今回は文房具業界についてとりあげます。
文房具は一見すると身近で完成されているように感じるかもしれません。
しかし、もしそうであるなら、技術開発の余地はあまり残されておらず、開発はさほど活発でないことになります。
そうなのでしょうか?
これを特許情報からみていきます。
特許情報は企業の開発情報だと言えます。
実際にどのような開発がおこなわれたのか特許情報に記載されています。
今回は、文房具メーカー3社の特許情報からどのような開発がおこなれてきたのか、また、開発にどのような専門性が求められるのか読み解きました。
結論(概要)は以下の通りです。
・機械系分野(機械工学、人間工学、生産工学など)
・材料系分野(材料科学、材料工学など)
・化学系分野(応用化学、化学工学、高分子化学、物理化学など)
・デザイン系分野(工業デザインなど)
・情報系分野(情報科学など)
・電気系分野(電気電子工学など)
・その他分野(微生物学など)
1 業界サーチの概要
特許情報は企業の開発情報だと言えます。
業界サーチは、業界における主要企業の特許情報から、その業界の企業がどのような開発をおこなってきたのか、客観的な情報を導き出そうとするものです。
特許分類(後述)からは、その特許に関わる開発の主な技術分野がわかります。
すなわち、その企業の開発職においてどのような専門性が求められるのか特許情報から推測できます。
2 文房具業界
2.1 文房具業界とは
ここでは、筆記具や事務用品などの企画、製造、販売に携わり、これらをオフィスや学校、家庭などに提供する業界を意図します。
ただし、文房具とそれ以外の製品の区別はしていません。
2.2 サーチ対象
以下の文房具メーカー3社を対象にしました。
(2)パイロットコーポレーション
(3)三菱鉛筆
2.3 使用プラットフォーム
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
3 サーチ結果
3.1 結果概要
開発イメージは下表のとおりです。
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モノの開発 |
サービスの開発 |
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個人向け |
・Xリンク構造の折り畳み椅子 |
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法人向け |
・ケーブル引き回しを可能にする変形領域を持つ組立式机上ブース |
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3.2 出願件数の推移
下図は文房具メーカー3社の特許出願件数の推移です。

企業、出願年によって出願件数が大きく異なっています。
ただ、近年、3社の出願件数は100件前後で推移しています。
そのような出願につながる開発がおこなわれていることが推測されます。
3.3 開発の活発度
特許出願件数≒開発の活発度、だと考えるなら、
コクヨ>三菱鉛筆>パイロットコーポレーション
だと言えます。
ただし、上述のように直近ではその差は小さいです。
3.4 主な開発分野
各社ごとに特許出願件数が多かった技術分野を以下に示します。
各社の出願上位3つの技術分野を抽出して並べています(特許出願されていても、その企業の出願件数上位に入っていない技術分野は除外されています)。
各記号は発明の技術分類をあらわします。

分類参照:FIセクション/広域ファセット選択(特許情報プラットフォーム)
髪止め具などがこれに該当します。
三菱鉛筆がこの分野から多く出願しています。
伸長できるテーブルなどがこれに該当します。
コクヨがこの分野から多く出願しています。
折りたたみ可能ないすなどがこれに該当します。
コクヨがこの分野から多く出願しています。
ボールペンなどがこれに該当します。
パイロットコーポレーション、三菱鉛筆がこの分野から多く出願しています。
直線定規などがこれに該当します。
パイロットコーポレーションがこの分野から多く出願しています。
無機物質に基づくコーティング組成物などがこれに該当します。
パイロットコーポレーション、三菱鉛筆がこの分野から多く出願しています。
3.5 文房具メーカー3社の近年の開発トレンドと求められる専門の例
特許情報の出願年数が新しいほど、その企業の開発実態を反映していると言えます。
ここ10年のトレンドは以下のとおりです。
発明の主要な技術分野(筆頭FI)の出願年ごとの出願件数です。
出願件数が少ない技術分野は除外しています。
発明の説明は、必ずしも特許請求の範囲を完全に表現したものではありません。
関連する専門分野の例はあくまでイメージです。また、専門の概念レベルを必ずしも同一レベルで表示してはいません。
特許は難解ですが、GeminiやChatGPTなどのテキスト生成AIを活用すると簡単に解読できます。以下の記事を参考にしてください。
(1)コクヨ|開発トレンドと専門性

上図期間中、A47Bが最も多いです。次いでA47C、B42Fが多いです。
具体例としてケーブル引き回しを可能にする変形領域を持つ組立式机上ブースが挙げられます。
従来の机上ブースは下縁が机上面に密着しているためブース内へのケーブル引き回しに際し迂回が必要となり、机上面が乱雑になりやすいという問題がありました。
これに対し、使用者に対面するフロントパネルと左右に配置されるサイドパネルを具備する机上ブースであり、パネルの少なくとも一方の下縁部には変形可能領域が形成され、通常は机上面に当接または近接する通常位置からケーブル類の通過を許容する隙間が形成される変形位置までの間で変形可能であり、パネルは変形可能な外装材とその内側に配された保形性を有する芯材から構成されており、この変形可能領域は芯材が除去されている外装材のみの領域として構成されていることにより、ケーブル類をブースの内外間で効率的に引き回すことが可能となり、机上面が乱雑になることを防止・抑制することができる机上ブースが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7722102/15/ja
