今回は私たちの健康を守る医薬品を作っている業界に焦点をあてます。
今はなかなか新薬ができないという話を聞きます(製薬会社で働く友人と飲むとこの話になることが多いです。候補物質をくまなく調べる絨毯爆撃的なことではうまくいかないとかなり昔から言っています)。
また、日本企業による海外企業の買収の話もよく耳にします。
このような情報に基づくと、創薬に関わりたいと思っても、そのような場は限られるのではないかと感じるかもしれません。
これを特許情報からみていきます。
特許情報は企業の開発情報だと言えます。
実際にどのような開発がおこなわれたのか特許情報に記載されています。
今回は、製薬企業6社の特許情報からどのような開発がおこなわれてきたのか、また、開発にどのような専門性が求められるのか読み解きました。
製薬企業では、創薬初期段階を担う「研究」部門、研究部門が見出した候補化合物の臨床試験などをおこなう「開発」部門があり、「開発」という言葉が他業界で言う「開発」と意味合いが異なる場合があります。本サイトにおける「開発」は上記製薬企業の「研究」、「開発」の両方の概念を含み得るものとします。
結論(概要)は以下の通りです。
・新薬などの探索(薬学系(薬化学、薬理学など)、化学系(有機化学、生物化学、分析化学など)、生物学系(分子生物学、免疫学、遺伝子工学、生物工学、応用微生物学など)
・新薬などの製品化(安全性検証など)(薬学系(薬理学、製剤学など)、医学系(内科学、各診療科など)、化学系(分析化学など)
・その他(電気電子工学、情報工学、機械工学など)
1 業界サーチの概要
特許情報は企業の開発情報だと言えます。
業界サーチは、業界における主要企業の特許情報から、その業界の企業がどのような開発をおこなってきたのか、客観的な情報を導き出そうとするものです。
特許分類(後述)からは、その特許に関わる開発の主な技術分野がわかります。
すなわち、その企業の開発職においてどのような専門性が求められるのか特許情報から推測できます。
2 医薬品業界
2.1 医薬品業界とは
ここでは、医薬品の研究開発、製造、販売をおこなう企業から構成される業界を意図します。
医療用医薬品と一般用医薬品の区別はしていません。
2.2 サーチ対象
以下の売上規模上位の国内製薬企業6社を対象にしました。
(2)アステラス製薬(アステラス)
(3)第一三共
(4)大塚ホールディングス(大塚)
(5)中外製薬(中外)
(6)エーザイ
以下、上記括弧内の略称で表記します。
大塚には大塚製薬株式会社と大鵬薬品工業株式会社の情報を用いました。
エーザイにはエーザイ株式会社、エルメッド エーザイ株式会社、エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社の情報を用いました。
2.3 使用プラットフォーム
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
3 サーチ結果
3.1 結果概要
開発イメージは下表のとおりです。
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モノの開発 |
サービスの開発 |
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個人向け |
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法人向け |
・GPR6を標的とする治療薬 |
・特定化学物質の結晶を得るための方法 |
モノの開発としては、例えば、GPR6を標的とする治療薬が挙げられます。
サービスの開発としては、例えば、特定化学物質の結晶を得るための方法などが挙げられます。
医薬品の最終ユーザーは一般の人たちですが、抗癌剤などが直接購入可能なわけではないので、法人向けとしました。
3.2 出願件数の推移
下図は製薬6社の特許出願件数の推移です。

各社とも年によって出願件数が変動していますが、100件/年以内で推移しています。
化学系メーカーと比較すると件数は少ないですが、毎年の出願につながる開発が日々おこなわれていることが推測されます。
3.3 開発の活発度
特許出願件数≒開発の活発度、だと考えるなら、
武田>中外、エーザイ>第一三共、アステラス>大塚
だと言えます(出願総数は中外とエーザイ、第一三共とアステラスがそれぞれ同程度でした)。
3.4 主な開発分野
各社ごとに特許出願件数が多かった技術分野を以下に示します。
各社の出願上位3つの技術分野を抽出して並べています(特許出願されていても、その企業の出願件数上位に入っていない技術分野は除外されています)。
各記号は発明の技術分類をあらわします。

分類参照:FIセクション/広域ファセット選択(特許情報プラットフォーム)
他業界に比べ、特定の技術分野に集中しています。
有機活性成分を有する医薬品製剤などがこれに該当します。
全6社がこの分野から多く出願しています。
置換基のないラクタムの製造などがこれに該当します。
全6社がこの分野から多く出願しています。
微生物の培養などがこれに該当します。
武田、アステラス、第一三共、中外がこの分野から多く出願しています。
サンプリングなどがこれに該当します。
大塚、エーザイがこの分野から多く出願しています。
3.5 製薬6社の近年の開発トレンドと求められる専門の例
特許情報の出願年数が新しいほど、その企業の開発実態を反映していると言えます。
ここ10年のトレンドは以下のとおりです。
発明の主要な技術分野(筆頭FI)の出願年ごとの出願件数です。
出願件数が少ない技術分野は除外しています。
発明の説明は、必ずしも特許請求の範囲を完全に表現したものではありません。
関連する専門分野の例はあくまでイメージです。また、専門の概念レベルを必ずしも同一レベルで表示してはいません。
特許は難解ですが、GeminiやChatGPTなどのテキスト生成AIを活用すると簡単に解読できます。以下の記事を参考にしてください。
(1)武田|開発トレンドと専門性

上図期間中、C07Dが最も多いです。次いでA61K、C12N、C07Kが多いです。
具体例としてGPR6(Gタンパク質共役受容体6)を標的とする治療薬の使用が挙げられます。
既存のGPR6モジュレーターには有効性が期待される一方で、hERGチャネル阻害(ヒト遅延整流性カリウムイオンチャネルと呼ばれるタンパク質複合体の機能の阻害)による心毒性リスクといった安全性上の懸念がありました。
これに対し、特定の化学式であらわされるテトラヒドロピリドピラジン誘導体を90%以上の高鏡像体過剰率で10mg/kg~20mg/kgの特定用量範囲で用いることでGPR6の調節作用を維持しつつ副作用を低減した治療薬が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7497400/15/ja
