卸売業というと商品の売買がイメージされ、さらにその中で商社というと輸出入の仲介や新規事業への投資がイメージされます。
メーカーのような自社開発はあまりイメージされません。
しかしながら、実際にはさまざまな特許が取得されています。
今回は、総合商社7社の特許情報からどのような開発がおこなれてきたのか、また、開発にどのような専門性が求められるのか読み解きました。
結論(概要)は以下の通りです。
・資源、エネルギー分野(化学工学、環境工学、鉱山学など)
・素材、化学分野(材料科学、化学工学など)
・機械、プラント分野(機械工学、電気工学など)
・情報通信分野(情報工学、電子工学など)
・金融、ビジネス分野(情報工学、電子工学など)
・その他
1 業界サーチの概要
業界サーチは、業界における主要企業の特許情報から、その業界の企業がどのような開発をおこなってきたのか、客観的な情報を導き出そうとするものです。
特許分類(後述)からは、その特許に関わる開発の主な技術分野がわかります。
すなわち、その企業の開発職においてどのような専門性が求められるのか特許情報から推測できます。
2 卸売業業界
2.1 卸売業界とは
ここでは製造業者から商品を仕入れて小売業者や他の卸売業者に販売する役割を担う業界を意図します。
総合商社と専門卸に分けられます。
総合商社は単なる商品取引を超えてエネルギー、資源開発、インフラ、農業、減るケアなど多岐にわたる事業を展開しています。
専門卸は食品、医療品、建材など特定の業種や商品に特化して商品流通を担っています。
今回は総合商社を対象にしました。
2.2 サーチ対象
以下の総合商社7社を対象にしました。
(2)三井物産株式会社
(3)伊藤忠商事株式会社
(4)住友商事株式会社
(5)丸紅株式会社
(6)豊田通商株式会社
(7)双日株式会社
2.3 使用プラットフォーム
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
3 サーチ結果
3.1 結果概要
総合商社の開発イメージは下図のとおりです。
|
モノの開発 |
サービスの開発 |
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個人向け |
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法人向け |
・食品コンテナ |
・鉱物からの資源抽出方法 |
モノの開発としては、例えば、食品を冷凍、保存するコンテナや電気自動車などに電力を供給制御する装置などが挙げられます。
サービスの開発としては、例えば、鉱物からの資源の抽出方法やリサイクル方法や商取引において排出されるCO2の算出方法などが挙げられます。
モノの開発が同時にサービスの開発になっている場合が多いです。
3.2 出願件数の推移
下図は総合商社7社の特許出願件数の推移です。

トータルの出願件数で多いのが三菱商事と豊田通商です。
ただし、今回の商社と同規模のメーカーに比べると、特許出願件数はかなり少ないと言えます。
その中で、三菱商事は2000年代前半の出願が多く、豊田通商はコンスタントに出願しています。
3.3 開発の活発度
特許出願件数≒開発の活発度、だと仮定すると、三菱商事と豊田通商は同業他社と比較して開発が活発だと言えます。
後述しますが、開発分野は多岐にわたっています。例えば、電気自動車、半導体関連、温室効果ガス対策などが挙げられます。
ただし、いずれの出願件数自体はメーカーと比較するとかなり少ないと言えます。
3.4 主な開発分野
各社ごとに特許出願件数が多かった技術分野を以下に示します。
各社の出願上位3つ(伊藤忠商事は出願件数が同数の分野があったため4つ)の技術分野を抽出して並べています(特許出願されていても、その企業の出願件数上位に入っていない技術分野は除外されています)。
各記号は発明の技術分類をあらわします。