関連する専門分野の例:材料科学(外装材および芯材の最適な材料選定と複合構造設計、変形可能領域の変形メカニズムと耐久性の評価、遮音性と吸音性を最大化する外装材の多層構造(例:高密度布材と特定の気泡径・密度を持つ吸音ウレタンの組み合わせ)の設計・評価、変形可能領域のウレタンシートの繰り返し変形に対する耐久性(疲労寿命)の試験、ケーブル通過時の形状復元性に関わる弾性率や粘弾性特性の最適化)、機械工学(変形可能領域がケーブル通過時以外は机上面に確実に密着・復元する機構の設計、変形可能領域の変形挙動(応力と変位の関係)の解析、ケーブル通過に必要な変形力と復元力のバランスの検証、パネル間の接続部(スライドファスナーなど)の応力集中の解析、使用時の脱落や破損を防ぐための最適な接続方法と配置の決定)
従来のテーブルは天板受けと配線ダクトが別体のため、部品点数が多く、組立・分解に手間がかかるという問題がありました。
これに対して、室内に面する支持構造体に固設される天板受けと、この天板受けに下面が支持される天板を具備したテーブルであり、支持構造体は内部にコード案内空間を有し、天板受けはその内部にコード案内空間と連通する配線用空間が一体的に設けられ、天板には上面側と天板受け内の配線用空間とを連通させるアクセス窓が備えられたこれらの構成により、既存のコード案内空間を持つ支持構造体(ブースの支柱など)を利用しつつ天板受けが配線収納の役割も兼ねるため、従来の配線ダクトが不要となり、部品点数の削減および組立・分解の手間軽減を実現したテーブルが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7685409/15/ja
関連する専門分野の例:機械工学(支持構造体への固定、天板受けの薄板構造およびアクセス窓の蓋体の機構設計、使用時の振動やたわみを抑制するための剛性設計、天板、天板受け、支持構造体間の接合部の強度の解析、想定される最大荷重に対する破壊・疲労解析、アクセス窓の蓋体開閉機構(ヒンジ、係止部など)の設計)、電気電子工学(配線用空間内に収容されるコンセント要素(テーブルタップなど)の容量設計、安全規格への適合性の検討およびケーブルの熱的影響の評価、許容温度上昇の計算および空間の放熱設計(空気の対流など)の検討、収容するコンセント要素の定格容量や設置方法が日本の電気用品安全法などの規格に適合するかの検証、配線経路のノイズ対策)
従来の家具は特定の用途に特化しており、基本的な形態の変更や大規模な空間でのきめ細かな用途変更に対応できませんでした。
これに対して、天板を持つ家具本体と天板下空間に対して出没可能なスライド構体(段床を低位置に有する)を備えたひな壇ユニットを複数組具備する天板付き家具であり、スライド構体が完全に家具本体に没入するテーブルタイプのモードと段床が外に突出して階段状となる展開タイプのモードとを選択的にとることができ、複数組のひな壇ユニットが相互に異なるモード(テーブル、ソファー、スタジアムなど)に個別に設定できるよう構成されていることにより、単一の家具でカウンターテーブルとしての用途から座れるひな壇としての用途まで基本形態をダイナミックに変化させることが可能な天板付き家具が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7608986/15/ja
関連する専門分野の例:機械工学(複数のスライド構体をスムーズに出没・格納させるテレスコープ機構と各モード(テーブル、ソファー、スタジアム)で確実に位置を固定するロック機構の設計、転倒防止を含めた家具全体の静的強度・剛性の解析、段床の高さが異なるスライド構体間のクリアランスと転動体(車輪)の負荷能力を考慮したスライドレールの選定と耐久性評価、展開タイプのモードでの使用荷重に対する各段床のたわみ量の解析、安全基準を満たす最適な部材厚さと補強構造の決定)、人間工学(異なるモード(テーブル、ソファー、スタジアム)における人体の寸法と動作に基づく各段床の高さと奥行きの決定、安全な昇降および快適な着座姿勢を確保するための寸法設計と検証、テーブルモードでの最適な作業高さ、ソファーモードでの着座に適した段床の奥行きおよびスタジアムモードでの階段としての昇降のしやすさの設計、スライド構体のモード切り替えに必要な操作力を測定・評価、最小限の力で安全に操作できるハンドルやロック解除機構の形状・配置の最適化)
具体例としてオフィス等で好適に利用されて前後左右斜め方向へ移動可能な椅子が挙げられます。
既存の傾動椅子は変形自由度が高すぎて、着座者が荷重バランスを取りながら連続的に姿勢変更する動きをサポートしにくく、また、揺動部の目隠し構造が一般に知られていませんでした。
これに対して、脚に取り付ける下側ベース部と座を取り付ける上側ベース部を有し、これらベース部の互いに向き合う対向面が前後左右を含む360°いずれの方向にも傾きながら移動する椅子であり、両対向面の少なくとも外周縁近傍間に弾性部材が配置され外周縁間に伸縮性シート材が設けられ、弾性部材を含めた対向面間の隙間を隠蔽(向かい合う対向面の外周縁近傍に外周縁に沿って延びて反対向きに開口する溝が設けられ、伸縮性シート材の縁部に変形可能な帯材を取り付けられてカバー部材を構成し、この帯材が溝に押し込まれることで隙間を隠蔽)する構成により、弾性部材が伸縮性シート材の弛みや皺を防ぎ、伸縮性シート材が異物混入を防止しつつ弾性部材の食み出しを防止する役割を兼ねるため、機能的な作動を妨げない椅子が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7750705/15/ja
関連する専門分野の例:機械工学(機構部の力学的安定性と耐久性の検証、上側ベース部と下側ベース部の湾曲面(転動面)の曲率と重心位置の関係の解析、360°方向への傾動における重力復帰力の最適化、弾性部材、復帰バネ、ダンパー機構(ピンとOリング)のばね定数や摩擦係数の調整、着座者の連続的な姿勢変更に対して最適な追従性と制動性(ガタつき抑制)が発揮されるようシステムの動特性シミュレーションと応力解析)、人間工学(椅子の揺動動作が着座者に与える影響の評価、さまざまな体型および体重の被験者に対する座圧分布の変化、姿勢保持筋の負担度および姿勢変更の自由度と安定性に関する主観的・客観的データの収集・分析、揺動動作の最大傾斜角度、復帰力、ダンパー効果などのパラメーターの調整、着座者の動きを効果的に支持できる(追従しすぎず、踏ん張りを効かせやすい)機構の設計)
従来の折り畳み椅子は自立時のバランスが悪く、部品が多くて嵩張り、折り畳み操作もスムーズではありませんでした。