関連する専門分野の例:有機化学(特定の化学式の化合物の効率的かつ高選択的な合成のための出発物質の選定、反応条件の検討)、薬理学(GPR6受容体に対する所定の化学式の化合物の結合親和性、選択性、作動・拮抗活性の評価、細胞レベルでの薬効評価)
従来、GPR139の活性化物質が報告されているものの具体的な構造や薬理学的特性については更なる研究が求められていました。
これに対して、特定の化学式を有する化合物、その互変異性体または薬学的に許容される塩、具体的には、特定の化学式におけるαおよびβの結合様式、X1、X2、X3の原子または基の種類、nの数値、R1CからR11までのさまざまな置換基によって定義されるGPR139関連疾患の治療に有用とされる化合物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7566888/15/ja
関連する専門分野の例:薬学(特定の化学式を有する化合物の合成経路の検討、不純物の除去と高純度化、構造決定と特性解析(NMR、質量分析など))、生命科学(GPR139受容体の機能解析、特定の化学式を有する化合物によるGPR139活性化メカニズムの解明)
具体例として特定の分子量以下の物質に浸透性であり、より大きな物質には不浸透性であるアルギネートマトリックスを含む半浸透性ヒドロゲル組成物が挙げられます。
既存のイオン架橋されたアルギネートゲルは生理条件下で不安定であり溶解しやすいという問題がありました。
これに対して、アルギネートマトリックスのコア周辺においてアルギネートをマルチアームの水溶性ポリマーに共有結合的に架橋させることにより、ヒドロゲルの安定性を向上させて特定の分子サイズの物質に対する半浸透性を実現する半浸透性ヒドロゲル組成物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7423677/15/ja
関連する専門分野の例:高分子化学(アルギネートやマルチアーム水溶性ポリマーの特性(分子量、構造、官能基など)の最適化、共有結合架橋反応の設計と条件検討)、生物化学(ヒドロゲルの生体適合性の評価(細胞毒性試験、免疫反応評価など)、薬物や細胞の徐放性の評価)
既存技術ではHAEの急性発作に対する治療法は存在するものの発作を予防するための効果的な治療法が限られていました。
これに対して、活性血漿カリクレインに特異的に結合する150mgの抗体(DX-2930)とリン酸ナトリウム、クエン酸、ヒスチジン、塩化ナトリウムおよびTween80を含む薬学的に許容される担体とを含み、2週間または4週間ごとに投与されることでHAEの発作を予防または発作率を低下させる効果を発揮する医薬組成物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7309836/15/ja
関連する専門分野の例:免疫学(抗体作製、作製された抗体のスクリーニングと特性評価、抗体のヒト化や親和性成熟などのエンジニアリング)、薬理学(動物モデルを用いた薬効試験、安全性試験、臨床試験のデザインと実施)
具体例として血友病A治療のための遺伝子治療に用いる改変された第VIII因子ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挙げられます。
既存の第VIII因子補充療法は頻繁な投与やインヒビター抗体の出現といった問題点がありました。
これに対して、特定の配列に対して高い同一性を有する重鎖と軽鎖がfurin切断部位と特定のグリコシル化ペプチドを含むポリペプチドリンカーによって連結された第VIII因子ポリペプチドをコードする設計により、効率的な遺伝子導入と導入された第VIII因子ポリペプチドが適切に切断され、グリコシル化されることで機能的な活性と改善された体内動態が期待されるポリヌクレオチドが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7307836/15/ja
関連する専門分野の例:分子生物学・遺伝子工学(目的とする第VIII因子ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の設計・構築)、生物化学(改変された第VIII因子ポリペプチドの構造の解析、その機能(活性、安定性、他のタンパク質との相互作用など)との関連性の解析)
具体例として癌細胞上の2つの異なる標的抗原とT細胞上の CD3抗原とに結合する二重特異性抗体が挙げられます。
既存の抗体医薬は標的特異性や副作用、体内動態に課題がありました。
これに対して、癌細胞上の第1および第2の標的抗原に結合するそれぞれの抗原結合ドメインとプロテアーゼ切断可能なリンカーで連結された不活性型のscFvドメイン(VH/VL対)と半減期延長ドメインを含む2種類のポリペプチドから構成され、癌組織においてプロテアーゼによりリンカーが切断されると、それぞれのポリペプチドからVLドメインとVHドメインが放出されCD3抗原に特異的に結合する活性型のVH/VK対を形成することで癌細胞特異的なT細胞の活性化と効率的な癌細胞の傷害が期待されるポリペプチドの対が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7293456/15/ja
関連する専門分野の例:免疫学(癌細胞上の適切な第1および第2の標的抗原の選定、それらに特異的に結合する抗原結合ドメインの作製と評価、T細胞上のCD3抗原に特異的に結合するVHドメインとVLドメインの選定、それらがプロテアーゼ切断後に効率的に活性型のVH/VL対を形成するよう設計)、薬理学(作製された二重特異性抗体の体内動態(吸収、分布、代謝、排泄)の評価、半減期延長ドメインの効果の検証)
(2)アステラス|開発トレンドと専門性

具体例としてPEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントを含む医薬組成物が挙げられます(抗ヒトNGF抗体:神経成長因子(NGF)というタンパク質に特異的に結合する抗体、Fab’フラグメント: 抗体分子の一部であり抗原(この場合はヒトNGF)に結合する能力を持つ領域)。
従来の抗体医薬組成物にはタンパク質の分解や凝集、不溶性異物の生成など安定性の課題がありました。