分類参照:FIセクション/広域ファセット選択(特許情報プラットフォーム)
例えば、食品の加工方法や保存方法、調整方法、機能性食品などがこれに該当します。
住友商事がこの分野で多く出願しています。
例えば、ブラジャーの構造や形状、ボディラインを補正する衣類など機能性や快適性を求めた技術がこれに該当します。
伊藤忠商事がこの分野で多く出願しています。
例えば、環境浄化、脱炭素(CO2の分離)、水資源の有効活用(海水の淡水化など)などがこれに該当します。
三井物産がこの分野で多く出願しています。
例えば、自動車排ガスの浄化触媒やメタンを改質して合成ガスを生成する触媒反応器などの環境、エネルギー対策技術などがこれに該当します。
豊田通商がこの分野で多く出願しています。
例えば、物流や工業における倉庫システムのコンベヤやドローン搬送システム、医療品や食料品の搬送中の品質保持技術などこれに該当します。
丸紅がこの分野で多く出願しています。
例えば、ナノトランジスタやナノセンサー搭載医療機器などのエレクトロニクス、医療などに関わる要素技術がこれに該当します。
三井物産がこの分野で多く出願しています。
例えば、水素の製造やアンモニアや硝酸といった化学肥料の製造などがこれに該当します。
丸紅がこの分野で多く出願しています。
例えば、再利用可能な水処理プロセスや工場排水からの有害物質の除去など水環境の保全や資源利用に関わる技術がこれに該当します。
三菱商事がこの分野で多く出願しています。
例えば、石油精製に関わる炭化水素の製造や医薬品、農薬、プラスチック、塗料などの中間炭がこれに該当します。
三菱商事、住友商事、双日がこの分野で多く出願しています。
例えば、鉱石から金属を効率的かつ環境負荷を少なく取出したり、使用済みのものから金属を回収し再利用するリサイクル精製などの鉄鋼や非鉄金属産業に関わる技術がこれに該当します。
豊田通商がこの分野で多く出願しています。
例えば、半導体産業や光学機器、電子機器に使用されるシリコン、ガリウムヒ素、アルミニウム酸化物など材料の単結晶化技術がこれに該当します。
豊田通商がこの分野で多く出願しています。
例えば、家庭用から工業用までのミシン、特殊な縫製機械などがこれに該当します。
双日がこの分野で多く出願しています。
例えば、CPU、メモリなどのコンピュータの構成要素、OSなどのソフトウェア、データ制御などの処理システム、ネットワークプロトコルなどのコンピュータネットワーク、暗号化などのセキュリティ、人工知能などがこれに該当します。
この分野の特許出願は2000年代前半に集中的されています。
この分野への出願は業界的に多く、特に、三菱商事、住友商事、三井物産、伊藤忠商事が多いです。
例えば、有機誘導体、無機誘導体などのコンデンサ、薄膜、積層などコンデンサの製造などがこれに該当します。
伊藤忠商事がこの分野で多く出願しています。
例えば、リチウムイオン電池や燃料電池、電池の製造方法などがこれに該当します。
伊藤忠商事がこの分野で多く出願しています。
3.5 総合商社7社の近年の開発トレンドと求められる専門の例
特許情報の出願年数が新しいほど、その企業の開発実態を反映していると言えます。
ここ10年のトレンドは以下のとおりです。
発明の主要な技術分野(筆頭FI)の出願年ごとの出願件数です。
出願件数が少ない技術分野は除外しています。
発明の説明は、必ずしも特許請求の範囲を完全に表現したものではありません。
関連する専門分野の例はあくまでイメージです。また、専門の概念レベルを必ずしも同一レベルで表示してはいません。
特許は難解ですが、GeminiやChatGPTなどのテキスト生成AIを活用すると簡単に解読できます。以下の記事を参考にしてください。
(1)三菱商事|開発トレンドと専門性

直近で継続的に伸びている分野は確認されません
相対的に出願件数が多いのは、C07C、C10Ⅿ、G06Qです。
具体例としてフラーレン誘導体が挙げられます。
従来のフラーレン誘導体は昇華温度が高く熱分解しやすいため、蒸着プロセスで安定的に薄膜を形成することが困難でした。
これに対し、フラーレン骨格に特定の構造を持つパーフルオロアルキル基を導入することで昇華温度が低く熱分解せずに蒸着できるフラーレン誘導体の製造方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7212227/15/ja
具体例として放射線環境下の宇宙空間や原子炉設備での使用を想定した潤滑油でが挙げられます。
従来の潤滑油は耐摩耗性向上に限界がありました。
これに対し、フラーレンが溶解している基油に放射線を照射してフラーレン分子同士が結合した新たな構造のフラーレン付加体を生成させて耐摩耗性を向上させた潤滑油組成物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2023-014234/11/ja
関連する専門分野の例:化学工学(潤滑油の製造プロセス設計)、材料工学(触れ-ラン材料の応用)
具体例として電子商取引に係る端末装置が挙げられます。
従来は個人間取引で商品を売買する場合に商品を発送するためにコンビニエンスストアまで持ち込むか、自宅で集荷を待つ必要がありました。
これに対し、端末装置でロッカーのコードを撮影し、その情報と端末装置の位置情報をサーバーに送信することででロッカーの認証情報を得て、商品を預け入れ・受け取りできるようにする端末装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7230268/15/ja
関連する専門分野の例:情報工学(ネットワーク通信)、電気電子工学(端末装置内の制御システム設計)
(2)三井物産|開発トレンドと専門性