これに対して、2つのリンクメンバからなる脚リンクが一対で同期開閉可能に設けられた脚構造体を持つ折り畳み椅子であり、座を使用しない折り畳み状態において、2つのリンクメンバの下端間が上端間よりも開いた状態で自立し、左右一対の肘フレームを備え、これらの肘フレーム、展開・折り畳み状態のどちらでも対向関係を保ったまま背の左右を基端として外側に向けて湾曲しながら前方に延びる湾曲構造により、肘間の空間が広がり折り畳み時の把持や運搬が容易になるこれらのXリンク構造と下端側が開くリンク形状および湾曲した肘フレームの組み合わせにより、少ない部品で安定した自立性を確保し、スムーズな折り畳み・展開操作を実現する折り畳み椅子が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7508609/15/ja
関連する専門分野の例:材料工学(構造の安定性を維持しつつ、軽量化と耐久性を両立させるための最適な材料選定と加工法の検討、折り畳み椅子を構成するXリンクや肘フレームの部材に対し高強度アルミ合金や炭素繊維強化プラスチックなどの候補材料について疲労強度、弾性率、比重の比較評価、折り畳み時の自立を安定させるための連結部や接地部材の耐摩耗性、衝撃吸収性に優れた高分子材料の選定)、工業デザイン(使用・非使用時両方のユーザー体験を考慮した機能性、操作性および視覚的魅力を持った最終製品の設計、自立時の脚の広がり(スタンス)や湾曲した肘フレームの形状について使用者の持ち運びやすさ、スタッキングのしやすさといった操作性の評価、折り畳み機構やシートの張地(テキスタイル)の色、質感、パターンの決定、オフィスや屋外など使用環境に馴染む外観の設計、湾曲した肘フレームのラインが展開時・折り畳み時を通じてシームレスで美しい視覚的な流れを保つようなディテール(リンク間の隙間、接合部の処理)の設計)
具体例として樹脂製で扁平に折り畳み可能な二重構造側壁ファイルボックスが挙げられます。
従来の樹脂製ファイルボックスは折り畳みやすさのためにシートを薄くすると使用時の安定性が損なわれ、また、樹脂シートの折り曲げによる二重構造化では白化や加工上の困難が生じていました。
これに対して、扁平に折り畳み可能な樹脂製のファイルボックスであり、収納空間を囲む周壁のうち左右の側壁のみを内板(または外板)に化粧板が張り付けられた二重構造で、前後の端壁と底壁は一重構造とされることで強度が付与され白化が抑えられ、大きなシート材の取り回し問題が解消され、さらに、化粧板の下端部または後端部が底壁または後の端壁に優先して接地面に接地するように突出させてあることで、安定性の向上と摩耗の防止を実現したファイルボックスが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7456533/15/ja
関連する専門分野の例:材料工学(折り畳み時の白化を抑制して強度と加工性を両立させるための樹脂材料の選定と化粧板の張り付け技術の確立、ポリプロピレンなどの候補樹脂について折り曲げ線における応力白化特性の評価および白化しにくい添加剤(顔料、核剤など)の配合の最適化、内板と化粧板の張り合わせにおいて溶着または接着剤の選定、接合強度、耐久性および製造時の作業効率を最大化する接合条件(温度、圧力、時間)の設定)、機械工学(側壁の二重構造と底壁・端壁の一重構造の接合部における構造力学的な安定性の解析、化粧板の突出寸法や形状についてファイルボックスの垂直荷重および水平荷重に対する静的・動的安定性(転倒抵抗)の解析、接地時の応力集中を最小化する最適形状の設計、各壁の折り曲げ・係合機構が摩耗や疲労が生じても確実かつスムーズに動作するようヒンジ部や係合部のクリアランスや剛性の設計)
従来の折り畳み式クリップボードは展開姿勢を採る際にボードの他方が垂れ下がりやすく、書類に対する連続した台となる姿勢が安定しにくい問題がありました。
これに対して、書類を挟持するクリップが配設された第一のボードと折曲部を介して連設された第二のボードを備えたクリップボードであり、第二のボードは第一のボードと共に書類に対する連続した台を構成する展開姿勢と第一のボードの表面側に折り畳まれる折り畳み姿勢を採ることができ、展開姿勢において第一のボードに対する第二のボードの角度が170°~180°未満の範囲内に規制された機構により、第二のボードが部材の撓み変形によって下方に垂れ下がることを防ぎ、書類に対する連続した台として好適な姿勢を安定的に維持できるクリップボードが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7722042/15/ja
関連する専門分野の例:機械工学(展開姿勢の角度を規制しかつスムーズな折り畳み動作を両立させる機構部品の設計と応力解析、展開角度を170°~180°未満に規制するための裏ボード材の端面(係合面)の傾斜角度をボード材の剛性や材質、予想される筆圧荷重を考慮して決定、折り畳み・展開時の折曲部(ヒンジ)に加わる応力と繰り返し使用による係合部の摩耗の解析、耐久性と精度の維持に最適な部品形状と寸法の設計)、人間工学(展開姿勢における筆記時のユーザビリティの評価、最適なボード剛性と角度規制の許容範囲の決定、展開角度(170°〜180°未満)の違いがユーザーの筆記荷重に対する筆記具の滑らかさや力の伝達に与える影響の評価、ボード上での筆記時の振動や安定感に関するユーザーの主観評価と生理的反応(筋負担など)の収集・分析、長時間の使用でも疲労感や不快感を与えない最適な展開角度の数値範囲とボードの許容される撓み量の策定)
(2)パイロットコーポレーション|開発トレンドと専門性

B43Kが最も多いです。次いでC09D、B43Lが多いです。
具体例として金属製筆記具クリップが挙げられます。
従来の金属製クリップは弾性力の調整が困難で、また、物を把持したりスライドしたりする際にクリップの金属板エッジが軸筒表面や転写フィルムを傷つける問題がありました。
これに対して、軸筒の前後方向に延びる上壁と一対の側壁を有するクリップ本体、クリップ本体の裏側で側壁間に設けられ弾性力を生じさせる把持部およびクリップ本体の後側に結合されるクリップベースを主要な技術要素として含むクリップであり、クリップ本体は一枚の金属板を折り曲げて構成され、把持部は一対の側壁よりも軸筒表面方向に突出しており、クリップベースは一対の側壁が筆記具の軸筒表面に接触しない高さにクリップ本体を支持する構造となっていることにより、クリップの外観を形成する側壁のエッジが軸筒表面を傷つけることを防ぎ、側壁の剛性に影響されずに把持部のみで適度な把持弾性力を調整することができるクリップが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7586985/15/ja