これに対して、特定の抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントがヒンジ領域のシステイン残基にPEG化したものを含有し、pHが4.6~5.5の範囲に調整され、緩衝剤(クエン酸またはその塩)と界面活性剤(ポリソルベート80)の配合により、安定性を向上させた医薬組成物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7215555/15/ja
関連する専門分野の例:製剤学(PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの分解、凝集、不溶性異物生成を抑制するためのpH範囲、緩衝剤、界面活性剤の検討)、薬理学(PEG化抗ヒトNGF抗体Fab’フラグメントの薬理効果の確認)
従来の熱溶解積層方式で製造された固形物は崩壊しにくく有効成分の溶出が遅れるという問題がありました。
これに対して、特定の有効成分と水溶性の熱可塑性高分子であるポリビニルアルコールと特定の水溶性の糖及び/または糖アルコール、可塑剤成分を特定の重量割合で含有することで、良好な射出成形性と印刷性を両立しつつ有効成分の速やかな溶出を実現する三次元造形物用材料が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7127725/15/ja
関連する専門分野の例:薬学(速溶出性を実現するための賦形剤の種類と配合比の決定、得られた三次元造形物の溶出挙動の評価)、高分子化学(水溶性の熱可塑性高分子であるポリビニルアルコールの分子量、鹸化度などが材料の熱可塑性、成形性、有効成分の溶出性に与える影響の確認、ポリビニルアルコールと水溶性の糖及び/または糖アルコールの種類、配合比の検討)
具体例として血管内皮細胞に発現する受容体型チロシンキナーゼであるヒトTie2に結合し活性化させる抗ヒトTie2抗体が挙げられます。
既存の抗ヒトTie2抗体は存在するものの糖尿病黄斑浮腫、糖尿病網膜症、重症下肢虚血といった疾患に対するより効果的な予防または治療薬の開発が求められていました。
これに対して、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と配列番号4で示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む4つの抗原結合部位を有する抗ヒトTie2抗体またはその抗原結合フラグメントの、それぞれの可変領域をコードするポリヌクレオチド(これらのポリヌクレオチドを用いることでヒトTie2に対して高い結合能と活性化能を示し血管関連疾患の予防または治療に有用な抗体またはその抗原結合フラグメントを産生)が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6860103/15/ja
関連する専門分野の例:分子生物学(抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードする遺伝子を設計・合成、抗体タンパク質を発現させるための系の構築)、免疫学(作製された抗体が標的抗原であるヒトTie2に対して特異的に結合することの確認、抗体がヒトTie2を活性化する能力の評価)
具体例としてジアシルグリセロールキナーゼζ(DGKζ)を阻害するピリダジニルチアアゾールカルボキシアミド化合物またはその塩が挙げられます。
既存のDGK阻害剤は存在するものの、抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体療法に耐性を示すがんなど、免疫細胞活性化に関連するがんに対するより有効な治療薬が求められていました。
これに対して、特定の化学式を有し、その化学式中のR1として特定の含窒素複素環基、R3として隣接する四つの置換基を有するフェニル基などを必須の構成要素とすることで、ジアシルグリセロールキナーゼζ(DGKζ)を阻害し、その結果として既存の免疫療法に抵抗性を示すがんに対する新たな治療選択肢となりうるピリダジニルチアアゾールカルボキシアミド化合物またはその塩が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-6948659/15/ja
関連する専門分野の例:有機化学(特定の化学式を有する化合物およびその塩の合成経路の設計、さまざまな置換基を導入した類縁体に基づく構造とDGKζ阻害活性の相関性の解明)、薬理学(合成された化合物についてin vitro/in vivoでの評価)
具体例としてヒト癌細胞で過剰発現するMUC1タンパク質に特異的に結合する抗体フラグメント(Fab)に金属と結合可能な配位子を結合させた複合体が挙げられます。
既存の抗体を用いた癌診断や治療では血中半減期の長さや副作用、標識による活性低下などが問題となっていました。
これに対して、ヒト癌細胞で過剰発現するMUC1タンパク質に特異的に結合する抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントに、金属イオンと結合可能な配位子をペプチドリンカーやスペーサーを介して結合させることでMUC1への高い結合活性を維持しつつ体内動態を改善し、金属イオンを導入することで診断能や治療効果を向上させる複合体が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7360766/15/ja
関連する専門分野の例:分子生物学(目的とする抗ヒトMUC1抗体Fabフラグメントをコードする遺伝子の設計・合成、宿主細胞を用いたFabフラグメントの発現・生産に関する検討)、薬学(複合体を診断薬や治療薬として利用するための製剤設計、複合体の投与経路、投与量、投与間隔などの最適化)
(3)第一三共|開発トレンドと専門性

A61Kが最も多いです。次いでC07D、C12N、C07Kが多いです。
具体例として特定の薬物リンカーと抗体がチオエーテル結合した抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を含む医薬組成物が挙げられます。
既存の抗体製剤では凝集体の形成や分解物の生成が免疫原性や静脈障害の原因となるため抑制が求められていました。また、スクロース等を用いた凍結乾燥製剤では乾燥時間の長期化やケーキの収縮といった問題がありました。
これに対して、特定のADC、ヒスチジン緩衝剤、スクロースまたはトレハロース、および特定の量のポリソルベート80またはポリソルベート20の配合と特定のpH範囲の調整により、ADCの凝集や分解を抑制し、安定性を向上させた医薬組成物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7551729/15/ja