出願は多くて2件/年です。
その中で複数年出願されているはG06Qです。
具体例としてはCO2排出量算出サーバでが挙げられます。
従来のCO2排出量算出システムは各企業が独自に算出方法を確立しており、サプライチェーン全体での排出量の算出が困難でした。
これに対し、共通のデータベースを用いて製品の原材料調達から廃棄までのライフサイクル全体におけるCO2排出量を算出できるサーバが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2023-177445/11/ja
(3)伊藤忠商事|開発トレンドと専門性

直近で伸びている分野は確認されません。
その中で相対的に出願件数が多いのがG06Qです(上図期間中5件)。その他出願されている分野は上図期間を通じていずれも1件のみでした。
具体例としては服飾や装飾などの商品流通システムが挙げられます。
従来の二次流通システムではユーザが自ら商品を売却する意欲を持つことが前提となっていました。
これに対し、あらかじめ買取期限と買取価格を設定してユーザが選択した買取期限が到来すると自動的に買い取りをおこなうことでユーザの行動を促しリユースを促進する商品流通システムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2023-019463/11/ja
関連する専門分野の例:情報工学(システム設計、開発)、経営学(購買行動分析)
(4)住友商事|開発トレンドと専門性

直近で伸びている分野は確認されません。
その中で相対的に出願件数が多いのがA23LとF25Dです。
具体例として長距離の海上輸送などのための食品コンテナが挙げられます。
従来の電界技術を用いた食品の鮮度保持方法では凍結を避けるために比較的高い温度で保管する必要でした。
これに対し、食品をチルド状態に保つための冷却装置と細菌の増殖を抑制する電界を形成する電極を組み合わせることで食品の鮮度を長期間維持する食品コンテナが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7284335/15/ja
具体例として食品などの収容庫が挙げられます。
従来の収容庫では電極を固定するために収容庫本体に複雑な加工を施す必要があり製造コストが高くなっていました。
これに対し、電極を固定するための専用の載置部を設けることで収容庫本体への複雑な加工を不要にした冷蔵庫、冷凍庫、輸送コンテナなどの収容庫が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7009670/15/ja
関連する専門分野の例:電気電子工学(電極設計、電界形成)、機械工学(収容庫の構造設計)
(5)丸紅|開発トレンドと専門性

直近で継続的に伸びている分野は確認されません。
その中で相対的に出願件数が多いのがG06Qです(上図期間中3件)。その他出願されている分野は上図期間を通じていずれも1件のみでした。
具体例として段ボールの調達に伴う温室効果ガス(GHG)排出量を算出する方法が挙げられます。
従来は段ボールのGHG排出量の算が各企業単位で行われておりサプライチェーン全体の排出量を把握することは困難でした。
これに対し、製紙工場や加工工場など各工程での物質量や輸送情報などを収集し、収集したデータと排出係数マスタデータを用いて各工程でのGHG排出量を算出し合計することでサプライチェーン全体のGHG排出量を算出するGHG排出量算出方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2024-092066/11/ja
関連する専門分野の例:情報工学(GHG排出量算出システムの設計、開発)、環境学(ライフサイクルアセスメント)
(6)豊田通商|開発トレンドと専門性

直近ではC22Bが伸びています。
また、C30Bが2020年に出願件数が10件あり、上図期間中の出願件は17件です。
その次に多いのがG06Qです。
具体例としてニッケル鉱から硫酸ニッケルを製造する方法が挙げられます。
従来のニッケル鉱からのニッケル抽出(中和法や溶媒抽出法)では廃棄物の発生や工程の複雑さという問題がありました。
これに対し、疎水性深共晶溶媒を用いてニッケルを効率的に有機相へ浸出させ、浸出したニッケルを硫酸を用いて水相へ逆抽出し高純度の硫酸ニッケルを得る方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2023-119164/11/ja
具体例としては炭化水素(SiC)基板の製造方法が挙げられます。
従来は結晶欠陥が多く、デバイスの性能を低下させるという課題がありました。
これに対し、SiC基板内部の歪みを解消する熱処理、表面の段差の平坦化、基底面転位の密度の低減により、結晶欠陥や転移による悪影響をおさえるSiC基板の製造方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7578870/15/ja
関連する専門分野の例:材料工学(欠陥制御)、電気電子工学(SiC基板の品質強化)
具体例としては運転手と荷主のマッチングサーバが挙げられます。
従来の荷物配送マッチングシステムでは運転手の都合や荷物の条件を十分に考慮したマッチングが難しい問題がありました。
これに対し、運転手の出発地、到着地、空き容量、荷物のサイズ、配送先などの情報を収集し、運転手のルート上にあって荷物のサイズが積載可能な荷物を選び出し、絞り込まれた荷物をリスト化し運転手に提示することで、運転手がサブの目的として荷物の片手間配送ができるような仕組みを提供するサーバが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2020-119297/11/ja
関連する専門分野の例:情報科学(ルート探索、マッチングアルゴリズム設計)、経営工学(物流システムの設計、最適化)
(7)双日|開発トレンドと専門性