関連する専門分野の例:機械工学(金属クリップの弾性体としての性能評価、各構成要素の最適寸法設計、軸筒とのクリアランス維持に必要な剛性解析、把持部(ビームと突出部)の変形メカニズムを片持ち梁の力学モデルに基づき解析、目標とする把持力と変位量を達成するための金属板の板厚、把持部の形状(V字形など)および自由端の幅の決定、クリップベースによる側壁と軸筒表面間のクリアランスを維持するためのクリップ本体全体の変形と応力のシミュレーション)、生産工学(金属クリップとクリップベースの自動組立工程における効率と信頼性を最大化するための部品形状および組立手順の最適化、ストッパ壁や把持部の絡み合いを防ぐ幅広部の形状がパーツフィーダからの供給や自動組付け機構での位置決めの安定性とタクトタイムに与える影響の評価、画像認識システムを用いて部品の向きや嵌合ミス発生率の計測、ストッパ壁の突出量や幅広部の寸法を製造コストと組立成功率のトレードオフを考慮して最適化)
従来のガタツキ防止構造では筆記先端部と軸筒前端孔との摺動によって環状弾性体(Oリング)が凹溝から脱落するおそれがあり、ガタツキ防止性能を維持できない問題がありました。
これに対して、軸筒と筆記体を備え、ボールペンチップとチップ保持筒から構成されたボールペンであり、ボールペンチップはボールを抱持しチップ保持筒より前方に突出する前筒部、チップ保持筒の取付孔に取り付けられる後筒部、両者の間に形成され環状弾性体が装着される装着部を備え、装着部の外径は前筒部の後端の外径より小さく、両者の間に後向き段部が形成されており、ガタツキ防止用の環状弾性体はボールペンチップがチップ保持筒に取り付けられた状態において後向き段部とチップ保持筒の前端との間に前後に圧縮された状態で挟持された構造により、ペン先が出没したり突出したりする際に弾性体が脱落することを回避し、ボールペンチップのガタツキ防止性能を維持できるボールペンが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7757227/15/ja
関連する専門分野の例:材料科学(環状弾性体として機能する高分子材料の選定および圧縮状態での耐久性と摩擦特性の最適化、環状弾性体の材料としてシリコーンゴムや各種エラストマーの選定、チップ保持筒や軸筒前端孔の内面との摺動摩擦係数の測定、長期使用における弾性体のへたり(圧縮状態で弾性力が低下する現象)がガタツキ防止効果に与える影響の評価、最適な硬度(デュロメータ硬さ)と配合の決定)、機械工学(環状弾性体の圧縮固定に必要な部品間の寸法公差の設計、チップ・保持筒の嵌合時の応力・変形解析、ボールペンチップの後向き段部、装着部およびチップ保持筒の前端の寸法公差の設計、チップ保持筒への後筒部の圧入・固着工程における部品の塑性変形や内部応力のシミュレーション、部品の破損を防ぎつつ環状弾性体の圧縮状態を安定的に確保できる最小寸法の導出)
従来のプッシュ式インキ吸入器はインキ吸入後の軸筒への挿入時、操作部材が胴の一部に触れてピストンが誤作動し、インキが漏れて手を汚すおそれがありました。
これに対して、主筒内にピストン部材とそのピストン部材に連結された操作部材を備えたプッシュ式インク吸入器であり、操作部材はピストン部材に連結される押圧部材と主筒(尾筒部材)に対して回動する回動部材から構成され、回動部材の外周には当接部(突起)が形成され、主筒の後端にはこの当接部を挿通させる挿通部(溝)が設けられおり、通常使用しない待機状態では回動部材を回動させて当接部と挿通部の位置をずらすことで当接部が主筒の後端面に当接し、操作部材の前方への押圧(インキ吸入動作)が機械的に規制・ロックされ、インキを吸入する際には回動部材を操作して当接部と挿通部の位置を一致させることで操作部材が前方に押圧可能となり、ピストンが移動して負圧を発生させ、さらに、回動部材の内面には段部(第一段部、第二段部)が形成され押圧部材の凸部と係合することで回動状態の認識を容易にし、意図しない回動を防ぐこれらの構成により、インキ吸入器を筆記具の胴に挿入する際に操作部材が胴に触れても誤作動することを回避してインキ漏れを防止できるインク吸入器が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7713382/15/ja
関連する専門分野の例:機械工学(操作部材のロック機構やピストンと主筒の嵌合構造などの機構の設計、ピストン、押圧部材、回動部材等の部品の耐久性、応力集中、および摩耗特性の解析、プッシュ操作時の衝撃荷重に対する材料の選定と形状の最適化、インキ吸入・排出を確実にするピストンと主筒の気密性を担保するための寸法公差の決定)、応用化学(インキそのものの特性やインキと部品材料との適合性の評価、インキ収容部で使用される樹脂材料(主筒、ピストン)とインキ(水性、油性など)との化学的適合性(耐溶剤性、インキ変質防止)の評価、インキの粘度や表面張力といった流動特性がパイプ内のインキ供給や吸入効率に与える影響の分析、最適なインキ組成や内部部品の素材の探索)
具体例として可逆熱変色性水性インキ組成物が挙げられます。
従来、熱変色インキは重ね書きで鮮明な筆跡を形成しにくい、または固形分析出によるドライアップが発生しやすいという問題がありました。
これに対して、可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料と剪断減粘性付与剤と水に特定の構造を持つ一般式(1)で示される物質をインキ組成物全質量に対し0.01~2.0質量%の範囲で含有させることで、インキの濡れ性や筆跡へのインキの乗りを向上させ、重ね書き性能を改善するほか固形分の析出を抑制し、潤滑性を高めることで耐ドライアップ性を向上させた可逆熱変色性水性インキ組成物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7749454/15/ja