関連する専門分野の例:薬学(ADCの物理化学的性質の評価に基づく製剤設計、ヒスチジン緩衝剤、スクロースまたはトレハロース、ポリソルベートの配合量やpHがADCの安定性に与える影響の評価、最適な組成の検討)、生物工学(宿主細胞を用いたADCの高効率な生産体制の構築、発現・精製したADCの構造解析や品質評価)
既存の抗MUC1抗体には十分な抗腫瘍効果が得られないという課題がありました。
これに対して、特定の相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む抗体を細胞傷害剤に結合させた抗体薬物コンジュゲート(ADC)で、この抗体が多くの上皮細胞で産生される糖タンパク質ムチン1(MUC1)またはがん細胞において特異的に高発現したり正常細胞とは異なる構造を持つ腫瘍関連MUC1(TA-MUC1)への結合が可能であり、特に重鎖可変領域の特定部位(配列番号2の8位のアミノ酸または配列番号11の57位のアスパラギン)のアミノ酸置換によりグリコシル化部位を欠失させることで、MUC1またはTA-MUC1への抗原結合親和性を向上させ、それにより抗腫瘍効果の増強が期待されるADCが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7502402/15/ja
関連する専門分野の例:分子生物学(改変された抗体のMUC1またはTA-MUC1への結合親和性をの評価、結合特異性や結合部位の特定)、有機化学(抗体と細胞傷害剤を効率的かつ安定的に結合させるためのリンカー分子の設計・合成)
具体例として医薬品有効成分の化合物の特定の結晶形を調製するためのプロセスが挙げられます。
既存技術では当該化合物の工業的規模での効率的な調製法が求められていました。
これに対して、特定の化学式の化合物を特定の湿潤メチルt-ブチルエーテルに添加し、還流後冷却し、結晶を単離することにより、特定の粉末X線回折パターンを特徴とする結晶形を高収率で得られるプロセスが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7536721/15/ja
関連する専門分野の例:製剤学(得られた結晶形の物理化学的性質の評価、結晶形の製剤化を考慮した製剤設計)、有機・物理化学(湿潤メチルt-ブチルエーテルによる結晶形の生成機構の解析、高純度、高収率の結晶形を得るための条件探索)
具体例としてヒト及びカニクイザルCD3に結合する抗体またはその抗原結合性断片が挙げられます。
既存の抗CD3抗体の多くはヒトCD3に特異的であり、前臨床試験に用いられるカニクイザルCD3に結合しないため開発候補薬の評価に課題がありました。
これに対して、特定のCDR(相補性決定領域)の組み合わせ、特に配列番号26、98、28の重鎖CDRと配列番号29、RXaaD、31の軽鎖CDRを含む抗体またはその抗原結合性断片であってCDRの特定のアミノ酸残基が選択されたもの、さらに特定の軽鎖可変領域配列を含むことでヒトとカニクイザル両方のCD3に結合する抗体が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7478222/15/ja
関連する専門分野の例:免疫学(作製された抗体のヒトCD3およびカニクイザルCD3への結合特異性、結合親和性の評価、抗体がT細胞に結合した際の活性化シグナル伝達能の解析)、分子生物学(抗体遺伝子の設計、合成、宿主細胞を用いて抗体を大量に発現、生産するための細胞培養条件の最適化)
具体例として、抗体と抗がん薬であるエキサテカンの誘導体がリンカーを介して結合した抗体-薬物コンジュゲート(ADC)において、その薬物部位を特異的に認識する蛋白質(抗体)が挙げられます。
既存のADCの血漿中濃度測定では抗体部分を認識する蛋白質を用いるため薬物が結合した状態と遊離した状態のADCを区別できず正確な評価が困難でした。
これに対して、特定のアミノ酸配列からなる重鎖及び軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む抗体またはその抗原結合断片であってADCの薬物部位を特異的に認識し、投与後のADCの血漿中濃度を薬物が結合した状態でのみ正確に定量することが可能となる抗体が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7406488/15/ja
関連する専門分野の例:薬学(生体試料中のADCを遊離した薬物や抗体と区別して特異的に検出できるかの検証、ADCの投与量設計や治療効果予測)、生物化学(抗体の設計、作製、精製)
(4)大塚|開発トレンドと専門性

A61Kが最も多いです。次いでG01N、C07D、A23Lが多いです。
具体例として統合失調症治療薬であるブレクスピプラゾールのフマル酸塩を含有する放出制御性経口固形医薬組成物が挙げられます。
既存のブレクスピプラゾール製剤は主に1日1回投与であり、患者の服薬負担が大きいという問題がありました。
これに対して、有効成分であるブレクスピプラゾールのフマル酸塩とヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースから選ばれるセルロース系水溶性高分子の組み合わせにより、薬物の過剰な初期放出を抑制し、長時間にわたり持続的に有効成分を放出するハイドロゲル徐放性製剤を実現し、低頻度投与が可能となり患者の服薬コンプライアンス向上が期待できる放出制御性経口固形医薬組成物 が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7635187/15/ja
関連する専門分野の例:薬学(徐放性製剤についての薬物溶出試験の実施、目標とする薬物放出プロファイル(持続性、放出速度など)の評価)、高分子化学(セルロース系水溶性高分子の種類、分子量、粘度などが薬物の放出挙動に与える影響の検討、高分子材料の選定、製剤の物理的強度、膨潤性、多孔性などの評価、高分子配合比率や製造プロセスの検討)
従来の生薬エキス製剤の固形化では吸湿性や造粒性の問題から均質な顆粒を得ることが困難でした。
これに対して、多孔性ケイ酸カルシウムへの生薬エキス等の吸着を複数回に分けておこない、得られた吸着物に特定の割合のエタノールを含む水溶液を加えて練合し、押出造粒をおこなうことで、均質で高嵩密度の顆粒を効率的に製造できる方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7526240/15/ja
関連する専門分野の例:薬剤学(各工程の条件が顆粒の物理的特性および有効成分の安定性、溶出性に与える影響の評価、製造条件の設定)、薬理学(in vitro/in vivoでの薬理試験の実施)