直近で継続的に伸びている分野は確認されません。
その中で相対的に出願件数が多いのがB01D、B60L、D05Bです
具体例として水相に溶解した陽イオン交換型抽出剤を効率的に回収する方法が挙げられます。
従来は鉱石から希土類元素を抽出するにあたって陽イオン交換型抽出剤は高価であるため水相に溶解して失われるとコスト増になっていました。
これに対し、水相にアルカリ性の薬剤を添加して抽出剤をゲル状にし、ゲル状になった抽出剤を水相から分離することで抽出剤を水溶液から分離、回収する方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2017-013033/11/ja
具体例として車両に充電を行う制御装置が挙げられます。
従来の複数の車両を充電するシステムでは各充電器が個別に車両のバッテリー残量を検知することができなければ適切な充電量を調整することが困難でした。
これに対し、各車両と充電器を識別して紐づけし、各車両のバッテリー残量情報を取得し、バッテリー残量に基づいて各充電器への充電量を制御する制御装置が挙げられます(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7410348/15/ja
関連する専門分野の例:電気電子工学(充電制御システムの設計)、情報工学(充電器と車両間の通信)
具体例として、ジーンズの縫製装置が挙げられます。
従来のジーンズの前立てファスナー付け部品は熟練の縫製工が手作業でおこなっていたため品質がばらつくとともに生産効率も低いという問題がありました。
これに対し、前立て布とファスナーを自動で供給して所定の位置に配置し、布端処理を自動で行うミシンを搭載した裁縫装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6423568/15/ja
関連する専門分野の例:機械工学(縫製装置の設計)、情報工学(縫製制御のソフトウェア開発)
(8)まとめ
輸出入に関わる物品や資源の開発方法、輸送、保管方法に関するものが多く見られます。
また、電気自動車や半導体に関わる技術分野における特許も多いです。
ここで、これらの開発の主体となったのが誰なのかという疑問がでてきます(商社がモノづくりの主体になるとは考え難いですから)。
上記7社が筆頭出願人になった特許出願は全体で約50%です。
他社との共同出願が多いです。
すなわち、共同出願人が開発に寄与しているものがかなり多いことが予想されます。
3.6 共同出願人との開発例
共同出願人からはビジネス的結びつきがわかります。
各社の共同出願人(筆頭出願人)は以下のとおりです。
共同出願人が筆頭出願人(願書の【出願人】の欄の一番上に記載された出願人)になっているものをカウントしました。
また、グループ企業や現存しない企業については、共同出願人としてのカウントから除外している場合があります。
(1)三菱商事

共同出願の例としてフッ素含有物からフッ素を回収する方法が挙げられます。
従来のフッ素含有物からフッ素を回収する方法は不純物が多く、高純度のフッ素化合物を得ることが難しかったり処理過程が複雑であったりなどの課題がありました。
これに対し、フッ素含有物に酸性物質を加えて加熱し、発生したフッ素化合物を冷却や吸収液に接触させることで高純度のフッ素化合物を効率的に回収する方法が開発されています(以下URL)。
なお、産総研との共同出願が多かったのは2000年代前半までです。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2006-175364/11/ja
関連する専門分野の例:化学工学(気液分離)、環境科学(汚染物質の分析)
フラーレンはシリコーン油に溶けにくく潤滑剤への応用が困難でした。
これに対し、シリコーン油に特定の構造を持つフラーレン誘導体を添加することで極圧性能や摩耗防止性能の向上させた潤滑剤組成物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2022-067924/11/ja
従来はアルミナや銅などの材料による従来のヒートシンクは熱伝導率や電気絶縁性の両立が課題でした。
これに対し、単結晶シリコンカーバイド(SiC)を基板とし、基板の表面に電位障壁を形成することでこれらの課題を解決し半導体素子の機能が低下するのを避けるヒートシンクが開発されています(以下URL)。
なお、シクスオンとの共同出願が多かったのは2000年代です。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2005-129710/11/ja
(2)三井商事