関連する専門分野の例:応用化学(可逆熱変色を担う電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、反応媒体の各成分の分子設計および熱特性の最適化、一般式(1)の界面活性剤様の物質がマイクロカプセル顔料の分散安定性、インキの濡れ性、および筆跡上のインキ層の均一性に与える化学的影響の解明、一般式(1)の物質の鎖長やX1、X2、X3がマイクロカプセル表面での吸着挙動や臨界ミセル濃度に与える影響の評価、重ね書き性と耐ドライアップ性を両立する最適な構造の決定)、化学工学(インキ組成物全体の流動性、特に剪断減粘性付与剤とマイクロカプセル顔料の相互作用によって決定されるインキ吐出性と分散安定性のプロセス最適化、インキがボールペンチップから安定的に吐出されインキ中で顔料が沈降・凝集しないようにインキの粘度およびチクソトロピー性の組成物設計)
従来はユーザーが所望の色(所望色)を得るための基本インキの配合比を知る方法が提供されておらず、自ら試行錯誤して調色する必要がありました。
これに対して、
ユーザーが所望する色を容易に実現するためのインキ色提供装置であり、ユーザーが所望色の入力を受け付ける受付部を備え、入力された所望色を実現するために用いる複数の基本インキの配合比を表示制御部が算出し、表示し、受付部が軌跡入力操作による入力軌跡(文字や線)をさらに受け付け、表示制御部がその入力軌跡を導出された配合比で調色された所望色で表示することにより、ユーザーが実際にそのインキで筆記した際の色調やイメージを視覚的にシミュレーションでき、所望色の実現方法を確認でき、試行錯誤のプロセスが削減可能なインキ色提供装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7764174/15/ja関連する専門分野の例:情報科学(インキの色彩データ、配合データ、筆記シミュレーションのアルゴリズムを統括する情報システム全体の設計、色彩情報を扱うデータベースの効率的なデータ構造(調色管理DBなど)の設計、ユーザーが入力した所望色から目標色に最も近い配合比を導出するための色空間変換アルゴリズムや最適化ロジックの構築、筆記軌跡の入力と選択された色での描画をリアルタイムで表示するためのユーザーインターフェースの設計)、応用化学(使用される基本インキの色彩特性と混合特性に関する化学的・物理的データの収集と解析、システムに組み込むためのデータセットの作成、基本インキを定める各インキ組成物(例:シアン、マゼンタ、イエローなど)の最大吸収波長、濃度、分散安定性などの分光特性の評価、基本インキをさまざま配合比で混合した際の混色の発色特性(分光反射率、色度座標など)の評価、インキ色提供装置内の調色アルゴリズムに入力する色再現モデルの構築)
従来のシート状絵の具はシート同士の付着、自立性や柔軟性、水に溶かした際の均一性の速やかな達成に問題がありました。
これに対して、シート形状を維持する主材料として皮膜形成性水溶性ポリマー(重合度1,500~5,000のポリビニルアルコールや高分子多糖類など)とシート状色材の溶解を補助し着色剤の均一分散を担う溶解促進剤(重合度200~1,400のポリビニルアルコールや脂肪酸金属塩など)を特定範囲の組み合わせにより含有し、着色剤と湿潤保持剤を含み、平均膜厚が5~300μmであるこれらの構成により、シート状色材は粘着性が低く、水へ溶かした際に着色剤が速やかに均一に分散した液状組成物となる水溶性シート状色材が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7329661/15/ja
関連する専門分野の例:高分子化学(水溶性シート状色材の膜特性(強度、柔軟性、非粘着性)および再溶解性の最適化、皮膜形成性ポリマーと溶解促進剤の分子設計(重合度・けん化度など)と配合比の検討、シート状色材のガラス転移温度や結晶化度の測定および膜の適度な自立性を決定する分子構造パラメーターの特定、水への再溶解速度を支配するポリマーネットワークの動的挙動の解析、溶解促進剤との相互作用の機構の解明による最適なポリビニルアルコールの重合度の決定)、化学工学(分散系と塗布・乾燥プロセスの物理化学的制御の確立、着色剤(特に顔料)の表面処理剤や分散剤の選定と溶解促進剤との併用効果の評価、着色剤の凝集を防ぐための界面安定化条件の決定、液状組成物から均一な膜厚のシートを製造するための塗布液のレオロジー特性(粘度、チクソトロピー性)の調整、シート内部での成分の偏析や相分離を防ぎシート状色材の均一な組織構造を確保するための製造プロセスの最適化)
具体例として熱変色性筆記具の筆跡を消去可能な低摩耗性摩擦部と芯削り部を一体化した摩擦具が挙げられます。
従来、筆記具本体に摩擦部材を固着すると製造コストが増加し、削りくずで摩擦部や紙面が汚れるおそれがありました。
これに対して、熱変色性固形筆記体の筆跡を摩擦熱により熱変色(消色)可能な摩擦具であり、筆記体の先端を尖らせるための芯削り部と筆跡を摩擦する低摩耗性の摩擦部を備える一体型構造を有し、芯削り部は本体に設けられた挿入孔、それに連通するスリットおよび切刃から構成され、摩擦部が芯削り部の挿入孔の開口側と反対側かつスリットの開口側と反対側の本体外面に直線状に設けられており、摩擦部は2箇所の角部と1つの稜線部が一体に連設された形状のみを有するこの配置と形状の限定により、熱変色性筆記体から摩擦部を分離して製造コストを抑えつつ摩擦操作時に発生する削りくずが摩擦部に付着したり紙面を汚染したりするのを回避できる摩擦具が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7360562/15/ja
関連する専門分野の例:機械工学(幾何学的制約と操作性の両立を図る構造設計および強度解析、芯削り部本体の外面に削りくずの落下を最小限に抑える摩擦部の配置位置のモデル化、摩擦操作時の把持トルクや接触面圧のシミュレーション、摩擦部を構成する角部と稜線部の形状が紙面との円滑な摩擦操作に必要な接触力学的な安定性を確保できるかの評価、切刃を固定する本体の剛性の解析、削り作業中に芯が折れないための最小肉厚の決定)、人間工学(ユーザーの身体寸法や操作動作に基づいた設計評価、芯削り操作時と摩擦操作時の把持部(握りやすさ、滑りにくさ)の最適化、さまざまな手の大きさのユーザー群を対象に把持力分布の測定、摩擦部を特定の角部や稜線部に限定した形状が筆跡を正確かつ効率よく消去するために必要な摩擦エネルギーを安定して発生させられるかについて操作角度や速度のバラつきを考慮したユーザビリティテストの実施、削りくずの漏れを防ぐためのスリット位置と開口方向が通常の筆記具の使用姿勢や動作の流れに沿っているかの動作解析、操作ミスや不快感の発生を抑制する設計指針の確立)