具体例として表面プラズモン共鳴を利用し微量物質を検出する検出装置が挙げられます。
従来の技術では光源のずれにより励起光の照射位置がずれて検出精度が悪化する問題がありました。
これに対して、光源からの光を絞りで規制し、その絞りの開口部と金属膜上の照射領域とを共役光学系で光学的に共役にする構成により、光源がずれても金属膜上の励起光の照射位置のずれを抑制し、安定して検出する検出装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7546041/15/ja
関連する専門分野の例:電気電子工学(励起光を安定かつ高精度に出力する光源や微弱な光信号を高感度に検出する検出器の選定、電気回路の設計、被検出物質の存在や量を正確に評価するための信号処理アルゴリズムやソフトウェアの設計)、材料科学(表面プラズモン共鳴を生じさせるための金属薄膜の成膜の検討、被検出物質を特異的に捕捉するための捕捉体の探索)
具体例として巨核球細胞等の血小板前駆細胞からの血小板産生を促進するアクリルアミド化合物が挙げられます。
既存技術では献血由来の血小板製剤の供給不足や保存期間の短さが課題となっており、in vitroでの安定的な血小板産生方法が求められていました。
これに対して、特定の化学式で表される特定の置換基を有し、in vitroにおいて血小板前駆細胞からの血小板産生を促進する効果を有するアクリルアミドが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7657800/15/ja
関連する専門分野の例:有機化学(アクリルアミド化合物の合成経路の設計、合成した化合物の構造の分析、純度の評価)、薬学(化合物が巨核球細胞からの血小板産生を促進する効果の評価、得られた血小板の機能(凝集能、活性化能など)の評価)
具体例としてエクオール含有大豆胚軸発酵物から有用成分が抽出されたエクオール含有抽出物が挙げられます。
既存技術では大豆イソフラボンの中でも特に生理活性が高いエクオールを効率的に摂取することが難しく、また大豆アレルギーの問題も存在していました。
これに対して、特定のエクオール産生微生物による大豆胚軸の発酵により、エクオールを高濃度に含有し、ゲニステイン類の含有比率を低減させ、特定のアレルゲンが検出されない大豆胚軸発酵物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7038888/15/ja
関連する専門分野の例:応用微生物学(エクオールを高効率に生産するエクオール産生微生物の選抜、培養条件の最適化、発酵プロセスの設計)、栄養学(エクオール高含有大豆胚軸発酵物またはその抽出物の生理活性の評価、ゲニステイン類の低減化による安全性向上、アレルゲン除去によるアレルギーリスク低減効果の評価)
(5)中外|開発トレンドと専門性

A61Kが最も多いです。次いでC07K、C12Nが多いです。
具体例としてKRAS阻害活性を有する特定の環状ペプチド化合物を含む液体組成物が挙げられます。
従来のペプチド医薬は代謝安定性や膜透過性の低さが課題でしたが環状ペプチドや非天然アミノ酸の導入により改善が図られてきました。しかし、特定の環状ペプチドの製剤化においては依然として溶解性や安定性の問題が残されていました。
これに対して、特定の環状ペプチド化合物またはその塩などと、特定の疎水性および親水性界面活性剤を含む液体添加剤との混合により、溶解性に優れ水に分散させた際に微細な液滴を形成して安定性および体内への吸収性を有する組成物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7181442/15/ja
関連する専門分野の例:製剤学(疎水性界面活性剤と親水性界面活性剤の最適な組み合わせと配合比率の検討、油性成分の種類と配合量の検討)、薬化学(環状ペプチド化合物の構造的特徴と溶解性、安定性の関係性の解析、製剤化に適した誘導体の設計の検討、薬物の分解経路の特定、安定性を向上させるための構造修飾、添加剤の選定)
既存の抗体医薬には優れた抗腫瘍効果が認められるものの、治療成績はまだ十分でなく、二重特異性抗体は複数の標的を阻害することでより高い治療効果が期待されますが、正常組織への傷害や副作用のリスクがありました。特に、T細胞を動員する二重特異性抗体では、癌抗原非依存的なT細胞の活性化による重篤な副作用が問題でした。
これに対して、抗体が標的(癌細胞や免疫細胞の表面の特定の分子)に結合する際に直接的にかかわる重要な部分(CDRと呼ばれる領域)のアミノ酸配列またはそれと高い相同性を持つ配列を含む二重特異性抗体を有効成分として含有し、二重特異性抗体がグリピカン3陽性癌細胞にT細胞を誘導し、細胞傷害活性を発揮することで抗腫瘍効果を示し、特定の化学療法剤との併用により相乗的な抗癌効果や治療効果の増強が期待できる医薬組成物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7440569/15/ja
関連する専門分野の例:免疫学(有効な二重特異性抗体の設計、作製した二重特異性抗体のT細胞誘導能、癌細胞傷害活性をin vitroおよびin vivoで評価)、分子生物学(グリピカン3遺伝子の発現制御機構、細胞表面での発現量などの解析、治療標的としての妥当性の評価)
具体例としてCD3と非CD3分子の二つの抗原に結合できるが同時には結合しない抗体可変領域と、それらとは異なる第3の抗原に結合する抗体可変領域を含む抗原結合分子が挙げられます。
既存の二重特異性抗体は複数の抗原に結合できるものの、異なる細胞表面の抗原に同時に結合することで不必要な細胞間架橋や副作用を引き起こす可能性がありました。
これに対して、特定の抗体重鎖可変ドメインにアミノ酸改変が導入され、二つの抗原に個別には結合できつつ同時には結合せず、第3の抗原に結合する別の可変領域も有するように設計され、特定の細胞集団に特異的な活性化やターゲティングが可能となり、副作用を抑制しつつ効率的な免疫応答の誘導が期待できる抗原結合分子が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7512129/15/ja
関連する専門分野の例:免疫学(第1、第2、第3の抗原の選択、それらが免疫細胞や標的細胞上でどのような役割を果たしているかの解析、第3の抗原への結合が免疫細胞の活性化や標的細胞へのターゲティングにどのように影響するかを解析、最適な組み合わせの検討)、分子生物学(配列番号13に記載の配列をテンプレートとした第2の抗原に結合するアミノ酸配列の最適な挿入部位とアミノ酸配列の検討、設計された抗体可変領域をコードする遺伝子の構築、発現系の確立)