共同出願の例として導電性繊維が挙げられます。
従来の導電性粒子を繊維に混ぜ込む方法や表面に付着させる方法では導電性が不十分だったり耐久性が低かったという問題がありました。
これに対し、バインダーと界面活性剤によりカーボンナノチューブを繊維表面に均一に付着させることで、洗濯や摩擦によってもカーボンナノチューブの脱落がないようにした導電性繊維が開発されています(以下URL)。
なお、北海道大との共同出願が多かったのは2000年代です。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2010-059561/11/ja
従来は一つの同期信号にしか同期できず複数の同期信号が存在する環境において同期精度が低く高速伝送が困難でした。
これに対し、2つのPLL(Phase-Locked Loop)を用いて、第1のPLLが第1の同期信号に同期し、その出力信号を第2のPLLの同期量子化単位として利用することで第2のPLLも第2の同期信号に高精度に同期する同期装置が開発されています。
なお、確認される共同出願はいずれも2000年代です。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2007-325072/11/ja
ウインズとの共同出願の例としてDC-DCコンバータが挙げられます。
従来の方式では入力電圧範囲が限定的でした。
これに対し、スイッチング素子を適切なタイミングでオンオフすることでスイッチング損失を低減し高効率な動作を実現し、出力電圧を検知しスイッチング周波数やオン時間を調整することにより常に安定した出力電圧を得ることで、家庭用燃料電池や太陽光発電、風力発電システムからの電力を0.3kW~10kWの中電力容量に変換するときのスイッチングロスを減少するDC-DCコンバータが開発されています。
なお、確認される共同出願は2010年までです。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2010-107060/19/ja
関連する専門分野の例:電気電子工学(電力変換の効率化)、情報工学(DC-DCコンバータの制御)
従来のポリマー正極材料は導電性や長期安定性に課題がありました。
これに対し、アミノ基を有する導電性ポリマー、水素結合性化合物、プロトン酸を組み合わせてこれらの課題を解決した正極材料が開発されています(以下URL)。
なお、確認される共同出願はいずれも2000年代です。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2005-340165/11/ja
関連する専門分野の例:応用化学(導電性ポリマーの合成、解析、評価)、材料科学(材料設計)

共同出願の例として電気自動車や補助電源などのエネルギー貯蔵装置となる電気二重層キャパシタの炭素質材料が挙げられます。
従来の電気二重層キャパシタが高エネルギー密度化が課題でした。
これに対し、細孔半径10Å以下の細孔容積を全細孔容積の70%以下とすることで非水系電解液が浸透しやすくイオンが効率的に吸着する構造にして高エネルギー密度を実現した炭素質材料が開発されています(以下URL)。
なお、確認される共同出願はいずれも2000年代前半までです。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2002-128514/11/ja
関連する専門分野の例:物質工学(炭素材料の構造解析、合成、評価)、電気電子工学(エネルギー貯蔵デバイスの設計)
従来の電力供給装置は単に電力を供給する機能しかありませんでした。
これに対し、電力線と通信線を別々に設けて車両の運転環境に合わせ空調やヒーターなどの機器を自動的に制御できるようにすることで車両のバッテリを充電させながら車両に備え付けられた空調設備などの機器を制御する電力供給装置が開発されています(以下URL)。
なお、確認される共同出願は2010年までです。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2010-233409/11/ja
関連する専門分野の例:電気電子工学(電力供給装置と車両間の通信)、情報工学(車両制御ソフトウェアの設計、開発)
従来のヒートシンクは放熱面積を増やすために多孔性のフィンを使用していませんでした。
これに対し、多孔性フィンの放熱面積を凹凸形状によって増やしたヒートシンクが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2014-179542/11/ja
関連する専門分野の例:機械工学(熱放出のための構造設計)、物質工学(物質表面への凹凸形成)
従来の商品の注文では郵送による注文書や複雑なURLを入力する必要がありました。
これに対し、商品に割り当てられた番号を入力するだけで自動的にメールが生成され注文が完了するというシンプルな方法が開発されています(以下URL)。
なお、確認される共同出願はいずれも2000年代前半です。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2003-044405/11/ja
関連する専門分野の例:情報工学(メール管理システムの設計、開発)、電気電子工学(ネットワーク機器の設計)
従来の自動販売機では釣銭は現金で受け取るのが一般的でした。
これに対し、自動販売機において釣銭を電子バリューという形で電子バリュー口座に返却する釣銭処理装置が開発されています(以下URL)。
なお、確認される共同出願はいずれも2000年代前半です。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2003-077036/11/ja
関連する専門分野の例:電気電子工学(自動販売機システムの設計、開発)、情報工学(自動販売機制御ソフトウェアの設計、開発)
(4)住友商事