(3)三菱鉛筆|開発トレンドと専門性

B43Kが最も多いです。次いでC09D、A45Dが多いです。
具体例として内部部品の不用意な脱落を防ぐ二重係合構造を備えた筆記具が挙げられます。
従来の筆記具はリフィル交換時の回転子の脱落や内筒を軸筒に取り付ける際の摩擦抵抗による組立性の悪さが問題でした。
これに対して、内部部品の脱落を防ぐ軸筒構造を備えた筆記具であり、第1筒状部材(軸筒)と径方向内外に弾性変形可能な弾性変形部を持つ第2筒状部材(内筒)および内部部材(回転子)で構成され、第2係合部が内部部材挿入時に弾性変形部を一時的に外方へ変形させて挿入を容易にし、第1・第2筒状部材が結合すると第1係合部が弾性変形部を径方向内方へ強制的に変形させ、内部部材を係止して脱落を防止する二重の係合機構により、製造時の組立が容易で部品交換時等での部品の脱落を防ぐ筆記具が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7532477/15/ja
関連する専門分野の例:機械工学(筆記具の軸筒(第1筒状部材、第2筒状部材)内における弾性変形部、係合部および回転子の相互作用の挙動の解明、組立時と使用時で求められる異なる剛性と変形量を両立する設計、弾性変形部(片持ち梁状など)の材料選定、肉厚および形状の決定、係合突起の球面状突起の曲率や弾性変形部の基部応力集中の評価および耐久性を保証した設計値の導出)、材料工学(筒状部材や弾性変形部に使用されるプラスチック材料について成形加工性、長期的な寸法安定性および繰り返し変形に対する疲労特性の評価、精密な係合機構に最適な材料の選定、第2筒状部材の弾性変形部についてクリープ特性(時間の経過に伴う変形)の測定、第1係合部と第2係合部がスムーズに機能するために必要な低摩擦係数とノック操作による繰り返し変形に対する耐疲労性を両立させるための添加剤や複合材料の検討、量産時の射出成形条件(金型温度、射出圧力など)と最終的な製品の寸法精度との相関の確立)
従来のノック式筆記具ではリフィルの後退時の衝撃緩和は考慮されていたが、落下等による異常な高速前進時の衝突衝撃が考慮されていませんでした。
これに対して、軸筒とその内部に配置された筆記体(リフィル)を具備するノック式筆記具であり、軸筒の前端部内面には前方に向かって内径が徐々に小さくなるテーパー面が設けられ、筆記体の外面には前進時に軸筒のテーパー面と協働して筆記体に制動を与える制動部が設けられており、制動部は軸筒のテーパー面に接触した際に摩擦抵抗を生じさせるとともに自身が径方向内方へ弾性変形することによって筆記体の運動エネルギーを吸収・減衰させ、この制動機構はリフィルが通常の筆記状態からさらに前進して軸筒内面に衝突する手前で作動するように構成されていることで、落下などの異常時におけるリフィルの損傷を防ぐノック式筆記具が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7470767/15/ja
関連する専門分野の例:機械工学(制動機構の設計と最適化、部品間のクリアランスと公差の設定、制動突起(制動部)のテーパー角、突起の数および軸筒側のテーパー面の角度を必要な制動力が得られるよう決定、制動突起が軸筒のテーパー面に接触して塑性変形ではなく弾性変形に留まるための形状と寸法公差の設計)、材料工学(制動部材の制動性能と耐久性を両立させる材料の選定と評価、制動突起に求められる適切な摩擦係数と高速衝突時の制動テーパー面との摺動に耐えうる耐摩耗性および複数回の衝撃吸収に耐えうる疲労強度を考慮した高分子材料の選定、成形条件の決定)
従来の消去具では摩擦熱で消す熱変色インク筆跡と擦過で消す鉛筆芯などの筆跡の両方を効率よく消去できないことが問題でした。
これに対して、インクや芯の種類に依存せず筆跡を消去できる消去具を備えた筆記具であり、軸筒と熱変色インクによる筆跡用の筆記体と熱変色インクとは異なる種類の筆跡(鉛筆芯など)用の筆記体を具備し、熱変色インクの筆跡を摩擦熱で消去するための第1の消去部材(摩擦体、例:熱可塑性エラストマー)と熱変色インクとは異なる種類の筆跡(例:鉛筆芯、消しゴム消去性インク)を擦過により消去するための第2の消去部材(例:塩化ビニル樹脂、非塩ビ字消し)とが一体に構成され、軸筒に設けられた消去部材ホルダに対して着脱可能な構造となっていることにより、ユーザーが筆記具を携帯しつつインクや芯の種類に左右されず一つの器具で複数の筆跡を効率よく簡便に使い分けて消去できる消去具付き筆記具が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7562770/15/ja
関連する専門分野の例:材料工学(2種の消去部材の消去性能と一体化のための接合特性を両立させる材料の探索、第1消去部材に適切なゴム弾性と摩擦熱発生特性を持つエラストマーの選定、第2消去部材に優れた集塵作用と自己摩耗特性を持つ樹脂の選定、異種材料間での強力な接着性(例:二色成形技術、界面活性化)または物理的結合性(例:嵌合構造)の検討)、機械工学(一体型消去具の着脱容易性と使用時安定性を確保する保持・嵌合機構の設計、一体化された消去具と消去部材ホルダとの嵌合部についてユーザーが手で容易に着脱できる力(引き抜き力)と使用時(擦過時)に部材が抜けない保持力を両立させる嵌合構造の設計、消去部材の摩耗と交換の容易性を考慮したホルダの耐久性と構造の決定)
具体例としてマーキングペン用インク組成物が挙げられます。
従来のインクでは鮮やかな発色をもたらす構造発色を維持しつつ粒子間の固着性を確保することが困難でした。
これに対して、液状媒体中に特定のコアシェル型ポリマー粒子を分散させたマーキングペン用インク組成物であり、粒子径の平均値が100nm超700nm以下かつ変動係数が20%未満の粒子が採用され、コア部のガラス転移温度が25℃以上で、シェル部のガラス移転温度が30℃以下かつコア部のガラス移転温度より40℃以上低いことでインク乾燥時にシェル部のみが軟化して粒子間を接着させ、コア部とシェル部の屈折率の差が0.01以上0.15以下であることで光の干渉を効果的に利用して鮮明な発色性を維持し、インクとしての発色性と固着性を両立させたマーキングペン用インク組成物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7659019/15/ja