既存の抗体医薬では標的抗原が正常組織にも発現している場合、正常細胞への傷害による有害反応が問題でした。また、高分子量の抗体は軟骨組織深部への浸透が困難でした。
これに対して、通常は抑制ドメインにより抗原結合活性が抑制された状態で存在するため、全身投与時の不要な活性化を抑制し、標的組織特異的なプロテアーゼにより切断部位が切断されることで抗原結合ドメインが遊離し、活性を取り戻して軟骨組織中の抗原に結合し、抗原結合ドメインが運搬部分よりも短い血中半減期であるため活性化後の全身分布を抑制することにより、副作用を低減しつつ軟骨組織に特異的に作用し、深部への浸透性や長期的な保持が期待される医薬組成物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7414736/15/ja
関連する専門分野の例:薬学(作製されたポリペプチドの薬物動態の評価、標的軟骨組織への移行性と滞留性の最適化、非臨床試験および臨床試験のデザインと実施)、生物工学(軟骨組織に存在する特定の抗原の同定・精製、抗原結合ドメインの取得・作製、抗原結合ドメインの抗原結合活性を抑制する適切な抑制ドメインの設計・作製、両ドメインを連結したポリペプチドの構築)
具体例としてCTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球抗原4)に対する抗体であってアデノシン含有化合物の濃度に応じてCTLA-4への結合活性が変化する可変領域と特定の複数アミノ酸改変を含む変異Fc領域を有する抗体が挙げられます。
既存の抗CTLA-4抗体は全身性の免疫活性化を引き起こし自己免疫疾患などの副作用が問題となっていました。
これに対して、腫瘍微環境に特徴的な高濃度のアデノシンによって活性化され、CTLA-4への結合親和性が増強されたことで、腫瘍局所でのみ免疫チェックポイント阻害効果が高まり、エフェクター機能を最適化した変異Fc領域を有する抗CTLA-4抗体が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7472405/15/ja
関連する専門分野の例:免疫学(作製された抗体のCTLA-4への結合特性の評価、アデノシン濃度依存的な結合活性の変化が生理的な濃度範囲内で適切に機能することの検証、変異Fc領域が抗体のADCC(抗体依存性細胞傷害)活性やその他のエフェクター機能に与える影響の評価、最適な変異の組み合わせの特定)、分子生物学(抗体の可変領域の遺伝子配列に基づいて組換え抗体を効率的に発現・精製するための最適な細胞株や培養条件の確立)
既存の天然型ARSは主に天然アミノ酸に対して高い特異性を持ち、N-メチルアミノ酸のような非天然アミノ酸を効率よくtRNAに結合させることは困難でした。
これに対して、大腸菌由来の野生型SerRSのアミノ酸配列において、239位に相当する部位のアミノ酸がグリシンまたはアラニンであること、および/または237位に相当する部位のアミノ酸がセリンであることによって、N-メチルセリンによるtRNAのアシル化活性が向上した改変型SerRSのポリペプチドが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7292442/15/ja
関連する専門分野の例:生化学(改変SerRSのN-メチルセリンに対するアミノアシル化反応の速度論的解析、改変SerRSとN-メチルセリンおよびtRNAとの複合体の構造の解析)、分子生物学(改変SerRSをコードする遺伝子の構築、大腸菌などの宿主細胞を用いて大量に発現・精製するための条件の確立)
(6)エーザイ|開発トレンドと専門性

A61Kが最も多いです。次いでC07D、C12Nが多いです。
具体例としてがん治療を目的とした特定のマルチ受容体チロシンキナーゼ(マルチRTK)阻害剤とプログラム細胞死1タンパク質(PD-1)アンタゴニストの併用医薬が挙げられます。
既存の腫瘍治療剤は単独では十分な治療効果が得られない場合があり、より高い治療効果が期待できる併用療法の開発が求められていました。
これに対して、特定の化学構造を有するマルチRTK阻害剤(レンバチニブまたはその塩)とペムブロリズマブ以外の抗PD-1モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントの併用により抗腫瘍効果が得られる医薬が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7507209/15/ja
関連する専門分野の例:薬学(マルチRTK阻害剤とPD-1アンタゴニストの最適な投与量、投与経路、投与間隔などの併用投与レジメンの確立、両薬剤併用による相互作用の有無や影響の評価、両薬剤を安定かつ有効な状態で投与するための製剤設計)、分子生物学(マルチRTK阻害剤が標的とするチロシンキナーゼ群の細胞内シグナル伝達経路における役割の解析、PD-1アンタゴニストが免疫細胞(T細胞など)の活性化を促進する分子メカニズムの解析)
既存のADCは腫瘍組織への薬物送達効率や正常細胞への影響といった課題があり、より安全かつ効果的なADCの開発が求められていました。
これに対して、特定の構造(Mal-(PEG)m-Val-Cit-pAB)を有する切断可能なリンカーLが抗体またはその抗原結合性断片の特定部位(マレイミド基を介した結合)とエリブリンの特定部位(C-35アミンを介したp-アミノベンジルオキシカルボニル基との結合)に共有結合し、リンカーが腫瘍細胞内で酵素的に切断されて活性型のエリブリンを放出することで腫瘍細胞に対する選択的な細胞傷害効果を発揮する組成物(ADC)が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7254861/15/ja
関連する専門分野の例:薬学(リンカーの製造方法の検討、抗体とリンカー、リンカーとエリブリンの結合反応の最適化、ADCの製剤設計)、生物学(ADCの有効性を評価するための実験系の構築、抗体の抗原結合能、細胞内への取り込み効率の評価、ADCの標的指向性を最適化するための抗体エンジニアリング)
具体例として医薬として有用な特定の単環ピリジン誘導体またはその塩を製造する方法が挙げられます。
既存の製造方法には試薬調製や反応における煩雑さ、副生成物の生成、環境負荷の高い溶媒の使用といった問題点があり、品質や収率の面で改善の余地がありました。
これに対して、特定の縮合剤、保護基、脱保護条件、ヒドロキシエチル化剤を用いることで類縁物質の生成を抑制し、目的化合物またはその塩を高収率で得ることができる製造方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7315806/15/ja