共同出願の例として食品の収容庫が挙げられます。
従来の電場を利用した収容庫では食品の凍結や腐敗がありました。
これに対し、収容庫内に遮断部材を設置して冷却装置からの冷気を食品に直接当てないようにすることで食品の温度を適切に管理し鮮度を長期間保つ収容庫が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7329121/15/ja
関連する専門分野の例:機械工学(冷却装置の設計)、食品工学(食品への影響評価)
従来の袋材では水深が深い場所への砕石投入が難しく砕石が拡散していました。
これに対し、折り返し可能な構造と開口部を自在に開閉できるロープを備えることで水深が深くても所望の位置に砕石を投入できる砕石投入方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2020-026339/19/ja
関連する専門分野の例:土木工学(水圧に耐え得る袋材の設計)、材料工学(複合材の開発、評価)
従来の広告配信では全ての視聴者に一律に同じ広告が配信されていました。
これに対し、視聴者の属性と広告のターゲット層の一致度を数値化して最適な広告を選択し、一致度の高い広告を優先的に配信する広告配信方法が開発されています(以下URL)。
なお、確認される共同出願は2002年までです。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2002-297077/11/ja
関連する専門分野の例:情報工学(視聴者と広告の一致度の計算アルゴリズム設計)、経営工学(消費者行動分析)
(5)丸紅

共同出願の例として合成ガス製造炉が挙げられます。
従来の合成ガス製造炉では触媒層上部の空間が十分に活用されておらず反応が不均一になっていました。
これに対し、触媒層上部の空間の高さや形状を最適化することで反応効率を向上させた合成ガス製造炉が開発されています(以下URL)。
なお、確認される共同出願は2005年までです。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2005-247645/11/ja
従来のバイオディーゼル燃料の原料としては高品質な植物油が主に使用されてきました。
これに対し、遊離脂肪酸や脂肪酸グリセリンエステルを含む酸価の高い廃油や廃グリセリンといった廃棄物を原料として利用可能にしたバイオディーゼル燃料を製造する方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7252588/15/ja
関連する専門分野の例:化学工学(原料調達から製造までのプロセス設計)、環境工学(物質の挙動や環境への影響評価)
従来の放射性核種を除去するためにゼオライトでは粉末状のため取り扱いが難しく他の金属イオンとの競合により吸着効率が低下する問題がありました。
これに対し、ゼオライトをセルローススポンジに含ませることで当該問題を解決した放射性核種吸着用セルローススポンジが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2016-045023/11/ja
関連する専門分野の例:環境工学(放射性物質の挙動分析)、材料科学(複合材料の設計、開発)
(6)豊田通商

共同出願の例としてアルミニウム合金の精錬においてマグネシウムを除去するためのフラックスが挙げられます。
従来のアルミニウム合金中のマグネシウム除去には各種課題がありました。
これに対し、酸化鉄と塩化物を含む特定の組成のフラックスを用いることでマグネシウムを酸化物として効率的に除去できるようにしたフラックスが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2024-127396/11/ja
従来の溶融塩を用いた方法では銅の形態や溶融塩の組成によって回収効率が低下する問題がありました。
これに対し、アルミニウム基溶湯上に溶融塩を形成して特定の条件下で再生原料を投入することで銅を効率的に回収できるようにした方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2024-121129/11/ja
関連する専門分野の例:化学工学(溶融塩を用いた銅の回収プロセス設計)、環境工学(スラグの処理)
従来の半導体基板の加工変質層の評価では基板を破壊する検査方法が一般的でした。
これに対し、レーザー光が基板内部で散乱した散乱光の強度に基づく非破壊による評価方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2023-153296/11/ja
関連する専門分野の例:電気電子工学(レーザー光を用いた半導体基板内部の情報取得)、材料工学(材料の特性評価)
従来の電力管理システムでは再生可能エネルギーや蓄電池などを活用した新たな電力供給スタイルに対応できていませんでした。
これに対し、建物内に複数の電力供給装置を設置してこれらを統合的に制御する電力管理システムが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2020-160593/11/ja
関連する専門分野の例:電気電子工学(電力系統の制御)、情報工学(制御装置の設計)
(7)双日