関連する専門分野の例:高分子化学(インクの性能要件を満たすコア部とシェル部を構成するモノマーの選定と重合によるポリマー材料の設計、複数のモノマーの重合比率の調整により要求されるコア部の高いガラス転移温度とシェル部の低いガラス転移温度を実現するポリマー組成物の設計、コア部とシェル部の屈折率の差(0.01〜0.15)を生み出すため構造発色に適したモノマーの種類の選択)、化学工学(業的に安定かつ均一な品質で大量生産するためのプロセスの設計と制御、乳化重合やシード重合における反応器の設計、撹拌羽根の形状、モノマーや界面活性剤の供給速度などのプロセスパラメーターの最適化、重合反応における熱発生と冷却能力のバランス、原料(モノマー、溶媒、界面活性剤など)の投入量と最終製品(インク)の収率に関する物質収支とエネルギー収支の計算および安全かつ効率的な製造プロセスの設計)
従来、固形分濃度が高いインクを用いた水性ボールペンはペン先を長時間露出させると、乾燥によりインク吐出性が低下する初筆性の問題がありました。
これに対して、水性ボールペン用インク組成物を搭載した水性ボールペンであり、インク組成物は水中に特定のグラフト化物と樹脂粒子を規定量含有し、グラフト化物はアリルアルコール・無水マレイン酸・スチレン共重合物を主鎖とし、その側鎖に親水性のポリオキシアルキレンアルキルエーテル単位(式I)がグラフトされており、この(a)ポリオキシアルキレンアルキルエーテル単位と(b)無水マレイン酸単位の組成比はモル比で25~75:25~75、質量平均分子量は1,000~50,000であり、このグラフト化物がインク中に0.1~5質量%、平均粒子径0.4~20µmの樹脂粒子5~40質量%含まれることで、インクがペン先で乾燥・固化して吐出を妨げる現象(目詰まり)を効果的に抑制して良好な初筆性を発揮する水性ボールペンが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7394929/15/ja
関連する専門分野の例:高分子化学(インクの性能(初筆性)を担保する特定のグラフト共重合体の組成・分子量・構造の最適化、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル単位(式I)のモノマー比率(25〜75モル%)および側鎖のエチレンオキサイドの付加モル数(m:5〜50)がインクの表面張力と樹脂粒子への親和性に与える影響の評価、グラフト共重合体の質量平均分子量がインクの粘度および長期安定性へ及ぼす影響の検証)、物理化学(グラフト化物と樹脂粒子の相互作用の解析、インクの分散安定性、流動性および乾燥特性の最適化、粒子の凝集を防ぎ、長期的な分散安定性を向上させるメカニズムの解明、インクの粘度や表面張力といったレオロジー特性の測定・制御、グラフト化物の濃度がインクの乾燥特性やボールペンチップ金属への濡れ性に与える影響の分析)
従来のインク用防腐剤には安全性の問題で配合量が制限されたり、他のインク材料への悪影響や特定の汚染源への効果が不十分であるという問題がありました。
これに対して、ヨードプロパルギル化合物という防菌・防かび成分を内包した粒子を含有する筆記具用水性インク組成物であり、粒子のシェル(外殻)は式(I)で表されるシアノアクリレート構造を繰り返し単位中に有するポリマーで構成され、シェル中のシアノアクリレート構造の含有割合は90~100質量%であり、シアノアクリレートポリマー自体が細菌の細胞壁に接着して溶菌を生じさせる抗菌作用を持つ上、内包されたヨードプロパルギル化合物が徐々に放出されることで粒子単独の抗菌作用と内包物の抗菌作用の相乗効果を発揮することにより、インクの保存安定性や筆記性能を損なうことなく防腐効果を維持するインク組成物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7454386/15/ja
関連する専門分野の例:高分子化学(抗菌成分の放出制御に適したシアノアクリレートモノマーの選定、粒子シェルを構成するための重合プロセス条件の最適化、シェルを構成するポリマーのR基(炭素数2~8のアルキル基)の種類(例:イソブチル基、オクチル基など)がヨードプロパルギル化合物の内包効率およびポリマーの生分解性に与える影響の評価、アニオン重合における重合開始剤(例:水酸イオン)の濃度やpH、反応温度などのプロセスパラメーターの調整による目的の粒子径(10~800nm)を持つ単分散性の高いポリマー粒子を安定的に合成する条件の確立)、微生物学(インク組成物中の粒子の抗菌作用メカニズムの解明、インクの抗菌スペクトルと防腐効果の持続性の評価・検証、インク中の粒子について細菌、酵母、糸状菌の広範な微生物に対する最小発育阻止濃度の測定、シアノアクリレートシェル自体の抗菌作用と内包されたヨードプロパルギル化合物の徐放特性との相乗効果の評価)
具体例として化粧料塗布具が挙げられます。
従来、化粧料塗布具において使用開始時にユーザーが先軸を軸筒に再嵌合する際、位置決めが難しく、圧入不足による塗布液の液漏れが生じる恐れがありました。
これに対して、未使用時の仮嵌合部と使用時の本嵌合部が軸筒と先軸のそれぞれに形成された化粧料塗布具であり、軸筒の本嵌合部(前側と後側)の間に先軸を径方向内側から支えるガタ防止部が形成されており、ガタ防止部は軸方向に沿ったリブ構造として形成され、仮嵌合状態にある先軸に対して径方向のガタつきを防止することにより、初期の嵌合状態から本嵌合状態への移行または再嵌合の際に先軸が適正な位置で確実に軸筒に保持されるため、圧入不足を防ぎ塗布液の液漏れや筆記時のガタつきを防ぐことができる化粧料塗布具が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7394199/15/ja
関連する専門分野の例:機械工学(軸筒と先軸の嵌合部の幾何学的設計およびガタ防止部の最適形状設計、本嵌合部、仮嵌合部およびガタ防止部のリブ構造の寸法の設計、ガタ防止部のリブが先軸を径方向に支えるクリアランスの微調整による嵌合時の応力分布と嵌合力の解析、液漏れを防ぐための適切な圧入状態を維持しつつユーザーが容易に組み付けられる操作性を両立させるための最適な寸法の決定)、材料工学(化粧料成分への耐性と強度を両立させる軸筒・先軸の構成材料選定、射出成形に適した材料の特性評価、軸筒に収容される液状油性化粧料に対して耐溶剤性と成形加工性に優れたPBT樹脂などの高分子材料の選定、選定した材料についての強度試験(引張強度、衝撃強度)やクリープ特性の評価、微細なガタ防止部リブや嵌合部リブの形状が射出成形により高精度で再現できるための成形収縮率などの材料パラメーターの評価)