関連する専門分野の例:有機化学(各工程における反応機構の解析、副生成物の生成を抑制するための反応条件(試薬の選択、反応温度、反応時間、溶媒など)の検討)、薬学(合成された化合物およびその塩の物理化学的性質(溶解性、安定性、結晶性など)の評価、類縁物質の薬理活性や毒性の評価)
背景技術としてアセチルコリンを伝達物質とする神経細胞の機能低下がアルツハイマー型認知症などの認知機能障害を伴う多くの神経疾患で見られることが示唆されていました。既存のコリンエステラーゼ阻害剤による治療法は存在するもののコリン作動性神経細胞自身の機能賦活化が期待されていました。
これに対して、特定の構造(化学式1~化学式17であらわされる化合物)を有することで神経細胞賦活作用を有し、認知機能障害の治療剤として利用できる五環式複素環化合物群またはその薬剤学的に許容される塩が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7504864/15/ja
関連する専門分野の例:薬学(目的化合物のコリン作動性神経細胞賦活作用を評価するための実験系の確立と薬効評価試験の実施、化合物の投与量、投与経路、吸収、分布、代謝、排泄(ADME)といった薬物動態学的特性の分析)、有機化学(目的化合物の効率的かつ経済的な合成経路の探索)
具体例として特定の相補性決定領域(CDR)を有する抗EphA4抗体が挙げられます。
既存のEphA4を標的とする抗体医薬開発においては十分な治療効果や選択性の向上が課題とされてきました。
これに対して、配列番号で特定される6つのCDR(重鎖CDR1~3、軽鎖CDR1~3)を含む重鎖および軽鎖から構成され、これらの特定のCDRの組み合わせにより、EphA4に対する結合親和性および特異性が期待され、EphA4が関与する疾患、例えば癌、神経変性疾患、血管新生関連疾患などの治療薬としての応用が考えられる抗EphA4抗体が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2022-031271/11/ja
関連する専門分野の例:分子生物学(抗体遺伝子の設計、発現ベクターへの組み込み、哺乳類細胞などを用いた抗体の発現系の確立)、薬学(薬効評価試験の実施、治療効果の検証、抗体の体内動態の解析、最適な投与方法や投与量の検討)
従来の肝臓組織モデルでは肝細胞から分泌された胆汁を排出する導管構造が十分に機能的に連結されておらず、胆汁うっ滞による細胞障害が問題となっていました。
これに対して、胆管上皮細胞を培養して導管を形成させた後、その導管と肝細胞とを接触するように共培養する工程を含み、腺細胞として肝細胞、上皮細胞として胆管上皮細胞を用いることで生体内の肝臓における毛細胆管と胆管の機能的な連結を再現し、肝細胞から分泌された胆汁が導管へと効率的に流れる培養組織の構築を可能にする培養組織の製造方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7483233/15/ja
関連する専門分野の例:細胞生物学(胆管上皮細胞による効率的な導管形成条件の最適化、形成された導管と肝細胞との接着、細胞間コミュニケーションを促進する共培養条件の検討)、薬理学(薬物の代謝酵素活性、胆汁排泄能、細胞毒性などを評価する実験プロトコルの確立)
(7)まとめ
医薬品や患者の治療に用いられる化合物、抗体、酵素、それらの製造方法に関する出願が大半です。
ただし、開発地が米国のものがそれなりにあります(出願書類の書誌の【優先権主張国・地域又は機関】のところに米国と記載されているのがそれです)。
3.6 共同出願人との開発例
共同出願人からはビジネス的結びつきがわかります。
技術によっては、開発をアウトソーシングしている可能性もあります。
各社の共同出願人(筆頭出願人)は以下のとおりです。
(1)武田

共同出願の例として患者の体重や年齢に基づいた推定薬物動態学的プロフィールとベイズモデルを用いて治療的血漿タンパクの最適な投与計画を決定しGUI上に表示するシステムが挙げられます。
既存技術では患者個別の薬物動態学的プロフィールを把握するために複数回の採血が必要であり、患者や医療機関の負担が大きいという問題がありました。
これに対し、過去のサンプリング患者のデータから構築したベイズモデルと、患者の体重や年齢といった簡便な情報に基づいて推定薬物動態学的プロフィールを決定するため、侵襲的な複数回の採血を必要とせず患者と医療機関双方の負担を軽減でき、ユーザがGUIを通じて投与量や投与間隔などの変更を入力すると、それに応じて新たな投与計画を算出し表示し、過去の治療履歴を考慮して推定プロフィールを調整したり、半減期の長さに応じてベイズモデルへの重み付けを変更したりする技術構成により、個別化された投与計画の提案を可能にする装置が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7287697/15/ja
既存の酵素補充療法(ERT)は静脈内投与が一般的ですが、血液脳関門(BBB)を通過しにくいため中枢神経系(CNS)の症状に対する効果が限定的でした。
これに対し、少なくとも5mg/mlの濃度のI2Sと最大20mMのリン酸塩を含み、pHが5.5~7.0に調整されることで、ハンター症候群患者に対して髄腔内(IT)または脳室内(ICV)に直接投与され、CNSへの酵素送達効率を高めて中枢神経症状を改善する医薬組成物が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7591476/15/ja
既存技術では多能性幹細胞から腎間質細胞を効率的に誘導する技術が確立されていませんでした。
これに対し、多能性幹細胞をGSK3β阻害剤、TGFβ阻害剤、およびレチノイン酸等を含む培地で培養し神経堤細胞を誘導する工程(1)、次に神経堤細胞からFOXD1、CD73、PDGFRβ陽性かつエリスロポエチン非産生の腎間質前駆細胞を誘導する工程(2)、最後に血小板由来成長因子(PDGF)を含む培地で腎間質前駆細胞を培養し、CD73、PDGFRβ陽性かつ低酸素条件下でエリスロポエチンを産生する腎間質細胞を誘導する工程(3)を含むことで腎間質細胞の安定的な供給を可能にする製造方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7541700/15/ja
(2)アステラス

共同出願の例としてT細胞から制御性T細胞を製造するためのFoxp3誘導剤が挙げられます。
既存の制御性T細胞の誘導方法には限界があり、より効率的な誘導法の開発が求められていました。