共同出願の例として、宇宙航空や半導体などの材料に使われる耐熱性ポリイミドが挙げられます。
従来のポリイミドは有機溶媒に溶けにくく加工性に劣るという問題がありました。
これに対し、特定のモノマーを組み合わせることで有機溶媒に溶けやすく高い耐熱性を有するポリイミドが開発されています(以下URL)。
なお、認確される共同出願は2011年までです。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2011-033690/19/ja
関連する専門分野の例:高分子化学(ポリイミドの合成)、材料工学(材料の特性評価)
従来の濾過方法では微細な砥粒を効率的に回収することが難しく、濾材の目詰まりや濾過速度の低下などの問題がありました。
これに対し、ワイヤの一方の面側が平坦で他方の面側に向かって徐々に幅が狭くなる特殊形状の濾材ワイヤを用いることで微細な砥粒を効率的に捕集し、濾過速度を向上させた方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2017-176976/11/ja
関連する専門分野の例:機械工学(最適な濾過条件の設計)、化学工学(濾過による分離操作の効率化)
従来のインターネット上での取引では匿名性が高く与信判断が難しいという課題がありました。
これに対し、企業の情報をリアルタイムに収集し、取引先の倒産確率を算出することで取引リスクを定量化するなどにより取引を促進するシステムが開発されています(以下、URL)。
なお、認確される共同出願は2012年までです。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2012-168984/11/ja
関連する専門分野の例:情報工学(DBの設計)、経営学(倒産確率の評価)
従来の希土類元素の回収方法では多くの薬品を使用したり回収率が低いという課題がありました。
これに対し、水浸出工程にて液体と固体の質量比率を高めて浸出液中の希土類元素濃度を高くする方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2017-014605/11/ja
関連する専門分野の例:化学工学(希土類元素の回収プロセス設計)、環境工学(環境影響の最小化)
共同出願では商社の取引物品や流通の仕組みに関わるものが多く確認されます。
これらについて専門的な技術を有する企業と連携し、共同で特許を保有しています。
4 開発に求められる専門性
上記3で示した特許分類≒開発人材に求められる専門性、だと仮定します。
上記各特許情報には以下の人材が関わっていると言えます。
※ 商社に関しては、外部企業や大学との連携、さまざまな企業への投資を通じた特許出願が多く確認されます。そのため、開発主体がこれらの外部企業や大学である場合も多いことが予想されます。すなわち、開発に求められる専門性が、必ずしも商社で求められる人材の専門性であるとは限らないことに注意してください(ここでの専門性は、特許出願に必要な専門性を意味しています)。
・資源、エネルギー分野(化学工学、環境工学、鉱山学など)
・素材、化学分野(材料科学、化学工学など)
・機械、プラント分野(機械工学、電気工学など)
・情報通信分野(情報工学、電子工学など)
・金融、ビジネス分野(情報工学、電子工学など)
・その他
5 まとめ
各種材料の処理方法や、新素材やデバイスの製造方法、CO2の回収や算出、電力管理システムはリサイクルシステムなど特許出願分野は多岐にわたっています。
ただし、特許出願件数は製造業に比べると少なく、また、共同出願の多さから開発に関しては外部企業に依存している場合が多いことが推測されます。
これらの特許出願は、大学の専攻では化学、環境、鉱山、材料、機械、電気、情報における研究分野が該当する可能性があります。
本記事の紹介情報は、サンプリングした特許情報に基づくものであり、企業の開発情報の一部に過ぎません。興味を持った企業がある場合は、その企業に絞ってより詳細を調べることをおすすめします。
参考記事:1社に絞って企業研究:特許検索して開発職を見つける方法4
以上、本記事が少しでも参考になれば幸いです。
<出典・参考>
・一般社団法人日本貿易会 https://www.jftc.or.jp/shosha/
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・会社四季報 業界地図2024年、2025年版 東洋経済新報社
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