(4)まとめ
オフィス家具や筆記具などの出願が多く確認され、そのような出願につながる開発がおこなわれていることが推測されます。
機械系や材料系の専門性の他に、インクなどについては化学系の専門性が関係し得る場合があります(材料系と化学系の境界は曖昧です)。
3.6 共同出願人との開発例
共同出願人からはビジネス的結びつきがわかります。
技術によっては、開発をアウトソーシングしている可能性もあります。
各社の共同出願人(筆頭出願人)は以下のとおりです。
(1)コクヨ

詳細の説明は省略します。
(2)パイロットコーポレーション

共同出願の例として温度変化で可逆的に色が変わる積層構造の撚糸が挙げられます。
既存の熱変色性糸は色変化の視認性が低く、熱変色材を増やしすぎると層間剥離が生じて耐久性や熱変色機能が損なわれる問題がありました。
これに対し、透明性樹脂フィルムの平糸上に第一接着層、可逆熱変色層、第二接着層、透明性樹脂層を積層した平糸を撚った可逆熱変色性撚糸であり、色変化機能を持つマイクロカプセル顔料(電子供与性・電子受容性・反応媒体を内包)がバインダー樹脂に高配合(90~160質量部)され、顔料径が1~20µmとされることで、層間剥離が抑制されて色変化の視認性が良好で耐久性と光沢性を有する撚糸が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7655725/15/ja
(3)三菱鉛筆

(4)上記(1)~(3)(共同出願人)のまとめ
特企業との共同出願が多い場合があります。
また、共同出願でも文房具関連の出願が多いです。
4 開発に求められる専門性
上記3で示した特許分類≒開発人材に求められる専門性、だと仮定します。
上記各特許情報には以下の人材が関わっていると言えます。
・機械系分野(機械工学、人間工学、生産工学など)
構造体の力学的安定性解析、可変機構の設計と挙動シミュレーション、組立て・製造プロセスの合理化設計、複合部品の機構設計と耐久性評価、材料選定と加工技術の最適化検討、多段スライド機構の設計と最適化、利用者行動に基づいたレイアウト適合性の評価、人体の動的・静的特性に基づいた製品形状・寸法の検討、組立・折り畳み動作におけるヒンジ(折り曲げ)機構の設計、金属弾性部材の最適形状と特性値の決定、自動組立てラインへの部品供給に適した形状設計の検証、非線形弾性体の挙動を考慮した部品間の嵌合構造設計、複数の機能を統合したモジュール部品の構造設計と着脱・保持機構の力学解析などが求められます。
・材料系分野(材料科学、材料工学など)
複合材料の機能性最適化設計、変形・復元特性の材料評価と制御、構造体の軽量化と剛性を両立させる材料選定、摺動部や接地面の耐摩耗性材料の選定と検討、曲げ加工時の応力白化特性の解析と抑制技術の確立、機能性エラストマー材料の選定と性能試験、接触・摩擦界面での摩耗および劣化挙動の解析、成形品の機能維持に必要な材料の力学特性(剛性、疲労強度)の検討と選定、動的負荷に対する高分子材料の応答特性(衝撃吸収能、変形挙動)の評価、複合機能発現のための異種材料界面の接合技術の検討などが求められます。
・化学系分野(応用化学、化学工学、高分子化学、物理化学など)
筆記具用インキと接触部材の相互作用(濡れ性、腐食)の化学的評価、インキの物理特性(粘度、表面張力)と流路設計の整合性検討、機構部品に使用する高分子材料の耐インキ性および長期安定性の評価、機能性色素・呈色システムの分子構造設計と発現特性の最適化、多成分混合系における界面活性剤の動的挙動解析、固形分高濃度分散系における析出防止および分散安定化プロセスの最適化、基本インキの分光特性に基づいた色再現性の評価とモデル構築、機能性高分子材料の分子構造と物性相関の解析、機能性ポリマー構造の設計、分散安定化技術のプロセス化検討、インクの濡れ性および乾燥挙動の評価などが求められます。
・デザイン系分野(工業デザインなど)
製品のライフサイクルを考慮したユーザビリティ設計、可動状態および固定状態における外観の意匠性検討、スタッキングや自立形態を含む非使用時デザインの最適化などが求められます。
・情報系分野(情報科学など)
ユーザーの視覚体験を向上させるための情報入力・表示インターフェースの設計、色彩情報(色度データ)に基づいた調色アルゴリズムの構築と最適化、色彩データおよびユーザー履歴を扱うデータベースシステムの設計などが求められます。
・電気系分野(電気電子工学など)
配線システムの機能設計と安全規格適合性の検討、電線・機器の熱設計と放熱解析、システム全体の配線経路設計とノイズ対策などが求められます。
・その他分野(微生物学など)
抗菌メカニズムの作用解析とスペクトル評価、る防腐効果の定量的評価、内包成分の徐放特性と抗菌効果の持続性検討などが求められます。
ただし、上記特許出願にあたっては、共同出願者やその他事業者に技術をアウトソースしている可能性もあります。
5 まとめ
オフィス家具や筆記具に関する出願が多く、そのような出願につながる開発がおこなわれていることが推測されます。
ただし、企業によって製品ジャンルが異なる場合があります。
大学の専攻と関係づけるとしたら、主に機械、材料における研究分野が該当する可能性があります。
インク関係の出願では、化学が関係することが多いです(材料系との境界は曖昧ではあります)。
その他、デザイン、情報、電気などが関係することもあります。
本記事の紹介情報は、サンプリングした特許情報に基づくものであり、企業の開発情報の一部に過ぎません。興味を持った企業がある場合は、その企業に絞ってより詳細を調べることをおすすめします。
参考記事:1社に絞って企業研究:特許検索して開発職を見つける方法4
以上、本記事が少しでも参考になれば幸いです。
<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・会社四季報 業界地図2024年、2025年版 東洋経済新報社
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