これに対し、CDK8及び/又はCDK19のsiRNAを有効成分とし、これらのsiRNAを用いることでT細胞における転写因子Foxp3の発現を促進し、制御性T細胞への分化を誘導することにより、効率的な制御性T細胞の製造を可能にするFoxp3誘導剤 が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7385227/15/ja
(3)第一三共

(4)大塚

共同出願の例として、検体中の被検出物質の存在または量を検出するための検出方法が挙げられます。
既存の検出チップでは弾性シートにノズルを押し当てて破膜する必要があり、ノズルや装置への負荷が大きく、チップの小型化にも課題がありました。
これに対し、開口部を覆う単層の弾性シートに内部と外部を連通する孔で形成された貫通部を設けて、送液時にノズルをこの貫通部を塞ぐように挿入し、弾性シートに接した状態で液体を提供する技術構成により、弾性シートを破膜することなく送液でき、ノズルや検出装置への負荷を低減すると共に検出チップの小型化を可能にする検出方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7105845/15/ja
既存の認証技術はパスワード入力などの負担が大きく、また、セキュリティが十分でないという問題がありました。
これに対し、少なくとも1つの電極と認証受信機モジュール、デコーダを備え、電極がユーザと関連付けられた符号化された電気信号(伝送デバイスの秘密コードにより生成)とユーザの生理学的信号を検出し、認証受信機モジュールがこれらの信号を受信してデコーダで符号化された電気信号を復号して秘密コードを取得し、秘密コードが確立された基準と比較して真正性を検証するとともに、生理学的信号をユーザのバイオメトリックプロファイルと比較することで、煩雑なパスワード入力の負担を軽減し、セキュリティを向上させた標的認証デバイスが開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7224317/15/ja
(5)中外

共同出願の例として、特定のモノクローナル抗体と特定の構造及び特性を有するポロクサマーを含む水溶液からなる医薬製剤が挙げられます。
従来の抗体製剤では水溶液中で抗体が凝集し微粒子を形成する問題がありましたが、有効な界面活性剤の種類や特性は十分に解明されていませんでした。
これに対し、特定の配列番号で示されるモノクローナル抗体と、特定の化学構造式で表され、高速液体クロマトグラフィーにおける特定の溶出時間以降のピーク面積比率が規定されたポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポロクサマー)とを含む水溶液からなることで、抗体製剤における粒子の形成が低減される医薬製剤が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7367262/15/ja
(6)エーザイ

共同出願の例として溶出後に化学的特性が変化する特定成分を含む製剤において、夾雑成分の影響を受けずに特定成分の溶出量を正確に測定する溶出試験方法が挙げられます。
従来の吸光度測定法では夾雑成分が存在する場合や特定成分が経時変化する場合に正確な溶出量測定が困難でした。また、HPLC法は分離能が高いものの分析に時間がかかり特定成分の変化を抑える煩雑な操作が必要でした。
これに対し、特定成分とその分解物からなる系における二つの等吸収点波長を利用する方法、具体的には、夾雑成分と特定成分の等吸収点波長における吸光度比を予め求め、次に、製剤の溶出過程の複数の時点において試験液の二つの等吸収点波長における吸光度を測定し、これらの吸光度と予め求めた吸光度比との関係式を用いることで夾雑成分の影響を除去した特定成分の吸光度を算出し、溶出濃度に変換することにより、簡便に夾雑成分や特定成分の経時変化の影響を受けにくく迅速で正確な溶出試験方法が開発されています(以下URL)。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2006-275545/11/ja
ただし、当該出願人との共同出願で確認されたのは2008年出願までです。
(7)上記(1)~(6)(共同出願人)のまとめ
買収企業との共同出願、大学との共同出願、装置メーカーとの共同出願などが確認されました。外部リソースでの開発が推測されます。
4 開発に求められる専門性
上記3で示した特許分類≒開発人材に求められる専門性、だと仮定します。
上記各特許情報には以下の人材が関わっていると言えます。
今回は、新薬の探索、製品化の各段階で分けましたが、求められる専門性は絶対的なものではありません。
・新薬などの探索(薬学系(薬化学、薬理学など)、化学系(有機化学、生物化学、分析化学など)、生物学系(分子生物学、免疫学、遺伝子工学、生物工学、応用微生物学など)
化合物の設計・合成、ターゲットとなる蛋白質や酵素の解析、有望な化学物質のスクリーニング、治療法の検討、遺伝子組み換えなどが求められます。
・新薬などの製品化(安全性検証など)(薬学系(薬理学、製剤学など)、医学系(内科学、各診療科など)、化学系(分析化学など)
前臨床試験や臨床試験、製剤設計などが求められます。
・その他(電気電子工学、情報工学、機械工学など)
これらは本業界における出願の主要な技術分野ではありませんが、これらの専門性が求められる出願がまだ他にある可能性はあります。
ただし、上記特許出願にあたっては、共同出願者やその他事業者に技術をアウトソースしている可能性もあります。
5 まとめ
製薬企業の特許出願は新薬や治療に関わる化学物質、抗体、酵素などに関するものが多く、当該分野の開発が多くおこなわれていることが推測されます。
大学の専攻と関連づけるとしたら、主に薬学、化学、生物、医学における研究分野が該当する可能性があります。
なお、既述のとおり、開発地は必ずしも日本国内でない場合も多いです。
本記事の紹介情報は、サンプリングした特許情報に基づくものであり、企業の開発情報の一部に過ぎません。興味を持った企業がある場合は、その企業に絞ってより詳細を調べることをおすすめします。
参考記事:1社に絞って企業研究:特許検索して開発職を見つける方法4
以上、本記事が少しでも参考になれば幸いです。
<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・会社四季報 業界地図2024年、2025年版 東洋経済新報社
<留意事項>
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