系分野(電気電子工学、電気工学、情報工学、制御工学など)
・情報系分野(情報工学、情報科学、情報システム工学など)
・機械系分野(機械工学、鉄道工学など)
・土木、建築系分野(土木工学、建築学、地盤工学、鉄道工学など)
・その他分野(環境工学、化学など)
これらの専門は表現上のものであり、境界があいまいな場合も多く、単に大学の専攻名と結びつけられるものではないです(上記3の具体例などから判断してください)。
また、上記特許出願にあたっては、共同出願者やその他事業者に技術をアウトソースしている可能性もあります。
5 まとめ
JRの場合と同様に、車両やレール、監視システムなどの鉄道事業に関連する特許出願が相対的に多く、当該分野の開発がおこなわれていることが推測されます。
大学の専攻と関連づけるとしたら、特に多いものとして、電気、情報、機械、土木、建築の研究が該当する可能性があります。
ただし、特許出願件数を全体で見ると、JRに比べて少ないです。
本記事の紹介情報は、サンプリングした特許情報に基づくものであり、企業の開発情報の一部に過ぎません。興味を持った企業がある場合は、その企業に絞ってより詳細を調べることをおすすめします。
参考記事:1社に絞って企業研究:特許検索して開発職を見つける方法4
以上、本記事が少しでも参考になれば幸いです。
<出典、参考>
・
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・会社四季報 業界地図2024年、2025年版 東洋経済新報社
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